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対面
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「よう。決まったか?」
仕事が終わっても、デスクに座ったままの俺の所に日高が来た。昼に日高と話してからの仕事は頭に入っていなかった。いつの間にか外は暗くなっている。時計を見ると、7時だ。
「いや」
日高はため息をつきながら隣に座ると
「こういう事は早めに対処したほうがいいんだぜ?」
言い聞かせるように言う。
「俺さ、思ったんだけどお前。お袋さんの事前からあまり好きじゃないって言ってたじゃん。でもさ、やっぱ自分の親だから成仏させることに抵抗があるんじゃないか?」
「は?なんだよそれ。そんな事ねえよ・・・・・・」
「だったら、怖い思いしてるんだからさっさとお祓いなりなんなり普通するだろ?それを、戸惑ってるって事はそうなんだよ。きっと」
そうなのか?日高の言う通りなんだろうか。小さい頃から一度も、笑ったお袋を見た事がない。いつも怒っているか、文句言っているか。小さい時は怒られたくなくて顔色を窺いながら話をしてきた。大きくなってからは、全く相手にしなくなったが。そんな親が成仏しようとしなくてもどっちでもいいと思っているはずだ。
「じゃあさ、物が動いてたって言う事だろ?実際俺は弁当を見てるし。その時に話しかけてみたらどうだ?」
「え?話しかける?誰が」
「お前に決まってるだろ?物が動いてるって事はそこにいるんだよ。だから、そこに向かって話しかけるんだよ」
「何を」
「ん~。お袋か?とか、何やってんだ?とか何でもいいんだよ。とにかく話しかける」
「で?」
「で?・・・・・・わからん」
「何だよそれ」
「分かんねぇよ。霊媒師でも何でもないしな。でも、何もしないよりいいんじゃないか?今日もあの家に帰るんだろ?もし、また何かあったら今度は話しかけてみろって」
日高は椅子から立ちあがり部屋を出て行った。いつの間にか部屋には俺しかいなかった。明るい部屋に一人。デスクは全部で15ぐらいあり、それぞれのデスクの上にパソコンが乗っている。昼はそれが一斉に働きだすので、カチャカチャとキーボードを押す音や、電話の音紙の擦れる音などで騒がしいが、今はその音もなくパソコンたちも静かに眠りについている。俺は、自分の目の前にある真っ黒なパソコンの画面に映りこむ自分の顔をジッと見ていた。
成仏できない。
何かのテレビか小説かは忘れたが、そういう言葉を聞いたことはある。幽霊など信じていない俺は、馬鹿にしながら見ていたように思う。
成仏って何なんだ。頭では分かっているようでもきちんと説明は出来ない。俺は、携帯を出し成仏と言う言葉を検索かけた。出てきた言葉は、「無上の悟りを開くこと」「死んでこの世に未練を残さず仏となる事」などが書かれていた。
お袋が悟りを開くという事にはとても程遠いような気がする。では、この世に未練を残さずに仏になる。未練。あのお袋に未練なんてあったのか?あれだけ文句を言いながら好き勝手に生きてきたお袋だ。未練なんてないだろう。じゃあ何故成仏できないのか。俺は、おふくろに未練があるならなんだ?という事を必死に考えてみた。頬杖を突き、黒いパソコン画面を眺めながらあれやこれやと考えていた時、窓の方から「バン!」と大きな音がした。驚いて音がした方を見たが何も変わったところもない。
この部屋の道路側は、全て大きな窓になっている。天気のいい日は日が入り明るいが、パソコン中心の仕事の俺達にはこの窓は迷惑になる。画面が見づらいのだ。なので、たいていブラインドを下げて部屋の電気をつけている。
「なんだ?」
俺は音のした方に歩いていく。ブラインドを上げて見るが特に異常はない。
ブラインドを下ろしデスクに戻ろうとした時にまた「バン」と音が鳴る。間違いない。この窓から音がした。俺はもう一度ブラインドを上げて上から下まで隅々を見てみる。外が暗く室内の様子が窓に映るので目を凝らし外を見る。
いた。
窓の下の方に何かがいる。
「うわ~!」
俺はその場に尻餅をついた。そのせいで、そいつと同じ目線になった。ここはビルの5階。外にはベランダはない。窓に移りこんだとしたら、俺と同じ部屋にそいつはいるはず。しかし、部屋には誰もいない。俺は目が離せず言葉も出ずにそいつを見ていると、そいつはゆっくりと顔を上げた。
