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俺の正体
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「田中さん。今度はあんたの話だよ」
日引が突然話を変えた。
「俺の?」
俺に何の話があるんだ?
「自分の事は知っといた方がいいからね。あんたは樹海からこの町に連れてこられたよね。その時から半分持って行かれてるんだよ」
俺はあの会話を思い出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「この人は生きてますよ」
「そんな事は知ってるよ。でも、半分はもう持ってかれちまってるね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夢だと思っていた会話の真相が聞けるのか。
俺は黙って日引の顔を見る。
「あんたは今、半分生きていて半分死にかけている」
「は?…半分?」
「そう。アレを見せれば一目瞭然なんだが、外に出ることは出来ないからね」
「アレって?俺さっき外に出だぜ?買い出しに言ってきたんだ」
「猿っちと一緒にだろ?」
(猿っち?・・ああ飯野の事か)
水島が素早く
「日引さんは人の名前の後ろに「っち」ってつけるのが好きなんです」
と俺に小声で教えてくれた。
「ふん。あんたは経験しているはずだよ。私とみずっちが町の入口で話をしているのを盗み聞きしていた時、頭痛がして倒れただろ?一人でこの町から出るのは無理なのさ。そうなっちまう。それは何故か・・・さっきも言ったが、この町は私の結界が張られている。生きている人間や物は難なく出ることは出来る。が、後藤のような悪霊は出られない。ああ、勘違いするんじゃないよ。あんたが悪霊だと言っているんじゃないんだ。あんたは今中途半端なんだよ。あんたの本当の体は今、樹海の中にある。樹海に入って首を吊ろうとしたんだろ?首を吊ったはずなのに死んでいない。ロープが切れて助かった・・そうじゃないんだ。首を吊ったまでは本当さ。そこで今止まってる。あんたの体は樹海の中でロープに首を入れてぶら下がった状態で止まってるのさ」
「止まってる?どういう事だ?」
「今、あの広い樹海の至る所に私の子供達がいる。その子供達が自殺をしようとしている人をいったん止めているんだよ。ただ全ての人を止めることは出来ないけどね。あんたとちひろの場合、子供達が近くにいたから止める事が出来た」
「じゃあ、今ここにいる俺は何だ?」
「今、私の目の前にいるあんたは魂さ」
「魂?悪いがあんたの言ってることはさっぱり理解できない。もっとわかりやすく言ってくれ」
「百聞は一見に如かずだね。みずっち、鏡を持っておいで」
「・・・はい」
何故か水島は悲しそうだ。
大きめの丸い手鏡を持ってきた水島は、ソレを日引に渡す。
「鏡はその人の本性を写すと言われている。いいかい。これが今のあんたの姿だよ」
日引は俺の方に鏡を向けた。
「‼‼・・・何だこれは・・・」
自分の姿は自分がよく分かっている。産まれてからずっとその姿で生きてきた。今は、浮浪者のような姿になってると思うが・・・鏡の中の自分は・・・俺は・・・ピンク色のウサギのキーホルダーが鏡の中にいた。
俺が死のうとした時、ポケットの中にあったあのキーホルダーだ。
「あんたの子供の物かい?可愛いウサギだね。あんたの魂がそのウサギを依り代にしているんだよ」
日引はスッと鏡を下ろすと
「つまり、さっき言った「半分持ってかれちまってる」の意味は半分は私に。もう半分は「縄」に持ってかれちまってるのさ。ちひろも同じだよ。あの子も首を吊ったところで止まりこの町にやってきた。依り代を使い魂だけここにね。だが、あの後藤に隙を突かれてしまったのさ。結局、首吊りの続きが実行された。あんたがこの町で見たちひろの首吊りは依り代の首吊り。普通の人間に見えたかもしれないけどね。本体は樹海のどこかで・・・」
もう日引の声が俺には届いていなかった。ある事を思い出したからだ。
