ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん

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第六章 その配送、安物につき群雄割拠 編

66:デビルエリクサー

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 H&Lロジ物流倉庫、管理棟。

 地上20階建てのガラス張りのビルが、夕暮れの中にそびえ立っている。
 エレベーターは停止し、階段は瓦礫で埋もれている。通常の手段では最上階へは辿り着けない。
 ビルの真下で、拓実がサンバーを停車させた。

 彼は首を直角に曲げて、遥か上の最上階を見上げた。
「……社長。どうしますかね……」
「ああ、それだっ……」
 俺の言葉を遮るように、助手席のアリスが、声をかけてくる。
「お館様! ここは拙者の出番でござる!
 忍法・土蜘蛛(つちぐも)の術! 車体にチャクラを纏わせれば、壁など平地も同然……」
 アリスが気合を入れ、ビシッと印を結ぶと、サンバーのタイヤがズズズ……と2cm程地面にめり込み始めた。

「……アリスさん。『土蜘蛛』は地面に穴を掘って隠れる術です。壁は登れません」
「えっ!? 蜘蛛だからスパイダーマンみたいに行けると思ったでござるぅぅ!」

「……ポンコツですね。タイヤを汚さないでください。」
 拓実が冷たくツッコム。
 レンは苦笑しつつ、自身のスマホを取り出した。

 配送アプリを起動し、目的地を『H&Lロジ・最上階役員室』にセットする。
「アリスは、瞑想でもしててくれ。
 ……拓実、アクセル全開で頼む」
「……壁ですよ?」
「関係ない。俺のスキルがあれば、そこが道になる」
 レンの瞳に力が宿る。

 スキル発動――【デリバリーロード絶対配送】。

 レンが指定した目的地までのルートが、管理棟の壁に、黄金色のラインとなる。
「拓実、ルートが完成した。」
「……了解。あいつサンバーも興奮しています。」
 拓実がニヤリと笑い、クラッチを繋ぐ。
 そして、サンバーが垂直の壁に向かって突っ込んだ。
 本来なら激突して終わるところだが、前輪が壁に触れた瞬間、まるで強力な磁石でも吸い付いたかのようにグリップした。

「ひゅーーー!さいこーーー!!」
 同乗していたユウキが雄叫びをあげる。
 サンバーは重力を無視し、ガラスの壁面を垂直に駆け上がり始めた。
 
「荷台に乗ってるのに、地面に落ちないのは不思議な感覚だな。」
 絶対配送には、重力なんて関係ないのだ。

「……悪くないグリップです。これならレッドゾーンまで回せる」
 青い稲妻がビルを駆け上がる。
 目指すは最上階。

 ガシャァァァァァン!!

 最上階、役員室の強化ガラスが粉々に砕け散った。
 宙を舞うガラス片と共に、軽トラが室内の高級絨毯の上にドリフトしながら着地する。

「お届けものですッ!」
 レンの声と共に、荷台から一枚の書類が投げられた。
 それは回転しながら飛び、部屋の奥にいた男の顔面にペタリと張り付いた。

「な、なんだぁぁっ!?」
 男――H&Lエリア統括の蛇島が、顔に張り付いた紙を剥がして見る。
 それはダンジョン管理法違反および、テロ準備罪による『緊急逮捕状』だった。

「くっ、き、貴様らぁぁ……! ここまで来やがったのか!」
 蛇島は脂汗を流しながら後ずさるが、すぐに醜悪な笑みを浮かべた。
 彼は懐から、禍々しいオーラを放つ黒い小瓶を取り出した。

「ケッ、ここまでかよ……。だが、タダじゃ捕まらねえぞ!

 これを見ろ! 深層の遺跡から発掘された、飲むだけで肉体を魔人化させる禁断の秘薬……『デビル・エリクサー』だ!」

 蛇島は勝ち誇ったように瓶を掲げる。
「こいつを飲めば、俺はS級モンスターをも凌駕する魔人になれる!
 貴様ら全員、ひねり潰して逃げてやるぜぇ! ギャハハハ!」
 蛇島は躊躇なく小瓶の蓋を開け、中身を一気に呷った。

 ゴクッ、ゴクッ、プハァ!