「!・・・・・・お袋?」
体育座りをして今にも泣きそうな顔をしながら俺を見ているのは、まさに死んだはずのお袋だった。お袋は、今まで俺が見た事もないような悲しげな顔をしている。俺は、驚きが少し薄れてきて逆に可哀そうになったぐらいだった。
「お袋?」
俺はもう一度呼んだ。お袋は何も言わず、その姿勢のまま上に上がっていく。ずっと俺を見たまま。俺は急いで窓の近くに這いずっていき、お袋の行方を目で追ったが暗闇の中もう見えなくなっていた。
「成仏した・・・・・・?のか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は、フラフラと目的もなく飛んでいた。頭の中では、あの真理という子との会話を思い出していた。何で、突然踊り出したのか。飛び降りたのは、私の言った事がショックだったのか。しかし、死ぬほどの事を言った覚えはない。私はそういう考えで生きてきた。もしかしたら、あの子にとっては辛い言葉だったのか。同じ考えが頭の中をぐるぐると回っている。回っているだけで、答えが出ない。
どのくらい飛んでいたのかは分からないが、辺りはすでに真っ暗になっていた。
気がつくと、息子の会社の前にいた。自分でも何故ここに来たのか分からなかった。息子の会社は確か5階。その窓を覗くと、きっちりと全てのブラインドが下がっていて中が見えない。電気はついているので誰かはいるようだ。中の様子が見えない事にいらいらした私は、窓を蹴飛ばした。
「バン」と派手な音がしたが誰も来ない。
「ふん。何だい。しけた会社のくせに」
私は体育座りをすると、また真理の事を考えた。私が悪かったのか・・・・・
また、窓を「バン」と今度は手で叩く。泣きたい気分だった。今まで生きてきた中でこういう事はよくあった。何気なく言った事が人にはとても辛いことだったこと。でも、死ぬまではいかなかった。
「私のせいなのか・・・・・・」
死にたくなる。もう死んでるけど・・・・・・
顔を上げると、いつの間にブラインドが上がったのか、部屋の中が見える。そこには、床に座り、こちらを驚いた表情で見ている息子がいる。暫く息子の顔を見た後、私は家に帰るためその場を離れた。家に着き、いつものように二階から入る。自分の部屋へ入るとそのまま布団に潜り込んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺は、今自分が見たものが信じられなかったが確かに見た。お袋だ。しかし何故お袋はあんなに悲しそうな顔をしていたのか。成仏できないからあんな顔をしていたのか。暗い窓の上の方を見ながら考えたが、いくら考えても分からない。ただ一つ、やはりあの弁当や台所で見たものはお袋の仕業だったのだと確信した。
ゆっくり立ち上がり、自分のデスクに戻る。暫く同じことを頭の中で考えていたが、いつまでもここにいるわけにもいかない。家に帰るのは怖かったが、帰り支度をし俺は足早に会社を出た。
家に着き、玄関を開ける。家の中は暗く、何一つ物音もしない。俺はゆっくりと、茶の間まで行き電気をつける。異常はない。台所を覗く。綺麗に片づけられている。朝の光景が嘘のようだ。
「フぅ~」
ため息をつくと、自分の部屋に行き着替える。何となくだが安心した。きっと、会社で見たお袋は、上に上がっていったからあれで成仏したんだろう。安心したせいか腹が減ってきた。
「何喰おうかな」
下の部屋へ行こうと階段を降りかけた時、何か聞こえた気がした。足を止め耳を澄ます。
また聞こえた。衣擦れのような音。聞こえた方向はお袋の部屋から聞こえた気がする。ドアが閉まっているお袋の部屋のドアををじっと睨む。心の中では、もう音がしない事を願っていた。しかし、また聞こえる。
「カサ」
かすかだが確かに聞こえる。
泥棒でもいるのかと思い、そうっと自分の部屋へ戻り武器になるか分からないが、なるべく相手にダメージを与えられるような物を選ぶ。昔、若い時にサバイバルゲームをやっていた時に使っていたモデルガンを持ち部屋を出る。
足音を立てずゆっくりとお袋の部屋に近づいていく。その間もカサカサと音が聞こえてくる。ドアノブにそっと手をかける。緊張の為か、自分の心臓の音が耳まで聞こえる。呼吸も荒くなり、中にいるなにかに気づかれてしまうんではないかと不安になった。
