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第五章 癖のある新人社員 編
54:ダンジョンイーツの頭文字はD
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伊豆の海面に突き出した巨大な石畳。天を衝く光の柱を見上げながら、俺たちは撤収作業を終えた。
ゲートの管理と内部調査はダンジョン協会が引き継ぐことになったが、俺たちにはまだ片付けるべき身内の問題が残っている。
「ウェェェ……! お館様、そんな冷たい目で見ないでくだされぇ!」
石畳の上で正座させられ、スカーフを涙で濡らしているのは、アリスだ。
「アリス、お前の今回の行動は度を越している。無断での職場放棄、配送車両の放置……どれも配送員としては失格だ。今日から3ヶ月間、お前を『試用期間』に戻す」
クルーザーを放置してバナナボートで遊んでいたのを問題視したわけだ。
俺は淡々と、しかし厳しく告げた。
「この期間中に一度でも問題を起こせば、即刻クビだ。ダンジョンイーツから出て行ってもらう。いいな?」
「そ、そんなぁ……! 拙者、心を入れ替えて働くでござる!」
俺は泣きつくアリスを放置し、銀座にある自宅兼事務所へと戻った。
◆
銀座の一等地に聳え立つ高級マンション『ルナコートレジデンス』。カグヤが所有するこのマンションの最高層に近い一室が、現在『ダンジョンイーツ』の仮事務所となっている。
大理石の床に高級なソファ。しかし、その上には所狭しと端末が並び、配送伝票が積み上がっている。
「よし、溜まってる分を捌くぞ。ユウキ、お前は西側のエリアを頼む」
「了解です、先輩! お任せください!」
ユウキはダッシュでガレージへと向かった。ガレージは、マンションの地下にある。
事務デスクで端末を叩いていたレイが、溜息をつく。
「そろそろ事務所兼自宅ってのも終わりにしたいな」
「そうだな……。通勤時間がないのは良いんだがなぁ」
レイとそんな話をしていた、その時だった。
ズンズンと響く激しいユーロビートの重低音が、階下の路上から微かに、しかし確実に響いてきた。
「何、この音……? 暴走族か?」
レイがバルコニーから下を覗き込んだ瞬間、角の路地から青い軽トラが、タイヤから白煙を上げ、鮮やかなドリフトを決めながらマンションの車寄せに滑り込んできた。
ギャギャギャギャギャッ!!
「ドリフト……!? 軽トラが、ルナコートの車寄せにドリフトで駐車した!」
スバル・サンバー。リアエンジン特有のトラクションを活かし、吸い付くように停まったその車からは、依然として大音量のユーロビートが漏れ出している。
暫くして、ようやく音楽が止まり、車内から眠そうな目をした青年が降りてきた。
インターホンが鳴り、コンシェルジュが困惑した声で「藤瀬様とおっしゃる方が、面接に……」と告げてくる。
数分後。リビングに現れたのは、先ほど見事なドリフトを決めた、ぼんやりとした風貌の青年だった。
「……あの、従業員募集をネットで見て……まだ、やってますか……?募集。」
青年は、手にした履歴書を差し出しながら、無表情に言った。
「藤瀬……拓実です。……レースタイムを削るのには、自信があります」
俺とレイは顔を見合わせた。
銀座の高級マンションに、軽トラで乗り付けてきたこの男。どうやら、普通のドライバーではなさそうだ。
俺とレイが履歴書を確認する間も、彼は視線を泳がせ、所在なさげに窓の外の首都高を眺めている。面接に臨む態度はゼロ点だな。
「……兄さん、本当に大丈夫? 喋るのもやっとって感じだけど……」
レイが不安げに耳打ちしてくる。確かに、アリスやユウキとは別のベクトルで不安なタイプだ。
「……とりあえず、腕を見せてもらう。ちょうど『いろは坂ダンジョン』で急ぎの配送が入った。レイ、お前が横に乗って運転の様子を確認してくれ」
「えっ、僕が!? ……わかったよ」
拓実の乗ってきた軽トラを確認する。青いスバル・サンバーのパネルバンだ。
拓実が運転席に座り、キーを回した瞬間――。
ドッドッドッドッ……!
