ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん

文字の大きさ
5 / 18
第一章 ダンジョン・イーツ開業 編

5:職人の魂、お届けします

しおりを挟む
 銀座の老舗和菓子店『瑞月』。その厨房に漂うのは、厳選された小豆の甘い香りと、張り詰めた緊張感だ。俺がバッグから取り出したのは、第30階層『豊穣の迷宮』の最奥、魔素の吹き溜まりにのみ自生する苺――【紅蓮の雫】。

「⋯⋯相変わらず、完璧な状態で持ってきやがる」

 店主は感嘆の溜息を漏らし、その巨大な苺を専用のトングで慎重に持ち上げた。この苺は、ダンジョン内の高純度な魔素を吸って育つ。そのため、地上に出した瞬間から構成物質の変質が始まり、数分も経てば自重で潰れて、ただの赤い水へと還ってしまう。

「お前の【絶対配送】がなけりゃ、この『紅蓮の雫』はこの世に存在すらできねぇ。⋯⋯よし、始めるぞ。」

 店主が重厚な「あんこ」の塊を手に取る。苺の表面を薄く、かつ均一に覆うように纏わせていく。

「いいか。苺単体じゃあ、ちょっとした振動で果肉が死ぬ。だが、こうして粘り気のあるあんで包み、さらにその上から求肥《ぎゅうひ》で包んでやる。そうすりゃ、餡と餅が絶妙なクッション層になって、苺を外的な衝撃から保護してくれるんだ。とはいえ、この商品を運べるのは限られた人間だけだ。⋯⋯地上の職人の知恵と、お前の運びの技術。この二つが揃って初めて、こいつは『商品』として完成する。」

 店主の指が魔法のように動き、白く美しい大福が桐箱に並べられた。俺はそれを速やかにデリバリーバッグに収納する。

「預かります、親方。最高の状態で、届けてきますよ」

◆◆◆

 ――回想を切り裂くように、俺は第60階層の闇を爆走していた。

『レンさん、第55階層通過!』 
『てか瑞月の大福って、レンさんが苺を仕入れてる時しか作られない激レア品だろ!?』 
『そうそう、カグヤ様はそれ知ってて指名したんだよな。この二人の関係⋯怪しい⋯』
 配信画面のコメントが流れていく。

 元々、店の常連だったカグヤが、親方にイチゴの輸送について相談されたのが始まりだった。
 その時、俺の知名度はそこそこ上がっていたが、俺の配達は、ダンジョン内限定だった為、冒険者にしか知られていなかった。

 直ぐにカグヤは、俺に連絡をしてきた。その結果生まれたのが、このイチゴ大福だった。

 親方のご厚意で、俺とカグヤは、紅蓮の雫を持ってくれば、直ぐにイチゴ大福を作ってくれるのだ。

 第55階層、キメラの巣。
 空を埋め尽くす魔物の群れの上を、迷宮の壁をタイヤで捉え駆け抜ける。数分後に俺は日本最強パーティが休息する第60階層のセーフエリアへと滑り込んだ。

「流石レンさんね!⋯⋯一分一秒の狂いもないわね」

 砂煙を上げて停止した俺を見て、カグヤさんが確信に満ちた笑みを浮かべて立ち上がった。
 俺はバッグから桐箱を取り出し、蓋を開ける。瞬間、閉じ込められていた店主の魂――朝獲れの苺の爽やかな酸味と、炊き立てのあんこの甘い香りが、地下60階層のよどんだ空気を一気に塗り替えた。

「これ⋯⋯本当に『瑞月』の⋯⋯! 配送不可、賞味期限2時間⋯⋯幻のイチゴ大福⋯」

 驚愕するパーティメンバーたちに、カグヤが誇らしげに胸を張る。 
「当然です。この大福は、レンさんが苺を運び、店主さんが包み、またレンさんが運ぶ⋯⋯彼ら二人にしか作れない、世界で一番贅沢な一品なんですよ?」

 俺は魔法瓶から、香ばしいほうじ茶を全員に注いで回る。大福を一口頬張った重戦士の男が、その場で膝をついた。 
「なんだこれ⋯⋯苺が弾けた。あんこの甘みが、疲れ切った脳に直接染みる⋯⋯っ!」

 カグヤさんは、仲間たちの顔に生気が戻っていくのを見て安堵の息を漏らすと、俺の隣にもじもじしながら座った。

「…これ。」 
 俺にすっとイチゴ大福を差し出してきた。
「あなたの分も注文しておいたの。食べるでしょ?

