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第4章 乙女ゲーム編
取り巻き
しおりを挟む「ランドーク侯爵令嬢殿、何をなさっているのですか?」
無様に床に座り込んでいる私に、呆れたようにそんな言葉を投げかける男性教師。
授業始めの挨拶をし、座ろうとして感じた浮遊感。
そのまま抵抗することも出来ず、小さく悲鳴を上げて床に落ちてしまいました。
お尻に痛みが走る中、一瞬放心している間にそんな事を言われてしまった訳ですが。
咄嗟に返答出来ず見返す事しか出来ませんでした。
「そうやって勝手をなさるのはクラスの迷惑になります。
ああ、申し訳ございません、侯爵家令嬢様に対して大変失礼な事を申しておりますね。
ですが、私は教鞭を取らなくてはならないのです。
どうか、私の願いを聞いて下さるのでしたら、このまま出て行かれるか大人しく授業を受けるか……」
淡々と喋られる先生を見つつ、少しずつ冷静さを取り戻していきます。
席を立った時に椅子を引かれたとか、多分そう言う単純な嫌がらせを受けたのでしょう。
そんな事をされるなんて発想は全くなかったのですが、これも油断していたと言う事なのでしょうね。
それにしても、この先生はとても熱意の溢れる方で、今までは仲もよく色々知っているだけにあまりの変わりように、予測出来ていても違和感を感じてしまいますね。
この違和感は親しい方にこそ顕著に感じる事なのでしょう。
そう苦々しい気持ちでお言葉を聞いていたのですが、ふと言葉を切られて考え出される先生。
不思議に思って見つめておりますと、困惑したようにポツリと呟かれます。
「アメリア様……いえ、アメリアさんはいつも熱心に授業を受けて下さってましたね。
そもそも、授業を妨害したと言うより単純に転んでしまっただけで、普通ならばお体の心配をせねばならぬと言うのに。
アメリアさん、ご無礼を大変失礼いたしました」
教卓の前で頭を下げる先生。
皆驚きの表情でそのお姿を見ていらっしゃいます。
そう言えば、影響を受けさせる事は出来ても、強制的に全てを変えられる訳ではないのでしたっけ。
と言う事は、もしかするとこうして冷静に物事を考えられる方は、気付かれた際にはある程度正気を取り戻せるのかもしれません。
ですが、そう結論付けるにはあまりにサンプルが足りませんね。
「いえ、転んでしまった私にも責任はございますから」
「そう仰って頂けますと助かります。
お体の方は大丈夫ですか?」
パッと見はいつものように見える先生相手に、大丈夫ですと言葉を返します。
これはある意味収穫でしたね。
何故先生が正気を取り戻されたのかは不明ですが、良い情報の一つと言えるでしょう。
そして、周りの皆さんはそんな私達のやり取りを大変不服そうに見ていらっしゃいましたし。
個人差も大きそうですわね。
結局その後は何事か起こる事もなく、滞りなく授業は進みました。
いえ、滞りなくと言ってしまえば語弊があるでしょう。
異常な教室の雰囲気に気付かれたようで、先生は非常に授業をやり難そうにしていらっしゃいましたね。
何度も首を振られたり、何か言いたそうにクラス中を見ていたり。
正直進み方もいつもに比べれば、遥かに進まなかったですからね。
本当に由々しき問題です。
想像は付いておりましたが、生活の全てに不都合が生じそうです。
そう思うと、つい気が重くなって溜息が溢れてしまいそうになりました。
何とかしなければとは思うものの、何をすれば良いのか分かりませんからね。
殿下達に止められてさえなければすぐにでも原作ヒロインの子に会いに行くのですが、もどかしくて仕方ありません。
授業が終わっても一人悶々とした気持ちで考え込む私。
どうやら、クラスの皆さんは私をシカトするおつもりのようですね。
「姫様! 遅れて申し訳ございません!」
「マリベルさん!」
変に攻撃を受けるより無視されてた方が良いですね、なんて呑気に考えた瞬間に扉を勢いよく開けて教室へと入ってくるやたらケバケバしく着飾ったマリベルさん。
折角の美人さんと言うのに、全てがとっちらかった印象で寧ろ下品になってしまっている気がします。
「ああ、マリベルさんだなんて、姫様の下僕の一人として感激の極みにおりますわ!」
「いえ、いつもマリベルさんとお呼びしていたではないですか。
それと、他の方々はどなたでしょう?」
あまりにマリベルさんの印象が強烈過ぎて気付いてなかったのですが。何で気付かなかったの? と言いたくなるほどに着飾っている方々が数名いらっしゃいます。
って、これはまさか原作ゲームで私の取り巻きだった方々と言う事でしょうか?
と言うか、貴女方もう少し統一感とか方向性とかないのですか?
