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第四章 ロストアーカイブ編
44:陰謀の証拠
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鳴り響くベルの音に呼応し、街のあちこちで石化から解放された人々が立ち上がり始めていた。しかし、その感動的な光景を余所に、時計塔の最上階に到達したレンたちの顔は険しかった。
ゴルゴンが鎮座していた場所の奥、アイザックの石像が砕け散ったと思われる瓦礫の中から、レンは一つの堅牢な「特殊搬送ケース」を掘り出した。
「これだ……。アイザックさんが命を懸けて運ぼうとした荷物」
レンがケースのロックを解除すると、中には厳重に梱包された大量のアンプルと、一冊の古い研究日誌が入っていた。
「……これ、ただの薬じゃないわ」
魔導科学に精通するカグヤが、アンプルのラベルを覗き込み、顔を青ざめさせる。
「三十年前にこの街を襲った流行病……その『治療薬』よ。でも、成分表を見て。このウイルスのシリアルナンバー……これ、ハリー社のグループ企業が特許を持っている人工ウイルスだわ」
「なんだと……?」
バルトが予備の装備を整えながら、低く唸った。
日誌の内容は衝撃的だった。ハリー社の製薬部門が新薬の実験台としてこの街にウイルスを撒いたこと。アイザックはその事実を突き止め、治療薬と証拠をギルドへ届けようとして、逆にハリー社の「掃除屋」に追われ、この街に封じ込められたのだ。
「アイザックさんは、この街を救うためだけじゃなく……この真実を外へ届けるために戦っていたんだ」
その時、塔の入り口から無機質な爆発音が響いた。
シオンが即座に下階を覗き込み、鋭く告げる。
「……来客。さっきの冒険者たちじゃない。身元不明の一団……」
窓の外を見ると、街の入り口を封鎖するように全身真っ黒の装備。闇の組織、私たち悪者ですと言わんばかりの雰囲気、そもそもハリー社は、証拠隠滅するために、この調査に加わったのだろう。
「街の人たちが生き返ったのを見て、焦ってやがるな」
バルトが石化した盾を投げ捨て、レンが渡した予備の斧を構える。
「レン、そのケースは絶対に離すな。ハリー社の犯罪を証明する決定的な証拠だ。アイザックに代わって、俺たちが、それをしかるべき場所に届ける番だぜ」
レンはケースをデリバリーバッグの中にしまい、サドルに跨った。
「ああ。……今度こそハリー社には、引導を叩きつけてやる。」
三十年の封印を解かれた都市を舞台に、真実を運ぶための突破戦が始まろうとしていた。
「……レン、聞いてちょうだい。」
カグヤがレンの目を見据え、その背中を力強く押した。
「この街の人々は、まだ起きたばかりで戦えない。私たちがここに残り、街の人々を守る。その間に、あなたはこの証拠を地上へ届けて」
「でも、カグヤたちだけでこの数を相手にするのは――」
「バカ言え。俺たちは『月詠』だぜ? この程度の雑魚に遅れは取らねえよ」
バルトが予備の斧を担ぎ、不敵に笑う。
「それに、お前は運び屋だろ。……アイザックが命懸けで繋いだこの荷物、ここで腐らせていいのかよ」
シオンも無言で、俺を見つめ、頷く。
「……分かった。必ず届けてくる。……みんな、死ぬなよ!」
時計塔の最上階から、レンはママチャリと共にスロープを駆け下りた。
背後ではカグヤの氷魔法が炸裂し、追撃しようとする掃除屋たちを、次々と氷像に変えていく。
「レン、あなたも気をつけて! その荷物は、アイザックさんとこの街の、たった一つの希望よ!」
カグヤの叫びを背に受け、地上までのルートを計算する。
【完全配送(デリバリーロード)】地上までの最短ルートを示せ!
