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獅子と猫(※R18無し・BL要素あり)
4 執着
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※ようやくここまで進みました。
気まずくなって以降来ることを避けていたレオンの隠れ家に、ジュレルはひとりで来ていた。
鍵をもらった時はものすごく嬉しかった。でも、週末はいつでもレオンがここにいるから、ジュレルが使用したことはなかった。
初めて連れて来られた日から何度となく足を運んだ部屋なのに、ひどくよそよそしいのはレオンが居ないからだろう。いつだって「やあ、来たね」と出迎えてくれる人物が不在なだけで、こんなにも寂しい。
窓辺のどっしりした大きめなひとりがけのソファは、レオンの定位置だ。ここに座り、葉巻や酒を愉しみながら書類に目を通している。
ジュレルはそこに腰を下ろし、目を瞑った。
ラモンド公爵邸で偶然耳にした、レオンの言葉を思い出す。
『つきあう価値はないからね、いらないかな』
『不要品を抱えるほどお人好しじゃないよ。あれは、いらない』
そう言い切った声は、先日のレオンと同じ響きだった。
離れていたし噴水の音で声は途切れ途切れだったが、確かにそう聞こえた。
レオンとおそらくギリアムらしき二人が立ち去った後、夜風に躰が冷え切るほどジュレルはその場から動けずにいた。
───レオに嫌われた
その抱え切れない絶望感に、打ちのめされていた。
何とか馬車に乗り込んで、向かったのがこの部屋だった。
◇◇
ジュレルにとって、レオンは絶対の存在だった。
初めて五公爵家の嫡男が揃ったのは、四歳の時だ。
茶会の場に座っていた三公の息子たちは、既に威圧感たっぷりの、およそ子供らしくない子供たちだった。
幼すぎるジュレルは三対の瞳に一斉に見つめられ、恐怖で泣き出しかけた。
その恐慌状態にあったジュレルの肩に、ポンと手を乗せ、
『みんな顔が恐すぎ。そんなんじゃジルが怯えるでしょ!』
そう言ったのがレオンだ。
仰ぎ見たそこには、甘い飴のような橙の瞳があった。にっこり微笑まれ、耳慣れない呼ばれ方にきょとんと首をかしげた。
『………ジル?』
とうさまとかあさまはジュレとよぶよ? そう云おうと思ったけれど、
『うん。ジルって呼ぶね。僕はレオンだから、レオって呼んでね』
にこにこと微笑むレオンに、「うん」と引き込まれるように頷いていた。
すぐにレオンが大好きになった。何回経験しても中々馴染みにくい子供たちだけの茶会も、レオンが来るからと頑張って参加をした。
病弱で月の大半を部屋にこもっているような孤独な日々は、レオンに出会ってから変貌した。
見るもの聞くもの、レオンと共に行動するすべてが楽しかった。
それがいつからか。
自分以上にレオンに近い立ち位置の存在へ対抗心を覚えた。
最初は、レオンの親友であるギリアム。
次は学園の友人。
そして、最も嫌いで目障りだったのが、レオンの最初の妻だった。
援助目当てでレオンの妻になった女が愛を求め、彼を苦しめていると知ったときはこの手で始末してやりたかった。
二番目の妻と三番目の子供を産んだ女はレオンを苦しめはしなかったが、ジュレルにとって嫌いであることには違いはない。
三人共に、ジュレルの知らない間に忍び寄り、わがもの顔でレオンに触れ、抱かれた事実に吐き気がした。
『ジュレ、それは独占欲っていうのよ』
とても大切なひとはそう言った。
『あなたはレオン様を独り占めしたいの。心も体も全部』
『できないよ。私達には責任もあるから』
『あら、だってあなたはそうしたいからレオン様にお相手を薦めるのでしょ』
自分の知らない女じゃなく、思いどおりにできる女を──そんなことを思ってもいなかったけれど。否定もできなかった。
「レオンはもう僕をいらないんだって」
ここには居ないひとに問いかける。
『あら、だったら奪ってしまえば?』
言われそうな台詞が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。
「………奪う、か」
レオンの自由も、レオンの人生も、全部ジュレルが奪ってしまう。そうすればもう、失う不安はなくなる。たとえレオンが疎んじたとしても。
とても良い考えに思えて来た。
レオンはどんな顔をするだろう?
