悪役令嬢に転生したようですが、知った事ではありません

平野とまる

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第4章 乙女ゲーム編

見えてくるもの

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『ふぅー、これだけこっちから意識が外れていれば十分でしょう』

 雑談をしていた私達に、ディア様の思考が飛んできます。
 驚いた表情を浮かべる皆様。
 そのままキョロキョロと辺りを見渡されますが、ディア様の姿はありません。

「これでお話し出来る状況が整ったと言う事ですね」

『ええ、そう言う事よ。
 だけど、皆はどうしたのかしら? アメリア分かりますか?』

 確認の為にお聞きしてみれば、答えられた後不思議そうな思考を飛ばされるディア様。
 伝わってくる感情も同様で、キョトンとした表情を浮かべたディア様が容易に想像出来てついつい頬が緩んでしまいます。
 あら、フランソワーヌ様がいつの間にかじっとブローチを見つめていらっしゃいました。

「そこにいらっしゃるのでしょうか?」

『不本意ながらね……ってそうか。貴方達は人間でしたか。
 私とした事が失念していましたけど、見える貴方が特別なのよね』

 はっとした様子のディア様と、どこか不機嫌そうな様子になったフランソワーヌ様。
 ただ、ディア様はフランソワーヌ様の変化なんかお構いなしに思考を飛ばし続けられます。

『まぁ良いわ。この国では物珍しいかもしれないですが、この国以外ではありふれているのですから。
 そんな些事よりもアメリアが巻き込まれている現状が許せませんので、貴方達も全力でアメリアを守りなさい。
 口惜しいですが、私は今全く力を使えない状況にあります。
 力を使うと間違いなく悪影響が出ますし、わざわざここに隠れた意味もありません。
 ただ、まともにやりあえるほどに力を取り戻すには相応の時間が掛かってしまいます。
 だから、本当は私が守りたいのに貴方達に託しているのだからね! 守れなかったら許さないんだから!』

 徐々にヒートアップしていくディア様。
 すると、うっすらとですがブローチが淡く輝きます。
 直後、パッと光が消えて危なかったわと危機感たっぷりのディア様の思考が飛んできました。

「そこに隠れていると言う事は、フェル様は誰かに気付かれない様にそこにいらっしゃると言う事でしょうか?」

 誰よりも早く言葉を発されたのは、この場で一番の発言権を持つ殿下。
 ここはとりあえず殿下にお任せして、一旦それが終わってから尚聞きたい事があれば聞くと言うスタイルで望みましょう。
 ラクサスもフランソワーヌ様も同意見のようで、殿下と私のブローチへと意識を集中されていらっしゃるようです。

『むぅ、悔しいけどこっちに存在出来無い程度にはダメージ受けちゃったのよね。
 ただ、その……むきぃー、悔しいですけどこのブローチが一番アメリアへの想いで溢れていたのです。
 だから、ここに入る事で多少は回復出来る状況になりましたし、こうして気付かれずに済んでいるのです。
 私が一番アメリアを好きなのにもぅ』

 悔しそうなニュアンスで伝えてこられるディア様。
 何だかそれが嬉しくて、きゅっとブローチを抱きしめます。
 このブローチは、殿下とディア様の私への想いがもっとも込められた物だと言う事なのでしょう。

「ありがとうございますディア様。殿下もありがとうございます……殿下?」

 声をお掛けしたら、何故か俯いていらっしゃる殿下。
 不思議に思っていると、チラチラとこちらを見られる殿下のお顔は真っ赤で……釣られて私も何だか恥ずかしくなってしまいます。

『むー、私を忘れちゃいやー』

「ああ、すみません」

 つい殿下ばかりに気を取られていますと、ディア様が不満そうに仰いました。
 今は確かにそれどころではありませんし、集中しなければなりませんね。
 深呼吸をして何とか平常心を少しばかり取り戻し、改めて気を入れ直して会話に望みましょう。

「ごほん。あー。その。力になれたようで光栄です」

『むー、ちゃんと恩義は感じているのよ。
 それに、認めてあげますわ』

 少しギクシャクした感じでしたが、殿下もディア様も返事を聞いてホッと息を吐かれて入りすぎていた力が抜けたようです。
 そのままもう一度口を開かれます。

「整理しますと、フェル様はそのブローチに入り少しだけ力を取り戻し、かつ大精霊様の目を欺けていると言う事で宜しいでしょうか?」

『ちょっと違うわね』

 ぴしゃりと伝えられるディア様に、私も意外な思いを感じます。
 てっきり殿下の仰る通りだと思っていたのですが。

『正確にはこの部屋にいるから欺けているの。
 こうして思考を飛ばすのも、もしこの部屋以外でやってしまえば感づかれてしまうかもしれない。
 殆ど向こうに集中しているとは言え、異質な物があれば案外気付くものでしょう?
 フランソワーヌなら、特に分かるでしょうか』

 ディア様から水を向けられ、フランソワーヌ様が発言なさいます。

「ええ、はみ出してしまえば気付かれる可能性は高いと私も思います。
 ですが、この部屋はアメリア様への想いが詰まった物で溢れていますからね。
 そう言う意味では、前の部屋だったのならばもっと効果はあった事でしょう」

