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異変の知らせ
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明子が学校に憑いた時、今は授業中らしくどこからかビアニカと笛の音が聞こえている。どうやら赤とんぼを演奏している様だ。
「すみません・・失礼します」
明子は、その演奏を聞きながらおずおずと職員室の戸を開けた。
職員室にはちらほらと先生たちがいたが、明子の声が小さかったせいもあり誰も気が付いていない。
「すみません」
今度は少し大きな声を出してみた。
「あ、行平さん」
聞きなれた女性の声がしたので、そちらの方を見ると香織の担任の山口がニコニコと笑顔を見せふくよかな体を揺らしながら近づいてきた。
この山口。年のころは三十代後半ぐらいと聞いているが若白髪のせいか年よりも老けて見える。可愛らしい顔をしているので白髪を染めてダイエットでもすればきっとモテるのにといつも思っていた。
「先生。どうもお世話になります」
「こちらこそお世話になります。どうぞこちらへ」
山口は、余程話を早くしたいのか挨拶もそこそこに別室へと明子を案内した。
明子が案内されたのは理科室だった。
(理科室?)
「すみません。校長先生のお客さんが部屋を使っているもので・・」
山口は、小さな木の椅子を明子に進めながら言い訳をする。
山口と向き合う形で座った明子は
「あの、どういったお話なんでしょうか」
「・・・香織さんですが、ご家庭ではどのように過ごされていますか」
「え?・・どのようにって・・特に変わりなく普通に過ごしていますが」
「香織さんは携帯を持っていますか?」
「いえ。まだ早いと思ってますから持たせていません」
「テレビはどんなものを好んで観ていますか?」
「テレビ・・アニメとかお笑い番組・・あの先生。一体どう言う事なんでしょう」
何を知りたくてこんな質問をされているのか分からない明子は、少しイライラしてきた。
「すみません。実は、学校での香織さんの様子が少しおかしいと感じたものですから」
「おかしい?」
「ええ。申し訳ありません。最初に私が気が付くべきだったんですが、京子さん・・香織さんと仲がいい鈴木京子さんご存知でしょうか」
「はい知ってます」
「京子さんから聞いたんですが・・ここ最近、香織さんは昼休みになると一人でどこかへ行くというのです」
「はぁ」
「それを聞いて最初は、香織さんも京子さんではなく別のお友達と遊んでるのではと思っていたんですが、どうやらそうではないらしく」
「そうではない?」
「ふらりと教室を出て行く香織さんの後を、京子さんはついて行ったそうなんです。そしたら、屋上に出る踊り場で立っているんだそうです・・一人で」
「一人で?香織一人って事ですか?」
「ええ。京子さんは、自分も仲間に入れてもらおうと思って近づいて行ったそうなんですけど香織さん一人だったらしく・・それに」
「それに?」
「何やら楽し気に一人で話をしていたそうで」
「一人で話・・」
その時、明子は思い出した。
リニューアルしたての図書館に行った日、家に帰ったら香織が楽しそうに誰かと会話していたのを聞いた。しかし行って見ると香織一人しかいない。あの時は、変だなと思いはしたがすぐに夕食の準備に取り掛かってしまったため、深くは考えなかった。
考え込んだ明子をよそに山口は話を続けた。
「毎日のように、その場所に行って一人で話しているそうなんです。京子さんが言うには、一人なのに二人いるように話しているって言うんです。小さい子供は自分だけの友達を作るとは聞いていますが、もう三年生ですし・・不安になった京子さんが私に相談して来たと言う訳なんです」
「先生は、香織が一人で話しているのを聞いたんですか?」
「はい。京子さんの案内でそっと行って見ました」
「香織はどんな事を話しているんでしょう」
「それが・・」
突然山口は口ごもった。暫く床を見つめた後、顔を上げ
「「お母さんは私の事を忘れている」と言ったんです」
「忘れている?」
「ええ。私が聞いた会話と言うのは・・」
(お母さんね。私の事なんか忘れちゃってるのよ)
(そうなの?)
(うん。だからね。思い出させてあげようと思ってるんだ)
(どうやって?)
