戻心《れいしん》〜もう一度桜の樹の下で〜:あの時伝えられなかった想いを貴方に伝えたい

荘助

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第12話 颯真と雪那②

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「あっ颯ちゃん。お帰り」

「おっおう。ただいま」

 買い物から帰ってくると、ちょうど颯ちゃんがバイトから帰ってきた。
 あれ?ちょっと顔が赤い?疲れてるのかな。

「颯ちゃんバイトの帰りでしょ?お疲れ様。大丈夫?疲れてない?ちょっと顔赤いよ?」

 熱とかあったらどうしよう。
 顔を近づけ、おでこを触る。
 熱くはないみたい。

 ホント大丈夫かな?

「あっああ。ありがと。大丈夫大丈夫。ありがとな」

「うん。何かあっ…たら

 PILILILILI

「ごめんな。電話だわ」

「あっうん」

 そう言い残して颯ちゃんは、帰ってしまった。
 雪那ちゃんかな……。しょうがないよね。

 ***

 PILILILILI

「ごめんな。電話だわ」

 気まずくなった空気を切り裂くように、着信音を鳴らすスマホの液晶画面を確認すると、雪那と表示されている。

 いいタイミングだ。

 一回小さく息を吸い、顔を戻すと心配そうな表情の春佳がいる。
 そして、その表情から逃げるようにスマホを操作しながら家へと戻った。

 くそ顔が熱い。

「もしもし」

「あっ颯真くん?もうアルバイト終わった?」

 耳に近づけたスマホから、変わらない雪那の明るい声が響く。

「あぁ。うん。今ちょうど帰ってきた」

「そっかー。グッドタイミングだね。もう来週からが本当に楽しみすぎて。こんなに実家に帰るのが楽しみなの初めてだよ」

 いつもよりワントーン明るい声の雪那。
 本当に楽しみなんだな。

「そうだな。俺も楽しみだよ。ちょっと不安もあるけどね。今から予習しておくよ」

「うん。ありがと。そうだそれでね。明日買い物行かない?うちに持っていくお土産とか色々買っておきたいんだけど……」

「あっそっか。俺もなんか準備しないとな。じゃあ10時に駅でどう?」

「うん。じゃあ駅でね。それでね……」

 明るい雪那のテンションに、自然と乗せられて長電話をしていると、いつの間にか時間は日を跨いでいた。

「あっもうこんな時間……ごめんね。疲れてるよね。じゃあまた明日。おやすみ」

「うん。おやすみ」

***

 待ち合わせの駅前の広場に着き辺りを見回すが、さすがにまだ雪那は来ていないようだ。

 スマホのホームボタンを押し時間を確認すると、9:30を少し過ぎたところだった。

「ちょっと早く来すぎたか」

 さすがにあの電話の後は、バイトと長電話の疲れからか、寝る準備を済ませベッドで携帯のニュースをつらつらとめくるも、すぐに寝てしまった。

 9時台と言っても気温は30度を超えている。
 真夏の日差しが、じりじりアスファルトを焦がし、日陰にいても焼けるような暑さは変わらない。

 ギリギリ迄コンビニで涼んでようか……

「颯真くーん」

 そんな考えが頭をよぎるとの同時のタイミングで、雪那の声が響いた。

「おはよ。随分早いな」

「おはよー。颯真君こそ。でも颯真君ならこのくらいかなって思ってたよ。それに私も楽しみで早く来ちゃった」

 白いワンピースに、大きめの帽子を少しずらして雪那は笑う。

 可愛いな。ホント

「ちょうど良かったな。暑いし駅に入ろうか」

「うん」

 そう言って雪那は腕を組んだ。

 電車に乗って20分程で横浜駅に着く。相変わらず人が多く、座ることは難しい。
 混雑している車内で、バランスを崩した雪那の背中に手を置き立ち位置を入れ替える。

「ありがと」

「うん」

 ドアを背に俺との間に挟まれ、雪那は照れるように俺の胸に額をつけ、顔を伏せた。

 横浜駅に到着し、駅直結のデパートでお土産の候補を選んで購入しているうちに、昼の時間帯となっていた。

「このまま、みなとみらいのほうに行ってみようか」

「うん。それなら私中華街行きたい!」

 昼食を中華に決めると早速電車に乗り込み、中華街へと向かう。
 そのまま中華街へと着くと、食べ歩き用の肉まんを美味しそうに頬張る雪那の姿に、自然と笑みが溢れた。

 そのまま横浜中華街の“食“を満喫し、自転車を借りてマリンタワーへと向かう。自転車を使えば5分の距離だ。
 近いと言っても炎天下で汗ばんだ体が、タワー内の冷房で一気に冷やされる。

 マリンタワーで横浜の景観を楽しみ、カフェで一休みしゲームセンターを出る頃には、既に陽が落ちかけていた。

「どうしようか?」

「このまま赤レンガの方に行ってみようか。せっかくこっちまできたし海見て帰ろうよ」

「うん」

 ***

「うわー。きれー」

 暑さの落ち着いた道を歩き、赤レンガ倉庫へと到着し目の前に広がるのはライトアップされた。みなとみらいの夜景だった。マリンタワーから見る上からの姿ではなく目線と同じ高さに広がる横浜を象徴する街の光が溢れていた。

 柵から身を乗り出すようにして夜景を見ながら、嬉しそうに笑う雪那の横顔。

 そんな雪那の横顔と夜景を見ながら、気を抜いた瞬間。
 頭の中に昨日の先輩の声が響く。

 春に彼氏がいたら……。

 その瞬間すっと現実に引き戻される。

「どうしたの?」

「いや。なんでもない。綺麗だなって思って」

「そうだよね。付き合い始めてそろそろ2ヶ月になるけど、お互いバイト忙しかったからね。だからこんなデート初めてかも!」

「たしかに……。校内じゃいつも一緒なのに、休み合わなかったもんな」

 ***

「今日は本当に楽しかった!今度はもう来週だね」

「ああ。ちゃんと予習しておくよ」

「うん。じゃあね颯真君」

「あぁおやすみ。」

「うん」

 家のある駅へと戻り、雪那のマンション前まで見送る。
 そして、そう言って背を向ける雪那

「あっ雪……な…」

 デート中に春佳の事を考えてしまった。
 そんな罪悪感からか、この先の言葉を彼女に届ける事は、出来なかった。



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