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第五章 癖のある新人社員 編
48:推定数億円のクルーザーですが、実は人力で動かしています。
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◆伊豆半島沖
本来なら観光船が行き交う穏やかな海域は、今や一触即発の緊張感に包まれていた。
海面上には、海上保安庁の大型巡視船をはじめとする数多くの船艇が包囲網を敷き、その中心部ではJAMSTEC(海洋研究開発機構)の母船が立ち往生していた。
「……ダメです。深度100メートルから300メートルの層に、巨大な『魔力磁場の渦』が定着しています。
探査機を投入しても、その層を通過する瞬間にすべての電子機器がダウンします!」
「深海三千メートルの沈没地点は落ち着いているというのに、入り口がこれでは手も足も出ん……!」
日本の英知を結集した救助作戦は、海面直下に居座る「磁場の嵐」という門番の前に、完全に封じられていた。
そんな絶望的な空気の中、海保のレーダーが「異常な速度で接近する未確認物体」を捉えた。
「報告! 後方より高速で接近する機影あり! 速度……50ノットを超えています!」
「何だと? この海域にその速度で突っ込んでくるバカがどこにいる!」
指令官が双眼鏡を覗き込んだ先――。 波を切り裂き、白い航跡を派手にぶちまけながら爆走してくる「何か」が見えた。
波を切り裂き、白い航跡を派手にぶちまけながら爆走してくるのは、全長三十メートルはあろうかという、クルーザーだった。
「なっ……なんだあの船は! 民間のクルーザーか?」
「いえ、よく見てください! 船体に『DUNGEON EATS』のロゴが!」
巡視船の横をすり抜ける瞬間、海保の職員たちは、その豪華な船室の窓越しに信じられない光景を目撃した。
クルーザーの外見に反して、内装は非常にシンプルで、船内の様子は常軌を逸していた。
中央に鎮座するのは……一台のスーパーカブ。
スーパーカブの後輪は、シャシーダイナモに設置され、その両脇では固定式自転車を、鬼の形相でペダルを回している姿が見えた。
「報告! 未確認クルーザー、磁場層に突入! 電磁波の影響を受けていません! あの船……エンジンはカブ、あとは人力です!!」
「……カブだと!? バカな、あの巨体をカブと自転車で動かしているというのか!?」
驚愕する巡視船の面々を尻目に、漆黒のクルーザーは「チリンチリン!」というベルの音と「ドタタタタ!」という排気音を響かせ、バリバリと火花を散らす磁場の渦へと突き進んでいった。
◆◆◆
船内の操舵席は、デカールのハリボテ装飾だった。そして浮遊する「浮遊魔眼」が数台、この異常な光景を全世界へ垂れ流していた。
現在の同時接続者数は、救助作戦への注目度も相まって、すでに五百万人を突破。画面を埋め尽くすコメントは、もはや「困惑」を通り越して「狂熱」に近い。
『待て待て待て、あの船、エンジンはカブなのか!?』
『最新鋭の魔導回路が故障する海域で、なんで動けるんだと思ったら……人力かよ!』
『このピンクの忍者の衣装⋯⋯ドンキでみたぞ?!』
『【悲報】日本の最新技術、スーパーカブとママチャリの脚力に敗北』
アリスは、流れるコメントを見て笑う。
「ニンニン! コメント欄の民どもも驚きを隠せないようでござるな! お館様、これぞお館様日本統一の始まりでござるよ!」
「……笑ってる余裕があるなら、アリスもこっちに来て漕げ! 潮の流れが強くなってきたぞ!あと日本統一は狙ってない⋯⋯」
「拙者は舵取りで忙しいのでござる! ほらユウキ殿、もっとスロットルを回すのでござる!」
「回してますよぉぉ! 脳みそまでガソリンの匂いがしてきましたぁぁ!!」
ドタタタタタッ! と派手な排気音を響かせ、ハリボテ豪華クルーザーが、磁場の火花を物理的に弾き飛ばしながら、深海への入り口へと突き進んでいく。
「……なぁアリス。今更だけど、この船のエンジンルーム、何も入ってないんだけど……これ、どういうことだ?」
出航直前、船内を確認したレンが呆然と呟いた。
アリスが忍術《スキル》によりスケールアップさせた豪華なクルーザー。
外見は誰もが振り返る漆黒の超豪華クルーザーだが、その心臓部であるはずのエンジンルームには、精密な機械の代わりに巨大な空間が広がっていた。
「ニンニン! お館様、それはあちきの忍術『魂魄具現』の仕様でござる! 拙者の技術で再現できなかった内部構造は、実体化した際、ばっさりとカットされるのでござるよ!」
アリスの変なしゃべり方は治らなかった。更に言えば日に日に様々な要素が絡み合い、何言ってるか分からない時がある。
アリスのプラモデルは外装を組むのは得意だったが、目に見えない複雑なエンジンや電装系のパーツは「よく分からんでござる!」と適当に接着したり、そもそもパーツを余らせたりしていたのだ。
その結果、実体化したクルーザーは、見た目は最高級だが、中身は巨大なプラスチックの箱という、極めて純粋でアナログな構造体として誕生してしまった。
「最新鋭の魔導エンジンが載ってれば、磁場に焼かれて爆発してたところでござる! でもこの船には、焼かれるエンジンそのものが存在しない!
