国家転覆系Vtuberのローカルチャー戦線

かこ

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1章「静かな戦い」

5話「自己紹介」

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「あっ! 八八地《ややち》!」
「なっ……!」

 思わず口からこぼれ落ちた。

「めっちゃ待ったんだけど? 来るの遅いって」

 何が起こったかわからないままの群衆を置き去りにして、その人は現れた。
 視界に映っただけでわかる異様な雰囲気。同じ空間にいるのに一人だけそう、まるで異世界の住人とさえ思える。

「川上莉子……」
川上莉子かわかみりこさん!? どうしてこのようなところに!」

 ほんとだよ。昨日の夜、莉子の家で落ち会おうってリーネしたのそっちだよね!?
 なんで学校まで来てるの!? ていうかなんで私の通う学校知ってるの!?

「……お、おい、嘘だろ? アリシア。それってあのアーティスト第三席じゃんか……」
「いつの話しさ、それ」

 歩み寄ってきて、莉子は気だるげに笑った。

「っていうか、八八地《ややち》って友達いたんだ」
「八八地?」

 ちょ。待てぇい!
 Vチューバーとして動画投稿しているだなんて、友達に話してるわけないでしょーに!?

「八八地、さん? どちら様でしょうか?」

 でしょうね!!
 やばい、最悪の事態だ。

「どちら様って、そこにいるで──」
「いや誰だろうねー八八地って。誰かと勘違いしちゃってるのかなぁ!」

 今まで隠してきたのに、こんな形で、それもこんなに大勢の前で身バレなんて、それだけは絶対、無理!

「は?」
「そ、そうだ、自己紹介しよっかぁ!」

 何も返さないけれど、莉子の表情はかなり険しかった。

「まずはこちら。この、口調以外かわいくって小さい生き物は、坂本修斗《さかもとしゅうと》君。見た目も性別も女子だけど、心は転生前から男の子だから、ちゃん付で呼ぶと殴りかかってくるよ」
「おい! その通りだけど、言い方が妙にムカつくな」
「そしてこちら、お上品で金髪の縦ロールがお似合いのアリシアちゃん。正式名称は、あるかいっく・りお・しゅーべると=あくありあるちゃんなんだけど、長くて覚えられない人が多いらしくて、頭文字を取ってアリシアちゃんて呼ぶと喜ばれるよ」
「私、アーカイック・リオ・シュベッセント=アリアリアルなのですが……」
「それは知ってる」
「へ? 知り合いなの?」
「お姉さんの方だけどね」
「そ、そうなんだ」

 お姉さんって、ミルハイルさんか。どういう繋がりなのか気にかかるところだけどそれよりも、

「最後は、私。八千代ね! 大黒八千代《おおぐろやちよ》。数字のはちに千代《せんだい》って書いてちよ。いい? 大黒八千代って名前だから!」

 念には念を押した。
 一瞬の間があったけれど、意図がちゃんと汲み取れたみたいで、莉子の顔がぱっと明るくなる。

「あぁ! もしかして八八地、本名隠してたんだ!」
「隠してるのは八八地の方ね!?」

 LINE《リーネ》名前、八千代《やちよ》で登録してたと思うんですが!?

「ということは、八千代さん! 川上莉子さんとお知り合いだったのですね!!」
「え?」

 あ。やってしまった。
 今のやり取り、どう聞いても私が、八八地だ。
 その一言で周囲の人々がざわめきだす。

「なに? あの子ってそんなにすごい子なの?」
「どんな関係?」
「もしかして、あの子迎えに来たとか?」
「てか八八地って何?」

 遠巻きにも色々な声が聞こえる。
 大変というか、面倒というか、とにかくすごいことになってきた。

「違うのですか?」
「い、いや、違くはないけど、知り合いというか、知り合ったというか……」
「ん? ってことはなんだ? まさかお前、川上莉子に偽名を使ってたのか?」

 ん?
 そっか、二人はVチューバー八八地を知らない。今の会話がそう聞こえちゃうのか。

「あーはい。そういうことでいいです」
「でもなんでまた偽名なんか?」
「ま、まぁそれも今度話すよ」

 莉子もきっと、二人の誤解に気が付いているけれど、それを指摘しないのもわかっているからだろう。

「ってことはだ、今日の予定って川上莉子とってことか」
「え、えっと……」

 それを肯定してしまうとどうなるか、なんて想像に容易い。
 この国の治安を守るアーティストの元第三席が、貴重な時間を使ってわざわざ出迎えに来るような関係性の相手。
 単純な友人で済めば御の字、最悪大黒八千代はアーティストに一目を置かれる程、魔法の扱いに長けている、なんて事実無根の噂さえ流れかねない。
 かといって否定も──

「そっ。ってわけだから、今日は借りるね、八八地」

 肩をグッと引き寄せられて瞬間、視界一杯に莉子の笑顔が映り込んだ。
 周りがまたより一層湧き上がる。
 彼ら、彼女らの驚愕した表情を見ながら思うのだ。
 あ、これ、もう訂正できないヤツだ。

「八千代さん。明日、ちゃんと説明してくださいね?」

 目をキラキラ輝かせながら見つめてくるアリシアに、「うん、もちろんだよ」以外返すことなどできなかった。
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