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異変 四
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その日の明子は、落ち着かない時間を過ごしていた。
香織の帰りを待っているからだ。今はまだ十時半。これからお昼や午後の授業もありそれから帰って来る。楽しい時は早く過ぎる時間のに、待っている時の時間はとても遅く感じる。明子は壁にかけられている時計の針を睨む。
(香織が帰ってきたらすぐに鈴木さんの家に行って、あの人形を返さなくちゃ)
何度も繰り返した言葉を呪文のようにまた頭の中で考える。
人形は今、香織の部屋にいる。
気味悪く感じている明子は、今日一度も二階へと上がらず家事が終わった後は、テレビをつけその場から動いていない。テレビも見てはいるが内容が頭に入ってこない。しかし、静かな部屋にいるよりもテレビの音がしていた方が断然いい。ソファに座りテレビの画面を目で撫でている時、ふと考えた。
(人形人形って思ってるけど、香織の独り言は人形が来る前からあったのよね。って事は人形は関係ないって事?・・ちょっと待って・・もう一度よく考えてみよう。まず初めに香織の独り言に気が付いた・・次に、二階で物音がして見に行くとあの目があった・・それから担任に呼ばれ学校でも独り言を言っている事を知る・・香織が京子ちゃんを家に連れてきて、その時に人形を貰う・・これって・・人形関係ないんじゃない?)
今まで人形が諸悪の根源のように思っていたが、よく考えて見ると何も関係ないような気がしてくる。
その時唐突に思い出した。
どうして今まで思い出さなかったのか。
担任の山口に呼ばれた日、夕方頃鈴木から電話があり、あの時鈴木はこう言っていた。
(香織ちゃんね、憑り込まれそうだからお祓いに行った方がいいわよ)
(このままだと別の人格になっちゃうわよ)
どうして鈴木はそんな事を思ったのか。取り込まれそうってどう言う事か。別の人格?それは霊に取りつかれて香織が乗っ取られてしまうという事なのか。
夏のテレビ番組で心霊特集何て言うのがやっている時がある。明子は、オカルトの類は苦手なので観た事がない。
今の映像技術だったら、いくらでもそれらしいものは作れるだろうと思っている所もあるし、第一信じていない。
実際、自分自身が奇妙な体験をしている今でも懐疑的なのだ。
担任の山口が言うように、精神的な負担があり現実逃避の為自分の世界に入っているのかもしれない。そちらの方が余程しっくりいくというものだろう。
「でも・・アレは説明できるかしら・・」
そう。明子が香織の部屋の所で見たあの真っ赤な二つの目。間違いなく明子は見たのだ。妙な物音を探るべく二階に上がり、ひとりでに開いた戸の隙間から見えた目。アレは夢でも幻覚でもない。
なるべく思い出さないようにしていた明子だったが、避けてはいけないような気がしたので自分が見たあの二つの目をしっかりと思い出してみた。
(そうだ。瞬きしたのよ。確かに瞬きした。最初はぬいぐるみか何かかと思ったけどそうじゃなかった。横になって寝ている状態で下から見上げるように私をジッと見ていた。そして瞬きをした・・)
二の腕に鳥肌が立ち体がぞくぞくしてきた。
明子は思い切ってソファから立ち上がると、大股で歩き二階の香織の部屋へと歩いて行った。
あれ程、恐ろしく感じていたのにどうして香織の部屋へ行ったのか。後になって考えても分からない。
二階の香織の部屋の前に立った明子は、あの時の事を思い出していた。
(そう。部屋の中からカタンって音がして誰かいると思ったのよね。そうしたら勝手に戸が少しだけ開いて・・)
明子は、香織の部屋の戸をあの時の隙間と同じぐらいに開けて見た。
(そうしたらゴトって音がして下を見たら、目があった・・)
あの時の事を再現するように、下を見るが勿論今は何もない。
隙間からは部屋に差し込む太陽の光が廊下に漏れてきているだけだった。
(この隙間から二つの目が見えたって事は、やっぱり戸に平行に寝転んで見ないと両方の目は見えないわね)
そう考えながら、一人実地検証をしていた時だ。
ん~ん~んん~
何かが聞こえた。
(?テレビ?)