あの時、ちひろが真っ青な顔をして帰って来た時「見間違い」「気のせい」などと口にしていた。もしかしたら、後藤がちひろに鏡を見せたのではないか・・・今のちひろの姿を・・・鏡に自分の姿が映らず、ちひろの魂が依り代としている物が写っていたとしたら・・ちひろは混乱するだろう。
俺ははらわたが煮えくり返るほどの怒りが出た。
人の心を弄ぶかのように「死」を選ばせる後藤。絶対に許せない。
「日引さん。探している「縄」は何処にあるか見当はついているのか?」
「だいたいね。散らばっている子供達が範囲を縮めながら探していてね。おおよその見当はついてるよ」
「見つけたらどうするんだ?」
「燃やすのさ。アレは私の手にも負えない物だ。例えばだ、縄が水を含んだらどうなる?乾いている時より強度が増すような気がしないかい?それと同じで、あの「縄」は最初兄の念だけだったのが、水の様に他の色々な念を吸い込んだ。もう「縄」自身も歯止めが利かなくなってるんだろうね」
「その「縄」子孫が持っていたって言ってたけど、その人達には何もなかったのか?」
「全員死んだよ」
「え」
「私の所に「縄」を持ってきた一か月後に全員ね」
「事故か何かでか?」
「・・・いや。その家の長男が家族みんなを殺しちまったのさ。その後、長男は近くの学校の裏で首をつっていたらしい。近所の人が、奇声をあげながら長男が家から出て行ったのを見たという人がいた。その時長男は「みんないなくなればいい!」と何回も叫んでいたらしい」
「みんないなくなれば・・・」
「まぁ、元々その家庭に何があったのかはわからないが、長男を知っている人の話だと馬鹿がつくほど優しい人だったらしい。私が考えるに、長男は憑かれてしまったんだと思っている。「縄」に憑く兄にね。「みんないなくなればいい」という言葉は兄の想いさ。これは憶測でしかないが七人兄弟の一番上という事もあり何かと頼りにされてたんだろう。それが煩わしかったのかもしれないねぇ」
日引はお茶をゆっくりと飲んだ。
チリン
こんな話をしている場にふさわしくない澄んだ鈴の音が聞こえる。見ると、日引の帯締めの所に小さな可愛い鈴が付いていた。
「・・・帰るよ」
「え?帰るんですか?送っていきますよ」
立花・・・じゃなく水島が慌てて立ち上がったが、俺は黙って手だけで制すると水島の家を出た。
日引が突然話を変えた。
「俺の?」
俺に何の話があるんだ?
「自分の事は知っといた方がいいからね。あんたは樹海からこの町に連れてこられたよね。その時から半分持って行かれてるんだよ」
俺はあの会話を思い出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「この人は生きてますよ」
「そんな事は知ってるよ。でも、半分はもう持ってかれちまってるね」
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夢だと思っていた会話の真相が聞けるのか。
俺は黙って日引の顔を見る。
「あんたは今、半分生きていて半分死にかけている」
「は?…半分?」
「そう。アレを見せれば一目瞭然なんだが、外に出ることは出来ないからね」
「アレって?俺さっき外に出だぜ?買い出しに言ってきたんだ」
「猿っちと一緒にだろ?」
(猿っち?・・ああ飯野の事か)
水島が素早く
「日引さんは人の名前の後ろに「っち」ってつけるのが好きなんです」
と俺に小声で教えてくれた。
「ふん。あんたは経験しているはずだよ。私とみずっちが町の入口で話をしているのを盗み聞きしていた時、頭痛がして倒れただろ?一人でこの町から出るのは無理なのさ。そうなっちまう。それは何故か・・・さっきも言ったが、この町は私の結界が張られている。生きている人間や物は難なく出ることは出来る。が、後藤のような悪霊は出られない。ああ、勘違いするんじゃないよ。あんたが悪霊だと言っているんじゃないんだ。あんたは今中途半端なんだよ。あんたの本当の体は今、樹海の中にある。樹海に入って首を吊ろうとしたんだろ?首を吊ったはずなのに死んでいない。ロープが切れて助かった・・そうじゃないんだ。首を吊ったまでは本当さ。そこで今止まってる。あんたの体は樹海の中でロープに首を入れてぶら下がった状態で止まってるのさ」
