秘密

玉城真紀

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男とルナの関係

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昭和初期~帰祖村は連日の激しい雨がやみ、久しぶりに見る太陽が顔を出していた。
「よし、今日こそルナを外に出すぞ」
昼食を食べ終わった僕は、鼻息荒く玄関を出た。誕生日のプレゼントにもらった真新しい靴が、みすぼらしい着物と合っていないが構わない。遠くにうっすらと虹がかかっている。神主である父の経を読む声が、本堂の方から聞こえてくる。いつも朝の掃除を手伝わされるのだが、こんな晴れた日を逃す手はないと、本堂の方を伺いながらこっそりと家を抜け出した。新しい靴が汚れないように水たまりを避け、ルナの家へと急ぐ。
ルナは僕の幼馴染の女の子だ。拝み屋の家の女の子で、それだけでも僕の好奇心をくすぐる。ましてやルナは人の心が読めるという。超能力者のような力に益々興味を持った僕は、何度もルナの家に足を運んでいた。最初は中々会ってくれなかったが、最近は玄関先まで出てくれるようになった。話をしていくうちに、ルナはとても優しく思いやりのある明るい女の子だと言う事が分かった。鈴が鳴るような声は可愛らしく、黒目がちの大きな眼も神秘的でとても綺麗だ。鼻の横に散らばるそばかすが愛嬌があり魅力的である。
ただ一つ。ルナの家の女性達は皆、酷い受け口なのだ。頭のてっぺんから上顎までは普通なのに、下顎が巨人の顎をつけたようにでっぱっている。ルナはいつも僕と話す時、着物のたもとで口元を隠す。気にしているのだろう。
一度、ルナの家の庭で二人で遊んでいる時に別の友人が家の前を通った時があった。ルナは驚き、たもとで顔を隠すと一目散に家の中に逃げ込んでいった。その時僕は確信した。やはりルナは、自分の顔の受け口が原因で外に出ないのだと。でも、人の容姿はそれぞれだ。僕だって鼻がとても大きいのを気にしてる。でも、それも僕なんだと父親が言ってくれてからは、あまり気にしなくなった。だから、ルナもそんな事気にせず外に出て欲しい。そう願いながら、ルナの家に通い続けた。
「こんにちは~」
いつものように玄関を開け、大きな声を出し呼びかける。
「はいはい。開いてるよ」
ガラガラとした声が、家の中から聞こえてくる。ルナの曾祖母のことりだ。凄い婆ちゃんなのにことりという可愛らしい名前をしている。ルナの家には、ルナの両親と祖父母にひい祖母ちゃんが住んでいた。でも、不幸な事にひい祖母ちゃんとルナを残して、両親は病気で死んでしまったと父親が言っていた。
「おじゃましま~す」
靴を脱ぎ、勝手知った家の中ルナの部屋を目指し歩いていく。
独特のお香の匂いも、最初は鼻が曲がるほど臭かったが今では慣れてしまった。
「ルナ。遊ぼう」
ルナの部屋の襖を開け僕は元気よく言った。
ルナは窓際に座り、赤い着物を着た人形の髪に櫛を通していた。周りには、人形の髪につける小さなリボンがいくつか転がっている。亡くなった母親から貰った人形で、とても大切にしていると言っていた。いつもルナは、空のような水色の着物を着ていた。お気に入りだという。
「またその人形かよ」
「・・うん。ちゃんと髪をとかしてあげないとね」
「そんなに櫛ばかりいれてると、今に俺の祖父ちゃんみたいな頭になっちゃうぞ」
「ははは。お祖父ちゃんって坊主頭よね。そんな風にはならないわ」
可愛らしい声でコロコロと笑う。
機嫌が良さそうだ。今日はいけるかもしれない。折り紙で遊びだしたルナを見て、僕は頃合いを見計いルナに言った。
「なぁ、外で遊ぼうよ」
「え・・外?」
ぴたりと動きが止まり、今までの笑顔がすっと消えていく。
「うん。最近ずっと雨ばかり降っていただろう?今日ようやく晴れたんだ。部屋の中にいるのなんて勿体ないよ」
「でも・・・」
「大丈夫。俺が付いてるから。な?」
「・・・うん。じゃあ行ってみようかな」
正直、こんなにすんなりと上手くいくとは思っていなかった。嬉しくなった俺はルナの手を取り、部屋を飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「何?」
玄関で靴を履きながら僕はルナの顔を見る。
ルナは、着物のたもとを口に当て不安そうな眼差しで俺を見ている。
「ごめん。そうだね、ゆっくり行こう」
焦りすぎてルナの気持ちを考えてやれなかった。それに、焦った事で、ルナが外に出なくなったら今までの苦労が水の泡になってしまう。俺は大きく深呼吸し落ち着かせると
「向こうでみんなが遊んでたんだよ。行こう」
と、あぜ道で何人かの子供達が遊んでいたのを見ていた僕は、ルナの手を引きゆっくりと歩きだした。
遠くの方で何人かの友達が楽しそうに遊んでいるのが見える。笑い声や名前を呼ぶ声がこちらにまで聞こえてきた。
「やっぱり・・・私はいいわ」
ルナの歩みが極端に遅くなる。
「なんで?みんなルナと遊びたいんだよ?」
「嘘・・・」
「本当だって。お~い!」
俺はルナの手を強く引くと、子供達の方へ大きな声で呼びかけた。
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