手すり越しに下を覗き音を聞くが、テレビの音ではなさそうだ。
ん~ん~んん~
また聞こえた。
小さい。とても小さい鼻歌。何の曲なのかはわからない。ただ、どこかで聞いた事があるのは確かだ。
(何の曲だっけ・・それに・・どこから聞こえてくるのかしら。外から聞こえてくるとか?だとしたら、相当大きな声よね・・)
ん~ん~んん~
また聞こえる。同じフレーズを繰り返しているようだ。明子は、このどこかで聞いた事がある曲がどこから聞こえてくるのか知りたくなり、耳を澄ました。ん~ん~んん~
香織の部屋から聞こえてくる。咄嗟に、香織の部屋の中にある物で音が出るようなものがあったかどうかを考えるが、そんなものは何もないことが分かる。
香織の部屋は通りに面した場所にある為、もしかしたらさっき考えたように外にいる人の話し声がそう聞こえてくるのかもしれない。
明子は、香織の部屋の戸を開け中に入ると窓に惹かれている薄いカーテンの隙間から外を覗いてみた。
誰もいない。
鼻歌も聞こえない。
明子の家の前の通りを通る人は見知った顔ばかりが通るような道なのだ。なぜなら、奥の方で行き止まりになっているので近くの住民が使う以外目新しい人が行きかう事はあまりない。あるとすれば、セールスマンの人ぐらいだろうか。明子は暫く覗いていたが、のどかな住宅街が広がっているだけの風景に
(よく分からないけど、何かの音が鼻歌のように聞こえたのかもね)
そう思い部屋から出ようとした。
ん~ん~んん~!
先程とは比べものにならないぐらいの大きい音で鼻歌が聞こえる。
「⁉」
一瞬明子の動きは止まったが、次の瞬間弾けるように飛び上がり部屋から飛び出した。
「いる。いる。いるいるいるいるいる」
早口でまくしたてながら同じ言葉を連呼する。
明子は財布と携帯だけをつかみ取り逃げるように家から飛び出た。
なりふり構わず、何かから逃げるように走る明子を見た人はきっと何事だろうと驚いただろう。
「ハァハァハァハァ」
限界だ。動いたことによる汗なのか冷や汗なのか分からない汗が身体から滝のように流れる。
気が付くと、よく香織と一緒に来ている公園の近くに来ていた。
比較的大きな公園で、ウォーキングや散歩をしている人が結構いる公園だ。公園の片隅に遊具があり、散歩がてら家族三人出来ているのだ。明子は、そのまま公園に入りベンチに座った。
暫くすると、あがっていた息もだいぶ落ち着き先程の事を考える余裕が出てくる。
(何だったの?一体何?あの鼻歌って外からじゃなくて香織の部屋から聞こえてたって事?)
