16 / 72
第一章 ダンジョン・イーツ開業 編
16:どんな困難があろうとも、遅延は致しません!
しおりを挟む
目の前にそびえ立つのは、絶望を物理的な形にした氷の絶壁だった。
高さ数百メートル。表面は魔素を含んだ氷が滑らかに凍りつき、まるで巨大な鏡のように吹雪を跳ね返している。
通常の登山道具など歯が立たない。
だが、ユウキのカブは加速を止めない。
「ユウキ、壁を上るぞ! 角度が変わる瞬間の衝撃に備えろ!」
「了解です! ……私のカブは止まらないんだからぁぁ!!」
ユウキがスキル《鉄馬使い》の全魔力をクローラーへと流し込む。
直角に近い角度で壁と接した瞬間、ドォンと内臓を揺らす衝撃がマシンを襲う。だが、カブのクローラーが氷に触れた瞬間、そこには青白い火花とともに道が刻まれた。
派生スキル――不屈の轍・垂直駆動《バーチカル・ドライブ》。
重力に従って滑り落ちるはずの車体が、磁石で吸い寄せられるように氷壁に張り付く。ユウキが刻んだ轍は、後続の俺にとっても滑らない超グリップ路面となっていた。
「……っそれにしても…、ふざけた重さだ……!」
壁を登り始めた瞬間、200キロのリヤカーと、カグヤの体重が真下へと俺を引きずり込もうとする。ハンドルを握る腕の筋肉が、ミシミシと断裂寸前の悲鳴を上げた。一瞬でもペダルを緩めれば、そのまま真っ逆さまに墜落し、雪原の塵になる。
「レン、無理よ。貴方も自転車ももたないわ……!」
背中のカグヤが、俺の肩を強く掴む。彼女の目にも、流石に緊張の色が走っていた。
「……根性だぁぁ!!ルートは視えてる。止まる選択肢なんてっ、最初からないっ!!」
俺の視界には、垂直の氷壁を蛇行しながら頂上へと繋がる、一本の黄金の光が視えていた。
スキル絶対配送《デリバリー・ロード》
たとえ重力が邪魔をしようとも、物理法則が不可能だと囁こうとも、この道が最善だと告げている。
「ユウキ! 左30度、そのまま10メートル直進だ! そこに氷のクラックがある、轍を引っ掛けろ!」
「はいっ! ……見えましたぁぁ!!」
ユウキのカブが壁を這う蜘蛛のように動き、俺を引き上げるための足場を次々と刻んでいく。その時だった。
バリバリバリッ!!
氷壁の奥から、不穏な音が響く。この壁を守るガーディアン――氷の精霊たちが、侵入者を排除しようと壁そのものを崩し始めたのだ。頭上から、家一軒分はあろうかという巨大な氷塊が、牙を剥いて降り注ぐ。
「……あら、お掃除の時間かしら」
カグヤが冷ややかに微笑み、自由な方の手を壁にかざす。
「レン、あなたは前だけ見てなさい。あなたの邪魔をする物は、私が全て引き受けてあげる」
カグヤの魔力が炸裂し、降り注ぐ氷塊を空中で粉砕していく。砕け散った氷の破片がダイヤモンドダストのように舞い、月光を浴びて輝いた。その幻想的な光景の中を、俺たちは垂直に突き進む。
やがて、足の感覚が消え、意識が真っ白に染まりかけたその時――。
「……登り……きった……!」
そこは、雲の上だった。
氷壁の頂上。
眼下には荒れ狂う吹雪の雲海が広がり、頭上には手を伸ばせば届きそうなほど巨大な月が浮かんでいる。
ユウキのカブが雪煙を上げて停止し、俺も崩れ落ちるようにペダルを止めた。
「はぁ、はぁ……っ、先輩! やりました、やりましたよ!」
ユウキがヘルメットを脱ぎ捨て、上気した顔で笑う。
「……ああ。だがまだ目的を果たしていないぞ?」
俺は震える脚を叩き、前方を指差した。
そこが通称「銀嶺の円卓」。
しかし、視界の先にあったのは、安堵できる光景ではなかった。
円卓のように平坦な雪原の中央。そこには、調査隊が設営したベースキャンプが存在している。
ベースキャンプを守っている結界は、わずかに輝きを残しているが、今にも消え入りそうな儚い光だ。
そして、その結界を包囲するように、数百、いや数千のスノー・オーガの群れが、音もなくうごめいている。
「……どうやら、ただの食料不足じゃないようね」
カグヤが目を細め、腰の魔導書に手をかける。
「あの群れの中心……視える? レン」
群れの中心に座するのは、ウェンカムイすらも凌駕する威圧感を放つ、青白い肌の巨人。
秩父ダンジョンのボス、氷獄王フロスト・ギガントが、調査隊をじわじわと追い詰めていた。
「予定変更だ、ユウキ、カグヤ。隠密で行くぞ。」
俺たちは月明かりに影を潜め、飢えた軍勢が待つ戦場へと、静かに、そして速やかに滑り出した。
高さ数百メートル。表面は魔素を含んだ氷が滑らかに凍りつき、まるで巨大な鏡のように吹雪を跳ね返している。
通常の登山道具など歯が立たない。
だが、ユウキのカブは加速を止めない。
「ユウキ、壁を上るぞ! 角度が変わる瞬間の衝撃に備えろ!」