(よし)
俺は勢いよくドアを開けた。押して開けるドアなので勢い余って「ガン」と言う派手な音を立てて壁にぶつかり戻ってくる。それを手で押さえながらモデルガンを構える。
「誰だ!」
暗い部屋に人影が見えない。ドア近くの電気のスイッチを探しつける。明かりの中見渡すが誰もいない。お袋は物を置くのを嫌う人だったので、部屋の中は最低限の荷物しかない。誰かがいたとしたらすぐにわかる。隠れる場所が少ないからだ。
「気のせいか・・・・・・フぅ~」
ため息をつき部屋から出ようとした時だ。何かがおかしいのに気がついた。お袋の布団だ。お袋はいつも敷きっぱなしにしていたので、いつもの光景と思ってしまったのだろう。しかし、布団はお袋が死んだ後、俺がきちんとたたみ押し入れに入れたはず。
(布団が出てる)
もっとおかしいのは、布団が盛り上がっているのだ。まるで、人が寝ているかのように。
(なんだこれ)
近寄りたいが、怖くて足が動かない。俺は、持っているモデルガンを布団に投げつけて見た。布団がぺシャンとなるのを期待したがそうならなかった。布団にあたったモデルガンは、盛り上がりに負け、カタンと弾かれて落ちた。姿は見えないが、確実にその布団に誰かが寝ている事を証明してしまった。
せっかくの威嚇用のモデルガンだったが、自分が投げた事で俺は丸腰になってしまった。何故投げてしまったのかと後悔しても遅く。俺は、その布団の盛り上がりを震えながらジッと見ていた。
すると、誰もいないのに布団がめくられ側に落ちたモデルガンがふわりと浮いたと思ったら、俺の元に帰ってきた。
「・・・・」
呆然とする俺。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
下でガタガタと物音がする。きっと、息子が帰ってきたんだろう。いつもなら、迎えに出るのだが今はそんな気分になれなく、私は布団の中に潜ったままでいた。
階段を登ってくる音。衣擦れの音やクローゼットを開ける音がする。私は、いつものように夕飯を作ってやらなくちゃと思い布団から出ようとするのだが、どうしても体を動かす気になれない。暫く、布団の中でもごもごしていた。
すると、私の部屋を勢いよく開けた音がして、驚いて布団から顔を出してみる。次の瞬間、明かりがつく。そこには、引きつった顔をした息子がモデルガンを構えている姿があった。
「何してるんだい。人の部屋に入ってきたと思ったらそんな玩具構えて。全く」
私は布団から顔だけを出して言った。
息子は部屋の様子をぐるりと見まわすと、安心した顔になり部屋から出て行こうとした。
私も、いつまでも布団の中にいるわけにもいかないので、布団から出ようと動いた時、息子が突然私に向かってモデルガンを投げつける。
「危ないね。このバカ息子。親に物を投げつけるなんて」
ブツブツ言いながら、私は布団から出た。
床に落ちたモデルガンを拾い上げ、息子に渡そうと差し出すが息子はモデルガンを凝視して立ち尽くしている。モデルガンを受け取らない息子の胸に無理やり押し付けると、ようやく受け取った。私は、息子の反応を見ずに脇をすり抜けると、夕飯を作りに台所へ向かった。
下でガタガタと物音がする。きっと、息子が帰ってきたんだろう。いつもなら、迎えに出るのだが今はそんな気分になれなく、私は布団の中に潜ったままでいた。
階段を登ってくる音。衣擦れの音やクローゼットを開ける音がする。私は、いつものように夕飯を作ってやらなくちゃと思い布団から出ようとするのだが、どうしても体を動かす気になれない。暫く、布団の中でもごもごしていた。
すると、私の部屋を勢いよく開けた音がして、驚いて布団から顔を出してみる。次の瞬間、明かりがつく。そこには、引きつった顔をした息子がモデルガンを構えている姿があった。
「何してるんだい。人の部屋に入ってきたと思ったらそんな玩具構えて。全く」
私は布団から顔だけを出して言った。
息子は部屋の様子をぐるりと見まわすと、安心した顔になり部屋から出て行こうとした。
私も、いつまでも布団の中にいるわけにもいかないので、布団から出ようと動いた時、息子が突然私に向かってモデルガンを投げつける。
「危ないね。このバカ息子。親に物を投げつけるなんて」
ブツブツ言いながら、私は布団から出た。
