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最終章 東京ラビリンス/最後のデリバリー?編
67:ラストオーダー
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H&Lとの戦いから一ヶ月……
世界は、かつてない混乱の中にあった。
ニュースキャスターが、疲労の滲む表情で原稿を読み上げている。
『……速報です。H&Lロジによる違法なゲート操作が引き金となり、世界各地で発生している「都市迷宮化現象」』
『ここ東京でも、銀座、新宿、渋谷などの主要エリアが「中層ダンジョン」並みの危険地帯と化しています。先ほども、渋谷のスクランブル交差点が突如として毒の沼地に変異し……』
画面には、アスファルトを突き破って生えた巨大キノコの森。
信号機に擬態したモンスター。
H&Lがこじ開けた境界の亀裂から、異常な量の魔力が漏れ出し、日常を音を立てて侵食している。
もはや「安全な場所」は地上に存在しないかのように思われた。
だが、そんな絶望的な状況下で、人々が縋り付いた「希望」があった。
それが、世界最大の物流IT企業、『ダンジョン・プライム』だ。
◆
東京・某所……
かつては買い物客で賑わっていた大通りは、今や迷宮の一部。
しかし、そんな危険地帯を、滑空する無数の影があった。
黒と青の流線型ボディを持つ、次世代完全自律型配送ドローンだ。
『ピーッ。配送完了。安全確認ヨシ』
ドローンは暴れるトレントの攻撃をミリ単位で回避する。
避難生活を送るマンションのベランダに、正確に食料と医薬品を届け、再び空へと舞い上がる。
それを見た市民たちは、涙ながらに感謝していた。
「ありがとう、プライム! あなたたちだけが頼りだわ!」
「すごいな、あのドローン。人間みたいに恐怖で立ち止まったりしないぞ!」
崩壊しつつある世界で唯一、正確かつ安全にライフラインを維持している。人々にとって彼らは救世主に見えた。
◆
そんな中、ダンジョンイーツ銀座本部。
「……暇だ」
レンはデスクに突っ伏していた。
仕事がない。
H&Lを倒して知名度は上がったはずだが、それ以上に「ダンジョン・プライム」のサービスが圧倒的すぎた。
「仕方ないわよ」
カグヤがタブレットを見ながら溜息をつく。
「見て、このサービス。」
『AIによる24時間監視』
『戦闘ドローンによる護衛配送』
『会員なら送料無料』
「しかも、彼らのドローンは絶対にミスをしない。今の危険な東京で、わざわざ生身の人間に頼む人はいないわ」
拓実も車のカタログを閉じ、天井を見上げた。
「……悔しいですが、彼らは合理的です。車で走るより、空から運んだ方が速いし安全です。……感情論抜きで、彼らのシステムは完璧です」
彼らは圧倒的な資金力と技術力で、人類を救っている。
そこに付け入る隙はない。
その時、オフィスのモニターが臨時ニュースに切り替わった。
現れたのは、銀色の髪をオールバックにした、理知的な瞳の男。
ダンジョン・プライム日本支部CEO、アダム・スミス。
『日本の皆様。日々の不安、お察しいたします。
しかし、もうご安心ください。我々プライムが、この国の物流を全面的にサポートいたします』
アダムは微笑んだ。慈愛に満ちた微笑みだ。
『現在の東京は危険です。不要不急の外出はお控えください。
感情や疲労に左右される「人間」が配送を行うことは、二次災害を招くリスクでしかありません。
そこで我々は、政府と協議の上、ある決定をいたしました。』
画面にテロップが表示される。
【東京都内における有人配送の原則停止および、プライムAIによる一元管理】
『これは皆様の命を守るための措置です。
危険なエリアへの配送は、すべて我々のドローンにお任せください。
どうか、危険な仕事は機械に任せ、皆様は安全な家でお過ごしください』
完璧な演説。市民からは称賛のコメントが殺到している。
誰も傷つかない。
誰も不幸にならない。
究極の安全社会の完成だ。
だが、レンだけは、その画面を睨みつけていた。
「……正しいな。反論の余地がないくらい、正しいよ」
レンは立ち上がり、窓の外を見た。
空を埋め尽くすドローンの群れ。
そこには、一切の無駄もなく、怠慢も存在しない、しかし温もりもない。
「でもな……。機械が判断して『リスクが高すぎるから配送不可』と切り捨てられた人はどうなる?