『そう言う事ね。
 ですから、最終手段を使わざるを得ない場合以外は私は本当に何も出来ません。
 この部屋にいる時に限り、こうして思考を共有する事が多少ならば可能と言ったところでしょう。
 あーもぅ、回復したら絶対に許さないんだから』

 言い終えるや、怒りの思考が流れ込んできます。
 どうも落ち込んでいらっしゃるような面もございましたので、ちょっと判断に困る部分はありますが。
 少しでも元気を出して頂けるのでしたら、よしとするべきかもしれません。

「つまり、ディア様は今後力を振るう事は叶わないと、そう言う認識で良いのです?」

『あいつらの影響からくらいなら守るつもりですが、それ以上は難しいでしょう。
 今の貴方達のような状態にしか、こんなに近くに居るのに出来無いなんて情けないのだけど。
 だからこそ、影響を受けてアメリアに対して馬鹿な真似をする連中から守って欲しいの。
 力の流れを見る限り、その可能性は高くはないけどないとは言い切れないくらいはありますから』

 懇願するようなディア様のお言葉ですが、聞き捨てならない単語がありました。

「すみません、あいつらとはどう言う事でしょう? 大精霊様お一人なのでは?」

 咄嗟に口を開いてしまいましたが、私が何か音を出す前に殿下が早口でそう仰います。
 その疑問はここにいる全員が抱いたのでしょう、どこか切迫した雰囲気になってきましたね。

『そう! もぅあいつったら最悪なのよ! 一々邪魔してきてぇ! ああ、興奮しちゃう。
 この話は今後しないようにお願いします』

 本当は詳しくお聞きしたい事ですが、それは難しそうですね。
 とは言え、これは予想だにしなかった可能性が出てきました。
 大精霊様の仕業だけではないと考えると、更に問題は増えてしまいます。
 思わず頭を抱え込みそうになってしまいますが、実際それをしても何も始まりません。
 ならば、少しでも前に進むことにしましょう。

「向こうに集中していると仰いましたが、それは誰の事を指すのでしょうか?」

 険しい顔付きで皆様が黙ってしまわれたので、私がそう問いかけます。
 すると、明らかに不機嫌そうな感情が流れ込んできました。

『あれの事を指すのですよ。気持ちは分かるのだけど、まるで分かってない。
 これだから大好きな癖に近くにいなくて、感覚がまるっきり違うのに自分の判断だけで行動するからこんな目に合うのよ。
 いい気味ですわ』

 口調はどこか愉快そうですが、流れ込んでくる感情はどこかもどかしく感じているような気もして。
 それ以上に怒りの感情が強すぎてはっきりとは分からないのですが、そんな気が致します。

「それは転校生さんの事ですね?」

『ええ、そうよ。だからくれぐれも気を付けなさい』

 今度は言葉通り心配している感情とともに思考も流れ込んできました。
 油断大敵と言う事でしょうね。
 ならば、私が選ぶ行動は一つ。

「はい、十分に気を引き締めてお会いしたいと――」

『絶対に駄目! 何をされるか分かったものじゃないわ。
 それに、今伝えた通りもう私はアメリアを助ける事は出来ないのよ?
 お願いですから、それはやめて頂戴』

 懇願するようなお言葉に、私は口を閉じざるを得ませんでした。
 ここまで必死なディア様は初めてです。
 それだけ、彼女と会うと言う事は危険を伴うと言う事なのでしょう。

「その役割は私達に任せてくれないか。
 元々そう言う話だっただろう?」

 優しく声を掛けられ、そちらを向けば微笑みかけて下さっている殿下のお姿が。
 ラクサスもフランソワーヌ様もこちらを見つめていて、視線が合うと力強く頷いて下さいます。

「どうか私達にお任せ下さい、お姉様」

「そうですよ。何もお姉様が危険を冒す事はないのです。
 幸い私は彼女と同じクラスで席も隣ですから、色々と情報は得られるかと思います。
 任せて下さいませ」

『私も賛成だわ。
 何故かは分からないのだけど、幾人かは寧ろ近づくように影響を与えているもの。
 ここに居る三人は、どんな偶然かは知らないけどその影響が来ているみたい。
 だからこそ、影響を無効化していたとしても近づく事に対していきなり拒絶反応を示すとは思えません。
 お願いよ、アメリア』

 ここまで言われてしまったら、どんなにもどかしかろうとお任せするしかありませんね。
 ただ、私にしか分からない事がございます。
 ディア様と一対一になれた時に改めてお聞きしようと思うのですが、マドローイ様にディエル様とゴードンさんも影響を受けていた可能性は高いでしょう。
 そして、それが事実だとしたら私の知る知識はかなりの有力な情報となりえます。

 だからこそ、ここは細心の注意を払わねばなりません。
 これ以上皆様を危険な目に巻き込んだりなど、ただでさえ不本意極まりないのにしたくなどありませんからね。

「承知しました。
 どうか、お気を付け下さいませ」

 最大限の感謝の気持ちを込めてただただひたすらに頭を下げます。
 今の私にはこのような事しか出来ない事が本当にもどかしいですね。
 ええ、本当に、このまま指を加えて待つなんて自分で自分を許せません。
 では、私は私のやれる事をやりましょう。
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