ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん

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第三章 闇デリバリー編

29:闇を駆ける轍、共鳴する鼓動

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 ユウキの免停期間が明け、ハンターカブが奥多摩ダンジョンの未開拓エリアに、咆哮を轟かせ爆走していた。
 かつてのレッグシールドを取り払った無骨な鋼の馬は、泥濘を跳ね除け、岩肌を噛み砕く。
 ユウキの新スキル【ハンターズ・パス】によって、彼女が通過した直後の地面は、アスファルトのように踏み固められていく。

「ひゃっはぁぁぁ! 先輩、最高です! この道、あたしが作ったこの感触! 世界で一番あたしが速い気がしますよぉぉ!!」

「調子に乗るなユウキ、まだ配送ルートの三分の一だ!」

 俺ははデリバリーランサーままちゃりの変速機をトップに入れ、ユウキが生成したばかりの完璧な走路をトレースするように駆け抜ける。

 二人の連携は、もはや言葉を必要としない領域に達していた。ユウキが重心を傾ければ、レンはそのコンマ数秒後の揺れを読み取り、最小限の力でリアカーの挙動を制御する。

 配信画面のコメント欄は、その異次元の走りに、驚愕と称賛のコメントが弾丸のように流れ続けていた。

 だが、その熱狂を断ち切るように、レンの【絶対配送(デリバリー・ロード)】の視界が、不自然な「警告」を弾き出した。

「……ッ、ユウキ! 左に避けろ! 突っ込んでくるぞ!!」
「えっ、うわわわっ!?」

 レンの叫びと同時に、前方、巨大な岩柱の死角から黒い陰が飛び出してきた。

 それは魔導バイクのような重厚な排気音を立ててはいない。聞こえるのは、チェーンの金属的な駆動音。
 俺と同じ、自転車だった。俺のより立派だったけど。

 漆黒のフレームは、周囲のわずかな光さえも吸い込むような深い闇を纏っている。驚くべきことに、そのライダーはユウキが作り出した道路を一瞥もせず、垂直に近い洞窟の壁面へとタイヤを叩きつけた。

「壁を走ってる……!? 先輩と一緒!?」
 ユウキが驚愕の声を上げる。
 漆黒の自転車は、重力を嘲笑うかのような挙動で壁を駆け上がり、レンたちの頭上を音もなく飛び越えた。

 ――バッ、と。
 宙を舞う黒い影と、地面を爆走するレン。
 一瞬だけ、二人の視線が交差した。

 フルフェイスのヘルメット。スモークのかかったシールド越しに、わずかに見えたその瞳。

 その瞬間、レンの全身を、冷水を浴びせられたような戦慄が駆け抜けた。

「…………っ!!」

 知らない男だ。装備も、その禍々しいオーラを纏った自転車も、一度も見たことなどないはずだ。

 だが、細胞が、魂が、激しく警鐘を鳴らす。
 ――知っている。

 かつて、幼い頃に何度も背中を追いかけ、共に汗を流しながら競い合った誰かの面影が、強烈なフラッシュバックとなって脳裏に焼き付く。

「……待てッ! 止まれ!!」

 レンの叫びは、漆黒の自転車が放つ異様な魔力の唸りに掻き消された。

 ライダーはレンを一瞥することもなく着地すると、まるで物理法則を置き去りにしたかのような加速で、迷宮の深い闇の奥へと消えていった。

「な、何なんですか今の……。チャリですよね!? あたしのカブが、一瞬で煽られたんですけど……」

 ユウキが呆然とした様子で速度を落とす。しかし、レンはハンドルを握る手が震えるのを抑えられなかった。

「……分からない。だが、あいつ……」

 数年前の大氾濫で行方不明になった、たった一人の弟――天野 零《レイ》。
 生きていれば、あれ位の身長のはずだ。だが、今のライダーから感じたのは、温かな家族の面影ではなく、すべてを拒絶するような冷徹な殺気だった。

◆◆◆

 数日後。
 ルナ・コート・レジデンスの広々としたリビングで、レンはカグヤが淹れたコーヒーの香りに包まれていた。だが、その瞳はどこか遠くを見つめたままだ。
 
「レン、どうしたの? せっかくユウキが復帰して、配送効率も上がってるのに、元気がないじゃない」
 カグヤが心配そうに覗き込んでくる。

「……いや、なんでもない。ちょっと、考え事をしてただけだ」
 レンが濁した時、大型モニターのニュース番組が、衝撃的な特集を報じ始めた。

『――続いての特集です。最近、ダンジョン内において、ギルドの運送許可を得ない不審なデリバリー、通称「闇デリバリー」が急増しています』

 画面には、薄暗いダンジョン内で、隠し撮りされたような荒い隠しカメラの映像が流れた。
 そこには、ロゴが不自然に塗りつぶされたデリバリーバッグを背負い、神出鬼没に現れるライダーたちの姿があった。

『これら闇デリバリーの従事者は、SNS等で「高額報酬・短時間・身体強化補助あり」といった甘い言葉で募集されており、実態は不法投棄や禁制品の密輸を担わされていると見られています。

 これはかつて社会問題となった「闇バイト」の配送版とも言える形態であり、ギルド警察は厳戒態勢を敷いています』

「あ、あれ……ッ!?」
 レンが身を乗り出し、画面を指差した。
 資料映像の隅、一瞬だけ映り込んだ、漆黒の自転車。
 あの時、奥多摩ですれ違ったライダーと、全く同じフレームだ。

「闇デリバリー……。まさか、あいつ……あんな危険なことに……」

◆◆◆

 とある地下施設

 ハリー・エクスプレス社、地下施設の片隅。
 オイルと鉄の匂いが充満する整備ドックで、銀髪の少年が一人、漆黒の自転車のチェーンを磨いていた。

 彼の首筋には、不気味な紫色の電子チップが埋め込まれている。

「……あいつは、誰だ……」
 彼の名前はレイ、名前だけは覚えていたが、それ以外の記憶を失っていた。
 奥多摩ですれ違った、あの自転車乗りの男。
 その顔を見た瞬間、何もないはずの脳裏に、ひどく温かくて懐かしい何かが、激しいノイズのように走った。

 だが、すぐに首筋のチップが赤く点滅し、思考を暴力的に遮断する。

 レイは苦痛に顔を歪め、再び感情を消して、漆黒のフルフェイスを被った。

「次の荷物は……第45階層か。……届ける。それだけが、僕の存在理由だ」

 記憶を消され、謎の組織の「使い捨ての駒」へと堕とされた弟。

 そして、その存在を直感で察知し、奪還を誓う兄。

 ダンジョンを舞台にした、血を分けた兄弟の絶対配送バトルが、ここから加速していく。
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