「了解です! ……私のカブは止まらないんだからぁぁ!!」
ユウキがスキル《鉄馬使い》の全魔力をクローラーへと流し込む。
直角に近い角度で壁と接した瞬間、ドォンと内臓を揺らす衝撃がマシンを襲う。だが、カブのクローラーが氷に触れた瞬間、そこには青白い火花とともに道が刻まれた。
派生スキル――不屈の轍・垂直駆動《バーチカル・ドライブ》。
重力に従って滑り落ちるはずの車体が、磁石で吸い寄せられるように氷壁に張り付く。ユウキが刻んだ轍は、後続の俺にとっても滑らない超グリップ路面となっていた。
「……っそれにしても…、ふざけた重さだ……!」
壁を登り始めた瞬間、200キロのリヤカーと、カグヤの体重が真下へと俺を引きずり込もうとする。ハンドルを握る腕の筋肉が、ミシミシと断裂寸前の悲鳴を上げた。一瞬でもペダルを緩めれば、そのまま真っ逆さまに墜落し、雪原の塵になる。
「レン、無理よ。貴方も自転車ももたないわ……!」
背中のカグヤが、俺の肩を強く掴む。彼女の目にも、流石に緊張の色が走っていた。
「……根性だぁぁ!!ルートは視えてる。止まる選択肢なんてっ、最初からないっ!!」
俺の視界には、垂直の氷壁を蛇行しながら頂上へと繋がる、一本の黄金の光が視えていた。
スキル絶対配送《デリバリー・ロード》
たとえ重力が邪魔をしようとも、物理法則が不可能だと囁こうとも、この道が最善だと告げている。
「ユウキ! 左30度、そのまま10メートル直進だ! そこに氷のクラックがある、轍を引っ掛けろ!」
「はいっ! ……見えましたぁぁ!!」
ユウキのカブが壁を這う蜘蛛のように動き、俺を引き上げるための足場を次々と刻んでいく。その時だった。
バリバリバリッ!!
氷壁の奥から、不穏な音が響く。この壁を守るガーディアン――氷の精霊たちが、侵入者を排除しようと壁そのものを崩し始めたのだ。頭上から、家一軒分はあろうかという巨大な氷塊が、牙を剥いて降り注ぐ。
「……あら、お掃除の時間かしら」
カグヤが冷ややかに微笑み、自由な方の手を壁にかざす。
「レン、あなたは前だけ見てなさい。あなたの邪魔をする物は、私が全て引き受けてあげる」
カグヤの魔力が炸裂し、降り注ぐ氷塊を空中で粉砕していく。砕け散った氷の破片がダイヤモンドダストのように舞い、月光を浴びて輝いた。その幻想的な光景の中を、俺たちは垂直に突き進む。
やがて、足の感覚が消え、意識が真っ白に染まりかけたその時――。
「……登り……きった……!」
そこは、雲の上だった。
氷壁の頂上。
眼下には荒れ狂う吹雪の雲海が広がり、頭上には手を伸ばせば届きそうなほど巨大な月が浮かんでいる。
ユウキのカブが雪煙を上げて停止し、俺も崩れ落ちるようにペダルを止めた。
「はぁ、はぁ……っ、先輩! やりました、やりましたよ!」
ユウキがヘルメットを脱ぎ捨て、上気した顔で笑う。
「……ああ。だがまだ目的を果たしていないぞ?」
俺は震える脚を叩き、前方を指差した。
そこが通称「銀嶺の円卓」。
しかし、視界の先にあったのは、安堵できる光景ではなかった。
円卓のように平坦な雪原の中央。そこには、調査隊が設営したベースキャンプが存在している。
ベースキャンプを守っている結界は、わずかに輝きを残しているが、今にも消え入りそうな儚い光だ。
そして、その結界を包囲するように、数百、いや数千のスノー・オーガの群れが、音もなくうごめいている。
「……どうやら、ただの食料不足じゃないようね」
カグヤが目を細め、腰の魔導書に手をかける。
「あの群れの中心……視える? レン」
群れの中心に座するのは、ウェンカムイすらも凌駕する威圧感を放つ、青白い肌の巨人。
秩父ダンジョンのボス、氷獄王フロスト・ギガントが、調査隊をじわじわと追い詰めていた。
「予定変更だ、ユウキ、カグヤ。隠密で行くぞ。」
俺たちは月明かりに影を潜め、飢えた軍勢が待つ戦場へと、静かに、そして速やかに滑り出した。
176
あなたにおすすめの小説
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。
古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。
頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。
「うおおおおお!!??」
慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。
基本出来上がり投稿となります!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる