カオスサーガ〜残されし者達の誓い〜

ロブレス

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第1話 ――帰還――

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神々の戦争から250年後



闇の加護に侵された地――魔界と、

結界に守られた地――神界。



その境界線を、一人の青年が越えた。



鋭い目。

腰には二振りの剣、一本は細身の刀。

もう一本は質実剛健なロングソード。



彼の名はホークス。

四年ぶりの帰還だった。



魔界の空気は重い。

血と瘴気と、焦げた土の匂い。

だが神界の風は違う、乾いていて軽い。



「……やっと帰ってきたか」

小さく呟き、彼は境界線近くの街へと歩き出した。

街道の先に、慌てた様子でこちらへ駆けてくる男がいた。



革鎧を着た青年。

ギルド章を胸に付けている。

「あなたが……ホークス様ですね!?」



足を止めたホークスは、軽く目を細める。

「……誰だ?」



「ギルド本部からの伝令です。境界線付近であなたを探すよう命を受けまして。

自分はリグルド。Bランクです」



ホークスはその言葉を途中で遮った。

「話は街で聞く」



「え?」



「腹が減ってる。魔界の飯は不味い」

真顔だった。



「……は?」



「まともな飯が食いたい。ついでに食材と調味料も買う」



リグルドは一瞬ぽかんとした後、慌てて頭を下げた。

「も、申し訳ありません! すぐ街までお供します!」



ホークスは歩き出す。

「そうか」

それだけ言って、雑談が始まった。



境界の街――リングウェル。

小さいが活気はある。

戦時下ゆえに空気はやや重い。



二人は酒場へ入った。

ホークスとリグルドは店員に軽く注文をし品物が運ばれてくる。

肉料理。

焼きたてのパン。

濃いスープ。

ホークスは無言で頬張る。

「……うまい」

それだけで、満足そうだった。



リグルドはようやく本題を切り出す。

「本部から呼び出しがあります」



ホークスの手が止まる。

「……理由は?」



「正式な通達は受けていません。ただ――」

リグルドは少し声を落とす。

「レイナス王国は、三年前から隣国オルクス獣王国と戦争状態にあります」



「……戦争?」



「はい。戦況は芳しくありません。もしかすると、その件かと」



ホークスは四年前から魔界にいた。

神界の情報はほぼ入っていない。

「知らなかったな」

肉を頬張りながら言う。



リグルドは恐る恐る尋ねる。

「ホークス様のランクを、お聞きしても?」



ホークスは逆に聞き返した。

「お前はBランクだったな」

「はい」

「……そうか」

水を飲み、何でもないように言う。

「俺はSランクだ」



リグルドは小さく息を吐いた。

「やはり……」

納得の声音だった。



食事を終え、ホークスは金を置いて立ち上がる。

「準備して首都へ向かう」

レイナス王国の王都ブレドへ。

酒場を出て、街を歩く。

その時――



炎の匂いが、脳裏をよぎった。

四年前。



燃え盛る戦場。

父――ゲン。

親友――シルバー。

撤退戦の殿を務める二人。

「行け!」

怒号。



ホークスは致命傷を負い、

無理やり撤退用の馬車に放り込まれた。

次の日。



まだ治りきらぬ体で戦場跡へ戻った。

そこに残っていたのは――



一本の剣だけ。

シルバーの剣。

それを、シルバーの妹のウィンに渡した。



俺の幼馴染。

彼女は、大粒の涙を流して泣いた。



今の自分なら。

魔界で四年を生き抜いた今の自分なら。



あの時。

父と。

親友と。

共に残り、戦えただろうか。



「……」

答えは出ない。

ただ、歩き続ける。



王都ブレドへ。

運命が待つ場所へ。



――第1話 終
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