「止まってる?どういう事だ?」
「今、あの広い樹海の至る所に私の子供達がいる。その子供達が自殺をしようとしている人をいったん止めているんだよ。ただ全ての人を止めることは出来ないけどね。あんたとちひろの場合、子供達が近くにいたから止める事が出来た」
「じゃあ、今ここにいる俺は何だ?」
「今、私の目の前にいるあんたは魂さ」
「魂?悪いがあんたの言ってることはさっぱり理解できない。もっとわかりやすく言ってくれ」
「百聞は一見に如かずだね。みずっち、鏡を持っておいで」
「・・・はい」
何故か水島は悲しそうだ。
大きめの丸い手鏡を持ってきた水島は、ソレを日引に渡す。
「鏡はその人の本性を写すと言われている。いいかい。これが今のあんたの姿だよ」
日引は俺の方に鏡を向けた。
「‼‼・・・何だこれは・・・」
自分の姿は自分がよく分かっている。産まれてからずっとその姿で生きてきた。今は、浮浪者のような姿になってると思うが・・・鏡の中の自分は・・・俺は・・・ピンク色のウサギのキーホルダーが鏡の中にいた。
俺が死のうとした時、ポケットの中にあったあのキーホルダーだ。
「あんたの子供の物かい?可愛いウサギだね。あんたの魂がそのウサギを依り代にしているんだよ」
日引はスッと鏡を下ろすと
「つまり、さっき言った「半分持ってかれちまってる」の意味は半分は私に。もう半分は「縄」に持ってかれちまってるのさ。ちひろも同じだよ。あの子も首を吊ったところで止まりこの町にやってきた。依り代を使い魂だけここにね。だが、あの後藤に隙を突かれてしまったのさ。結局、首吊りの続きが実行された。あんたがこの町で見たちひろの首吊りは依り代の首吊り。普通の人間に見えたかもしれないけどね。本体は樹海のどこかで・・・」
もう日引の声が俺には届いていなかった。ある事を思い出したからだ。
あの時、ちひろが真っ青な顔をして帰って来た時「見間違い」「気のせい」などと口にしていた。もしかしたら、後藤がちひろに鏡を見せたのではないか・・・今のちひろの姿を・・・鏡に自分の姿が映らず、ちひろの魂が依り代としている物が写っていたとしたら・・ちひろは混乱するだろう。
俺ははらわたが煮えくり返るほどの怒りが出た。
人の心を弄ぶかのように「死」を選ばせる後藤。絶対に許せない。
「日引さん。探している「縄」は何処にあるか見当はついているのか?」
「だいたいね。散らばっている子供達が範囲を縮めながら探していてね。おおよその見当はついてるよ」
「見つけたらどうするんだ?」
「燃やすのさ。アレは私の手にも負えない物だ。例えばだ、縄が水を含んだらどうなる?乾いている時より強度が増すような気がしないかい?それと同じで、あの「縄」は最初兄の念だけだったのが、水の様に他の色々な念を吸い込んだ。もう「縄」自身も歯止めが利かなくなってるんだろうね」
「その「縄」子孫が持っていたって言ってたけど、その人達には何もなかったのか?」
「全員死んだよ」
「え」
「私の所に「縄」を持ってきた一か月後に全員ね」
「事故か何かでか?」
「・・・いや。その家の長男が家族みんなを殺しちまったのさ。その後、長男は近くの学校の裏で首をつっていたらしい。近所の人が、奇声をあげながら長男が家から出て行ったのを見たという人がいた。その時長男は「みんないなくなればいい!」と何回も叫んでいたらしい」
「みんないなくなれば・・・」
「まぁ、元々その家庭に何があったのかはわからないが、長男を知っている人の話だと馬鹿がつくほど優しい人だったらしい。私が考えるに、長男は憑かれてしまったんだと思っている。「縄」に憑く兄にね。「みんないなくなればいい」という言葉は兄の想いさ。これは憶測でしかないが七人兄弟の一番上という事もあり何かと頼りにされてたんだろう。それが煩わしかったのかもしれないねぇ」
日引はお茶をゆっくりと飲んだ。
チリン
こんな話をしている場にふさわしくない澄んだ鈴の音が聞こえる。見ると、日引の帯締めの所に小さな可愛い鈴が付いていた。
「・・・帰るよ」
「え?帰るんですか?送っていきますよ」
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