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第4章 乙女ゲーム編
叱責
しおりを挟む折角この場は収まりそうでしたのに、いらぬ事を申した方の所為で明らかに怒りの表情を浮かべるマリベルさん達。
いえ、それ以前に何ですかこの子供がするような嫌がらせの数々は。
色んな意味で程度が低すぎると言うか、今は怒りよりも呆れの気持ちが強くなってしまいました。
そのせいでつい出遅れてしまったのですが、マリベルさん達が同時に騒ぎだしたものだから何を言っているのかすら分かりません。
怒っていると言うのは伝わるのですが、同時に言われて理解しろと言う方が無茶と言うものでしょう。
そんな姿を見ていた問題の言葉を発した男子生徒は、驚きの表情を一瞬浮かべたものの嘲るような笑みを浮かべられます。
「全く、本当に程度がしれますね。
何が淑女を目指しますですか。これが貴女の目指す淑女なんです?」
ニヤニヤと笑いながら言葉を私に紡がれ、マリベルさん達が息を飲むのを感じました。
お陰様で声を張らなくともちゃんと聞こえそうですわね。
「そうですね。今のマリベルさん達はあまりにはしたなかったと思います。
ただ、私の為に感情を顕にして下さったのは、褒められる事ではないですが嬉しく思っておりますよ。
何せ、最初に無礼な言葉を申したのは貴方でしょう」
「はっ、まるで自分は蚊帳の外だったとでも言いたげですね」
苦虫を噛み潰したかのように仰いますが、事実ある意味今のは蚊帳の外だったような気もします。
流石にそれを言ったりはしませんが、代わりに別の事を伝えましょう。
「それ以前の問題だと申しているのが分かりませんか?
少なくとも、私は相手の背に向けて何処かへ行けと言うのが礼儀だとは習った事はございません。
寧ろ失礼で絶対にやってはいけない事だと認識していたのですが、貴方の中では違ったようですね」
私の言葉に口を噤むその男子生徒。
ええ、確かに現状は大精霊様の仕業ですし色々仕方ない事はあると思います。
それと、全く礼儀も守らずに行動するのは別問題でしょう。
そんな思いを胸に、なおも言葉を重ねます。
「私の事が嫌いだったとして、それでも結構です。
全ての人に好かれるような人間ではないと、私は自覚してもおりますわ。
ですから、貴方が私に対して負の感情を抱いていたとしても仕方ないと思いますし、それについては何も言う事はありません。
私が申し上げたいのは、いずれ家の名を背負って社交の場に出ねばならぬ身で、その世界に飛び込むのももうすぐと言うのに今の言動はどうだと言うのです」
「あ、貴女に言われたくはない!」
「そうですね。こうして声を大にして言うのはいささかみっともない真似とも言えるでしょう。
ですが、今こうして言わねばいつ言うのです?
私だって未熟者の自覚はありますし、だからこそこうしてお互いに注意し合うのは必要だとは思いませんか?
そして、注意や指摘をし合うのと、罵声を浴びせたり嫌味を隠しもせずぶつけるのは全くの別物だと思われますが、貴方はその辺りどう考えていらっしゃるのですか」
まくし立てれば、顔を真っ赤にして悔しそうに唇を噛む男子生徒。
正直全く気持ちが晴れません。
カイル様のように正気にも関わらず仰っているのでしたらともかく、いつもの彼は決して今のような真似をする人ではありませんからね。
既に分かっていらっしゃる事を改めて言うのは、どこか虚しくもあります。
「さぁ、この話はここで終わりとしたいのですが、宜しいでしょうか?」
気を取り直してそう告げれば、どこか納得していない様子ながら皆さんが私の言葉に従って下さいます。
本当に影響力とは厄介なものですね。
正直まだどう対応したものか、悩んでしまってます。
結局その答えを出せぬまま、授業の始まるチャイムが鳴り響きます。
って。
「皆さん、早く戻らないともう授業の時間ですよ」
全く慌てる様子のないマリベルさん達に、慌ててそう告げます。
すると、何故かキョトンとした表情を浮かべられてしまいました。
「いえ、ですから、私はきちんと勉強したいですから、授業を受けようと思います。
お誘いは嬉しかったのですが、もっと時間の取れる時にお願いします」
改めてそう伝えると、やっと合点が言ったような表情を浮かべる皆様。
所が――
「え、でも私達はここいにたらダメなんですか?」
「えっ」
ダメと言いますか、皆さん何を仰っているのでしょう?
混乱して言葉が出てきません。
「そう、姫様は授業を受けられて、私達はここで話しておりますわ」
「ま、待って下さい。
それでは授業の邪魔になってしまいますわ。
クラスメイトの皆さんへ迷惑も掛けてしまいますし」
慌てて言いますが、相変わらず良く分かっていない様子の皆さん。
えっと、本当に待って下さい。
今までのやり取りはどうなったのです? もしかして、これって自動的にリセットが掛かってしまうとか?