背後から響くリアエンジンの振動。そして、大音量のユーロビートが狭い車内に爆発した。
拓実がハンドルを握り、シフトノブに手をかけたその瞬間、彼の焦点の合わなかった目に鋭い光が宿る。
「……なるほど。サンバーのパネルバンか。リアエンジンのトラクションを活かすには絶好のコンディションだ。……あのアウトサイドからまくり上げるライン、あいつなら確実に狙ってくるぜ」
「えっ? ……藤瀬さん、今なんて?」
助手席でシートベルトを締めるレイが戸惑うが、拓実の耳には届いていない。
「……行くぞ。今のサンバーの排気音を聞いたか? スーパーチャージャーの過給圧は完璧だ。……あいつが本気を出せば、いろは坂ダンジョンまで10分を切るのも夢じゃねえ……!」
キュァァァァァァッ!!
高級マンションの車寄せで軽トラがスキール音を響かせて真横を向く。
拓実は、流暢に、そして情熱的に「自分自身の走り」を解説しながら、アクセルを踏み込んだ。
「……見ろよ! あのステアリングワーク! フロント荷重をわずかに残しながら、リアの滑りを最小限に抑えてやがる……! 荷台の荷物は、今自分の置かれている状況にすら気づいてないだろうぜ!!」
「わああああ! 藤瀬さん!? 誰と喋ってるの!? 怖い! 運転も喋りも怖いよ!!」
絶叫するレイを乗せ、青い閃光が銀座の街へと解き放たれた。
◆
指定された店で、レイは指示された通りに配送物の「桶に入ったおぼろ豆腐」をサンバーのパネルバンへと積み込んだ。少しの振動で形が崩れる、配送員泣かせの難物だ。
「……積み込み完了。でも藤瀬さん、本当に大丈夫? この豆腐、すごく柔らかいんだ」
「大丈夫です。さぁ……ゲートまで向かいましょう」
◆
拓実とレイの乗る軽トラの後を追い、俺はママチャリを走らせる。
最初どうなるかと思ったが、街中でのあいつの運転は、速度超過もせず、信号も守る、ユウキよりも安全運転かもしれない。
◆
程なくして、俺たちはいろは坂ダンジョンのゲート前に到着した。
「……レンさんも、飲みますか? ……こいつの走りなら、炭酸の泡すら弾けませんよ」
拓実はボソボソとそう言うと、持参していた1.5リットルのサイダーを、ドリンクホルダーに置いた透明なプラスチックコップに七分目まで注いだ。
「えっ、ちょ、注ぎすぎだよ! 動いたらすぐこぼれちゃう――」
レンは、注がれたサイダー俺に渡してくる。
この一連の流れ……何かの漫画で見た覚えがあるが……何だったかな。
「よし、……俺はチャリで先行する」
俺はママチャリのペダルに脚を乗せ、勢いよく発進した。
拓実落ち着いた表情で、ドリンクホルダーに置かれたサイダー入りのカップを一瞥し、軽トラの鍵を捻る。
ドッドッドッ……!
軽トラのエキゾーストが咆哮をあげる。
「……ゲートオープン。ここから先はダンジョンだ。……見な、スーパーチャージャーの過給圧が最高潮に達してやがる。俺がクラッチを繋いだ瞬間、コースレコードが誕生するぜ……!」
ギャギャギャギャッ!!
サンバーがロケットのような加速でゲートを潜り抜けた。走り屋たちが集まる舗装された峠道のいろは坂ダンジョン。
拓実はブレーキを踏むどころか、さらにアクセルを床まで踏み込む。
キンコン……、キンコン……!
「出たぁ! 速度警告音だ! あいつのサンバーにとっては、ただのリズムセクションに過ぎねえ! そしてーー! 慣性ドリフトだ!! あの速度域でパネルバンを横に向けてるのに、ロールが一切ねえ! あいつの右足は、神様にでも雇われてんのか!?」
「ひ、ひぃぃぃ!! ぶつかるぅぅ! どこを向いてるのぉーー!
