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第21話
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ロザリンドは窓から春の花々が咲き誇る庭園を眺めて言った。
「今日は『恋人たちの庭』で待ち合わせなのでしょう? 楽しみですわねー!」
「恋人たちの庭」とはロザリンドが勝手に呼んでいる名で、彼女はこの部屋から庭園で逢引する恋人たちを眺めるのを趣味にしている。
「ロザリンド様……」
「なんですの?」
「……覗かないでくださいね」
「あらやだ! 覗きませんわよ! ホホホホホホ」
シェリーはロザリンドを心から信頼しているが、今日だけは疑いの眼差しをむけずにはいられなかった。
昼下がりの庭園にむかうと、東屋にはすでにユーリアンが佇んでいた。
シェリーに気付くと、まばゆい笑顔で大きく手を振っている。
シェリーは思わず笑顔になり、足をはやめてユーリアンのもとに急いだ。
東屋に到着すると、ユーリアンに待たせたことを詫びてから、シェリーはロザリンドの部屋から死角になる場所を慎重に見極めた。
ユーリアンは小首をかしげて不思議そうに見ていたが、シェリーが位置を決めて立ち止まると、微笑んでシェリーの目の前に移動した。
二人はしばらく無言で見つめあう。
ユーリアンの眼差しには万感の思いが込められているようだった。
ユーリアンはシェリーの手をそっとすくい上げると言った。
「ようやくあなたに触れることを許される立場になりました。……シェリー、ずっとあなたを想っていました」
そう言うとシェリーの指先に、かすかな口付けを落とした。
「あなたを生涯大切にすると誓います」
ユーリアンの瞳は確かな熱を帯びている。
シェリーは彼のこんな眼差しをはじめて見た。自分の顔が火が出るほどに熱くなっていくのを感じる。
何か言わなければと、ぐるぐると考え、小さな声で言った。
「……わたしもいつの間にか、あなたのことを……」
それ以上言えなくなって、口をぱくぱくさせるシェリーに、ユーリアンは楽しそうに笑って言った。
「婚約者なのですから、ユーリアンと呼んでください。シェリー」
「……ユーリアン様」
二人は瞬きもせず見つめあう。
ユーリアンが柔らかな声で言った。
「シェリー、これからはずっとそばにいます」
その言葉はシェリーの胸の深いところまで染み込んだ。
「っ……」
シェリーの視界がにじむと、あっという間にあたたかい水滴が眼からこぼれ落ちる。
「あれ……どうして……」
涙は止まらなかった。
長年シェリーは泣いたことがなかった。どんなにつらいことがあっても。
それが今日、決壊したように、指でぬぐってもぬぐってもあふれ続けた。
「っ……私、すごくうれしいみたいで……止まらない……」
ユーリアンはシェリーの肩に優しく触れて、自分の胸もとに引き寄せた。
「大丈夫だよ、シェリー」
とても優しい声が頭上から降ってきて、シェリーはとうとう声をあげて泣き出した。
ユーリアンはそんなシェリーの髪をそっと撫でる。
思う存分泣いて、涙がようやく止まったシェリーは、我にかえると途端に恥ずかしくなった。
ユーリアンの胸もとから顔を離すと、できるだけ感情を込めずに言った。
「……取り乱してしまって、申し訳ありません」
クスッと笑い声が聞こえて、シェリーが顔を上げると楽しそうにユーリアンが言う。
「もういつものシェリーだ」
ハンカチを取り出してシェリーの顔を丁寧にぬぐってくれる。
あまりに自然だったので、シェリーが遠慮する隙もなかった。
顔をふき終わるとユーリアンはシェリーに手を差し出した。
「すこし歩きませんか?」
「ええ」
シェリーは素直に手を取った。
ロザリンドが見ているかもしれないが、もう気にならなくなっていた。
二人は手を繋いで花咲き誇る庭園をゆっくりと歩く。
ロザリンドが「恋人たちの庭」の名にふさわしいようにと選び抜いた、ロマンティックで美しい花々が鮮やかだ。
シェリーは目の前の光景を見て、息をのんだ。
——こんなにも色鮮やかだったなんて……。
隣を歩くユーリアンを見上げると、柔らかく微笑み返してくれる。
