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気づき
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その頃の私は、一人部屋の中で祭壇に向かい手を合わせていた。
小さな電球一つが照らし出す祭壇の前で一人座る。祭壇に飾られている物は意外にも少なかった。花は造花で水と香炉。そして中央には元は白い紙だったが、年月とともに色が変色したのか黄ばんだ紙に描かれた真っ黒な人。
(気味が悪い)
しかし、あのお爺さんが言ったのだ。この紙に描かれている真っ黒い人の兄。何か意味があっての事だろう。
小さな物音がするたび過敏に反応する。自分を落ち着かせ我慢しながら手を合わせる。
(でも・・・本当にこんな事ってあるのね・・・私はお化けなんて見た事がないから分からないけど、たまに不思議な体験をした人の話を聞いた事があるわ。でもよくある話だったりして信じてなかった。まさか自分がこんな事になるなんて・・・司たちは大丈夫かしら。沼までおびき寄せたとしても、あのお爺さんそれからどうするつもりなんだろう)
手を合わせながら、司を心配しながら今回の事を思い返していた。
考えているうちにふと、ある事に気が付いた。
(あれ?あの時・・・そしてあの時も・・・)
私は、血相変えて部屋を飛び出した。
「よしよし。ここからは俺がやる」
杖で、丸い背中を支えながら立つ老人に頼れるのか不安だったが任せるしかない。司は初めて見る小さな祠の裏に回り隠れた。すぐ隣には沼があるのだが、月もだいぶ傾き周りの木々に遮られ明かりがない。大きな黒い穴がぽっかりと開いているかのように見えた。
老人は、これから来るであろう黒い奴の方向へゆっくりと歩き出す。
これからどうするのか・・・
司はかたずを飲みながら老人の行動を見守る。
パシャン
沼の方で小さく音がした。
まるで魚が撥ねたような音だ。
老人もその音を聞いたのだろう。司同様同じ方向を見る。
パシャン
また音がした。
(それにしても、中々来ないな)
司を追いかけていた速さを考えると、とっくについていてもいいはずなのに姿を見せない。老人は、沼の入口の辺りにジッと立ちしんちゃん(弟)を待つ。
どの位経っただろう。祠の裏にしゃがんで隠れている司の足のしびれが強くなってきた頃、老人は、こちらに歩いてきた。
それに気が付いた司は、祠の裏から出て老人の方へ行くと
「おかしいですね。確かに俺の事追いかけて来たのに」
「う~ん。一体どういう事なんだ」
パシャン
また音がした。
司は沼の方を見て
「魚か何かいるんですか?この沼」
「いや。何も住んでないはずだ。昔は小魚がいたんだが、年々沼の濁りが酷くなって生き物は住めなくなったんだ」
「でも、さっきから音がしてますよね」
「ああ」
俺と老人は、ぽっかりと開いた黒い穴のような沼を凝視した。
祖母の家から飛び出すように出た私は、急いで司の元へ走った。
(そうだ。絶対におかしい。そうなると・・司は・・・由美子は・・ユウ君は・・・)
不安で胸が押しつぶされそうになる。頭の中では、考えたくないのに最悪な事がグルグル回っている。
「え?」
沼に行く時の目印。岩の所から誰かが出てきた。
咄嗟に茂みに隠れる。
出て来た者はゆっくりと「ざっざっざ」と足音を立てながらこちらに歩いてくる。
(司?終わったの?)
丁度運悪く、雲が月を隠してしまい歩いてくる者の姿を見ることが出来ない。よく見たいが、これ以上顔を出すと相手に見つかってしまう。自分の目の前を通るまでしばらく我慢だ。
「ざっざっざ」
来た。もうすぐ目の前に来る。人の濃い気配も感じるようになってきた。近付いてきているのが司でありますようにと、祈る気持ちで歩いてくる者を茂みの中で待つ。
呼吸も荒くなり、自分の鼓動が耳元で聞こえる。緊張に耐えきれず私は顔を伏せてしまった。
「ざっざっざっざ・・・・・」
足音が止まった。
(え?)