あと誰に向けて話してるのぉぉぉ~」
レイが悲鳴を上げ、思わず目を瞑る。だが、車体は恐ろしいほど滑らかに、かつ超高速で峠のカーブを駆け抜けていく。
レイが恐る恐る目を開けると、そこには驚愕の光景があった。
激しい遠心力がかかっているはずの車内で、ドリンクホルダーに置かれたコップのサイダーが、表面をわずかに揺らすだけで一滴もこぼれていないのだ。
「……信じられない。サイダーが……こぼれてない!? それどころか、炭酸の泡も静かだ……! こんなことが?!」
キンコン……キンコン……
「……見ろよ。あのサンバーの荷室のおぼろ豆腐も自分が走ってることに気づいてねえだろうぜ。
……路面のギャップを吸収し、衝撃を旋回力に変換してやがる。……あいつ、化け物かよ!」
拓実が熱狂的に「自分の走り」を実況する中、バックミラー越しに猛烈な勢いで迫る影があった。
「……なんだ!? 背後から異常なプレッシャーを感じる。……あの駆動音、エンジンじゃねえ。……まさか、チャリだと!? あのママチャリ、サンバーのドリフトに食らいついてやがる……!」
「あなたが働こうとしている会社の社長だよっ!!」
「……あのライダー、ただの人間じゃねえ。……あいつこそが、このいろは坂ダンジョンの真の怪物か……!」
「上司になる人に、あいつ呼びはだめだよっ!!」
拓実の実況とレイの叫びが響く中、レンはママチャリのギヤを上げ、時速120キロを超えるサンバーと並走しながら涼しい顔で指示を出す。
「藤瀬、次の分岐を右だ。最短ルートで行け」
「……了解。あいつ、さらにタイムを削る気だぜ……!」
レイは意識を失っていた。
やがて、わずか数分で迷宮内の目的地へ到着した。
拓実がエンジンを切ると、車内は再び静寂に包まれ、彼は元の眠そうな目をした青年に戻った。レイは真っ青な顔で、こぼれていないサイダーを一口飲んだ。
「……着きました。……豆腐、見てください」
レイが荷室を開けると、そこには積み込んだ時と寸分違わぬ姿で、プルプルと静かに鎮座するおぼろ豆腐があった。
「……素晴らしい……合格だ、藤瀬 拓実。今日からお前もダンジョンイーツの仲間だ」
「……はい。……サンバーが、もっとタイム、削れるって言ってます……」
「僕、もう彼の隣には座りたくないよ……」
ダンジョンイーツに、癖のある従業員がまた一人、入社した。
ゲートの管理と内部調査はダンジョン協会が引き継ぐことになったが、俺たちにはまだ片付けるべき身内の問題が残っている。
「ウェェェ……! お館様、そんな冷たい目で見ないでくだされぇ!」
石畳の上で正座させられ、スカーフを涙で濡らしているのは、アリスだ。
「アリス、お前の今回の行動は度を越している。無断での職場放棄、配送車両の放置……どれも配送員としては失格だ。今日から3ヶ月間、お前を『試用期間』に戻す」
クルーザーを放置してバナナボートで遊んでいたのを問題視したわけだ。
俺は淡々と、しかし厳しく告げた。
「この期間中に一度でも問題を起こせば、即刻クビだ。ダンジョンイーツから出て行ってもらう。いいな?」
「そ、そんなぁ……! 拙者、心を入れ替えて働くでござる!」
俺は泣きつくアリスを放置し、銀座にある自宅兼事務所へと戻った。
◆
銀座の一等地に聳え立つ高級マンション『ルナコートレジデンス』。カグヤが所有するこのマンションの最高層に近い一室が、現在『ダンジョンイーツ』の仮事務所となっている。
大理石の床に高級なソファ。しかし、その上には所狭しと端末が並び、配送伝票が積み上がっている。
「よし、溜まってる分を捌くぞ。ユウキ、お前は西側のエリアを頼む」
「了解です、先輩! お任せください!」
ユウキはダッシュでガレージへと向かった。ガレージは、マンションの地下にある。
事務デスクで端末を叩いていたレイが、溜息をつく。
「そろそろ事務所兼自宅ってのも終わりにしたいな」
「そうだな……。通勤時間がないのは良いんだがなぁ」
レイとそんな話をしていた、その時だった。
ズンズンと響く激しいユーロビートの重低音が、階下の路上から微かに、しかし確実に響いてきた。
「何、この音……? 暴走族か?」
レイがバルコニーから下を覗き込んだ瞬間、角の路地から青い軽トラが、タイヤから白煙を上げ、鮮やかなドリフトを決めながらマンションの車寄せに滑り込んできた。
ギャギャギャギャギャッ!!