ジュレルは主の居ない部屋で朝まで一睡もせず、レオンのことをただ考える。
◇◇
ジュレルはある部屋の前で脚を止めた。軽食を載せたトレイをいったん床に置き、ドアノブに幾重にも巻いた鎖を外す。それから鍵も開錠する。
「───ジユレ…ル」
驚きに目を開いたレオンへ、
「ご機嫌よう、レオ」
ジユレルは微笑んだ。
気まずくなって以降来ることを避けていたレオンの隠れ家に、ジュレルはひとりで来ていた。
鍵をもらった時はものすごく嬉しかった。でも、週末はいつでもレオンがここにいるから、ジュレルが使用したことはなかった。
初めて連れて来られた日から何度となく足を運んだ部屋なのに、ひどくよそよそしいのはレオンが居ないからだろう。いつだって「やあ、来たね」と出迎えてくれる人物が不在なだけで、こんなにも寂しい。
窓辺のどっしりした大きめなひとりがけのソファは、レオンの定位置だ。ここに座り、葉巻や酒を愉しみながら書類に目を通している。
ジュレルはそこに腰を下ろし、目を瞑った。
ラモンド公爵邸で偶然耳にした、レオンの言葉を思い出す。
『つきあう価値はないからね、いらないかな』
『不要品を抱えるほどお人好しじゃないよ。あれは、いらない』
そう言い切った声は、先日のレオンと同じ響きだった。
離れていたし噴水の音で声は途切れ途切れだったが、確かにそう聞こえた。
レオンとおそらくギリアムらしき二人が立ち去った後、夜風に躰が冷え切るほどジュレルはその場から動けずにいた。
───レオに嫌われた
その抱え切れない絶望感に、打ちのめされていた。
何とか馬車に乗り込んで、向かったのがこの部屋だった。
◇◇
ジュレルにとって、レオンは絶対の存在だった。
初めて五公爵家の嫡男が揃ったのは、四歳の時だ。
茶会の場に座っていた三公の息子たちは、既に威圧感たっぷりの、およそ子供らしくない子供たちだった。
幼すぎるジュレルは三対の瞳に一斉に見つめられ、恐怖で泣き出しかけた。
その恐慌状態にあったジュレルの肩に、ポンと手を乗せ、
『みんな顔が恐すぎ。そんなんじゃジルが怯えるでしょ!』
そう言ったのがレオンだ。
仰ぎ見たそこには、甘い飴のような橙の瞳があった。にっこり微笑まれ、耳慣れない呼ばれ方にきょとんと首をかしげた。
『………ジル?』
とうさまとかあさまはジュレとよぶよ? そう云おうと思ったけれど、
『うん。ジルって呼ぶね。僕はレオンだから、レオって呼んでね』
にこにこと微笑むレオンに、「うん」と引き込まれるように頷いていた。
すぐにレオンが大好きになった。何回経験しても中々馴染みにくい子供たちだけの茶会も、レオンが来るからと頑張って参加をした。
病弱で月の大半を部屋にこもっているような孤独な日々は、レオンに出会ってから変貌した。
見るもの聞くもの、レオンと共に行動するすべてが楽しかった。
それがいつからか。
自分以上にレオンに近い立ち位置の存在へ対抗心を覚えた。
最初は、レオンの親友であるギリアム。
次は学園の友人。
そして、最も嫌いで目障りだったのが、レオンの最初の妻だった。
援助目当てでレオンの妻になった女が愛を求め、彼を苦しめていると知ったときはこの手で始末してやりたかった。
二番目の妻と三番目の子供を産んだ女はレオンを苦しめはしなかったが、ジュレルにとって嫌いであることには違いはない。
三人共に、ジュレルの知らない間に忍び寄り、わがもの顔でレオンに触れ、抱かれた事実に吐き気がした。
『ジュレ、それは独占欲っていうのよ』
とても大切なひとはそう言った。
『あなたはレオン様を独り占めしたいの。心も体も全部』
『できないよ。私達には責任もあるから』
『あら、だってあなたはそうしたいからレオン様にお相手を薦めるのでしょ』
自分の知らない女じゃなく、思いどおりにできる女を──そんなことを思ってもいなかったけれど。否定もできなかった。
「レオンはもう僕をいらないんだって」
ここには居ないひとに問いかける。
『あら、だったら奪ってしまえば?』
言われそうな台詞が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。
「………奪う、か」
レオンの自由も、レオンの人生も、全部ジュレルが奪ってしまう。そうすればもう、失う不安はなくなる。たとえレオンが疎んじたとしても。
とても良い考えに思えて来た。
レオンはどんな顔をするだろう?
ジュレルは主の居ない部屋で朝まで一睡もせず、レオンのことをただ考える。
◇◇
ジュレルはある部屋の前で脚を止めた。軽食を載せたトレイをいったん床に置き、ドアノブに幾重にも巻いた鎖を外す。それから鍵も開錠する。
「───ジユレ…ル」
驚きに目を開いたレオンへ、
「ご機嫌よう、レオ」
ジユレルは微笑んだ。
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