国家転覆系Vtuberのローカルチャー戦線

かこ

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1章「静かな戦い」

5話「今朝のこと」

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昨日八八地と別れた後からの記憶が、やけにふわふわしている。どうせ、浮かれた気分のせい。
今だって、スマホが机にガタガタと打ちつけられる音で目が覚めた。

「……やば。寝ちゃってたか」

でもメロディーを作る作業も、歌詞を書く作業もいつもよりずっと捗ったのは覚えてる。
机に乗っけてた体を起こして、伸ばす。
携帯は今も大音量で鳴ってて、いい加減うざったくなってきた。
アラームなんて掛けてないから着信だろうな。

「怜夏《れいか》?」

何の用だろう。電話に出る前から既にめんどくさい。
かと言って、元同僚からの電話を無視するわけにもいかないし、緑のマークを横に引っ張った。

「もしもし? 久しぶりね、宮本怜夏《みやもとれいか》よ」
「久しぶり」

寝起きで声が少し出にくい。
伶夏とはいつ以来だっけ。アーティストを抜けてからはまったくだったし、4ヶ月ちょっとか。

「貴方、もしかして寝起き? もう10時過ぎてるのよ?」
「やる事ないし、別にいいでしょ」
「だからアーティストに席だけでも置いておかないかって聞いたはずなのだけれど?」
「いいって……それより、何の用?」
「憶えくらいないかしら? 昨日札幌そっちで起こったハイジャック事件のことなのだけれど」

あー、そうなるのか。
そりゃそうだわ、異能力テロ対策精鋭組織、アーティストなんだから。

「……何それ」
「ニュース見てないのね」
「もう関係ないし」
「無くても見た方がいいわよ? というよりアレ、貴方が解決したものかと思って連絡したのだけれど?」

話を聞き流しながら立ち上がって、リモコンからテレビをつけた。
ちょうど、ニュース番組でそれが扱われている。しかも全国ネットで、「新たなステージS誕生か?」なんて見出しまでつけて。

「これのこと? 私、魔力回路使えないんだけど」

スマホで誰かが撮ったのか、映像もついてる。
飛行機が空中で静止しているだけの映像。撮影者の声とか手ブレがないと画像にしか見えないな。

「まぁ、そうなるわよね。けれど飛行中の機体を損傷させることなく停止させ、空港にまで運べる能力なんて、貴方以外知らないわ」
「涼乃《すずの》じゃないの? 私が退席してから札幌《ここ》の担当って涼乃なんでしょ?」

息を吐くように嘘をつく。
この程度で痛むような罪悪感なら、とうの昔に亡くなってるし。

「涼乃はその日、別の任務でそっちにはいなかったのよ」
「ふーん、でももう一人いるでしょ? 伶夏《れいか》の恋人が」

いつの間にか画面が切り替わっていて、今度は空港で飛行機が燃え上がっている映像が流れている。
負傷者は3名、重症者なし。アーティストは現在道警と共同で現場の捜査にあたっているだって。

「こ、恋人じゃないわよ……まだ」
「誰とは言ってないんだけどねー」
「茶化さないで。彼なら東京《こっち》から動いてないそうよ」

伶夏の想い人は、アーティストの第一席。この世界の最大戦力と目される男で、神宮司海斗≪じんぐうじかいと≫と名乗っている。

「でしょうね」
「本当に貴方じゃないのよね?」
「本当だとして、隠す必要ある?」

そもそも探すべきは、事件を解決した人物じゃなくて、起こした人物じゃないの。
まっ、お互いそこはわかってるわけだけど。

「あっ、でも手当出るんだっけ? やっぱり私がやったことにして」
「バカ言わないの、そう言えば今無職だものね」
「おかげさまで」

やばい、あくびでた。

「まあいいわ、もし今後この件で分かったことがあったら連絡ちょうだい」
「はいはい」

最後に、「じゃあまた」っと言い残してから電話が切れた。
私としては、またの機会は作りたくないんだけどね。

「はぁーあ。めんどくさ」

今話した感じ、アーティストはまだこの件に私が関与していたという確たる証拠を掴めていない。
でも、その線の捜査も行っている。
当然か、海斗ならきっと気がついているはずだから。
私の能力であれば、アーティストによる犯行だと確定できてしまうことに。

「おそらく次の手は、何かしらの方法で私に異能を使わせること、かな」

となればまずは、八八地に連絡しないと。
リモコンの代わりに携帯を手に取って気がつく。

「……LINE《りーね》はまずいか」

ネットや電話を介したコンタクトはログが残ってしまう。怜夏に疑われてる時点で、そこから掴まれる可能性が高い。
仕方ない、直接出向くか。

「八八地、驚くだろうなー」

その顔を想像するだけで思わず笑いが込み上げてくる。
早速部屋着を脱ぎ捨てて、諸々の準備に取り掛かかった。




「この辺のはずなんだけど……」

 右手に持った携帯から視線を上げる。
 制服姿の子がちらほらいるから間違ってないんだろうけど、この時間に出歩いてるのってなんで?
 変装してるからバレないと思うんだけど、聞く気にはなれないな。