(それは秘密。でもね。あなたにも手伝ってもらいたいの)
(いいよ。なにをするの?)
(それはその時になったら言うわ)
(分かった。でも、お母さんと離れてるって寂しいね)
(うん。たとえ離れてても私のこと思い出してくれたりすれば良かったのに)
(そうだね)
「・・・と言う会話です」
山口は、自分が聞いた会話を再現して見せた。
「一体どう言う事なんでしょうか。何かお友達の間ではやっている遊びとかではないんですか?」
「そうだとしたら、京子さんも余り不思議に思わないでしょう。申し訳ないとは思ったんですが、今回お呼びだてしたのはご家庭での香織さんの様子をお聞きしようと思ったんです」
ショックだった。
やんわりと遠回しに言っている山口だが、結局の所香織に対する家庭での虐待などを疑っているのだと分かったからだ。
「先生のおっしゃりたい事は分かります。しかし、私も主人も香織の事はとても大切にしています。あまり言いたくはない事ですが、二度も流産を経験した後やっと無事に産まれた子です。そんな子を無碍にしたりなんかしません!」
最後は少し声を荒げてしまった。
「落ち着いてください。お気に触ったとしたら申し訳ありません。私達も香織さんの事を他の児童同様に大切に思っています。なのでこう言ったお話を聞こうとしたわけで」
「・・そうですね。すみません。少し興奮してしまったようです」
明子は謝ったが、頭の中では
(私達って・・何か問題があれば学校の名が傷つくから嫌なんでしょ)
と、皮肉っていた。
「家庭の方では、いつもと変わらない香織ですが何かおかしい所があったらまた連絡いただけますか?」
「はい。それは勿論です」
「有難うございます」
こうして、山口との話は終わり明子は家路についた。
明子が学校を出た時、下校時間になったらしく児童たちが校門から出て行っていた。香織も家路についているだろうと思い、通学路をたどるが姿がない。
もう家に着いているのかとも思ったが、明子が家に帰った時にはまだ香織は帰っていなかった。
「寄り道でもしてるのかしら」
香織が帰ってきたら、今回のことを聞いてみようと思っているのだ。山口には家庭では何もないと言ったが、一度だけ香織が一人で話しているのを聞いている。一人遊びならそれでいい。でもそれなら家でやるように言わなければ。学校でやってしまうとどうしてもおかしな子という噂が立ちかねない。
明子は、香織の帰りを待ちつつ夕食の支度を始めた。
プルルルル プルルルル
家の電話が鳴る。
携帯を持つようになってからあまり家の電話を使わなくなった。家の電話にかかってくる電話は大抵勧誘の電話か、詐欺。
明子は出るかどうしようか迷ったが、いつまでも鳴り続ける電話がうるさいので仕方なく出る事にした。
「はい。もしもし」
「あ、行平さん?鈴木です」
「鈴木さん?どうもお世話になってます」
電話の相手は、先程学校で名前が出た京子の母親からだった。
「忙しい時間帯にごめんなさいね。少し気になった事があったものだから」
(もしかしたら、自分の子供から香織のことを聞いて電話して来たのかしら)
明子は、鈴木にわからないように小さくため息を漏らすと
「大丈夫よ。気になった事って?」
「うん・・ちょっと言いにくい事なんだけど・・香織ちゃんね、憑り込まれそうだからお祓いに行った方がいいわよ」
「え?とりこまれる?」
「そう。このままだと別の人格になっちゃうわよ。私、良い所知ってるからそこに家族で行ってお祓いしてもらうといいわよ」
「・・・・・」
明子は腹が立ち自分の顔が熱くなるのが分かった。
学校で虐待を疑われ、オカルト好きな鈴木にはお祓いに行けなど、たかだか独り言が会話になっているだけじゃないか。
何だか変人扱いを受けたような気がした明子は
「うちの子は大丈夫よ。ご心配ありがとう。ごめんなさい、今手が離せないから」
と、早口でまくし立てると電話を切った。
「何なのよ!みんなして!馬鹿じゃないの?」
明子は足音を大きくたてながら台所へ戻り夕食の支度を再開した。
その後、香織が帰ってきたがさっきの鈴木の件もあり落ち着いて香織と話す事が出来ないと思った明子はその日は何も言わなかった。
「すみません・・失礼します」
明子は、その演奏を聞きながらおずおずと職員室の戸を開けた。
職員室にはちらほらと先生たちがいたが、明子の声が小さかったせいもあり誰も気が付いていない。
「すみません」
今度は少し大きな声を出してみた。
「あ、行平さん」
聞きなれた女性の声がしたので、そちらの方を見ると香織の担任の山口がニコニコと笑顔を見せふくよかな体を揺らしながら近づいてきた。
この山口。年のころは三十代後半ぐらいと聞いているが若白髪のせいか年よりも老けて見える。可愛らしい顔をしているので白髪を染めてダイエットでもすればきっとモテるのにといつも思っていた。
「先生。どうもお世話になります」
「こちらこそお世話になります。どうぞこちらへ」
山口は、余程話を早くしたいのか挨拶もそこそこに別室へと明子を案内した。
明子が案内されたのは理科室だった。
(理科室?)