顔を伏せ足音で距離を判断していたその足音が、突然やんだのだ。おかしいと思いゆっくりと顔を上げる。
「ぐぶぶぶぶぶ」
目の前に、真っ黒な丸いものがあった。
一瞬それが何なのかすぐにわからなかった。
「ぐぶぶぶぶ」
「ひぃっ!」
アイツだ。あの黒い奴。しんちゃんだ・・・・いや、違う。こいつは。
「あ・・・あんたの・・・あんたの正体分かったんだから」
私は絞り出すように声を出した。震えていたので相手に伝わったかは分からない。しかし、それまで私を威嚇するように顔を近づけていた黒い奴は動きを止めた。
どうやら私が行った事は伝わったらしい。私は、自分の考えがあっている事をこれで確信した。
「あんたは・・・」
私がソイツの名前を言おうとした時だ。突然明るい光が私達二人を照らす。私と黒い奴は驚き、光の方を見るが、眩しくて誰なのか分からない。
「大丈夫か!お前はこっちだ!こっちにこい!」
司だ。司が来てくれたんだ。
「司!この人!」
私が司に自分が分かったこと伝えようとした時
「ぐぶぶぶあ」
黒い奴が何か言った。今までとは違い言葉になっているような音だ。黒い奴はそう言った後ゆっくりと立ち上がると、司の方へ歩いて行く。
その後姿を見て体中から血の気が引いた。
黒い奴は右手に懐中電灯、左手にナイフを後ろ手で隠し持っているのだ。
急いで司にその事を伝えなくてはいけないのに、恐怖のあまり声が出ない。出るのは「ヒュ~ヒュ~」と言う乾いた息ばかり。
茂みから出たくても体が震え足に力が入らない。
(司!気がついて!ソイツは、ソイツはしんちゃんじゃない!)
声にならない声で叫ぶ。
それに気が付いた黒い奴は、一度私の方を振り向くと
「ぼぼぼぼうお」(もうおそいよ)
これまでとは違う音で何かを言った。
小さな電球一つが照らし出す祭壇の前で一人座る。祭壇に飾られている物は意外にも少なかった。花は造花で水と香炉。そして中央には元は白い紙だったが、年月とともに色が変色したのか黄ばんだ紙に描かれた真っ黒な人。
(気味が悪い)
しかし、あのお爺さんが言ったのだ。この紙に描かれている真っ黒い人の兄。何か意味があっての事だろう。
小さな物音がするたび過敏に反応する。自分を落ち着かせ我慢しながら手を合わせる。
(でも・・・本当にこんな事ってあるのね・・・私はお化けなんて見た事がないから分からないけど、たまに不思議な体験をした人の話を聞いた事があるわ。でもよくある話だったりして信じてなかった。まさか自分がこんな事になるなんて・・・司たちは大丈夫かしら。沼までおびき寄せたとしても、あのお爺さんそれからどうするつもりなんだろう)
手を合わせながら、司を心配しながら今回の事を思い返していた。
考えているうちにふと、ある事に気が付いた。
(あれ?あの時・・・そしてあの時も・・・)
私は、血相変えて部屋を飛び出した。
「よしよし。ここからは俺がやる」
杖で、丸い背中を支えながら立つ老人に頼れるのか不安だったが任せるしかない。司は初めて見る小さな祠の裏に回り隠れた。すぐ隣には沼があるのだが、月もだいぶ傾き周りの木々に遮られ明かりがない。大きな黒い穴がぽっかりと開いているかのように見えた。
老人は、これから来るであろう黒い奴の方向へゆっくりと歩き出す。
これからどうするのか・・・
司はかたずを飲みながら老人の行動を見守る。
パシャン
沼の方で小さく音がした。
まるで魚が撥ねたような音だ。
老人もその音を聞いたのだろう。司同様同じ方向を見る。
パシャン
また音がした。
(それにしても、中々来ないな)
司を追いかけていた速さを考えると、とっくについていてもいいはずなのに姿を見せない。老人は、沼の入口の辺りにジッと立ちしんちゃん(弟)を待つ。