なんか目がチカチカしますし、それはお洒落とは流石に感じる感性を私は持ち合わせていなのですけど。
「まぁ、酷いですわ! こんなにもお慕いしていますのに」
「そうですよ、姫様。我々は姫様の親衛隊ではないですか!」
「お忘れになるなんて酷い! それに、マリベルばかり特別扱いするのはどうかとも思いますの!」
ただ、彼女達の中では私は親しい相手だと言う事なのでしょう。
口々に奏でられる言葉の数々に、目を何度も瞬かせてしまいます。
その、マリベルさんは別として。正直貴女達とは挨拶を交わす程度の間柄のはずですが。
困惑しつつも、どこか嫌味な感じがすると言うより、寧ろ必死に好意をアピールしている印象を受けます。
そのせいで、はっきりきっぱり言うのも躊躇われてしまいました。
「ふふん、私は貴女方と違って姫様と特別仲が良いですからね」
「むきぃ! たかが男爵家の令嬢の分際で!」
「そうよ! 姫様は皆の姫様って取り決めしたでしょう!」
「まぁ、会員がごっそり減ったのは良かったですけどね。こうして姫様と直にお話し出来るチャンスを得られますし」
そんな私を置き去りに、皆さんこれまぁ随分と賑やかな感じで盛り上がってらっしゃいますね。
入りそびれたせいで、ついつい聞き役に徹してしまいました。
ですが、きちんと言うべき事は言わねばなりませんね。
「皆さん、元気が宜しいのはなによりだと思いますが、流石にはしたないですよ。
私の事をお慕いして下さるのは嬉しいのですが、淑女たるもの礼儀作法はしっかり守るべきだと思います」
私の言葉に驚愕の表情を浮かべる皆さん。
と、一人落ち込んだ様子になるマリベルさん。
誰もが言葉を発せない中、マリベルさんがションボリとしたまま口を開きます。
「誠に申し訳ございませんでした、アメリア様」
その言葉にぎょっとした様子を見せる皆さん。
やはり、個々で物凄い差があるようですね。
多分影響力は平等に受けているのでしょうけど、根本的に今までの私との関係性やその方の性格などで変わっているのでしょう。
そう簡潔に結論付けて、もっと情報が集まったら改めて考える事にします。
今は考え事をしている場合ではありませんからね。
「いえ、分かって頂ければ良いのです。
皆さんもどうかお願い致します」
私の言葉に何か言いたそうにしながらも、不承不承といった様子で頷く皆さん。
さて、単純に原作と違うようにするつもりは元からございませんでしたが、尚更彼女達を無下に扱う事は出来ませんね。
本来は素直で良い子達、なのでしょう。
いえ、親しい間柄ではないので思い込みは危険ですが、かと言って突き放すほどではありません。
ならば、状況を見極めつつ対応するしかありませんね。
「そうですわ、ならば移動してお話しすれば良いのです。
ほら、お話しするのはレディの立派なお仕事ですし、授業より遥かに重要ではないですか」
マリベルさんの横にいらっしゃった伯爵家の令嬢に言われてしまってから、それがある意味この国の貴族の認識だったと頭を抱えそうになってしまいます。
今までは私を含め殿下やディエル様も真面目に授業を受けておりましたのでそんな事はなかったのですが、カイル様達なんかはよく授業を欠席されていたようですからね。
とにかく、このまま流されていると受けたい授業を何も受けられなくなってしまいます。
「仰る通りではありますが、きちんと授業を受けた後にお話する時間を作れば十分でしょう。
皆さんもきちんと授業を受けて下さい」
「ええー、アメリア様との時間の方が遥かに大事ですわ」
間髪入れずに返してくるマリベルさん。
嬉しいですが、それは少しズレていると思います。
そう言おうとしたのですが、それより早くまた違う令嬢さんが言葉を紡がれます。
「それに、私達へここまで無礼な視線を向ける輩と同じ空間にいるだなんて、苦痛ですわ」
騒いでいた私達を迷惑そうに見ていたり、中には睨んでいらっしゃるクラスメイトが居る事は承知しておりました。
それだけに、どう返したものかと考えを巡らせます。
「そうですよ、こんな無礼者と一緒にいるだなんて、我慢なりません」
「そもそも、姫様は侯爵家令じょ――」
「そこまでです!」
私の家の事を持ち出そうとなさった瞬間、考えるよりも先に言葉が出ました。
大声を上げた私に、まん丸と目を開けられる皆さん。
これは絶対に譲れないですから、反射的に反応出来たようですね。
さぁ、黙って下さったチャンスを逃す手はありません。
「確かに私は侯爵家令嬢と言う肩書きから逃れる事は出来ないでしょう。
それでも、無闇矢鱈に家の名前を、家の力を持ち出したくはありません。
以後もっと気を付けて発言なさって下さい」
きっぱりと言い切る私に、申し訳なさそうな表情を浮かべる皆さん。
少し酷かもしれませんが、ここはこのまま押し切らせて貰いましょう。
「それではこの話は終わりです。
皆さんもどうかご自分の教室へとお戻り下さい。
ただ、私もこうして授業以外の時間ならば、相手をさせて頂くのはやぶさかでもありません。
どうか、聞き入れて下さいませんか?」
真摯に伝えれば、とりあえずは言葉に従って下さる皆さん。
これからを考えれば色々と思う所はありますが、差し当たっての問題は解決出来たでしょうか。
そう思ってほんの少し安心した瞬間、とんでもない言葉を耳が拾ってしまいます。
「けっ、偉そうに。そのまま大人しくどっかに行ってろってんだ」
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