システムから漏れた、たった一人の『助けて』の声は誰が拾うんだ?」
プライムのシステムは多くの人々の幸福を実現する。
だが、それは同時に効率の悪い少数を切り捨てることでもあった。
その時だった。
レンのスマホが、激しく震えた。
それは、プライムのアプリではエリア外として弾かれる、特殊な回線からの着信。
「……注文だ」
レンが画面を見る。
依頼主の名前はない。座標だけが表示されている。
場所は――東京のど真ん中。
かつて「東京タワー」と呼ばれていた場所。
今は東京迷宮の最深部であり、最も魔素濃度が高い「特S級危険区域」だ。
「届け物は……『いつものやつ』。……おいおい、アバウトすぎるだろ」
カグヤが驚いた顔をする。
「レン? そこはプライムのAIすら『生存確率ゼロ』と判断して封鎖したエリアよ。それに『いつもの』って……初めてのお客様でしょう?」
「……悪質な悪戯? いや、発信元は間違いなく東京迷宮の最深部……前人未踏の地だ」
今となっては都市伝説だが、昔は悪戯目的で対象の家に大量の出前が届けられた事があったらしい。
しかし、今の注文システムでは、そういった事を防ぐ対策がとられている。
つまり――。
腹を空かせた誰かが、確実にそこに居る。
「だからこそ、俺たちが行くんだ」
レンはジャケットを羽織った。
「安全で完璧な世界? 結構なことだ。
だが、俺たちの仕事は『安全に運ぶこと』だけじゃない。
『届けられない場所に届けること』だ。……行くぞ!!」
拓実がニヤリと笑い、キーを握る。
「……了解。あいつも、優等生なドローンには飽き飽きしていたと言っています。……燃料、満タンにしてありますよ」
その横で、ユウキが倉庫のカバーを勢いよく剥ぎ取った。
現れたのは、H&Lの一件の後に魔改造を施した、深紅の『スーパーカブ・ダンジョンカスタム』。
前かごは強化され、タイヤはブロックタイヤ。彼女の相棒が、再び戦場に出る時を待っていた。
ユウキはヘルメットを被り、ウィンクしてみせた。
「へへっ、任せてください先輩!!
狭い路地や瓦礫の山なら、あたしとカブの右に出るマシンはないっすよ! こいつも風になりたいと言っています!」
天井からはアリスが飛び降り、レンの影に潜り込む準備をする。
「……拙者も影から護衛するでござる! 機械には真似できぬ忍の技、見せてやるでござるよ!」
「……そこは邪魔だから普通についてこい」
「酷いでござる!」
カグヤは優雅に立ち上がり、ふわりと微笑んだ。
「……仕方ないわね。実は東京迷宮、気になっていたのよね」
「よし! 総力戦だ」
「行くぞ、ダンジョンイーツ! 俺たちのやり方をみせてやる!」
正義の巨大AI企業に対し、熱すぎる心を持つローテク配送員たちが、静かに反旗を翻す。
目指すは東京迷宮『トーキョーラビリンス』
最深部には何が待ち受けているのか……不安を感じたが、好奇心が勝っていた。
世界は、かつてない混乱の中にあった。
ニュースキャスターが、疲労の滲む表情で原稿を読み上げている。
『……速報です。H&Lロジによる違法なゲート操作が引き金となり、世界各地で発生している「都市迷宮化現象」』
『ここ東京でも、銀座、新宿、渋谷などの主要エリアが「中層ダンジョン」並みの危険地帯と化しています。先ほども、渋谷のスクランブル交差点が突如として毒の沼地に変異し……』
画面には、アスファルトを突き破って生えた巨大キノコの森。
信号機に擬態したモンスター。
H&Lがこじ開けた境界の亀裂から、異常な量の魔力が漏れ出し、日常を音を立てて侵食している。
もはや「安全な場所」は地上に存在しないかのように思われた。
だが、そんな絶望的な状況下で、人々が縋り付いた「希望」があった。
それが、世界最大の物流IT企業、『ダンジョン・プライム』だ。
◆
東京・某所……
かつては買い物客で賑わっていた大通りは、今や迷宮の一部。
しかし、そんな危険地帯を、滑空する無数の影があった。
黒と青の流線型ボディを持つ、次世代完全自律型配送ドローンだ。
『ピーッ。配送完了。安全確認ヨシ』
ドローンは暴れるトレントの攻撃をミリ単位で回避する。
避難生活を送るマンションのベランダに、正確に食料と医薬品を届け、再び空へと舞い上がる。
それを見た市民たちは、涙ながらに感謝していた。
「ありがとう、プライム! あなたたちだけが頼りだわ!」
「すごいな、あのドローン。人間みたいに恐怖で立ち止まったりしないぞ!」
崩壊しつつある世界で唯一、正確かつ安全にライフラインを維持している。人々にとって彼らは救世主に見えた。
◆
そんな中、ダンジョンイーツ銀座本部。
「……暇だ」
レンはデスクに突っ伏していた。
仕事がない。
H&Lを倒して知名度は上がったはずだが、それ以上に「ダンジョン・プライム」のサービスが圧倒的すぎた。
「仕方ないわよ」
カグヤがタブレットを見ながら溜息をつく。
