病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第1話

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俺の名前は竹中たけなかたすく
2年間の闘病生活に終止符を打ち、都内の高校に編入し復学を果たした者である。


久し振りに嗅いだ秋の空気は哀愁の匂いがした。
闘病中に薬の影響で抜けた髪は不自然の無いくらいに生えそろった。通学途中の路地。店のガラス越しに俺の姿が映る。
年相応の姿と言えば違和感はないけれど、昔の面影が一つも感じられない自分の姿。その姿にまだ慣れない。
まるで、別人にでもなったかのようだ。

―ブブッ
ポケットに入れていたスマホが震えた。
見ると、LINEのアイコンがチカチカと点滅した。
2年前から一度も開かれてないグループLINE。
その通知件数は1万件。
今日もそれは届いた。
『おはよう。元気?』
『どこで何をやってるのよ。馬鹿。早くこっちに戻ってきなさいよ。後で置いて行くな!って泣きついても知らないんだからね!』
『私達は今度、冠番組2つもらえるわよ。だから、はやく連絡しなさい。待ってるから。』
強気な口調の通知が一気に3件溜まってしまった。
俺はそのメッセージを読むだけ読んで、既読もつけずにスライドさせ画面から消した。

悪い。俺、もう激しい運動出来ないから。
もう、イケメンじゃないから。
昔の俺じゃなくなったから。
あの世界に戻れないから。


それに、今の『Cherry's』は寿と楓真だから。
初期メンバーに俺がいた事を覚えている人なんてほとんどない。
もう、帰る場所もない。


俺は駅前にでかでかと張り出された広告を見上げた。
そこには互いに背を向き合い、王子様みたいな衣装に身を包んだ2人がウインクをして俺を見ていた。



■■■■■

久し振りにくぐる校門。
編入試験の時は青葉だったのに、校庭のイチョウの木は地面に黄色の絨毯を引いていた。
朝は病院に行っていたため、こんな昼下がりの時間に重役出勤をする羽目になった。

教室を見上げるといくつもの頭が黒板に向いているのが見えた。



よし。高校生活を俺は今から1年半、満喫しよう。そう思うと、気慣れないごわごわした制服が少しだけ馴染んできた気がした。



事務室の小窓をノックした。
「あの、今日から編入する竹中です...」
名前を名乗ると、新聞を読んでいた事務のおじさんが老眼鏡を外して、受付名簿を確認してきた。
「えーっと、竹中祐君だね。聞いているよ。編入おめでとう。」
「ありがとうごさいます」
「担任の先生が来ると思うからそれまでこっちで待っておいて」
「はい」
思ったよりすんなり応接室に通された。


昨年、新校舎が完成したばかりで貴族の書斎か?ってくらい綺麗な応接室。俺は適当に3人掛けのソファーに座り、迎えの先生が来るのを待つ。
この2年間は病室で通信教育だったから同級生と同じ席を並べて勉強するのは2年ぶりで少し緊張しているみたいだ。俺は汗ばんだ手をぎゅっと握りしめ、はぁっと息を吐いた。




■■■■■
少し待つと応接室の扉がノックされた。
「失礼します。」
凛として落ち着いた口調の声。
声質的に若めの教師みたいだ。
俺はこの声によく似た人を知っている。その人は今でも俺に連絡を入れてくるクソ真面目な人だ。
「どうぞ。」
俺はノックに答える。



―ガチャリと扉が開いた。
廊下の窓が開いていたのか秋の肌寒い風が部屋の中に入り込んできた。
清楚感のある長い髪。
その髪が風に舞った。


入ってきたのは担任の先生でも事務室のおじさんでもなかった。
「こんにちは。」
俺は制服姿の君を見つけた。







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