病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第6話

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ぼんやりとした意識が覚醒した。
どうやら、清水さんの心地よい歌声に寝入ってしまったようだ。

顔を上げると、窓際の席に座り、外を眺める清水さんが視界に入った。
淡い夕日が顔にあたって反射する。
最近の流行語に『エモい』と言う若者言葉があるけれど、そんな単調なリズムで言い表せないと、謎の警鐘がなっている。
CDジャケットの表紙みたいだ。
秋の夕日は温かく、黄昏た彼女の髪を優しく揺らしていた。




俺の視線を感じたのか、清水さんは振り返り、俺と目が合った。
「あ、起きた?」
そんな感じで微笑み、ふわりと舞っていた横髪を耳にかけた。
「具合、いかがですか?」
清水さんは俺の顔色を窺うように窓際を離れ、こちらへ近づいてくる。
「ああ。もう、大丈夫。悪い。心配かけた。」
俺は軽くなった体で立ち上がった。

「もしかして、ずっと待っていてくれたのか?」
時計を見る。
あれから随分と時計の針が進んでいる。
ずっと、待たせていたのなら申し訳ない。

「そんなに気にしないで下さい。今日は私も暇だったので....。」
それに、考え事をしていたので時間はいくらあっても苦じゃありませんから。


「悩み事?」
俺は彼女の悩みが気になった。
「あ、今、私に悩み事なんてなさそーって思いました?」
「や、...」
心を読まれ驚き、思わず目を反らす。

彼女と仲が良かった頃、彼女が悩みを抱えているなんて微塵も思った事がなかったから。たいていの事は落ち着き払って上手く立ち回るそんな冷静さを感じていたから、彼女は悩みがあったとしても、すぐに適切な解決策を見つけて行動に移せる人だと思っていた。


「私、こう見えてアイドルやってるんですよ。だから、普通の人よりはメンタル強人に出来ていると思いますが、悩むことあるんですよ?」
むっと、少し不満げに口を尖らせてきた。

「悪い。そういうつもりじゃ...」
俺は昔の彼女の認識を改める必要があるなと肝に銘じようとした時、不意に清水さんから質問が投げかけかれた。

「竹中君はどんなに手を伸ばしても届かないと感じた時、どうしますか?」
清水さんは遠くに視線をやり、悲しそうに眼を伏せた。

それは、自分の限界を知った時に現れる言葉だった。
とても抽象的な質問だった。
簡単そうに見えて正解のない質問に俺は言葉を失う。
それは今の俺の心境そのものだったから。
日生遼として活動する事に限界を感じた日。俺はどうしたっけ...。
寿や楓真と一緒にアイドルの頂点を目指すって言って暴れたっけ...。


『努力は必ず報われる』って迷信か、名言かしらないけどそんな言葉がある。
俺はこの言葉が嫌いだ。
努力が必ず報われるなんて絶対にない。それに、今の俺は努力すらさせてもらえない。同じ土俵にすら立たせてもらえない寂しさが湧いてきた。


■■■■■

病気になってから身に付いたスキルがあった。それは、架空の...。
俺じゃない誰かになりきるスキル。

闘病中もこのスキルにはお世話になった。
どんなに苦しくても平気なフリができるから。
そして、今の俺はスキル追加オプションのおかげで、息をするように嘘が付けた。




俺はゆっくりと彼女の横に並び、同じように窓の外を眺めた。

「届くはずだと信じて......がむしゃらに追い続ける...かな」
俺は心にもない事をぽつりと呟いた。
この時見た夕日は少し寂しそうにしていた。



(なにが、がむしゃらに追い求めるだ...。俺はこの2年間、逃げまわっただけなのに。自分の限界を知るのが怖くて、何もかもを中途半端にして飛び出してきただけじゃないか。)
善良なもう一人の俺が罵倒してくる。
うるさい。

俺が一番嫌いで、信用していない言葉がスラスラと出てくる。こんなの、ただの綺麗ごとでしかない。

きもちわるい。
それでも、せめて、彼女だけは恵まれていて欲しい...そう願わずにはいられなかった。
「大丈夫。努力はきっと報われるよ」
元気よく言ったつもりだったけれど、俺は彼女と目を合わすことが出来なかった。

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