「まっ午前授業ってだけのことか」

 そこから1分も歩かないところに学校があった。
 中に入るのは流石に気が引けるし、校門で待つことにした。
 スウェットにジャージだから目立つけど、今のところバレてない。
 これまで何度か変装したけど、昨日の感じ、これが一番良さそう。動きやすいし、一度会ってるから八八地にもわかるだろうし。

「そこの人!」

 どこか聞いたことのある声だった。
 声をかけられる覚えはあったから振り返ってみると、長く茶色い髪が目に留まった。
 やっぱり知っている顔。

「誰かと待ち合わせですか?」

 この子、八八地と同じとこ通ってるのか。ついてない。
 声でバレそうだし、どうしよっかな。

「あっ、ごめんなさい。先に自己紹介くらいするべきでした、私はフォン・シーズベント=シリカ。こう見えて、アーティストの下部組織、エキストラに席をおいているんです」

 知ってるし正確に言うなら、下部組織じゃないんだけど。
 アーティストは内閣府、エキストラは警視庁の管轄。ウチらは大規模なテロなんかに対処するわけで、魔法的力を悪用した軽犯罪なんかは、エキストラが対処する。言うなら姉妹組織みたいなものだ。

「どなたを待っているんですか? 迷惑でなければ、代わりに私が呼んできますが?」

 姉妹組織なだけあって、アーティストとの仲も深い。
 言ってしまえば、昨日のテロに加担していないとも言い切れない。
 首を横に振るだけで答える。

「そ、そうですか」

 だけど、シリカの性格でテロに加担することはないでしょ。なんの根拠もないから、ただそうであってほしいなってだけなんだけどね。

「でしたら中に入って探しませんか? ウチの学校は正門の他に2つ門を構えてるんです。もしかすると入れ違いになっちゃってるかもしれません」

 意外と食い下がってくるな。
 今どき携帯くらいみんな持ってるから、いいって。
 ポケットからそれを取り出して見せた。

「えーとぉ? んっあー。携帯があるなら大丈夫ですね」

 これで引き下がってくれればよかったんだけど。

「では、私はこれで。念のため、最後に失礼しますね」

 2歩3歩さがったかと思えば、足元にカバンを置いて、両手の親指と人差し指で長方形を作った。
 まずい。
 彼女の異能力は特定のポーズをとることで発現する。被写体を画角に収めようとするそのポーズを。
 発現されると厄介なことになるから、覗き込む前に一気に距離を詰めて両手を蹴り上げる。
 解ける手の向こうに覗く彼女は、目を大きく見開いていた。

「私の異能が、割れている……?」

 大きく距離をとってから訝しんだ。

「貴方、何者?」

 覗き込む前に阻止したはずだったんだけど、彼女の目が青く染まって確信する。

「いいえ、名乗らなくて結構です。ほんの少しだけ遅かったので」

 異能の発動条件が、既に完結しているらしい。

「……ぇ?」

 数回まばたいてから、小さく開けた口を覆った。

「う、嘘。ですよね……魔力もマナも一切感じられないけれど、身体情報は100パーセント一致してる……」

 もう一度構えるシリカを、今更止めようとは思えなかった。

「身長体重、呼吸脈拍、体脂肪率から指紋、瞳孔に骨格。至るところまで瓜二つ……」
「満足した?」
「お、お久しぶりです、川上莉子《かわかみりこ》さん、ですよね?」

 彼女のそれは、対象の情報を瞬時に解析し記録する異能力、瞬間記録《ショットログ》。
 たとえ全身隠していたって身体の情報を解析できるし、一度記録すれば忘れることはない。だから出会いたくなかったのに。

「え? うそ、マジ!? ねぇシリカ、その人マジで川上莉子なの!?」

 そしてあまりにもでき過ぎたタイミングで現れた知らない子。

「そ、そうだけど待っ──」
「川上莉子!? 待って本人!?」
「えっ? どこ!?」

 まだ顔も出していないのに、瞬く間に川上莉子という名前だけが広がっていく。

「私も見たい! どこどこ?」
「ねぇあっち、川上莉子だって」
「なんで!? なんで来てるの?」

 こうやって人が人を呼んで、どんどんと人混みが大きく成長していくんだ。

「……あ、あのー、莉子さん。もしかしてお忍びでした?」
「そうじゃないように見える?」
「で、ですよねぇー。あっ、わ私ゴールデンウィーク中、東京に旅行にいくんです……お土産何がいいでしょうか?」
「土産で釣ろうとするな」
「で、ですよねぇー……すみませんっ!」

 こうなってからではシリカに何を言ったところで後の祭りだ。
 大人しく、フードもマスクもサングラスも外して、声援に応えるしかない。

「本物だ!!」
「私初めて見た!」
「あのー! こっち向いてください!」

 声を掛けられる度に振り向いて、手を振られる度に降り返す。握手なんかも求められるけれど、正直何が嬉しいのやら。
 今こうして人混みに囲まれているのも全部、海斗の人心掌握術による部分が大きい。
 私はどっちかっていうとこういうのが苦手なんだけど、アーティストとしての方針がこうである以上、従わざるを得ない。
 それにアーティストを退いてなお送られてくるお金や物品、手紙なんかは全部、ここにいる誰かからの送りものかもしれないし。
 正直言って、もう何度も経験してるけど、体を張って魔物と戦っている方がマシなくらい、キツい。
 八八地《ややち》、早く来ないかな。
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