脳内に、街の立体地図が鮮やかな光の筋となって浮かび上がる。
それは、武装した「掃除屋」たちが待ち構える大通りを避け、崩れかけた外壁や屋根の上を跳躍する、常人には不可能な「道」だった。
チャリを走らせながら、伝声管で、レイと連絡を取る。
「レイ、ユウキ!!非常事態だ。敵に追われながら地上へ向かっている。援護を頼みたい!」
『分かったよ、兄さん。僕の完全配送と兄さんの完全配送をリンクさせれば、合流も容易いはずさ。』
「先輩!今すぐ向かいますからね!」
◆◆◆
「カグヤ、バルト、シオン……!」
背後で響く氷の爆砕音と、地を震わせる咆哮が次第に遠ざかっていく。
視界に浮かび上がる【完全配送】の光の道は、最短ルートとして「地上へと続く外壁沿いのキャットウォーク」を指し示している。
だが、カグヤの援護射撃が届かなくなった瞬間、待機していたハリー社の掃除屋たちが、飢えた狼のように路地裏から飛び出してきた。
「逃がすか! そのバッグごと、灰にしてやる!」
残り十五分。
路地を塞ぐ三台の魔導二輪車。レンはブレーキをかけず、逆にペダルを強く踏み込んだ。
「どけっ! 邪魔だッ!」
【完全配送】のルートは情況により変化を繰り返す、新たなるルートは、壁の亀裂を利用した垂直回廊。
レンはハンドルを急旋回させると、物理法則を無視した角度で建物の壁面を駆け上がった。背後で掃除屋たちの放った火炎弾が爆発し、熱風がレンの背中を焼く。
残り十分。
「はぁ、はぁ……っ!」
肺が焼けるような感覚。だが、止まれば終わりだ。眼下の広場では、復活したばかりの住民たちが掃除屋に狙撃されている。助けに行きたい。だが、今、俺がすべきことは「この真実を地上へ運ぶこと」だ。アイザックが三十年前に果たせなかった、たった一つの仕事を完遂するために。
その直後、シオンが狙撃兵の背後から襲い無力化する。シオンが俺に向けて拳を突き出し、再び闇に消える。
俺は、再び力強くペダルを踏み抜く。
掃除屋のリーダーらしき男が、高所からレンを狙っている。
「無駄だ。この街は我々ハリー社の実験場。ゴミ(証拠)は全て処分する!」
放たれた複数の誘導雷撃。逃げ場はない――かに見えた。
「……甘いな。俺の道は、あんたたちの想像の先にあるんだ!」
レンは看板を足場に、さらに上の階層へ跳躍した。空中で【完全配送】が示す「風の通り道」を捉え、向かい風を推進力に変えて、隣の塔へ大きく飛び移る。
残り五分。
極限まで研ぎ澄まされた感覚の中で、伝声管からノイズ混じりの声が聞こえた。
『兄さん……あと少し! 僕たちの完全配送がリンクした! 合流地点まで、あと三百メートル!』
しかし、その合流地点である大橋の前には、巨大な魔導障壁が展開されていた。ハリー社が隠し持っていた、都市封鎖用の兵器だ。
「ハハハ! ここまでだ、運び屋! その壁はどんな魔法でも貫けん!」
行く手を阻む巨大な光の壁。背後からは無数の掃除屋たちが迫る。
レンは時計を睨んだ。残り二分。
「……貫けないなら、飛び越えるまでだ」
レンは全魔力を脚に集中させた。ペダルが軋み、チェーンが火花を散らす。
「ユウキ、レイ! 準備はいいか! 予定より一分早く、そこへ突っ込むぞ!!」
レンは真っ直ぐに障壁を見据えた。
【完全配送】のラインが、障壁の接合部――わずか数センチの隙間を指し示す。
加速。加速。さらに加速を続ける。
ゴルゴンが鎮座していた場所の奥、アイザックの石像が砕け散ったと思われる瓦礫の中から、レンは一つの堅牢な「特殊搬送ケース」を掘り出した。
「これだ……。アイザックさんが命を懸けて運ぼうとした荷物」
レンがケースのロックを解除すると、中には厳重に梱包された大量のアンプルと、一冊の古い研究日誌が入っていた。
「……これ、ただの薬じゃないわ」
魔導科学に精通するカグヤが、アンプルのラベルを覗き込み、顔を青ざめさせる。
「三十年前にこの街を襲った流行病……その『治療薬』よ。でも、成分表を見て。このウイルスのシリアルナンバー……これ、ハリー社のグループ企業が特許を持っている人工ウイルスだわ」
「なんだと……?」
バルトが予備の装備を整えながら、低く唸った。
日誌の内容は衝撃的だった。ハリー社の製薬部門が新薬の実験台としてこの街にウイルスを撒いたこと。アイザックはその事実を突き止め、治療薬と証拠をギルドへ届けようとして、逆にハリー社の「掃除屋」に追われ、この街に封じ込められたのだ。
「アイザックさんは、この街を救うためだけじゃなく……この真実を外へ届けるために戦っていたんだ」
その時、塔の入り口から無機質な爆発音が響いた。
シオンが即座に下階を覗き込み、鋭く告げる。
「……来客。さっきの冒険者たちじゃない。身元不明の一団……」
窓の外を見ると、街の入り口を封鎖するように全身真っ黒の装備。闇の組織、私たち悪者ですと言わんばかりの雰囲気、そもそもハリー社は、証拠隠滅するために、この調査に加わったのだろう。
