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第13話 出発
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「颯ちゃん。準備できた?」
雪那ちゃんの実家に向かう当日。
朝早く起き準備を済ませ、颯ちゃん家の前で颯ちゃんと最後の荷物の確認をする。
うん。私は忘れ物はないかな。
「あっ充電器忘れた。ちょっと待ってて」
洗濯ができるといっても2週間。それなりに大きくなったアウトドア用のリュックサックのサイドポケットを開け颯ちゃんが家に戻る。
その後ろ姿を見て、私のネガティブな感情が表に出てくる。
集合場所の、いつもの駅前の広場に到着するまでが幼馴染の颯ちゃん。
それからは雪那ちゃんの彼氏の颯真くんに変わる。
ここから先は、前の私には無い物語。
これが普通のはずなのに、なんだか台本のない全てがアドリブの劇に放り込まれたようで、落ち着かない。
颯ちゃんの戻った家のドアを見つめ、ギュッと胸の前で両手を握り込む。
早朝と言ってもすでに8月。そんなネガティブな想いを秘めた私に容赦なく、朝早くにもかかわらず真夏の太陽は既にアスファルトを焦がし熱気をジリジリと露出した皮膚に伝える。そしてじっとりとした真夏の暑さが、体に纏わりつき額が汗ばむ。
しかしそれとは別の、心臓をキュッと締め付ける胸のあたりからくる感情で、握った両手には汗が溜まっていた。
カチャ
「ん?どうした?」
ドアの開く音と同時に両手を勢いよく離し、手を下げる。
「ううん。なんでもないよ。行こっか」
汗ばんだ手を颯ちゃんにバレないように、スカートで拭く。
「おう。じゃあ春佳の荷物持つからこれ持って」
そう言うと、颯ちゃんは自分の大きなリュックと私のリュックをそれぞれの肩に掛け、1個の小さなバッグを私に渡す。
良かった。汗ばんだままじゃなくて……。
私の手元には、颯ちゃんの小さなバッグとスーツケースとポーチ。
「えっ。重いよ。これ。それにほらスーツケースに乗せれば重くないし」
「いいんだよ。それでもバランス悪いだろ。こんなん軽い方だって。あっ。このバッグに財布とか、なんか車ん中の暇つぶしが入ってるからよろしく」
「うん。わかった……。じゃあリュックよろしくね。コンビニで何か買うものあったら私買うよ」
「OK。じゃあ行くか」
優しいな。やっぱり颯ちゃんは優しい。
こんな何気ない会話の一つで、さっきまでの不安な気持ちが薄れ、颯ちゃんの後ろで私は自然と笑顔になっていた。
途中のコンビニで、車中の飲み物や菓子類を買い駅に向かうと、駅前の広場近くの道路脇には既に車を寄せた克哉くんと、SUVの大きなトランクに克哉くんと荷物を積み込む雪那ちゃんの姿がみえた。
「おはよう」
「おっ颯真も春ちゃんもおはよー」
「おはよう」
「おはよ。克哉。荷物積んでくれー」
挨拶を交わしながら2人の元にいくと、颯ちゃんが早速自分荷物2つを克哉くんに押し付けるように差し出した。
「はいはい。偉いじゃねぇか春ちゃんの荷物も持つなんて。よっと」
広めのトランクには、既に克哉くんと雪那ちゃんの荷物と、克哉くんが持ってきただろうキャンプ道具が綺麗に積まれていた。
「春ちゃんもスーツケース貸してね」
「うん。ありがとう」
「よし綺麗に入った。どうよこの芸術的な収納。ピッタリ収まったっしょ」
「たしかにな。ピッタリじゃん」
「ふふ。もう克哉くん。颯真くんたちが来る前から、ピッタリ入れるって言ってたんだよ。良かったね克哉くん」
「おう。もう俺の仕事終わった感じがする!」
ひとしきり皆んなで笑い、車トランクのドアを閉める
ここから野尻湖まで4時間の道のり。これだけで楽しく過ごせるような気がする。
***
「いっせーの」
せっ
の合図で3人が克哉くんの握る棒を引き抜く。
私の棒には3と書いてあった。
「一番だーれだ」
「あっ俺だ」
「………えー」
あからさまに克哉くんが落ち込む。
どうやらこのくじ引きは座席の抽選だったみたいだ。
「おかしくない?3分の2だよ?ねえ?3人中2人は女の子なんだよ」
「おいっ」
「まぁいいや。颯真。最初のSAまでの20分。俺を退屈させるなよ」
「了解」
どうやら助手席に座ると克哉くんを退屈させないという使命があるらしい。
今回4時間の道のりを交代で行くのではなく、克哉くんの家の車は家族しか保険に入っていないため、道中全てを克哉くんが運転することになっていた。
途中有名なSAによりながら雪那ちゃんの実家には夕方までにゆっくり行く予定らしく、PAやSAに寄る度にくじを引き席順を決めることになった。
たしかに4時間も5時間も運転するの大変だもんね。克哉くんも楽しみたいよね。
どうしよう。私に務まるのかな……。
「ん?春ちゃん心配すんなって、俺女の子が横に座ってるだけでテンション上がるよ。退屈しないよ。でも颯真。お前はダメだ。全力で俺をもてなすように」
「おいっ。主旨変わってんじゃねぇか」
「もう克哉くん」
「ははっ。ごめんな雪那ちゃん。颯真を借りるよ」
「はいはい」
「じゃあしゅっぱーつ」
そう言って皆んなが乗り込むタイミングで克哉くんが私にだけ分かるように軽くウィンクをする。
その瞬間。私はこのくじ引きの意味を理解した。
