【完結】マザコンな婚約者はいりません

たなまき

文字の大きさ
28 / 28

第28話 ジャネット その2

しおりを挟む
 そろそろ三年次への進級の時期が近づいてきた。
 ふたりとも、もうじき十八歳になるが、両者ともに婚約者はいなかった。

 四女で、いないもの扱いされている自分には、もちろん縁談は来ない。生涯結婚しない可能性もある。
 プリシラは伯爵家の次女だが、まだ縁談が来ていないようだ。

 両親が話しているのを聞くと、本ばかり読んでいて女らしくないから相手が見つからないのだろうと言っていた。
 その言い分には怒りを感じたが、ジャネットはふたりとも婚約者がいないのをうれしく思っていた。

 ジャネットはひそかに夢見ていることがある。
 卒業後、華やかな王城に勤めることだ。

 自分は化粧や髪結いが得意だから、高貴な方の侍女として働けるかもしれない。
 プリシラは勉強が得意だから、家庭教師として王城に勤められるだろう。
 ふたりで王城に勤めて、今と同じように一緒に帰って、その日あったことを語りあう。

 ジャネットにとって、それが理想とする未来だった。
 ——そのためには立ち振る舞いに注意して、素敵な女性にならないとね!


 ある日、プリシラと学園の廊下を歩いていると、むかいから大量の女学生が黄色い声をあげながら近づいてきた。
 ——アレクシス様の取り巻きだわ!

 集団の真ん中ではアレクシスが慣れた様子で笑顔を振りまいている。

 アレクシスはジャネットとプリシラに気付くと、立ち止まって愛想良く言った。
「やあ、プリシラ嬢、ジャネット嬢」

「アレクシス様、御機嫌よう!」

「……御機嫌よう」

 ジャネットとプリシラはそれぞれあいさつする。
 奇妙な間があって、アレクシスが言った。

「……プリシラ嬢、昨日の話、考えてくれた?」

「すこし……時間をください」

 またしばらく沈黙があり、取り巻きに促されてアレクシスは去っていった。

 ジャネットは驚いて尋ねた。
「プリシラ、アレクシス様と何の話をしたの?」

「……あとで話すね」

 プリシラのこんな歯切れの悪い言い方は珍しい。
 いつも淡々としているのに、とジャネットは違和感を覚えた。


 帰りの馬車に乗ると、ちょうど雨が降りはじめた。
 ジャネットは窓から外を見て言った。

「すごい雨! 乗る前に降られなくて良かったわね」

「そうね……」

 様子のおかしいプリシラが気になってたまらなくなる。

「ねえ、プリシラ? 何があったの? 困ったことがあるなら力になるよ」

 しばらくプリシラは黙っていたが、とうとう言葉を発した。

「実は私、——」

 その瞬間、馬車を震わせるほどの雷鳴が轟いた——。
 ジャネットはプリシラの言葉の続きが聞き取れなかった。

「え? ごめん、聞こえなかった。もう一度言って?」

 馬車に稲光が差し込んで、プリシラの顔にちらちらと映っている。

「……婚約したのよ。アレクシス様と」

「えっ……?」

 ジャネットは何も言えなくなった。
 ——なんで? だって……どうして?

 プリシラは続けて言った。
「前の婚約者の家で表沙汰にできないような問題があったみたいで、婚約解消になったらしいの。それで私に話が来たのよ……。両親は大喜びで了承したわ」

「…………」

「それで……昨日、アレクシス様にこれからは一緒の馬車で帰ろうって言われたの。でもジャネットと帰ってるから、どうしようかと思ってて……」

「…………」

「……すぐに言えなくてごめんね、ジャネット。あなたが彼を慕っているから、言いにくくて……」

 その後もプリシラは何か言っていたようだが、ジャネットの耳には届かなかった。


 気付くと、ジャネットは自分の家の門に立っていた。
 あの後、何があったのか記憶がない。

 雨傘もささずに、俯いてとぼとぼと歩き続ける。
 全身ずぶ濡れでもジャネットは何も感じなかった。

 口から自分のものとは思えない低いつぶやきがこぼれる。
「……裏切り者」

 その声は豪雨にもかき消されることはなかった。
しおりを挟む
感想 10

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(10件)

かなみん
2022.01.24 かなみん
ネタバレ含む
2022.01.25 たなまき

コメントありがとうございます!
「可愛さ余って憎さ100倍」、まさにそれですね!

解除
まゆ
2022.01.24 まゆ
ネタバレ含む
2022.01.24 たなまき

コメントありがとうございます!
ジャネットのこと、そう言っていただけて嬉しいです!

解除
あした、僕は

マザコンの描写が真に迫っていて、私小説?と思ってしまうほどでした。
知り合いのマザコンも「自分を守ってくれた」が口癖でした!

批判・非難の対象に母親が該当しても、なぜか母親だけは除外され、
聖母様か観音菩薩様のように崇拝してましたね。

2022.01.24 たなまき

コメントありがとうございます!
やっぱりマザコンって似たようなこと言うんですね笑

解除

あなたにおすすめの小説

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】無能と称され婚約破棄された精霊の愛し子は国を見切ります

ルー
恋愛
学園の卒業パーティーで突然婚約破棄を告げられたユリア・シェーラ。 ユリアに非があったのならば仕方がなかっただろう。 しかしあろうことかユリアの婚約者であったサイラス・ヴィ―ルヘミア第二王子はユリアに冤罪を着せ国外追放にしようとしたのだ。 もしユリアがただの侯爵令嬢であったならまだ何とかなっただろう。 だが、ユリアは精霊に愛される精霊の愛し子だったのだ。 精霊に愛されたユリアがいたからこそ、精霊の加護によってこの国は栄えたのであって、ユリアがいなくなれば必然的にその加護は消えてしまう。 その事実は貴族ならば誰でも知っている話だ。 しかしどこまでも馬鹿な王子サイラスは知らなかったのだ。 国外追放に処されたユリアはどこまでも馬鹿なサイラスと精霊の愛し子である自分を無能と称した国を見切った。 手始めにどうしようかと考えたユリアは死の森で隣国の皇太子に会う。

婚約破棄が破滅への始まりだった~私の本当の幸せって何ですか?~

八重
恋愛
「婚約破棄を言い渡す」 クラリス・マリエット侯爵令嬢は、王太子であるディオン・フォルジュにそう言い渡される。 王太子の隣にはお姫様のようなふんわりと可愛らしい見た目の新しい婚約者の姿が。 正義感を振りかざす彼も、彼に隠れて私を嘲る彼女もまだ知らない。 その婚約破棄によって未来を滅ぼすことを……。 そして、その時に明かされる真実とは── 婚約破棄されたクラリスが幸せを掴むお話です。

婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】

小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。 しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。 チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。 そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。 しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」  ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。  何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。  えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。  正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。  どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。