「街の人たちが生き返ったのを見て、焦ってやがるな」
バルトが石化した盾を投げ捨て、レンが渡した予備の斧を構える。
「レン、そのケースは絶対に離すな。ハリー社の犯罪を証明する決定的な証拠だ。アイザックに代わって、俺たちが、それをしかるべき場所に届ける番だぜ」
レンはケースをデリバリーバッグの中にしまい、サドルに跨った。
「ああ。……今度こそハリー社には、引導を叩きつけてやる。」
三十年の封印を解かれた都市を舞台に、真実を運ぶための突破戦が始まろうとしていた。
「……レン、聞いてちょうだい。」
カグヤがレンの目を見据え、その背中を力強く押した。
「この街の人々は、まだ起きたばかりで戦えない。私たちがここに残り、街の人々を守る。その間に、あなたはこの証拠を地上へ届けて」
「でも、カグヤたちだけでこの数を相手にするのは――」
「バカ言え。俺たちは『月詠』だぜ? この程度の雑魚に遅れは取らねえよ」
バルトが予備の斧を担ぎ、不敵に笑う。
「それに、お前は運び屋だろ。……アイザックが命懸けで繋いだこの荷物、ここで腐らせていいのかよ」
シオンも無言で、俺を見つめ、頷く。
「……分かった。必ず届けてくる。……みんな、死ぬなよ!」
時計塔の最上階から、レンはママチャリと共にスロープを駆け下りた。
背後ではカグヤの氷魔法が炸裂し、追撃しようとする掃除屋たちを、次々と氷像に変えていく。
「レン、あなたも気をつけて! その荷物は、アイザックさんとこの街の、たった一つの希望よ!」
カグヤの叫びを背に受け、地上までのルートを計算する。
【完全配送(デリバリーロード)】地上までの最短ルートを示せ!
脳内に、街の立体地図が鮮やかな光の筋となって浮かび上がる。
それは、武装した「掃除屋」たちが待ち構える大通りを避け、崩れかけた外壁や屋根の上を跳躍する、常人には不可能な「道」だった。
チャリを走らせながら、伝声管で、レイと連絡を取る。
「レイ、ユウキ!!非常事態だ。敵に追われながら地上へ向かっている。援護を頼みたい!」
『分かったよ、兄さん。僕の完全配送と兄さんの完全配送をリンクさせれば、合流も容易いはずさ。』
「先輩!今すぐ向かいますからね!」
◆◆◆
「カグヤ、バルト、シオン……!」
背後で響く氷の爆砕音と、地を震わせる咆哮が次第に遠ざかっていく。
視界に浮かび上がる【完全配送】の光の道は、最短ルートとして「地上へと続く外壁沿いのキャットウォーク」を指し示している。
だが、カグヤの援護射撃が届かなくなった瞬間、待機していたハリー社の掃除屋たちが、飢えた狼のように路地裏から飛び出してきた。
「逃がすか! そのバッグごと、灰にしてやる!」
残り十五分。
路地を塞ぐ三台の魔導二輪車。レンはブレーキをかけず、逆にペダルを強く踏み込んだ。
「どけっ! 邪魔だッ!」
【完全配送】のルートは情況により変化を繰り返す、新たなるルートは、壁の亀裂を利用した垂直回廊。
レンはハンドルを急旋回させると、物理法則を無視した角度で建物の壁面を駆け上がった。背後で掃除屋たちの放った火炎弾が爆発し、熱風がレンの背中を焼く。
残り十分。
「はぁ、はぁ……っ!」
肺が焼けるような感覚。だが、止まれば終わりだ。眼下の広場では、復活したばかりの住民たちが掃除屋に狙撃されている。助けに行きたい。だが、今、俺がすべきことは「この真実を地上へ運ぶこと」だ。アイザックが三十年前に果たせなかった、たった一つの仕事を完遂するために。
その直後、シオンが狙撃兵の背後から襲い無力化する。シオンが俺に向けて拳を突き出し、再び闇に消える。
俺は、再び力強くペダルを踏み抜く。
掃除屋のリーダーらしき男が、高所からレンを狙っている。
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レンは看板を足場に、さらに上の階層へ跳躍した。空中で【完全配送】が示す「風の通り道」を捉え、向かい風を推進力に変えて、隣の塔へ大きく飛び移る。
残り五分。
極限まで研ぎ澄まされた感覚の中で、伝声管からノイズ混じりの声が聞こえた。
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しかし、その合流地点である大橋の前には、巨大な魔導障壁が展開されていた。ハリー社が隠し持っていた、都市封鎖用の兵器だ。
「ハハハ! ここまでだ、運び屋! その壁はどんな魔法でも貫けん!」
行く手を阻む巨大な光の壁。背後からは無数の掃除屋たちが迫る。
レンは時計を睨んだ。残り二分。
「……貫けないなら、飛び越えるまでだ」
レンは全魔力を脚に集中させた。ペダルが軋み、チェーンが火花を散らす。
「ユウキ、レイ! 準備はいいか! 予定より一分早く、そこへ突っ込むぞ!!」
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