「すみません。校長先生のお客さんが部屋を使っているもので・・」
山口は、小さな木の椅子を明子に進めながら言い訳をする。
山口と向き合う形で座った明子は
「あの、どういったお話なんでしょうか」
「・・・香織さんですが、ご家庭ではどのように過ごされていますか」
「え?・・どのようにって・・特に変わりなく普通に過ごしていますが」
「香織さんは携帯を持っていますか?」
「いえ。まだ早いと思ってますから持たせていません」
「テレビはどんなものを好んで観ていますか?」
「テレビ・・アニメとかお笑い番組・・あの先生。一体どう言う事なんでしょう」
何を知りたくてこんな質問をされているのか分からない明子は、少しイライラしてきた。
「すみません。実は、学校での香織さんの様子が少しおかしいと感じたものですから」
「おかしい?」
「ええ。申し訳ありません。最初に私が気が付くべきだったんですが、京子さん・・香織さんと仲がいい鈴木京子さんご存知でしょうか」
「はい知ってます」
「京子さんから聞いたんですが・・ここ最近、香織さんは昼休みになると一人でどこかへ行くというのです」
「はぁ」
「それを聞いて最初は、香織さんも京子さんではなく別のお友達と遊んでるのではと思っていたんですが、どうやらそうではないらしく」
「そうではない?」
「ふらりと教室を出て行く香織さんの後を、京子さんはついて行ったそうなんです。そしたら、屋上に出る踊り場で立っているんだそうです・・一人で」
「一人で?香織一人って事ですか?」
「ええ。京子さんは、自分も仲間に入れてもらおうと思って近づいて行ったそうなんですけど香織さん一人だったらしく・・それに」
「それに?」
「何やら楽し気に一人で話をしていたそうで」
「一人で話・・」
その時、明子は思い出した。
リニューアルしたての図書館に行った日、家に帰ったら香織が楽しそうに誰かと会話していたのを聞いた。しかし行って見ると香織一人しかいない。あの時は、変だなと思いはしたがすぐに夕食の準備に取り掛かってしまったため、深くは考えなかった。
考え込んだ明子をよそに山口は話を続けた。
「毎日のように、その場所に行って一人で話しているそうなんです。京子さんが言うには、一人なのに二人いるように話しているって言うんです。小さい子供は自分だけの友達を作るとは聞いていますが、もう三年生ですし・・不安になった京子さんが私に相談して来たと言う訳なんです」
「先生は、香織が一人で話しているのを聞いたんですか?」
「はい。京子さんの案内でそっと行って見ました」
「香織はどんな事を話しているんでしょう」
「それが・・」
突然山口は口ごもった。暫く床を見つめた後、顔を上げ
「「お母さんは私の事を忘れている」と言ったんです」
「忘れている?」
「ええ。私が聞いた会話と言うのは・・」
(お母さんね。私の事なんか忘れちゃってるのよ)
(そうなの?)
(うん。だからね。思い出させてあげようと思ってるんだ)
(どうやって?)