そして心の中で呟いた。
くじの神様。私にくじ運を下さい。と
雪那ちゃんの実家に向かう当日。
朝早く起き準備を済ませ、颯ちゃん家の前で颯ちゃんと最後の荷物の確認をする。
うん。私は忘れ物はないかな。
「あっ充電器忘れた。ちょっと待ってて」
洗濯ができるといっても2週間。それなりに大きくなったアウトドア用のリュックサックのサイドポケットを開け颯ちゃんが家に戻る。
その後ろ姿を見て、私のネガティブな感情が表に出てくる。
集合場所の、いつもの駅前の広場に到着するまでが幼馴染の颯ちゃん。
それからは雪那ちゃんの彼氏の颯真くんに変わる。
ここから先は、前の私には無い物語。
これが普通のはずなのに、なんだか台本のない全てがアドリブの劇に放り込まれたようで、落ち着かない。
颯ちゃんの戻った家のドアを見つめ、ギュッと胸の前で両手を握り込む。
早朝と言ってもすでに8月。そんなネガティブな想いを秘めた私に容赦なく、朝早くにもかかわらず真夏の太陽は既にアスファルトを焦がし熱気をジリジリと露出した皮膚に伝える。そしてじっとりとした真夏の暑さが、体に纏わりつき額が汗ばむ。
しかしそれとは別の、心臓をキュッと締め付ける胸のあたりからくる感情で、握った両手には汗が溜まっていた。
カチャ
「ん?どうした?」
ドアの開く音と同時に両手を勢いよく離し、手を下げる。
「ううん。なんでもないよ。行こっか」
汗ばんだ手を颯ちゃんにバレないように、スカートで拭く。
「おう。じゃあ春佳の荷物持つからこれ持って」
そう言うと、颯ちゃんは自分の大きなリュックと私のリュックをそれぞれの肩に掛け、1個の小さなバッグを私に渡す。
良かった。汗ばんだままじゃなくて……。
私の手元には、颯ちゃんの小さなバッグとスーツケースとポーチ。
「えっ。重いよ。これ。それにほらスーツケースに乗せれば重くないし」
「いいんだよ。それでもバランス悪いだろ。こんなん軽い方だって。あっ。このバッグに財布とか、なんか車ん中の暇つぶしが入ってるからよろしく」
「うん。わかった……。じゃあリュックよろしくね。コンビニで何か買うものあったら私買うよ」
「OK。じゃあ行くか」
優しいな。やっぱり颯ちゃんは優しい。
こんな何気ない会話の一つで、さっきまでの不安な気持ちが薄れ、颯ちゃんの後ろで私は自然と笑顔になっていた。
途中のコンビニで、車中の飲み物や菓子類を買い駅に向かうと、駅前の広場近くの道路脇には既に車を寄せた克哉くんと、SUVの大きなトランクに克哉くんと荷物を積み込む雪那ちゃんの姿がみえた。
「おはよう」
「おっ颯真も春ちゃんもおはよー」
「おはよう」
「おはよ。克哉。荷物積んでくれー」
挨拶を交わしながら2人の元にいくと、颯ちゃんが早速自分荷物2つを克哉くんに押し付けるように差し出した。
「はいはい。偉いじゃねぇか春ちゃんの荷物も持つなんて。よっと」
広めのトランクには、既に克哉くんと雪那ちゃんの荷物と、克哉くんが持ってきただろうキャンプ道具が綺麗に積まれていた。
「春ちゃんもスーツケース貸してね」
「うん。ありがとう」
「よし綺麗に入った。どうよこの芸術的な収納。ピッタリ収まったっしょ」
「たしかにな。ピッタリじゃん」
「ふふ。もう克哉くん。颯真くんたちが来る前から、ピッタリ入れるって言ってたんだよ。良かったね克哉くん」
「おう。もう俺の仕事終わった感じがする!」
ひとしきり皆んなで笑い、車トランクのドアを閉める
ここから野尻湖まで4時間の道のり。これだけで楽しく過ごせるような気がする。
***
「いっせーの」
せっ
の合図で3人が克哉くんの握る棒を引き抜く。
私の棒には3と書いてあった。
「一番だーれだ」
「あっ俺だ」
「………えー」
あからさまに克哉くんが落ち込む。
どうやらこのくじ引きは座席の抽選だったみたいだ。
「おかしくない?3分の2だよ?ねえ?3人中2人は女の子なんだよ」
「おいっ」
「まぁいいや。颯真。最初のSAまでの20分。俺を退屈させるなよ」
「了解」
どうやら助手席に座ると克哉くんを退屈させないという使命があるらしい。
今回4時間の道のりを交代で行くのではなく、克哉くんの家の車は家族しか保険に入っていないため、道中全てを克哉くんが運転することになっていた。
途中有名なSAによりながら雪那ちゃんの実家には夕方までにゆっくり行く予定らしく、PAやSAに寄る度にくじを引き席順を決めることになった。
たしかに4時間も5時間も運転するの大変だもんね。克哉くんも楽しみたいよね。
どうしよう。私に務まるのかな……。
「ん?春ちゃん心配すんなって、俺女の子が横に座ってるだけでテンション上がるよ。退屈しないよ。でも颯真。お前はダメだ。全力で俺をもてなすように」
「おいっ。主旨変わってんじゃねぇか」
「もう克哉くん」
「ははっ。ごめんな雪那ちゃん。颯真を借りるよ」
「はいはい」
「じゃあしゅっぱーつ」
そう言って皆んなが乗り込むタイミングで克哉くんが私にだけ分かるように軽くウィンクをする。
その瞬間。私はこのくじ引きの意味を理解した。
そして心の中で呟いた。
くじの神様。私にくじ運を下さい。と
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