怪我の功名、これが運がいい、もってるってやつでござるか?」
「……運がいいのか悪いのか分からねぇな。つまり、中身が空っぽだから、俺たちが物理的にスクリューを回すしかないってことか⋯⋯」
「左様! 幸い、ユウキ殿のカブはプラモではなく本物。これだけがこの船で唯一動く機械でござるが、ユウキ殿の魔力とカブ自身のシンプルな構造のおかげで、磁場のノイズを無視して動くことができます!」
最新鋭の探査機は、その精密な魔導回路が、磁場の嵐に翻弄され自壊していった。
「つまりアリスの作りが甘い動力のないプラモ艦と、ユウキのシンプル設計のスーパーカブとシンプルな脳を保つユウキ、そして俺たちの物理的な脚力の組み合わせは、今回の依頼には最適だったわけだな。」
「あれ?!私なんかサラッとバカにされた気がしますっ!!」
ユウキが頬を膨らませながらアクセルを捻ると、中身がスカスカの豪華な船体が、カブの振動をダイレクトに受けて爆走を始めた。
本来なら観光船が行き交う穏やかな海域は、今や一触即発の緊張感に包まれていた。
海面上には、海上保安庁の大型巡視船をはじめとする数多くの船艇が包囲網を敷き、その中心部ではJAMSTEC(海洋研究開発機構)の母船が立ち往生していた。
「……ダメです。深度100メートルから300メートルの層に、巨大な『魔力磁場の渦』が定着しています。
探査機を投入しても、その層を通過する瞬間にすべての電子機器がダウンします!」
「深海三千メートルの沈没地点は落ち着いているというのに、入り口がこれでは手も足も出ん……!」
日本の英知を結集した救助作戦は、海面直下に居座る「磁場の嵐」という門番の前に、完全に封じられていた。
そんな絶望的な空気の中、海保のレーダーが「異常な速度で接近する未確認物体」を捉えた。
「報告! 後方より高速で接近する機影あり! 速度……50ノットを超えています!」
「何だと? この海域にその速度で突っ込んでくるバカがどこにいる!」
指令官が双眼鏡を覗き込んだ先――。 波を切り裂き、白い航跡を派手にぶちまけながら爆走してくる「何か」が見えた。
波を切り裂き、白い航跡を派手にぶちまけながら爆走してくるのは、全長三十メートルはあろうかという、クルーザーだった。
「なっ……なんだあの船は! 民間のクルーザーか?」
「いえ、よく見てください! 船体に『DUNGEON EATS』のロゴが!」
巡視船の横をすり抜ける瞬間、海保の職員たちは、その豪華な船室の窓越しに信じられない光景を目撃した。
クルーザーの外見に反して、内装は非常にシンプルで、船内の様子は常軌を逸していた。
中央に鎮座するのは……一台のスーパーカブ。
スーパーカブの後輪は、シャシーダイナモに設置され、その両脇では固定式自転車を、鬼の形相でペダルを回している姿が見えた。
「報告! 未確認クルーザー、磁場層に突入! 電磁波の影響を受けていません! あの船……エンジンはカブ、あとは人力です!!」
「……カブだと!? バカな、あの巨体をカブと自転車で動かしているというのか!?」
驚愕する巡視船の面々を尻目に、漆黒のクルーザーは「チリンチリン!」というベルの音と「ドタタタタ!」という排気音を響かせ、バリバリと火花を散らす磁場の渦へと突き進んでいった。
◆◆◆
船内の操舵席は、デカールのハリボテ装飾だった。そして浮遊する「浮遊魔眼」が数台、この異常な光景を全世界へ垂れ流していた。