もう訳が分からなかった。
「はぁ~もう一体何なの・・」
頭を抱え大きくため息をつく。
どれくらいそうしていただろうか。見知らぬ老婆が心配そうに明子に声を掛けてきた。服装からしてウォーキングをしに来た人だろう。派手なトレーニングウェアを着ている。
「気分でも悪いの?大丈夫?」
「え?あ・・はい。大丈夫です」
「そう?」
老婆はそれ以上何も言わず、明子を心配そうに見ながら歩いて行った。
他所の人に声を掛けてもらった事で、少し周りが見えてきた明子は自分の足がおかしいのに気が付いた。左足にサンダル、右足に靴を履いているのだ。慌てて飛び出してきたので間違ってしまったのだろう。
「はぁ~」
訳の分からない状況に、間違った履物。つくづく嫌になった。
靴を取り替えるためにはあの家に戻らなければならない。それだけは嫌である。あの鼻歌。香織の部屋から聞こえていた。自分が部屋に入った途端それはやみ、部屋から出ようとし時明子の耳元で聞こえた。勿論周りには何もいない。
あの鼻歌を思い出すと身震いがする。
(もう、考えるのやめよう。とにかく履物を何とかしなくちゃ)
サンダルと靴を履いた状態で歩くのは恥ずかしいが、明子は仕方なく靴屋まで歩くことにした。
香織の帰りを待っているからだ。今はまだ十時半。これからお昼や午後の授業もありそれから帰って来る。楽しい時は早く過ぎる時間のに、待っている時の時間はとても遅く感じる。明子は壁にかけられている時計の針を睨む。
(香織が帰ってきたらすぐに鈴木さんの家に行って、あの人形を返さなくちゃ)
何度も繰り返した言葉を呪文のようにまた頭の中で考える。
人形は今、香織の部屋にいる。
気味悪く感じている明子は、今日一度も二階へと上がらず家事が終わった後は、テレビをつけその場から動いていない。テレビも見てはいるが内容が頭に入ってこない。しかし、静かな部屋にいるよりもテレビの音がしていた方が断然いい。ソファに座りテレビの画面を目で撫でている時、ふと考えた。
(人形人形って思ってるけど、香織の独り言は人形が来る前からあったのよね。って事は人形は関係ないって事?・・ちょっと待って・・もう一度よく考えてみよう。まず初めに香織の独り言に気が付いた・・次に、二階で物音がして見に行くとあの目があった・・それから担任に呼ばれ学校でも独り言を言っている事を知る・・香織が京子ちゃんを家に連れてきて、その時に人形を貰う・・これって・・人形関係ないんじゃない?)
今まで人形が諸悪の根源のように思っていたが、よく考えて見ると何も関係ないような気がしてくる。
その時唐突に思い出した。
どうして今まで思い出さなかったのか。
担任の山口に呼ばれた日、夕方頃鈴木から電話があり、あの時鈴木はこう言っていた。
(香織ちゃんね、憑り込まれそうだからお祓いに行った方がいいわよ)
(このままだと別の人格になっちゃうわよ)
どうして鈴木はそんな事を思ったのか。取り込まれそうってどう言う事か。別の人格?それは霊に取りつかれて香織が乗っ取られてしまうという事なのか。
夏のテレビ番組で心霊特集何て言うのがやっている時がある。明子は、オカルトの類は苦手なので観た事がない。
今の映像技術だったら、いくらでもそれらしいものは作れるだろうと思っている所もあるし、第一信じていない。
実際、自分自身が奇妙な体験をしている今でも懐疑的なのだ。
担任の山口が言うように、精神的な負担があり現実逃避の為自分の世界に入っているのかもしれない。そちらの方が余程しっくりいくというものだろう。
「でも・・アレは説明できるかしら・・」
そう。明子が香織の部屋の所で見たあの真っ赤な二つの目。間違いなく明子は見たのだ。妙な物音を探るべく二階に上がり、ひとりでに開いた戸の隙間から見えた目。アレは夢でも幻覚でもない。
なるべく思い出さないようにしていた明子だったが、避けてはいけないような気がしたので自分が見たあの二つの目をしっかりと思い出してみた。
(そうだ。瞬きしたのよ。確かに瞬きした。最初はぬいぐるみか何かかと思ったけどそうじゃなかった。横になって寝ている状態で下から見上げるように私をジッと見ていた。そして瞬きをした・・)
二の腕に鳥肌が立ち体がぞくぞくしてきた。
明子は思い切ってソファから立ち上がると、大股で歩き二階の香織の部屋へと歩いて行った。
あれ程、恐ろしく感じていたのにどうして香織の部屋へ行ったのか。後になって考えても分からない。
二階の香織の部屋の前に立った明子は、あの時の事を思い出していた。
(そう。部屋の中からカタンって音がして誰かいると思ったのよね。そうしたら勝手に戸が少しだけ開いて・・)
明子は、香織の部屋の戸をあの時の隙間と同じぐらいに開けて見た。
(そうしたらゴトって音がして下を見たら、目があった・・)
あの時の事を再現するように、下を見るが勿論今は何もない。
隙間からは部屋に差し込む太陽の光が廊下に漏れてきているだけだった。
(この隙間から二つの目が見えたって事は、やっぱり戸に平行に寝転んで見ないと両方の目は見えないわね)
そう考えながら、一人実地検証をしていた時だ。
ん~ん~んん~
何かが聞こえた。
(?テレビ?)
