陰鬼

玉城真紀

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「はぁ、はぁ、はぁ」

細川は、高揚する自分の気持ちを抑えるため走った。
山本には悪いが、こんな楽しいことはない。マンネリ化した生活の中で、少しでも刺激を求めたくて廃墟や心霊スポットを探索してきた。その探索も、最近つまらなくなってきた所だった。

「はぁ、まさかこんなことになるとはね。ハハハ」

山本は会社の同僚で、いい奴なんだがたまに鼻につくところがある。
それに・・・飽きてきた。

「ハハハ」
細川は、この状況下でこんな事を考える自分を恐ろしくも頼もしくも思いながら走っていた。

「お~い」

司は声がした方を振り返った。
細川がこちらに手を振りながら走ってくる。

「お待たせ~」

「すみません。頼んじゃって」

「はぁ、いいよいいよ。さ、まずしんちゃんを見つけないとね。取り敢えず、俺はこっちのほう探すから、君は沼の方向を中心に探してよ。」

「沼の方?」

「だって、沼から遠い場所で追いかけられて、捕まったら大変だろ?だから初めから沼の方向にいた方がいいじゃないか」

「それもそうですね」

「あ、それと。君、携帯持ってるよね?俺の番号教えるから、電話がつながった状態で探そう。しんちゃんを見つけた時かけてる暇ないかもしれないからね」

「分かりました」


司は細川の指示通り、携帯を通話状態にして沼の方向へ歩き出した。細川は別の方向を探す。
虫の声や風で葉が擦れ合う音、何が出しているのか分からない音。それ以外は静寂が支配する闇の中歩くのは気味が悪い。


(会いたくなくて逃げ回っていた相手を、今度は探すなんて・・・でも、早く見つけなきゃ夜が明けちまうな)

司は、東の空を見た。まだ暗闇が支配しているが、心なしか明るいような気がする。

たたたたたったたた

何か聞こえる。
咄嗟に振り向くと、今来た方向から懐中電灯を右手に持ちグルグルと回しながら走ってくる奴が見えた。

来た!

全身が一気に寒くなっていくのが分かる。逃げなくてはと思うのだが、足がすぐに動いてくれない。次第に近づいてくる黒い人。

(ヤバい、ヤバい、ヤバい)

司は体を奮い立たせると、全速力で沼めがけて走り出す。全力で走っているつもりだが、上手く体が動かない。細川と繋がっている携帯を見ると何故か真っ黒だ。

(はぁ⁉アイツ電話切りやがったな!ちくしょう!)

司は、地面に着く足に力を込め走る。さっきの走りよりは幾分調子を取り戻したような気がする。

「はぁ、はあ、はぁ」

司は、教わった道を間違えないよう必死になって走る。

(はぁ、はぁ、ここは真っ直ぐに・・・はぁ、あそこだ。あの岩の所を右に入って行くんだ)

目標の岩が近づいてくる。それを過ぎたら、舗装されていない道を走る事になるだろう。一度後ろを振り返る。

「?」

しんちゃんは、自分を追いかけてきてはいるのだが何故か司と一定の距離を取っているような気がした。

(初めて会って追いかけられた時の方が、早かったんじゃないか?)

ようやく、目標の岩の所を右に曲がる。予想通り、舗装されていない獣道が伸びていた。少し上り坂になっているようで、さっきよりも走るのがきつい。
しんちゃんは、もう近くにまで迫ってきているのか「ぐぶぶぶ」と低いくぐもった声がかすかに聞こえる。
ゾッとした司は、倒れそうなほどの前傾姿勢を取り足に力を込める。次第に、今まで月明かりが照らしてくれていた道が、木々に遮られ暗闇の中走って行く。

(ヤ・・ヤバい・・限界・・後・・・少し・・・左側に・・・)

息も絶え絶えの状態で走る司は、視線を左に移す。すると、木が生い茂る中ぽっかりと開いているスペースがあるのに気が付く。

(あそこだ)

司は、ゴールが見えてきた事にホッとし最後の力を振り絞り走った。
沼の近くに行くと、一瞬走る速さを緩めてしまった。
沼の場所に行く入り口は、木が生えていなく黒々とした洞窟に入って行くかのようだった。

「こっちだよ」

その暗闇の中から声がした。あのお爺さんだ。
司はホッとして声の方へ走り寄った。


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