吸収

玉城真紀

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異変 壱

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「あら、もう四時?」
何冊目かになる本を棚に仕舞う時腕時計が視界に入る。
「早く帰らないと。香織もう帰ってるかしら」
明子はいそいそと図書館を出るとバス停に向かった。

「ただいま~」
家の玄関を開け、もう帰ってきているであろう香織に声を掛けてみた。
返事がない。
返事がない代わりに、部屋の奥の方から楽しそうな話声が聞こえる。
(お友達でも来てるのかしら)
目線を下に向け靴を確認してみるが、子供の靴は香織の靴しかない。
(テレビでも見てるのかもね)
そう考え奥のリビングへと廊下を歩いて行く。近付くにつれ、話声が鮮明に聞こえてきた。
「そうそう。ははは!」
「あの子は面白い人なのよ」
「そうなの。この前もね給食を食べている時に・・」
リビングのドアを開けようとした明子の手が止まる。
(テレビ?でもこの声・・)
楽しげに会話する声が聞こえてくる。
リビングのドアはすりガラスがはめ込まれているドアで鮮明ではないが中で人が動けば分かる。明子はすりガラス越しに中の様子を見てみるが、人の動いている影などは確認できなかった。明子はリビングのドアをガチャリと開けた。
「あ、お母さんお帰りなさい」
普段食事をするところで、教科書とノートを広げ宿題をやっていた香織が顔を上げ明子を見た。自分の部屋にも机はあるのだが、明子に教えてもらいたいのかリビングの所で宿題をよくする。
「・・ただいま・・」
(香織一人ね・・じゃあテレビ?)
リビングの隣は和室になっており、そこにテレビはある。
明子はすぐにテレビを確認するがついていない。リモコンもテレビの脇に置いてある。
(独り言?)
明子は不思議な気持ちで先程聞こえていた会話を思い出す。どう考えても二人で楽しそうに話しているようだった。しかし、リビングにも和室にも香織以外誰もいない。
「お母さんどうしたの?」
考え込んでいる明子を訝しんだのか香織が声を掛けた。
「え・・ううん。どうもしないわよ。ごめんね遅くなっちゃって」
「大丈夫。どこに行ってたの?」
「図書館よ。新しくなったって聞いたから行って見たの」
「どうだった?」
「とっても綺麗になってたわよ。今度一緒に行く?」
「うん!行く」
そう言うと香織は、教科書に視線を戻し宿題を再開した。
明子は夕食の用意の為台所に立つが、さっき自分が聞いた会話が気になっていた。なぜなら
(あの声は両方とも香織の声だったような・・)
モヤモヤした感じが残ったが、夕食を作っているうちに忘れて行った。
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