「ドリフト……!? 軽トラが、ルナコートの車寄せにドリフトで駐車した!」
スバル・サンバー。リアエンジン特有のトラクションを活かし、吸い付くように停まったその車からは、依然として大音量のユーロビートが漏れ出している。
暫くして、ようやく音楽が止まり、車内から眠そうな目をした青年が降りてきた。
インターホンが鳴り、コンシェルジュが困惑した声で「藤瀬様とおっしゃる方が、面接に……」と告げてくる。
数分後。リビングに現れたのは、先ほど見事なドリフトを決めた、ぼんやりとした風貌の青年だった。
「……あの、従業員募集をネットで見て……まだ、やってますか……?募集。」
青年は、手にした履歴書を差し出しながら、無表情に言った。
「藤瀬……拓実です。……レースタイムを削るのには、自信があります」
俺とレイは顔を見合わせた。
銀座の高級マンションに、軽トラで乗り付けてきたこの男。どうやら、普通のドライバーではなさそうだ。
俺とレイが履歴書を確認する間も、彼は視線を泳がせ、所在なさげに窓の外の首都高を眺めている。面接に臨む態度はゼロ点だな。
「……兄さん、本当に大丈夫? 喋るのもやっとって感じだけど……」
レイが不安げに耳打ちしてくる。確かに、アリスやユウキとは別のベクトルで不安なタイプだ。
「……とりあえず、腕を見せてもらう。ちょうど『いろは坂ダンジョン』で急ぎの配送が入った。レイ、お前が横に乗って運転の様子を確認してくれ」
「えっ、僕が!? ……わかったよ」
拓実の乗ってきた軽トラを確認する。青いスバル・サンバーのパネルバンだ。
拓実が運転席に座り、キーを回した瞬間――。
ドッドッドッドッ……!
背後から響くリアエンジンの振動。そして、大音量のユーロビートが狭い車内に爆発した。
拓実がハンドルを握り、シフトノブに手をかけたその瞬間、彼の焦点の合わなかった目に鋭い光が宿る。
「……なるほど。サンバーのパネルバンか。リアエンジンのトラクションを活かすには絶好のコンディションだ。……あのアウトサイドからまくり上げるライン、あいつなら確実に狙ってくるぜ」
「えっ? ……藤瀬さん、今なんて?」
助手席でシートベルトを締めるレイが戸惑うが、拓実の耳には届いていない。
「……行くぞ。今のサンバーの排気音を聞いたか? スーパーチャージャーの過給圧は完璧だ。……あいつが本気を出せば、いろは坂ダンジョンまで10分を切るのも夢じゃねえ……!」
キュァァァァァァッ!!
高級マンションの車寄せで軽トラがスキール音を響かせて真横を向く。
拓実は、流暢に、そして情熱的に「自分自身の走り」を解説しながら、アクセルを踏み込んだ。
「……見ろよ! あのステアリングワーク! フロント荷重をわずかに残しながら、リアの滑りを最小限に抑えてやがる……! 荷台の荷物は、今自分の置かれている状況にすら気づいてないだろうぜ!!」
「わああああ! 藤瀬さん!? 誰と喋ってるの!? 怖い! 運転も喋りも怖いよ!!」
絶叫するレイを乗せ、青い閃光が銀座の街へと解き放たれた。
◆
指定された店で、レイは指示された通りに配送物の「桶に入ったおぼろ豆腐」をサンバーのパネルバンへと積み込んだ。少しの振動で形が崩れる、配送員泣かせの難物だ。
「……積み込み完了。でも藤瀬さん、本当に大丈夫? この豆腐、すごく柔らかいんだ」
「大丈夫です。さぁ……ゲートまで向かいましょう」
◆
拓実とレイの乗る軽トラの後を追い、俺はママチャリを走らせる。
最初どうなるかと思ったが、街中でのあいつの運転は、速度超過もせず、信号も守る、ユウキよりも安全運転かもしれない。
◆
程なくして、俺たちはいろは坂ダンジョンのゲート前に到着した。
「……レンさんも、飲みますか? ……こいつの走りなら、炭酸の泡すら弾けませんよ」
拓実はボソボソとそう言うと、持参していた1.5リットルのサイダーを、ドリンクホルダーに置いた透明なプラスチックコップに七分目まで注いだ。
「えっ、ちょ、注ぎすぎだよ! 動いたらすぐこぼれちゃう――」
レンは、注がれたサイダー俺に渡してくる。
この一連の流れ……何かの漫画で見た覚えがあるが……何だったかな。
「よし、……俺はチャリで先行する」
俺はママチャリのペダルに脚を乗せ、勢いよく発進した。
拓実落ち着いた表情で、ドリンクホルダーに置かれたサイダー入りのカップを一瞥し、軽トラの鍵を捻る。
ドッドッドッ……!