「うおおおおおっ! 力が……力が湧いてくるぅぅぅ!」
 蛇島の体が膨れ上がる。
 筋肉が服を裂き、皮膚がどす黒く変色し、額からは角が生え――。

 ――なかった。

「……あれ?」
 蛇島の動きが止まる。

 膨れ上がりかけた筋肉が、プシュゥゥ……という情けない音と共に萎んでいく。
 角も生えない。魔力も高まらない。
 代わりに、蛇島の顔色が土色になり、お腹のあたりから「ギュルルル……」という、不快な音が響く。

「あ、あれ……? お腹が……痛い……? 猛烈に……あ、やば……決壊する!?」
 その場にうずくまる蛇島。

 レンが呆れたようにため息をつく。
「……おいあんた。その秘薬の瓶、裏のラベルを見てみろ」
 蛇島は脂汗を流しながら、震える手で瓶を見た。

 そこには、極小の文字でこう書かれていた。

 『Made in H&L Factory
(成分:乳酸菌飲料…紫キャベツ色素…砂糖……他)』
 『※効果には個人差があります。この商品はジョークグッズです。』
 そして賞味期限は5年前に切れている。
「……パ、パチモンだぁぁぁぁ!?」
 蛇島が絶叫する。

「なんで俺の会社に、俺の会社の偽物が置いてあるんだよぉぉ!?」
「在庫管理が杜撰だからだろ……。自分の撒いた種で腹を壊すとはな」
 腹痛と絶望で悶絶する蛇島の前に、ヒール(靴)の音が近づく。

 カツ、カツ、カツ……。
 その足音だけで、室内の温度が急激に下がっていく。

「……ひっ、か、カグヤ……様……」
 蛇島が見上げると、そこには視線で人を凍らせそうな、冷たい瞳をしたカグヤが立っていた。

 相手の名前など興味もない、無慈悲で事務的な表情だ。
「そこの責任者さん。貴社の商品とサービスについて、ユーザーフィードバックをさせていただきます」
 カグヤが指を一本立てる。

「一つ。配送遅延および商品の品質詐称。
 二つ。顧客のプライバシー侵害および乙女心を汚した。
 三つ。……これが一番許せないわね…レンを傷つける恐れがあった!

 カグヤの周囲に、無数の氷の剣が出現する。
 それは蛇島を処刑台のように取り囲んだ。
「総合評価は……星、マイナス五億です」
「ま、待ってくれ! 謝る! 返金もする! 倍返しだ! だから命だけは……!」
 蛇島が懇願するが、カグヤは冷たく微笑んだ。

「キャンセルは受け付けておりません。
 ……永久に、反省なさい」

 『氷棺・永劫凍結(エターナル・コフィン)』

 パキィィィィィン!!

 一瞬の閃光。
 蛇島の悲鳴ごと、彼を中心に部屋の空気が凍りついた。
 数秒後。
 そこには、腹痛で歪んだ顔のまま、分厚い氷の結晶の中に閉じ込められた蛇島の姿があった。

 美しい氷の彫像の完成だ。生命活動は停止しているが、死んではいない。解凍されるその時まで、永遠に腹痛と恐怖を感じ続ける牢獄である。

「……ふぅ。私、モンスタークレーマーかしら?」
 カグヤはパンパンと手を払い、何事もなかったかのようにレンの方を向いた。

 その表情は、いつもの少しツンとした、しかし信頼に満ちたものに戻っていた。

「お疲れ様、レン。……少し、汗をかいてしまったわ」
「……ああ、お疲れ。相変わらず容赦ないな」
 レンは氷漬けの男に「南無」と手を合わせてから、窓の外を見た。

 ゲートは閉じられた。大門率いる『クロヒョウ隊』が残党狩りを終えつつある。
 空を覆っていた暗雲が晴れ、夕日が差し込んでくる。

「……終わったな」
 レンが呟くと、拓実がサンバーのエンジンをふかした。

「……社長、帰りは普通に道路を走っていいですか? やっぱり壁を走るより、道路を走るほうが楽しいと、あいつサンバーも言ってる。」
「ああ、頼むよ。……ユウキ、お前もジェットスキーご苦労だったな」

「へへっ、寒かったけど楽しかったですよ!」

「拙者はバナナボートの空気抜きをするでござるよー……あ、パンクしてるでござる」
 日常が戻ってくる。

 H&Lロジという悪徳業者が消え、ダンジョンイーツの名声が、また一つ轟いた一日だった。

 数日後。
 H&Lロジは組織的なダンジョン法違反で摘発され、解体された。
 氷漬けの責任者はそのまま証拠品として押収され、冷凍倉庫のある特殊刑務所へと収監されたという。
 そして、ダンジョンイーツの事務所には、また新たな日常が訪れていた。

「……あ、レン。見て」
 休憩中、カグヤがスマホを見せてきた。

「新しい通販サイトを見つけたの。『ダンジョン・プライム』っですって!……あら、最新型ポーション……?気になるわね……」
 レンは即座にスマホを取り上げた。

「却下だ。当分、通販は禁止!」
「えぇー……ケチ」
 不満げなカグヤと、苦笑するレン。
 平和な午後の光景。

 だが、彼らはまだ知らなかった。

 今回の一件で「ダンジョンと地上の境界」が揺らいだ事、蛇島は日本エリアの統括であった事、世界中が混乱に巻き込まれようとしていた。
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