床に落ちたモデルガンを拾い上げ、息子に渡そうと差し出すが息子はモデルガンを凝視して立ち尽くしている。モデルガンを受け取らない息子の胸に無理やり押し付けると、ようやく受け取った。私は、息子の反応を見ずに脇をすり抜けると、夕飯を作りに台所へ向かった。
仕事が終わっても、デスクに座ったままの俺の所に日高が来た。昼に日高と話してからの仕事は頭に入っていなかった。いつの間にか外は暗くなっている。時計を見ると、7時だ。
「いや」
日高はため息をつきながら隣に座ると
「こういう事は早めに対処したほうがいいんだぜ?」
言い聞かせるように言う。
「俺さ、思ったんだけどお前。お袋さんの事前からあまり好きじゃないって言ってたじゃん。でもさ、やっぱ自分の親だから成仏させることに抵抗があるんじゃないか?」
「は?なんだよそれ。そんな事ねえよ・・・・・・」
「だったら、怖い思いしてるんだからさっさとお祓いなりなんなり普通するだろ?それを、戸惑ってるって事はそうなんだよ。きっと」
そうなのか?日高の言う通りなんだろうか。小さい頃から一度も、笑ったお袋を見た事がない。いつも怒っているか、文句言っているか。小さい時は怒られたくなくて顔色を窺いながら話をしてきた。大きくなってからは、全く相手にしなくなったが。そんな親が成仏しようとしなくてもどっちでもいいと思っているはずだ。
「じゃあさ、物が動いてたって言う事だろ?実際俺は弁当を見てるし。その時に話しかけてみたらどうだ?」
「え?話しかける?誰が」
「お前に決まってるだろ?物が動いてるって事はそこにいるんだよ。だから、そこに向かって話しかけるんだよ」
「何を」
「ん~。お袋か?とか、何やってんだ?とか何でもいいんだよ。とにかく話しかける」
「で?」
「で?・・・・・・わからん」
「何だよそれ」
「分かんねぇよ。霊媒師でも何でもないしな。でも、何もしないよりいいんじゃないか?今日もあの家に帰るんだろ?もし、また何かあったら今度は話しかけてみろって」
日高は椅子から立ちあがり部屋を出て行った。いつの間にか部屋には俺しかいなかった。明るい部屋に一人。デスクは全部で15ぐらいあり、それぞれのデスクの上にパソコンが乗っている。昼はそれが一斉に働きだすので、カチャカチャとキーボードを押す音や、電話の音紙の擦れる音などで騒がしいが、今はその音もなくパソコンたちも静かに眠りについている。俺は、自分の目の前にある真っ黒なパソコンの画面に映りこむ自分の顔をジッと見ていた。
成仏できない。
何かのテレビか小説かは忘れたが、そういう言葉を聞いたことはある。幽霊など信じていない俺は、馬鹿にしながら見ていたように思う。
成仏って何なんだ。頭では分かっているようでもきちんと説明は出来ない。俺は、携帯を出し成仏と言う言葉を検索かけた。出てきた言葉は、「無上の悟りを開くこと」「死んでこの世に未練を残さず仏となる事」などが書かれていた。
お袋が悟りを開くという事にはとても程遠いような気がする。では、この世に未練を残さずに仏になる。未練。あのお袋に未練なんてあったのか?あれだけ文句を言いながら好き勝手に生きてきたお袋だ。未練なんてないだろう。じゃあ何故成仏できないのか。俺は、おふくろに未練があるならなんだ?という事を必死に考えてみた。頬杖を突き、黒いパソコン画面を眺めながらあれやこれやと考えていた時、窓の方から「バン!」と大きな音がした。驚いて音がした方を見たが何も変わったところもない。
この部屋の道路側は、全て大きな窓になっている。天気のいい日は日が入り明るいが、パソコン中心の仕事の俺達にはこの窓は迷惑になる。画面が見づらいのだ。なので、たいていブラインドを下げて部屋の電気をつけている。
「なんだ?」
俺は音のした方に歩いていく。ブラインドを上げて見るが特に異常はない。
ブラインドを下ろしデスクに戻ろうとした時にまた「バン」と音が鳴る。間違いない。この窓から音がした。俺はもう一度ブラインドを上げて上から下まで隅々を見てみる。外が暗く室内の様子が窓に映るので目を凝らし外を見る。
いた。
窓の下の方に何かがいる。
「うわ~!」
俺はその場に尻餅をついた。そのせいで、そいつと同じ目線になった。ここはビルの5階。外にはベランダはない。窓に移りこんだとしたら、俺と同じ部屋にそいつはいるはず。しかし、部屋には誰もいない。俺は目が離せず言葉も出ずにそいつを見ていると、そいつはゆっくりと顔を上げた。