「見て、このサービス。」
『AIによる24時間監視』
『戦闘ドローンによる護衛配送』
『会員なら送料無料』
「しかも、彼らのドローンは絶対にミスをしない。今の危険な東京で、わざわざ生身の人間に頼む人はいないわ」
拓実も車のカタログを閉じ、天井を見上げた。
「……悔しいですが、彼らは合理的です。車で走るより、空から運んだ方が速いし安全です。……感情論抜きで、彼らのシステムは完璧です」
彼らは圧倒的な資金力と技術力で、人類を救っている。
そこに付け入る隙はない。
その時、オフィスのモニターが臨時ニュースに切り替わった。
現れたのは、銀色の髪をオールバックにした、理知的な瞳の男。
ダンジョン・プライム日本支部CEO、アダム・スミス。
『日本の皆様。日々の不安、お察しいたします。
しかし、もうご安心ください。我々プライムが、この国の物流を全面的にサポートいたします』
アダムは微笑んだ。慈愛に満ちた微笑みだ。
『現在の東京は危険です。不要不急の外出はお控えください。
感情や疲労に左右される「人間」が配送を行うことは、二次災害を招くリスクでしかありません。
そこで我々は、政府と協議の上、ある決定をいたしました。』
画面にテロップが表示される。
【東京都内における有人配送の原則停止および、プライムAIによる一元管理】
『これは皆様の命を守るための措置です。
危険なエリアへの配送は、すべて我々のドローンにお任せください。
どうか、危険な仕事は機械に任せ、皆様は安全な家でお過ごしください』
完璧な演説。市民からは称賛のコメントが殺到している。
誰も傷つかない。
誰も不幸にならない。
究極の安全社会の完成だ。
だが、レンだけは、その画面を睨みつけていた。
「……正しいな。反論の余地がないくらい、正しいよ」
レンは立ち上がり、窓の外を見た。
空を埋め尽くすドローンの群れ。
そこには、一切の無駄もなく、怠慢も存在しない、しかし温もりもない。
「でもな……。機械が判断して『リスクが高すぎるから配送不可』と切り捨てられた人はどうなる?
システムから漏れた、たった一人の『助けて』の声は誰が拾うんだ?」
プライムのシステムは多くの人々の幸福を実現する。
だが、それは同時に効率の悪い少数を切り捨てることでもあった。
その時だった。
レンのスマホが、激しく震えた。
それは、プライムのアプリではエリア外として弾かれる、特殊な回線からの着信。
「……注文だ」
レンが画面を見る。
依頼主の名前はない。座標だけが表示されている。
場所は――東京のど真ん中。
かつて「東京タワー」と呼ばれていた場所。
今は東京迷宮の最深部であり、最も魔素濃度が高い「特S級危険区域」だ。
「届け物は……『いつものやつ』。……おいおい、アバウトすぎるだろ」
カグヤが驚いた顔をする。
「レン? そこはプライムのAIすら『生存確率ゼロ』と判断して封鎖したエリアよ。それに『いつもの』って……初めてのお客様でしょう?」
「……悪質な悪戯? いや、発信元は間違いなく東京迷宮の最深部……前人未踏の地だ」
今となっては都市伝説だが、昔は悪戯目的で対象の家に大量の出前が届けられた事があったらしい。
しかし、今の注文システムでは、そういった事を防ぐ対策がとられている。
つまり――。
腹を空かせた誰かが、確実にそこに居る。
「だからこそ、俺たちが行くんだ」
レンはジャケットを羽織った。
「安全で完璧な世界? 結構なことだ。
だが、俺たちの仕事は『安全に運ぶこと』だけじゃない。
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その横で、ユウキが倉庫のカバーを勢いよく剥ぎ取った。
現れたのは、H&Lの一件の後に魔改造を施した、深紅の『スーパーカブ・ダンジョンカスタム』。
前かごは強化され、タイヤはブロックタイヤ。彼女の相棒が、再び戦場に出る時を待っていた。
ユウキはヘルメットを被り、ウィンクしてみせた。
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狭い路地や瓦礫の山なら、あたしとカブの右に出るマシンはないっすよ! こいつも風になりたいと言っています!」
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「……そこは邪魔だから普通についてこい」
「酷いでござる!」
カグヤは優雅に立ち上がり、ふわりと微笑んだ。
「……仕方ないわね。実は東京迷宮、気になっていたのよね」
「よし! 総力戦だ」
「行くぞ、ダンジョンイーツ! 俺たちのやり方をみせてやる!」
正義の巨大AI企業に対し、熱すぎる心を持つローテク配送員たちが、静かに反旗を翻す。
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