輪(りん)

玉城真紀

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継続

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そして二年が経ち遂に双子は七歳を迎えた。

この日は双子の誕生日でもあり、小此鬼家がなんの災いも起きずにこの日を迎えることが出来たという事で、家の中が蜘蛛の巣をつついたかのように騒がしかった。たすき掛けをした女中が右へ左へとせわしなく行き来している。その中でもきぬは凄く張り切っていた。とても嬉しそうな顔をして、双子の世話と食事や部屋の用意をしている。双子もいつも着ている着物とは違い、綺麗な朱色に白い小さな花が散りばめられている着物を着せられた。母親がこの日のためにとあつらえたものである。母親は嬉しそうに双子を着飾ると、自分も綺麗な余所行きの着物に着替え、双子の前に座ると

「今日はあなた達の七つの誕生日です。この日をどれだけ待ったか。ようやくこの忌まわしい面も取れます。よく我慢しましたね」

母親は双子の頭を両手でやさしく撫でた。

座敷の準備ができると、小此鬼家に次々と正装をした人達が訪れた。皆口々に

「おめでとうございます」

「良かったですね」

と祝いの言葉を述べている。まるで結婚式のようだ。
座敷に客人達を通し終わると次に家人達が入る。主人を先頭にチヨ、母親に抱かれたハル。そして今まで双子の前に現れなかった祖父母。上座に双子を挟む形で両親が座り、それを挟むように祖父母が座る。
途中、村人の息を飲む音が聞こえたような気がしたが、般若の面に驚いたのだろうと思った母親は、気にすることはなかった。


客人達が見守る中、主人がスッと立ち上がると挨拶が始まった。

「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。無事娘が七つの誕生日を迎えることが出来ました。皆様もご存知の通り、本日をもって娘がつけている面を外すことが出来ます。ようやく皆様に娘をお見せすることが出来る事を心から嬉しく思っております。娘を加えました小此鬼家をこれから末永くよろしくお願いいたします。ささやかですが料理を用意いたしました。どうぞお召し上がりください」

祝いの膳はそれは見事なものだった。野菜中心の料理だが、色とりどりの花畑がお膳の上で咲いているかのようだ。主人の挨拶が済むと、女中たちが酒を運んで来る。

集まった村の者達も主人の挨拶に拍手した後、思い思いに料理を食べ始める。次第に、酒が進んでくると座敷の真ん中に来て踊り出す者や、歌いだす者が出てきて賑やかになった。チヨは豪華な食事に舌鼓をうっている。

その中、母親はそっと祖父母を見る。二人共楽しそうだ。その姿にホッと胸をなでおろし、今日で今までの生活が終わりチヨとハルはこれから伸び伸びと生活ができると思うととても嬉しかった。

「さて、宴もたけなわですが。今日最も大切なお披露目を行いたいと思います」

二時間ぐらいしてかだろうか、夫が声を上げた。遂に双子の面を取るのだ。その言葉を聞いた皆は、きちんと座りなおし双子に注目する。夫がまずチヨの面に手をかけた。

「?」

「何だ?」

いくら待っても夫はチヨの顔から面を外さない。不思議に思った客人達から波のようにざわめきが広がって行く。
当の夫は焦っているようで、何度もチヨと面の境を覗き込んでいる。

「取れないぞ」

娘の顔から面が外れない。面の両脇についている紐をほどき顔の横から指をあて引き剥がそうとするがびくともしない。チヨの顔に吸い付くようにくっついてしまっている。

「何でだ?」

顔を赤くした夫が言う。

「取れないのですか?」

母親も泣きそうな顔をしながら言った。
その言葉を聞いた客人達は

「取れないだって?」

「何てことだ・・・・・・」

「取れないなんてことがあるのか?」

「嘘だろ・・・・・・」

状況が分かり始めた村の者達は酒で赤くなった顔を青くしながら口々に言い出した。
その時

パンパンパン

誰かが大きく手を打った。
ざわついていた座敷が一瞬にして静かになる。音がする方を見ると、祖母が立ち上がり客の方を見て

「大変申し訳ございません。面の取り方を教えていなかったものですから手間取っているようです。時間がかかるようでございますので、お忙しい皆様を引き留めては申し訳ありません。なので一旦ここでお開きにしたいと思います。この後の事は、必ず皆様にご報告させていただきます」