現在の同時接続者数は、救助作戦への注目度も相まって、すでに五百万人を突破。画面を埋め尽くすコメントは、もはや「困惑」を通り越して「狂熱」に近い。
『待て待て待て、あの船、エンジンはカブなのか!?』
『最新鋭の魔導回路が故障する海域で、なんで動けるんだと思ったら……人力かよ!』
『このピンクの忍者の衣装⋯⋯ドンキでみたぞ?!』
『【悲報】日本の最新技術、スーパーカブとママチャリの脚力に敗北』
アリスは、流れるコメントを見て笑う。
「ニンニン! コメント欄の民どもも驚きを隠せないようでござるな! お館様、これぞお館様日本統一の始まりでござるよ!」
「……笑ってる余裕があるなら、アリスもこっちに来て漕げ! 潮の流れが強くなってきたぞ!あと日本統一は狙ってない⋯⋯」
「拙者は舵取りで忙しいのでござる! ほらユウキ殿、もっとスロットルを回すのでござる!」
「回してますよぉぉ! 脳みそまでガソリンの匂いがしてきましたぁぁ!!」
ドタタタタタッ! と派手な排気音を響かせ、ハリボテ豪華クルーザーが、磁場の火花を物理的に弾き飛ばしながら、深海への入り口へと突き進んでいく。
「……なぁアリス。今更だけど、この船のエンジンルーム、何も入ってないんだけど……これ、どういうことだ?」
出航直前、船内を確認したレンが呆然と呟いた。
アリスが忍術《スキル》によりスケールアップさせた豪華なクルーザー。
外見は誰もが振り返る漆黒の超豪華クルーザーだが、その心臓部であるはずのエンジンルームには、精密な機械の代わりに巨大な空間が広がっていた。
「ニンニン! お館様、それはあちきの忍術『魂魄具現』の仕様でござる! 拙者の技術で再現できなかった内部構造は、実体化した際、ばっさりとカットされるのでござるよ!」
アリスの変なしゃべり方は治らなかった。更に言えば日に日に様々な要素が絡み合い、何言ってるか分からない時がある。
アリスのプラモデルは外装を組むのは得意だったが、目に見えない複雑なエンジンや電装系のパーツは「よく分からんでござる!」と適当に接着したり、そもそもパーツを余らせたりしていたのだ。
その結果、実体化したクルーザーは、見た目は最高級だが、中身は巨大なプラスチックの箱という、極めて純粋でアナログな構造体として誕生してしまった。
「最新鋭の魔導エンジンが載ってれば、磁場に焼かれて爆発してたところでござる! でもこの船には、焼かれるエンジンそのものが存在しない!
怪我の功名、これが運がいい、もってるってやつでござるか?」
「……運がいいのか悪いのか分からねぇな。つまり、中身が空っぽだから、俺たちが物理的にスクリューを回すしかないってことか⋯⋯」
「左様! 幸い、ユウキ殿のカブはプラモではなく本物。これだけがこの船で唯一動く機械でござるが、ユウキ殿の魔力とカブ自身のシンプルな構造のおかげで、磁場のノイズを無視して動くことができます!」
最新鋭の探査機は、その精密な魔導回路が、磁場の嵐に翻弄され自壊していった。
「つまりアリスの作りが甘い動力のないプラモ艦と、ユウキのシンプル設計のスーパーカブとシンプルな脳を保つユウキ、そして俺たちの物理的な脚力の組み合わせは、今回の依頼には最適だったわけだな。」
「あれ?!私なんかサラッとバカにされた気がしますっ!!」
ユウキが頬を膨らませながらアクセルを捻ると、中身がスカスカの豪華な船体が、カブの振動をダイレクトに受けて爆走を始めた。
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