シェリーは確信した。
この人がそばにいてくれるなら、世界はずっと鮮やかに色づき続けるに違いない。
「今日は『恋人たちの庭』で待ち合わせなのでしょう? 楽しみですわねー!」
「恋人たちの庭」とはロザリンドが勝手に呼んでいる名で、彼女はこの部屋から庭園で逢引する恋人たちを眺めるのを趣味にしている。
「ロザリンド様……」
「なんですの?」
「……覗かないでくださいね」
「あらやだ! 覗きませんわよ! ホホホホホホ」
シェリーはロザリンドを心から信頼しているが、今日だけは疑いの眼差しをむけずにはいられなかった。
昼下がりの庭園にむかうと、東屋にはすでにユーリアンが佇んでいた。
シェリーに気付くと、まばゆい笑顔で大きく手を振っている。
シェリーは思わず笑顔になり、足をはやめてユーリアンのもとに急いだ。
東屋に到着すると、ユーリアンに待たせたことを詫びてから、シェリーはロザリンドの部屋から死角になる場所を慎重に見極めた。
ユーリアンは小首をかしげて不思議そうに見ていたが、シェリーが位置を決めて立ち止まると、微笑んでシェリーの目の前に移動した。
二人はしばらく無言で見つめあう。
ユーリアンの眼差しには万感の思いが込められているようだった。
ユーリアンはシェリーの手をそっとすくい上げると言った。
「ようやくあなたに触れることを許される立場になりました。……シェリー、ずっとあなたを想っていました」
そう言うとシェリーの指先に、かすかな口付けを落とした。
「あなたを生涯大切にすると誓います」
ユーリアンの瞳は確かな熱を帯びている。
シェリーは彼のこんな眼差しをはじめて見た。自分の顔が火が出るほどに熱くなっていくのを感じる。
何か言わなければと、ぐるぐると考え、小さな声で言った。
「……わたしもいつの間にか、あなたのことを……」
それ以上言えなくなって、口をぱくぱくさせるシェリーに、ユーリアンは楽しそうに笑って言った。
「婚約者なのですから、ユーリアンと呼んでください。シェリー」
「……ユーリアン様」
二人は瞬きもせず見つめあう。
ユーリアンが柔らかな声で言った。
「シェリー、これからはずっとそばにいます」
その言葉はシェリーの胸の深いところまで染み込んだ。
「っ……」
シェリーの視界がにじむと、あっという間にあたたかい水滴が眼からこぼれ落ちる。
「あれ……どうして……」
涙は止まらなかった。
長年シェリーは泣いたことがなかった。どんなにつらいことがあっても。
それが今日、決壊したように、指でぬぐってもぬぐってもあふれ続けた。
「っ……私、すごくうれしいみたいで……止まらない……」
ユーリアンはシェリーの肩に優しく触れて、自分の胸もとに引き寄せた。
「大丈夫だよ、シェリー」
とても優しい声が頭上から降ってきて、シェリーはとうとう声をあげて泣き出した。
ユーリアンはそんなシェリーの髪をそっと撫でる。
思う存分泣いて、涙がようやく止まったシェリーは、我にかえると途端に恥ずかしくなった。
ユーリアンの胸もとから顔を離すと、できるだけ感情を込めずに言った。
「……取り乱してしまって、申し訳ありません」
クスッと笑い声が聞こえて、シェリーが顔を上げると楽しそうにユーリアンが言う。
「もういつものシェリーだ」
ハンカチを取り出してシェリーの顔を丁寧にぬぐってくれる。
あまりに自然だったので、シェリーが遠慮する隙もなかった。
顔をふき終わるとユーリアンはシェリーに手を差し出した。
「すこし歩きませんか?」
「ええ」
シェリーは素直に手を取った。
ロザリンドが見ているかもしれないが、もう気にならなくなっていた。
二人は手を繋いで花咲き誇る庭園をゆっくりと歩く。
ロザリンドが「恋人たちの庭」の名にふさわしいようにと選び抜いた、ロマンティックで美しい花々が鮮やかだ。
シェリーは目の前の光景を見て、息をのんだ。
——こんなにも色鮮やかだったなんて……。
隣を歩くユーリアンを見上げると、柔らかく微笑み返してくれる。
シェリーは確信した。
この人がそばにいてくれるなら、世界はずっと鮮やかに色づき続けるに違いない。
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