と、動揺を見せることなく話した。客達は、納得していない人も中にはいたが祖母の有無を言わさない雰囲気に、後ろを振り返りつつも黙って帰って行った。

最後の客が座敷を出るのを見届けると、祖母は音もなく移動し母親の前に向かい合うように座る。母親はこの状況を何とかしないといけないと思うが気持ちが焦りまともに考えることが出来ない。

「今まで、この小此鬼家に双子が産まれた事は何度かあります。私の祖母も双子でした。その度に、面を被り災いを避け七つの誕生日に外し・・・・・・というようにやってきたと聞いてます。しかし、面が取れないという事は聞いたことがありません。考えられるのは、まだお許しをもらえていないという事です。残念ですけど、まだしばらくその面をつけていてもらわなくてはいけませんね。部屋を用意します。今日からそちらの部屋で過ごすように」

祖母は、顔色一つ変えず言い放った。

「え?部屋を用意するって。今までこの子達は外にも出られず家の中でずっと我慢して来ました。なのに今度は部屋からも出られないって事ですか?」

母親は驚いて言った。

「そうです。部屋から一歩も出てはいけません」

「そんな・・・・・・」

母親は助けを求めるように夫を見たが、夫は辛そうな表情をするだけで祖母に対して何も言ってはくれなかった。祖父も同じで地蔵のように黙っている。何を考えているのかさえわからない。

「お、お義母さん。先程取り方が分からないのでって言いましたよね?取り方があるのであれば教えてください」

「取り方なんてありません。あなたもお面を被ったことがあるでしょう?どう外しましたか?それも同じです。こんな前代未聞の事を村の人達の前で、さらし続ける事等出来るわけないでしょう?咄嗟についた嘘ですよ」
祖母は吐き捨てるように言った。

「そんな・・・・・・も、もう少し待ってください。何かが引っかかっているのかも」

母親は夫の代わりに、娘の顔から面を外そうとする。

「もう結構です。すぐに用意はさせますから準備が出来次第そちらの部屋へ移るように」

そう言うと、サッサと座敷を出て行ってしまった。祖父もこちらを一目も見ずに祖母の後から出て行く。

母親は夫の方を見た。夫は先程と同じ表情のままだったが

「何で取れないんだろう。チヨ、ちょっと下を向いてくれるかい?」

夫も何とかして取ろうとしている。その後二人は、女中が部屋の用意が出来たと言いに来るまでずっと娘の顔から面を取ろうと奮闘していた。チヨも、面を早く取りたいのか、辛抱強く我慢していた。

その内、いつの間に来たのか女中が座敷の入口に立ちこちらを見ている。部屋の用意が出来たんだからさっさと行ってくれという思いが顔に出ている。その奥の方ではきぬが辛そうな顔をしてこちらを見ていた。

「仕方ない。一度その部屋へ移動してからまた見てみよう」

夫は先に座敷を出た。母親もそれに続くためハルを抱きチヨを促した。
チヨは何も言わずに母親に促されるままゆっくりと座敷を出る。残念なのだろう、肩を落とし歩くその姿を見た母親は、涙が止まらなかった。

(何て不憫な事。これまで本当に我慢して来たのに・・・・・・)

同年代の子供達なら、周りの子達と外で遊んだり家の事を手伝ったりしている歳だ。親に我儘を言ったり兄弟がいるなら喧嘩をしたりと子供らしく成長しているはず。なのにこの子達は、家の中だけではなく今度は部屋の中でしか自由がないとは。
部屋に向かう間の廊下がやけに冷たく感じた。
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