どんどん気持ちが焦っていく中、はっと強烈な視線を向けられている事に気が付きます。
そこには、腕を組んでこちらを睨んでいらっしゃる女性教師の姿がありました。
先の男性教師よりも厳しいと有名な彼女は、ただ黙って廊下の方を指差しされました。
この反応をどう言う風に解釈すれば良いのか難しいところですが、もし普段の状態だったしてもここまで騒がしいならばそう言う反応をなさるでしょうね。
「誠に申し訳ございませんでした」
「じっくり反省する事だな」
頭を下げると、淡々と言葉を発される先生。
そのお姿は殆ど普段と変わらないように見受けられます。
ああ、本当に普通に授業を受けたかったです。
色んな意味で勿体無い事をしてしまいました。
ですが、それでも得られる物はありましたし、下手な真似はしないようにしましょう。
結局授業を受けるつもりが受ける事は出来ず。
そして、私達だけではなく勿論一緒に口論していた彼も共に廊下へ出る為扉を開けます。
誰一人として文句を言わず黙って言う事を聞いているのは、やはり彼女の力の賜物なのかもしれません。
そんな事を思いつつ扉を開けて、飛び込んできた光景に硬直。
「姫様、お待ちしておりました」
幻聴と幻覚を感じるほど思い悩んでしまったか、疲れてしまったようですね。
つい目頭を押さえて扉を締めてしまいました。
「アメリアさん。何をしているのです」
「申し訳ございません、きちんと反省してきます」
背後から呆れたような先生の声が聞こえてきて、振り返ってもう一度頭を下げます。
そして、今度は覚悟を持って扉を開けました。
「お待ちしておりました、姫様」
「色々聞きたい事がありますが、ここではまずいですので移動しましょう」
結局自分の部屋に移動する事になってしまいそうですね。
重く重く溜め息を吐き出しながら、改めて原作ゲームでは一切触れられる事のなかったはずの彼女を見つめます。
「さぁ、テレーゼさん、立ち上がって下さいませ」
「仰せのままに」
ご卒業してしまったハイムさん達の事はもう分かりませんが、彼女は何だか別の意味で物凄く影響を受けてしまっているようですね。
時折りお茶を共にしたり、お話ししたりする間柄ではあったのですけど。
まさか授業中に教室の外で平伏していただなんて思うのでしょう。
はっ、嫌な事に気付いてしまいました。
今こうして平伏されていたと言う事は、昨日もしていた可能性が非常に高いです。
何がどうして彼女をこうした行為に駆り立てたのか、なんとしても聞き出して無理やりにでも止めさせなければならないでしょう。
他にも色々と嫌な考えが浮かんできますが、勝手に考え込んで落ち込んでいても仕方がありません。
どうしても憂鬱な気持ちになりながら、ゾロゾロと皆さんを連れて自室へと向かいました。
黙って私の部屋まで付いてきて下さった皆さんに、一旦外でお待ちするように告げて先に部屋に入る事にします。
中にはナタリーが居るでしょうし、寝ているのならば起こさないように。
もし起きていたとしたらきちんと事情を説明しなければならないでしょう。
とりあえずノックを4回鳴らし、私が戻った事と人を大勢連れてきている事を扉越しに伝えます。
果たして中から返事は返って来ず、勢いよく扉が開きます。
まさか、人を連れてきていると伝えてナタリーが扉を開けるとは思っていませんでしたから、完全に不意を付かれてしまいました。
そのまま満面の笑みを浮かべるナタリーに抱きしめられてしまいます。
「アメリア様、お帰りなさいませ!
もう、寂しかったのです。
全然具合は良くならないし、でも今朝とんでもない失礼な事をしてしまって落ち込んでしまいますし。
ああ、もう、どうして思った事を口から垂れ流してしまうの!?
うう、でもアメリア様のお声を聞いて少しだけ元気が出ました!
嘘です、吐きそうです、ごめんなさい」
「な、ナタリー!?」
「うう、絶対掛けたくないです。
洗面所までお願いします」
「は、はい!
が、頑張ってナタリー。返事は結構です。
辛いのでしょう、私が来ましたからもう大丈夫ですからね」
顔色を見れば、昨日倒れた時よりマシで、でも今朝よりも悪い位になっておりました。
フラフラしているナタリーを抱きかかえ、大慌てで洗面所へと急ぎます。
流石にこんな時になりふり構っている場合でもないですし、最悪私に吐き出されてしまったとしても着替えれば良いだけの話です。
とは言え、ここにいる皆さんに見られるのは非常に不味いですし、すみませんお待ち下さいませと言葉だけ伝えておきます。
「アメリア様ー。好きです。具合悪いですー」
「あと少しですよナタリー。頑張って!」
「は、はい! 私嬉しいです!」
そう言いながらも、何度も口を塞いで堪えようとなさっています。
結果的にギリギリ間に合いましたが、とても苦しそうなナタリーの姿に胸が痛みます。
「うう、何か食べないと元気になれないし、アメリア様に迷惑掛けちゃいます。
でも、頑張って食べても何度も吐いてしまって……。
ごめんなさい、アメリア様」
「大丈夫、大丈夫ですよ、ナタリー。
それに、謝る必要もありません。私は貴女の事が大好きなんですよ。
このくらいへっちゃらです!」
どんどんネガティブな事を言い出すナタリーを必死に励ましつつ、ふと薬はお父様が渡したと言っていた事を思い出します。
お父様、本当に何の薬を渡したんですか!? 感謝してはおりますけど、こんな後遺症が出るならちゃんと説明しておいて下さいませ!!
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