(それは秘密。でもね。あなたにも手伝ってもらいたいの)
(いいよ。なにをするの?)
(それはその時になったら言うわ)
(分かった。でも、お母さんと離れてるって寂しいね)
(うん。たとえ離れてても私のこと思い出してくれたりすれば良かったのに)
(そうだね)
「・・・と言う会話です」
山口は、自分が聞いた会話を再現して見せた。
「一体どう言う事なんでしょうか。何かお友達の間ではやっている遊びとかではないんですか?」
「そうだとしたら、京子さんも余り不思議に思わないでしょう。申し訳ないとは思ったんですが、今回お呼びだてしたのはご家庭での香織さんの様子をお聞きしようと思ったんです」
ショックだった。
やんわりと遠回しに言っている山口だが、結局の所香織に対する家庭での虐待などを疑っているのだと分かったからだ。
「先生のおっしゃりたい事は分かります。しかし、私も主人も香織の事はとても大切にしています。あまり言いたくはない事ですが、二度も流産を経験した後やっと無事に産まれた子です。そんな子を無碍にしたりなんかしません!」
最後は少し声を荒げてしまった。
「落ち着いてください。お気に触ったとしたら申し訳ありません。私達も香織さんの事を他の児童同様に大切に思っています。なのでこう言ったお話を聞こうとしたわけで」
「・・そうですね。すみません。少し興奮してしまったようです」
明子は謝ったが、頭の中では
(私達って・・何か問題があれば学校の名が傷つくから嫌なんでしょ)
と、皮肉っていた。
「家庭の方では、いつもと変わらない香織ですが何かおかしい所があったらまた連絡いただけますか?」
「はい。それは勿論です」
「有難うございます」
こうして、山口との話は終わり明子は家路についた。
明子が学校を出た時、下校時間になったらしく児童たちが校門から出て行っていた。香織も家路についているだろうと思い、通学路をたどるが姿がない。
もう家に着いているのかとも思ったが、明子が家に帰った時にはまだ香織は帰っていなかった。
「寄り道でもしてるのかしら」
香織が帰ってきたら、今回のことを聞いてみようと思っているのだ。山口には家庭では何もないと言ったが、一度だけ香織が一人で話しているのを聞いている。一人遊びならそれでいい。でもそれなら家でやるように言わなければ。学校でやってしまうとどうしてもおかしな子という噂が立ちかねない。
明子は、香織の帰りを待ちつつ夕食の支度を始めた。
プルルルル プルルルル
家の電話が鳴る。
携帯を持つようになってからあまり家の電話を使わなくなった。家の電話にかかってくる電話は大抵勧誘の電話か、詐欺。
明子は出るかどうしようか迷ったが、いつまでも鳴り続ける電話がうるさいので仕方なく出る事にした。
「はい。もしもし」
「あ、行平さん?鈴木です」
「鈴木さん?どうもお世話になってます」
電話の相手は、先程学校で名前が出た京子の母親からだった。
「忙しい時間帯にごめんなさいね。少し気になった事があったものだから」
(もしかしたら、自分の子供から香織のことを聞いて電話して来たのかしら)
明子は、鈴木にわからないように小さくため息を漏らすと
「大丈夫よ。気になった事って?」
「うん・・ちょっと言いにくい事なんだけど・・香織ちゃんね、憑り込まれそうだからお祓いに行った方がいいわよ」
「え?とりこまれる?」
「そう。このままだと別の人格になっちゃうわよ。私、良い所知ってるからそこに家族で行ってお祓いしてもらうといいわよ」
「・・・・・」
明子は腹が立ち自分の顔が熱くなるのが分かった。
学校で虐待を疑われ、オカルト好きな鈴木にはお祓いに行けなど、たかだか独り言が会話になっているだけじゃないか。
何だか変人扱いを受けたような気がした明子は
「うちの子は大丈夫よ。ご心配ありがとう。ごめんなさい、今手が離せないから」
と、早口でまくし立てると電話を切った。
「何なのよ!みんなして!馬鹿じゃないの?」
明子は足音を大きくたてながら台所へ戻り夕食の支度を再開した。
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