「えっ、俺の分まで⋯⋯?」 
「べ、別にいらないなら私が食べちゃいますけど、あなたも疲れてるでしょ?疲れた体に甘い物は最高よ?いいから、食べなさい!」
 ぷいっとそっぽを向いた、最強の探索者。悪戯っぽく、けれど可愛げのある瞳で俺をちらちら見てくる。

「ありがとうカグヤさん。ありがたく頂戴します。」
極層の冷気の中、二人で並んで大福を頬張り、温かい茶を啜る。苺の力強い躍動感。それを共に味わうこの時間は、俺にとっても何物にも代えがたい「報酬」だった。


「⋯⋯美味しいでしょ?」 
「はい。以前食べた時よりも美味しく感じますよ、カグヤさん。」

「…レンさん、私もあなたの事は、レンと呼びますので、私のこともカグヤと呼び捨てにしなさい。」
 またぷいっとするカグヤだが、耳が真っ赤になっている。可愛らしい女性だ。
返事をしようとした、その時だった。

 その至福の時間を、スマホの不快な震えがぶち壊した。画面に表示されたのは、元パーティリーダー・ガイルからの、身勝手を煮詰めたようなボイスメッセージだった。

『おいレン。お前、俺たちに無断で商売を始めてるらしいな。規約を読み直せ。パーティ在籍時および、脱退から一年以内の収益は、すべて「育成費用」の返済としてメインパーティに帰属する。
 お前が今稼いでいる金も、使っている機材も、すべて俺たちの所有物だ。
今すぐ売上の全額を振り込め。さもなきゃ、お前を「横領罪」でギルドに突き出す』

「⋯⋯⋯⋯」
 呆れて、言葉も出なかった。無能だと罵り、一方的にクビにしたくせに、俺が独立して稼ぎ始めたと知るやいなや、過去の契約を持ち出して「お前の稼ぎは俺のもの」と言い出したわけだ。  その強欲さに、俺は怒りを通り越して乾いた笑いが出た。

 俺の隣で、ボイスメッセージを聞いていたカグヤの周囲の空気が、パキパキと音を立てて凍りついていく。
 彼女が握っていたカップの茶が、一瞬で芯まで凍りつき、冷気が霧となって彼女の足元を白く染めた。日本最強の魔導師が放つ、無意識の殺意だ。

「……このゴミの処理、私がしましょうか? 
 転移石《リターン・クリスタル》を使えば、今すぐ地上に戻ってあいつらを氷の石像にして差し上げますよ?」
 彼女の瞳は本気だった。

 だが、俺は落ち着いて予備のバッグから新しいカップを取り出した。魔法瓶から、まだ湯気の立つ温かいほうじ茶を注ぎ、彼女の凍りついた手元へと差し出す。

「こほん…カグヤ、体冷やしちゃいますよ。⋯⋯そんな奴らのために、せっかくの美味しいお茶の時間を台無しにしないでください」
 その瞬間、カグヤさんの表情が、陽だまりに触れた氷のようにふわりと溶解した。彼女は驚いたように目を見開いた後、受け取ったカップの温もりに目を細め、小さく「ふふっ、カグヤですって…」と笑い声を漏らす。

「ありがとう、れれれ…レン…」
 レレレのレン……聞き覚えのあるフレーズ。
 カグヤの顔は、尋常じゃない位、真っ赤に染まっている。

 俺はデリバリーランサーに跨り、一気にペダルを垂直に立てた。

「あんなクズの相手は、俺だけで十分です。カグヤ、お茶会の続きは、また後で」
「レン、一人で行くのは、あぶ…」

 カグヤさんの静止を振り切り、俺はセーフエリアの端、地上まで直通しているという大縦穴メイン・シャフトへと自転車を向けた。迷宮の全階層を貫くその巨大な空洞は、本来なら誰も立ち入らない奈落だが、俺にとっては高速道路扱いだ。

「まったく! 常識が通じないんだから!フフ」
 カグヤの笑い声を背に、俺は断崖の縁を全速力で蹴り、そのまま垂直の壁面へと真横に突っ込んだ。

 絶対配送《デリバリー・ロード》

 車輪が壁に触れた瞬間、磁石に吸い寄せられるように機体が固定される。重力という概念を書き換え、垂直の壁を平坦な直線として認識した俺は、ペダルを踏み込んだ。重力に抗い、地表へと続く数千メートルの壁を、一本の青い閃光となって一気に駆け上がり始める。

「待ってろよ、ガイル……。特別料金をふんだくってやる!!」

 俺は迷宮の闇を切り裂き、最短ルートで地上へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...