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1.プロローグ
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「あのさ、やる気無いならやめてもらってもいいんだけど?」
「うぅ……」
魔法使いの少女ルルナは、自らの浅はかさを後悔していた。わずか13歳にしてBランク冒険者としてギルドに認められ、周囲からも一目置かれるようになったことで、有頂天になっていたのかもしれない。
その勢いに任せ、Sランク冒険者、勇者アレス率いるパーティー“黒き旋風”に加入したまではよかった。
だがそれから1週間、まったく貢献できないままの彼女に、リーダーであるアレスから呼び出しがかかったのだ。
「……なぁ、返事くらいちゃんとしようや!?」
「す、すみません……」
「チッ……ガキが……」
謝るルルナを一瞥し、アレスは深い溜め息をつく。そして実に面倒そうに、続く言葉を吐き捨てた。
「はぁ~……お前今日でクビね。もう来んなよ使えないんだから。てか早く消えて。じゃ」
「そ、そんな……」
あっさりと追放を宣告され、反論する間も無く、ルルナは部屋から追い出されてしまった。バタン、という激しい音ともに、ドアが勢いよく閉じられると、ルルナはその前で呆然と立ち尽くした。たしかに、彼女の実力はアレス達に遠く及ばなかったが、それにしても、余りに唐突である。
そもそもの話をすれば、彼女の存在など、アレスにとってはどうでも良かったのだ。なぜなら、ルルナは最初から捨て駒要員だったからである。
煽てられて調子にのっている小娘など、その気にさせるのは容易い。取り敢えず戦わせてみて、役に立つのなら良し。そうでないのならば、敵の注意を引く囮にでも使う。
これまでにもアレスは、そうやってパーティーメンバーを厳選してきた。そうして生き残ることができた者だけが、勇者と肩を並べて戦うことができると言うわけだ。しかし、ルルナはその臆病な性格ゆえ、見たことも無い強大な魔物達との戦闘に怯え、ひたすら逃げ惑うばかり。結局、呆れたアレスによって、パーティーを追放されたのだった。
「あんたやっとクビになったの? よかった」
「じゃあなチビ」
「とっとと消えろクソガキ」
「おい、アレス今度はもっとましな奴連れてこいよ。あいつは流石に酷かったぞ」
ルルナはパーティーメンバーから罵倒を浴びせかけられながらも、自らのふがいなさ故に反論することもできず、逃げるようにその場を去った。
ルルナは時に走り、時に力なくふらふらと歩きながら、行く宛もなく、闇雲に進み続けた。そして、パーティーの駐留地点であるゼーン砦から出来るだけ離れ、砦から西の方角、ローレント領内の平原までたどり着いたところで、崩れ落ちるようにへたりこんだ。
昼下がりの平原は人気もなくとても静かで、ルルナはまるで、自分だけが時間の流れに取り残されたように感じた。
「私には、才能が無いのかな」
道端で項垂れたまま、誰に言うでもなくルルナは独りごちる。しかし、誰も答える筈の無かったその孤独な問いかけに、突然何者かが答えた。
「いや……お前には秘められた才能がある。変わりたいと思わないか?」
「だ、誰!?」
独り言を聞かれて少し恥ずかしくなり、ルルナは慌てて周囲を見渡すが、どこにも人の影は見えない。だが、誰のものとも知れないその声は、何故だかルルナの心深くへと突き刺さり、反響するように、何度も彼女の心を揺さぶる。
その不思議な感覚と未知への好奇心が、ルルナの沈んでいた心を僅かながら動かした。
探るように耳を澄ますと、聞こえてくるのは、小さな不安、妙な暖かさ、それに加え、なにか強い意思を感じさせる声。そして周囲に渦巻く、自然のものとは異なる強い魔力の流れ。
魔法使いとしての直感から、声の主が尋常ならざる存在であると、ルルナは感じ取った。
「力が欲しくはないか? ルルナ」
「あ、あなたは何者なんですか!? 精霊や、妖精の類いか、まさか悪魔だなんてことは……」
「おい、質問に質問で返すな。それに……少しばかり質問が多いぞ」
「あっ……す、すみません」
声の主は少々苛立っているようだ。不意に怒られ、つい癖で謝ってしまったが、ルルナは未だ、これは邪な存在による甘言なのではないかと訝しんでいた。
……だが、それでも構わない。今はとにかく、自らの意思を伝えたい。でないと、自分自身をも見失ってしまいそうで。ルルナはそう思い、素直に言葉を紡ぐ。
「……欲しいです!」
「フフフ、いいだろう!」
強い意思に呼応するように、周囲を漂っていた魔力がより色濃く、激しく逆巻き、奔流はやがて、少女の形を成した。その背からは、肩幅の倍以上も巨大な翼が延びている……
思わず、ルルナは目を奪われてしまった。鳥、ましてや昆虫などのものではない、その翼は……
「ド、ドラゴン……?」
「ほう、わかるか」
竜とは、魔術を学ぶ者にとって最も憧れを抱く存在であり、古くから竜と魔術とは切っても切り離すことのできぬものであるとされてきた。
その明確な理由は、最早忘れ去られて久しいが……それでも今なお、多くの魔法使いが竜を求めて生き、そして死んでいく。
その、竜の翼を持つ者が今、自分の目の前に……
思い耽りながら、ルルナは眩いばかりに瞳を輝かせ、少女をじっと見つめる。
翼の少女もそれに満足げな表情で応え、少々調子に乗った様子で腕を組み大袈裟に立ち直ると、急に鋭い視線でルルナを突き刺すように見つめ返し、高らかに叫んだ。
「よいかルルナ、我が名は大魔王ファノマ! この世の天地全てを手にする者よ!」