「!・・・・・・お袋?」
体育座りをして今にも泣きそうな顔をしながら俺を見ているのは、まさに死んだはずのお袋だった。お袋は、今まで俺が見た事もないような悲しげな顔をしている。俺は、驚きが少し薄れてきて逆に可哀そうになったぐらいだった。
「お袋?」
俺はもう一度呼んだ。お袋は何も言わず、その姿勢のまま上に上がっていく。ずっと俺を見たまま。俺は急いで窓の近くに這いずっていき、お袋の行方を目で追ったが暗闇の中もう見えなくなっていた。
「成仏した・・・・・・?のか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は、フラフラと目的もなく飛んでいた。頭の中では、あの真理という子との会話を思い出していた。何で、突然踊り出したのか。飛び降りたのは、私の言った事がショックだったのか。しかし、死ぬほどの事を言った覚えはない。私はそういう考えで生きてきた。もしかしたら、あの子にとっては辛い言葉だったのか。同じ考えが頭の中をぐるぐると回っている。回っているだけで、答えが出ない。
どのくらい飛んでいたのかは分からないが、辺りはすでに真っ暗になっていた。
気がつくと、息子の会社の前にいた。自分でも何故ここに来たのか分からなかった。息子の会社は確か5階。その窓を覗くと、きっちりと全てのブラインドが下がっていて中が見えない。電気はついているので誰かはいるようだ。中の様子が見えない事にいらいらした私は、窓を蹴飛ばした。
「バン」と派手な音がしたが誰も来ない。
「ふん。何だい。しけた会社のくせに」
私は体育座りをすると、また真理の事を考えた。私が悪かったのか・・・・・
また、窓を「バン」と今度は手で叩く。泣きたい気分だった。今まで生きてきた中でこういう事はよくあった。何気なく言った事が人にはとても辛いことだったこと。でも、死ぬまではいかなかった。
「私のせいなのか・・・・・・」
死にたくなる。もう死んでるけど・・・・・・
顔を上げると、いつの間にブラインドが上がったのか、部屋の中が見える。そこには、床に座り、こちらを驚いた表情で見ている息子がいる。暫く息子の顔を見た後、私は家に帰るためその場を離れた。家に着き、いつものように二階から入る。自分の部屋へ入るとそのまま布団に潜り込んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺は、今自分が見たものが信じられなかったが確かに見た。お袋だ。しかし何故お袋はあんなに悲しそうな顔をしていたのか。成仏できないからあんな顔をしていたのか。暗い窓の上の方を見ながら考えたが、いくら考えても分からない。ただ一つ、やはりあの弁当や台所で見たものはお袋の仕業だったのだと確信した。
ゆっくり立ち上がり、自分のデスクに戻る。暫く同じことを頭の中で考えていたが、いつまでもここにいるわけにもいかない。家に帰るのは怖かったが、帰り支度をし俺は足早に会社を出た。
家に着き、玄関を開ける。家の中は暗く、何一つ物音もしない。俺はゆっくりと、茶の間まで行き電気をつける。異常はない。台所を覗く。綺麗に片づけられている。朝の光景が嘘のようだ。
「フぅ~」
ため息をつくと、自分の部屋に行き着替える。何となくだが安心した。きっと、会社で見たお袋は、上に上がっていったからあれで成仏したんだろう。安心したせいか腹が減ってきた。
「何喰おうかな」
下の部屋へ行こうと階段を降りかけた時、何か聞こえた気がした。足を止め耳を澄ます。
また聞こえた。衣擦れのような音。聞こえた方向はお袋の部屋から聞こえた気がする。ドアが閉まっているお袋の部屋のドアををじっと睨む。心の中では、もう音がしない事を願っていた。しかし、また聞こえる。
「カサ」
かすかだが確かに聞こえる。
泥棒でもいるのかと思い、そうっと自分の部屋へ戻り武器になるか分からないが、なるべく相手にダメージを与えられるような物を選ぶ。昔、若い時にサバイバルゲームをやっていた時に使っていたモデルガンを持ち部屋を出る。
足音を立てずゆっくりとお袋の部屋に近づいていく。その間もカサカサと音が聞こえてくる。ドアノブにそっと手をかける。緊張の為か、自分の心臓の音が耳まで聞こえる。呼吸も荒くなり、中にいるなにかに気づかれてしまうんではないかと不安になった。
(よし)