手すり越しに下を覗き音を聞くが、テレビの音ではなさそうだ。
ん~ん~んん~
また聞こえた。
小さい。とても小さい鼻歌。何の曲なのかはわからない。ただ、どこかで聞いた事があるのは確かだ。
(何の曲だっけ・・それに・・どこから聞こえてくるのかしら。外から聞こえてくるとか?だとしたら、相当大きな声よね・・)
ん~ん~んん~
また聞こえる。同じフレーズを繰り返しているようだ。明子は、このどこかで聞いた事がある曲がどこから聞こえてくるのか知りたくなり、耳を澄ました。ん~ん~んん~
香織の部屋から聞こえてくる。咄嗟に、香織の部屋の中にある物で音が出るようなものがあったかどうかを考えるが、そんなものは何もないことが分かる。
香織の部屋は通りに面した場所にある為、もしかしたらさっき考えたように外にいる人の話し声がそう聞こえてくるのかもしれない。
明子は、香織の部屋の戸を開け中に入ると窓に惹かれている薄いカーテンの隙間から外を覗いてみた。
誰もいない。
鼻歌も聞こえない。
明子の家の前の通りを通る人は見知った顔ばかりが通るような道なのだ。なぜなら、奥の方で行き止まりになっているので近くの住民が使う以外目新しい人が行きかう事はあまりない。あるとすれば、セールスマンの人ぐらいだろうか。明子は暫く覗いていたが、のどかな住宅街が広がっているだけの風景に
(よく分からないけど、何かの音が鼻歌のように聞こえたのかもね)
そう思い部屋から出ようとした。
ん~ん~んん~!
先程とは比べものにならないぐらいの大きい音で鼻歌が聞こえる。
「⁉」
一瞬明子の動きは止まったが、次の瞬間弾けるように飛び上がり部屋から飛び出した。
「いる。いる。いるいるいるいるいる」
早口でまくしたてながら同じ言葉を連呼する。
明子は財布と携帯だけをつかみ取り逃げるように家から飛び出た。
なりふり構わず、何かから逃げるように走る明子を見た人はきっと何事だろうと驚いただろう。
「ハァハァハァハァ」
限界だ。動いたことによる汗なのか冷や汗なのか分からない汗が身体から滝のように流れる。
気が付くと、よく香織と一緒に来ている公園の近くに来ていた。
比較的大きな公園で、ウォーキングや散歩をしている人が結構いる公園だ。公園の片隅に遊具があり、散歩がてら家族三人出来ているのだ。明子は、そのまま公園に入りベンチに座った。
暫くすると、あがっていた息もだいぶ落ち着き先程の事を考える余裕が出てくる。
(何だったの?一体何?あの鼻歌って外からじゃなくて香織の部屋から聞こえてたって事?)
もう訳が分からなかった。
「はぁ~もう一体何なの・・」
頭を抱え大きくため息をつく。
どれくらいそうしていただろうか。見知らぬ老婆が心配そうに明子に声を掛けてきた。服装からしてウォーキングをしに来た人だろう。派手なトレーニングウェアを着ている。
「気分でも悪いの?大丈夫?」
「え?あ・・はい。大丈夫です」
「そう?」
老婆はそれ以上何も言わず、明子を心配そうに見ながら歩いて行った。
他所の人に声を掛けてもらった事で、少し周りが見えてきた明子は自分の足がおかしいのに気が付いた。左足にサンダル、右足に靴を履いているのだ。慌てて飛び出してきたので間違ってしまったのだろう。
「はぁ~」
訳の分からない状況に、間違った履物。つくづく嫌になった。
靴を取り替えるためにはあの家に戻らなければならない。それだけは嫌である。あの鼻歌。香織の部屋から聞こえていた。自分が部屋に入った途端それはやみ、部屋から出ようとし時明子の耳元で聞こえた。勿論周りには何もいない。
あの鼻歌を思い出すと身震いがする。
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