「大……魔王……?」
この日、運命は大きく動き出した……かもしれない。
「うぅ……」
魔法使いの少女ルルナは、自らの浅はかさを後悔していた。わずか13歳にしてBランク冒険者としてギルドに認められ、周囲からも一目置かれるようになったことで、有頂天になっていたのかもしれない。
その勢いに任せ、Sランク冒険者、勇者アレス率いるパーティー“黒き旋風”に加入したまではよかった。
だがそれから1週間、まったく貢献できないままの彼女に、リーダーであるアレスから呼び出しがかかったのだ。
「……なぁ、返事くらいちゃんとしようや!?」
「す、すみません……」
「チッ……ガキが……」
謝るルルナを一瞥し、アレスは深い溜め息をつく。そして実に面倒そうに、続く言葉を吐き捨てた。
「はぁ~……お前今日でクビね。もう来んなよ使えないんだから。てか早く消えて。じゃ」
「そ、そんな……」
あっさりと追放を宣告され、反論する間も無く、ルルナは部屋から追い出されてしまった。バタン、という激しい音ともに、ドアが勢いよく閉じられると、ルルナはその前で呆然と立ち尽くした。たしかに、彼女の実力はアレス達に遠く及ばなかったが、それにしても、余りに唐突である。
そもそもの話をすれば、彼女の存在など、アレスにとってはどうでも良かったのだ。なぜなら、ルルナは最初から捨て駒要員だったからである。
煽てられて調子にのっている小娘など、その気にさせるのは容易い。取り敢えず戦わせてみて、役に立つのなら良し。そうでないのならば、敵の注意を引く囮にでも使う。
これまでにもアレスは、そうやってパーティーメンバーを厳選してきた。そうして生き残ることができた者だけが、勇者と肩を並べて戦うことができると言うわけだ。しかし、ルルナはその臆病な性格ゆえ、見たことも無い強大な魔物達との戦闘に怯え、ひたすら逃げ惑うばかり。結局、呆れたアレスによって、パーティーを追放されたのだった。
「あんたやっとクビになったの? よかった」
「じゃあなチビ」
「とっとと消えろクソガキ」
「おい、アレス今度はもっとましな奴連れてこいよ。あいつは流石に酷かったぞ」
ルルナはパーティーメンバーから罵倒を浴びせかけられながらも、自らのふがいなさ故に反論することもできず、逃げるようにその場を去った。
ルルナは時に走り、時に力なくふらふらと歩きながら、行く宛もなく、闇雲に進み続けた。そして、パーティーの駐留地点であるゼーン砦から出来るだけ離れ、砦から西の方角、ローレント領内の平原までたどり着いたところで、崩れ落ちるようにへたりこんだ。
昼下がりの平原は人気もなくとても静かで、ルルナはまるで、自分だけが時間の流れに取り残されたように感じた。
「私には、才能が無いのかな」
道端で項垂れたまま、誰に言うでもなくルルナは独りごちる。しかし、誰も答える筈の無かったその孤独な問いかけに、突然何者かが答えた。
「いや……お前には秘められた才能がある。変わりたいと思わないか?」
「だ、誰!?」
独り言を聞かれて少し恥ずかしくなり、ルルナは慌てて周囲を見渡すが、どこにも人の影は見えない。だが、誰のものとも知れないその声は、何故だかルルナの心深くへと突き刺さり、反響するように、何度も彼女の心を揺さぶる。
その不思議な感覚と未知への好奇心が、ルルナの沈んでいた心を僅かながら動かした。
探るように耳を澄ますと、聞こえてくるのは、小さな不安、妙な暖かさ、それに加え、なにか強い意思を感じさせる声。そして周囲に渦巻く、自然のものとは異なる強い魔力の流れ。
魔法使いとしての直感から、声の主が尋常ならざる存在であると、ルルナは感じ取った。
「力が欲しくはないか? ルルナ」
「あ、あなたは何者なんですか!? 精霊や、妖精の類いか、まさか悪魔だなんてことは……」
「おい、質問に質問で返すな。それに……少しばかり質問が多いぞ」
「あっ……す、すみません」
声の主は少々苛立っているようだ。不意に怒られ、つい癖で謝ってしまったが、ルルナは未だ、これは邪な存在による甘言なのではないかと訝しんでいた。
……だが、それでも構わない。今はとにかく、自らの意思を伝えたい。でないと、自分自身をも見失ってしまいそうで。ルルナはそう思い、素直に言葉を紡ぐ。
「……欲しいです!」
「フフフ、いいだろう!」
強い意思に呼応するように、周囲を漂っていた魔力がより色濃く、激しく逆巻き、奔流はやがて、少女の形を成した。その背からは、肩幅の倍以上も巨大な翼が延びている……
思わず、ルルナは目を奪われてしまった。鳥、ましてや昆虫などのものではない、その翼は……
「ド、ドラゴン……?」
「ほう、わかるか」
竜とは、魔術を学ぶ者にとって最も憧れを抱く存在であり、古くから竜と魔術とは切っても切り離すことのできぬものであるとされてきた。
その明確な理由は、最早忘れ去られて久しいが……それでも今なお、多くの魔法使いが竜を求めて生き、そして死んでいく。
その、竜の翼を持つ者が今、自分の目の前に……
思い耽りながら、ルルナは眩いばかりに瞳を輝かせ、少女をじっと見つめる。
翼の少女もそれに満足げな表情で応え、少々調子に乗った様子で腕を組み大袈裟に立ち直ると、急に鋭い視線でルルナを突き刺すように見つめ返し、高らかに叫んだ。
「よいかルルナ、我が名は大魔王ファノマ! この世の天地全てを手にする者よ!」
「大……魔王……?」
この日、運命は大きく動き出した……かもしれない。
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