俺は勢いよくドアを開けた。押して開けるドアなので勢い余って「ガン」と言う派手な音を立てて壁にぶつかり戻ってくる。それを手で押さえながらモデルガンを構える。
「誰だ!」
暗い部屋に人影が見えない。ドア近くの電気のスイッチを探しつける。明かりの中見渡すが誰もいない。お袋は物を置くのを嫌う人だったので、部屋の中は最低限の荷物しかない。誰かがいたとしたらすぐにわかる。隠れる場所が少ないからだ。
「気のせいか・・・・・・フぅ~」
ため息をつき部屋から出ようとした時だ。何かがおかしいのに気がついた。お袋の布団だ。お袋はいつも敷きっぱなしにしていたので、いつもの光景と思ってしまったのだろう。しかし、布団はお袋が死んだ後、俺がきちんとたたみ押し入れに入れたはず。
(布団が出てる)
もっとおかしいのは、布団が盛り上がっているのだ。まるで、人が寝ているかのように。
(なんだこれ)
近寄りたいが、怖くて足が動かない。俺は、持っているモデルガンを布団に投げつけて見た。布団がぺシャンとなるのを期待したがそうならなかった。布団にあたったモデルガンは、盛り上がりに負け、カタンと弾かれて落ちた。姿は見えないが、確実にその布団に誰かが寝ている事を証明してしまった。
せっかくの威嚇用のモデルガンだったが、自分が投げた事で俺は丸腰になってしまった。何故投げてしまったのかと後悔しても遅く。俺は、その布団の盛り上がりを震えながらジッと見ていた。
すると、誰もいないのに布団がめくられ側に落ちたモデルガンがふわりと浮いたと思ったら、俺の元に帰ってきた。
「・・・・」
呆然とする俺。
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下でガタガタと物音がする。きっと、息子が帰ってきたんだろう。いつもなら、迎えに出るのだが今はそんな気分になれなく、私は布団の中に潜ったままでいた。
階段を登ってくる音。衣擦れの音やクローゼットを開ける音がする。私は、いつものように夕飯を作ってやらなくちゃと思い布団から出ようとするのだが、どうしても体を動かす気になれない。暫く、布団の中でもごもごしていた。
すると、私の部屋を勢いよく開けた音がして、驚いて布団から顔を出してみる。次の瞬間、明かりがつく。そこには、引きつった顔をした息子がモデルガンを構えている姿があった。
「何してるんだい。人の部屋に入ってきたと思ったらそんな玩具構えて。全く」
私は布団から顔だけを出して言った。
息子は部屋の様子をぐるりと見まわすと、安心した顔になり部屋から出て行こうとした。
私も、いつまでも布団の中にいるわけにもいかないので、布団から出ようと動いた時、息子が突然私に向かってモデルガンを投げつける。
「危ないね。このバカ息子。親に物を投げつけるなんて」
ブツブツ言いながら、私は布団から出た。
床に落ちたモデルガンを拾い上げ、息子に渡そうと差し出すが息子はモデルガンを凝視して立ち尽くしている。モデルガンを受け取らない息子の胸に無理やり押し付けると、ようやく受け取った。私は、息子の反応を見ずに脇をすり抜けると、夕飯を作りに台所へ向かった。
下でガタガタと物音がする。きっと、息子が帰ってきたんだろう。いつもなら、迎えに出るのだが今はそんな気分になれなく、私は布団の中に潜ったままでいた。
階段を登ってくる音。衣擦れの音やクローゼットを開ける音がする。私は、いつものように夕飯を作ってやらなくちゃと思い布団から出ようとするのだが、どうしても体を動かす気になれない。暫く、布団の中でもごもごしていた。
すると、私の部屋を勢いよく開けた音がして、驚いて布団から顔を出してみる。次の瞬間、明かりがつく。そこには、引きつった顔をした息子がモデルガンを構えている姿があった。
「何してるんだい。人の部屋に入ってきたと思ったらそんな玩具構えて。全く」
私は布団から顔だけを出して言った。
息子は部屋の様子をぐるりと見まわすと、安心した顔になり部屋から出て行こうとした。
私も、いつまでも布団の中にいるわけにもいかないので、布団から出ようと動いた時、息子が突然私に向かってモデルガンを投げつける。
「危ないね。このバカ息子。親に物を投げつけるなんて」
ブツブツ言いながら、私は布団から出た。
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