吸収

玉城真紀

文字の大きさ
2 / 14

異変 壱

しおりを挟む
「あら、もう四時?」
何冊目かになる本を棚に仕舞う時腕時計が視界に入る。
「早く帰らないと。香織もう帰ってるかしら」
明子はいそいそと図書館を出るとバス停に向かった。

「ただいま~」
家の玄関を開け、もう帰ってきているであろう香織に声を掛けてみた。
返事がない。
返事がない代わりに、部屋の奥の方から楽しそうな話声が聞こえる。
(お友達でも来てるのかしら)
目線を下に向け靴を確認してみるが、子供の靴は香織の靴しかない。
(テレビでも見てるのかもね)
そう考え奥のリビングへと廊下を歩いて行く。近付くにつれ、話声が鮮明に聞こえてきた。
「そうそう。ははは!」
「あの子は面白い人なのよ」
「そうなの。この前もね給食を食べている時に・・」
リビングのドアを開けようとした明子の手が止まる。
(テレビ?でもこの声・・)
楽しげに会話する声が聞こえてくる。
リビングのドアはすりガラスがはめ込まれているドアで鮮明ではないが中で人が動けば分かる。明子はすりガラス越しに中の様子を見てみるが、人の動いている影などは確認できなかった。明子はリビングのドアをガチャリと開けた。
「あ、お母さんお帰りなさい」
普段食事をするところで、教科書とノートを広げ宿題をやっていた香織が顔を上げ明子を見た。自分の部屋にも机はあるのだが、明子に教えてもらいたいのかリビングの所で宿題をよくする。
「・・ただいま・・」
(香織一人ね・・じゃあテレビ?)
リビングの隣は和室になっており、そこにテレビはある。
明子はすぐにテレビを確認するがついていない。リモコンもテレビの脇に置いてある。
(独り言?)
明子は不思議な気持ちで先程聞こえていた会話を思い出す。どう考えても二人で楽しそうに話しているようだった。しかし、リビングにも和室にも香織以外誰もいない。
「お母さんどうしたの?」
考え込んでいる明子を訝しんだのか香織が声を掛けた。
「え・・ううん。どうもしないわよ。ごめんね遅くなっちゃって」
「大丈夫。どこに行ってたの?」
「図書館よ。新しくなったって聞いたから行って見たの」
「どうだった?」
「とっても綺麗になってたわよ。今度一緒に行く?」
「うん!行く」
そう言うと香織は、教科書に視線を戻し宿題を再開した。
明子は夕食の用意の為台所に立つが、さっき自分が聞いた会話が気になっていた。なぜなら
(あの声は両方とも香織の声だったような・・)
モヤモヤした感じが残ったが、夕食を作っているうちに忘れて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...