どの位経っただろう。祠の裏にしゃがんで隠れている司の足のしびれが強くなってきた頃、老人は、こちらに歩いてきた。
それに気が付いた司は、祠の裏から出て老人の方へ行くと
「おかしいですね。確かに俺の事追いかけて来たのに」
「う~ん。一体どういう事なんだ」
パシャン
また音がした。
司は沼の方を見て
「魚か何かいるんですか?この沼」
「いや。何も住んでないはずだ。昔は小魚がいたんだが、年々沼の濁りが酷くなって生き物は住めなくなったんだ」
「でも、さっきから音がしてますよね」
「ああ」
俺と老人は、ぽっかりと開いた黒い穴のような沼を凝視した。
祖母の家から飛び出すように出た私は、急いで司の元へ走った。
(そうだ。絶対におかしい。そうなると・・司は・・・由美子は・・ユウ君は・・・)
不安で胸が押しつぶされそうになる。頭の中では、考えたくないのに最悪な事がグルグル回っている。
「え?」
沼に行く時の目印。岩の所から誰かが出てきた。
咄嗟に茂みに隠れる。
出て来た者はゆっくりと「ざっざっざ」と足音を立てながらこちらに歩いてくる。
(司?終わったの?)
丁度運悪く、雲が月を隠してしまい歩いてくる者の姿を見ることが出来ない。よく見たいが、これ以上顔を出すと相手に見つかってしまう。自分の目の前を通るまでしばらく我慢だ。
「ざっざっざ」
来た。もうすぐ目の前に来る。人の濃い気配も感じるようになってきた。近付いてきているのが司でありますようにと、祈る気持ちで歩いてくる者を茂みの中で待つ。
呼吸も荒くなり、自分の鼓動が耳元で聞こえる。緊張に耐えきれず私は顔を伏せてしまった。
「ざっざっざっざ・・・・・」
足音が止まった。
(え?)
顔を伏せ足音で距離を判断していたその足音が、突然やんだのだ。おかしいと思いゆっくりと顔を上げる。
「ぐぶぶぶぶぶ」
目の前に、真っ黒な丸いものがあった。
一瞬それが何なのかすぐにわからなかった。
「ぐぶぶぶぶ」
「ひぃっ!」
アイツだ。あの黒い奴。しんちゃんだ・・・・いや、違う。こいつは。
「あ・・・あんたの・・・あんたの正体分かったんだから」
私は絞り出すように声を出した。震えていたので相手に伝わったかは分からない。しかし、それまで私を威嚇するように顔を近づけていた黒い奴は動きを止めた。
どうやら私が行った事は伝わったらしい。私は、自分の考えがあっている事をこれで確信した。
「あんたは・・・」
私がソイツの名前を言おうとした時だ。突然明るい光が私達二人を照らす。私と黒い奴は驚き、光の方を見るが、眩しくて誰なのか分からない。
「大丈夫か!お前はこっちだ!こっちにこい!」
司だ。司が来てくれたんだ。
「司!この人!」
私が司に自分が分かったこと伝えようとした時
「ぐぶぶぶあ」
黒い奴が何か言った。今までとは違い言葉になっているような音だ。黒い奴はそう言った後ゆっくりと立ち上がると、司の方へ歩いて行く。
その後姿を見て体中から血の気が引いた。
黒い奴は右手に懐中電灯、左手にナイフを後ろ手で隠し持っているのだ。
急いで司にその事を伝えなくてはいけないのに、恐怖のあまり声が出ない。出るのは「ヒュ~ヒュ~」と言う乾いた息ばかり。
茂みから出たくても体が震え足に力が入らない。
(司!気がついて!ソイツは、ソイツはしんちゃんじゃない!)
声にならない声で叫ぶ。
それに気が付いた黒い奴は、一度私の方を振り向くと
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これまでとは違う音で何かを言った。
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