軽トラのエキゾーストが咆哮をあげる。
「……ゲートオープン。ここから先はダンジョンだ。……見な、スーパーチャージャーの過給圧が最高潮に達してやがる。俺がクラッチを繋いだ瞬間、コースレコードが誕生するぜ……!」
ギャギャギャギャッ!!
サンバーがロケットのような加速でゲートを潜り抜けた。走り屋たちが集まる舗装された峠道のいろは坂ダンジョン。
拓実はブレーキを踏むどころか、さらにアクセルを床まで踏み込む。
キンコン……、キンコン……!
「出たぁ! 速度警告音だ! あいつのサンバーにとっては、ただのリズムセクションに過ぎねえ! そしてーー! 慣性ドリフトだ!! あの速度域でパネルバンを横に向けてるのに、ロールが一切ねえ! あいつの右足は、神様にでも雇われてんのか!?」
「ひ、ひぃぃぃ!! ぶつかるぅぅ! どこを向いてるのぉーー!
あと誰に向けて話してるのぉぉぉ~」
レイが悲鳴を上げ、思わず目を瞑る。だが、車体は恐ろしいほど滑らかに、かつ超高速で峠のカーブを駆け抜けていく。
レイが恐る恐る目を開けると、そこには驚愕の光景があった。
激しい遠心力がかかっているはずの車内で、ドリンクホルダーに置かれたコップのサイダーが、表面をわずかに揺らすだけで一滴もこぼれていないのだ。
「……信じられない。サイダーが……こぼれてない!? それどころか、炭酸の泡も静かだ……! こんなことが?!」
キンコン……キンコン……
「……見ろよ。あのサンバーの荷室のおぼろ豆腐も自分が走ってることに気づいてねえだろうぜ。
……路面のギャップを吸収し、衝撃を旋回力に変換してやがる。……あいつ、化け物かよ!」
拓実が熱狂的に「自分の走り」を実況する中、バックミラー越しに猛烈な勢いで迫る影があった。
「……なんだ!? 背後から異常なプレッシャーを感じる。……あの駆動音、エンジンじゃねえ。……まさか、チャリだと!? あのママチャリ、サンバーのドリフトに食らいついてやがる……!」
「あなたが働こうとしている会社の社長だよっ!!」
「……あのライダー、ただの人間じゃねえ。……あいつこそが、このいろは坂ダンジョンの真の怪物か……!」
「上司になる人に、あいつ呼びはだめだよっ!!」
拓実の実況とレイの叫びが響く中、レンはママチャリのギヤを上げ、時速120キロを超えるサンバーと並走しながら涼しい顔で指示を出す。
「藤瀬、次の分岐を右だ。最短ルートで行け」
「……了解。あいつ、さらにタイムを削る気だぜ……!」
レイは意識を失っていた。
やがて、わずか数分で迷宮内の目的地へ到着した。
拓実がエンジンを切ると、車内は再び静寂に包まれ、彼は元の眠そうな目をした青年に戻った。レイは真っ青な顔で、こぼれていないサイダーを一口飲んだ。
「……着きました。……豆腐、見てください」
レイが荷室を開けると、そこには積み込んだ時と寸分違わぬ姿で、プルプルと静かに鎮座するおぼろ豆腐があった。
「……素晴らしい……合格だ、藤瀬 拓実。今日からお前もダンジョンイーツの仲間だ」
「……はい。……サンバーが、もっとタイム、削れるって言ってます……」
「僕、もう彼の隣には座りたくないよ……」
ダンジョンイーツに、癖のある従業員がまた一人、入社した。
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