未練

玉城真紀

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奇妙な会話

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一階に降りた私は、気乗りしないながらも夕飯を作り始めた。
どうせ息子一人分だからと、簡単に炒飯とスープを作る。先程まで考えていた事を忘れるように料理に専念した。夕飯が出来上がり、テーブルへもっていこうとした時、息子が壁から半分顔だけを出しこちらを見ているのに気がついた。
「わあ!あ~びっくりした!」
思わず持っていたお皿を落とすところだった。息子は真っ青な顔をしながら、お皿を見ている。そこでようやく、自分の姿が見えない事を思い出した。
「はっはっはっは。そうかそうか。そうだったね。私の事見えないんだよね。まぁ。ご飯食べなよ」
息子にそう言うと、炒飯とスープをテーブルへ持っていった。その間も、息子は青い顔をしてお皿を見ている。そんな息子の隣を通り自分の部屋へ行くと紙とペンを持ってくる。椅子に座り、紙に
(息子よ。信じられないかもしれないけど母はここにいます。不思議な事に物には触れられるけど、人とは話すことは出来ない。だから、こうやって紙に書いてます。弁当も今日の料理も私が作ったんだよ)
ここまで殴り書きをすると、紙を持ってまだ立ち尽くしている息子の顔の前に持って行った。
「ヒッ」
と息子は短い悲鳴を上げ、一歩後ろに下がり引きつった顔で紙を見る。
「ほら。よ~く見な」
私は紙をヒラヒラとゆすりながら近づける。息子は紙に何かが書いてあるのに気がつき、目を細めながら読んだ。すると、益々驚いた表情になり紙を私の手から奪い取ると周りをキョロキョロと見まわし始めた。私は、もう一度紙に
(今、私はテーブルの所にいるんだよ。いつもの席に座っている)
そこまで書いてまた息子に見せようと席を立とうとすると、すぐ後ろに息子が立ち私の書いた紙を覗き込んでいる。
「うわ。びっくりした。音もなく後ろにいるんだもの・・・・・・ああ。読んでいるんだね」
私は、息子が読みやすいように体を動かした。意味のない行動だが、つい生きている時と同じ行動をしてしまう。息子は読み終わると、恐る恐る手を出し私が座っている椅子の所を探るように手を伸ばした。スカスカと私を通して手が空を切る。
「馬鹿だね。さっき書いただろ?私には触れないんだよ」
私はそう言うと、紙に同じことを書いた。息子はソレを読むと、急いで部屋を出た。すぐに手にペンを持って戻ってきたと思ったら、紙にさらさらと何かを書き始めた。
(本当にお袋なのか?)
ここから少しだけ、私と息子の紙の上での会話が始まる。
(本当だよ。私もこうなるとは思いもしなかったけどね。死んだことがないから分からなかったけど)
「じゃあ。本当に弁当も今日の料理もお袋が作ったんだな?」
息子は驚きの余り紙に書くことをせず声に出して言った。
(そうそう・・・・・・ああ。あんたの言っている事は私に聞こえてるよ)
「そうか・・・・・・聞こえてるんだ」
息子は私の前に座ると
「いったいどういう事なんだろう?だって、葬式もして火葬もやったんだぜ?あっ!もしかしてお袋。成仏できない何かがあるんじゃないか?」
俺は、日高に教えてもらった事を思い出して聞いてみた。
(成仏できない事?・・・・・・そんなものないね。こんな世の中に未練なんてないよ。年金は少ないし、物は高いし、全く住みずらい世の中だよ。だから、未練なんてないね。死んで良かったと思ってるぐらいさ)
「やっぱりね。俺も、お袋が成仏できないようなものはないと思っていたんだ。じゃあ、何でこの世にいるんだろ。普通、葬式の時に坊さんがお経読んでくれるだろ?それで成仏するんじゃないのか?」
(知らないよそんなの。それにあの生草坊主が読んだ経なんて本当にありがたいものなのかわかったもんじゃないよ)
「死んでもお袋なんだな。でも、このままじゃいられないだろ?これからどうするんだい?」
(何も考えてないね。どうせ行くとこは地獄だろうから。このままこっちにずっといたっていいんだけどね)
私はそう書いてから、ふと真理の事を思い出した。
(あのさ、実は・・・・・・)
私は、真理と出会ってから屋上から飛び降りる所までを詳しく時間をかけて書いて教えた。
「ふ~ん。その子はお袋の事が見えたんだ。俺。そう言うの詳しくないから分からないんだけどさ。よく、霊感の強い人は見えるって言うだろ?その子は強かったんじゃないの?そういうのが。・・・・・・でも、突然踊り出して飛び降りるって尋常じゃないよな」
(そうなんだよ。多分。彼氏の事で悩んでたんだろうけどそれだけで死ぬのかい?新しい男つくりゃいいだけだろうよ)
「人なんてわからないもんさ」
(ふん。分かったようなこと言ってるよ。冷めちゃうから早く食べなよ)
それを読んだ息子は、言う通りに炒飯を食べ始めた。
「うん。お袋の味だな」
(当たり前だよ。私が作ったんだから)
私は、冷蔵庫から麦茶を出してコップについでやった。息子は当たり前のようにそれを飲む。さっきまで、顔を真っ青にして震えていた息子とは思えない。私はおかしくなって笑ってしまった。勿論息子に聞こえることはない。
息子はご飯を全て平らると
「あのさ、今思ったんだけど、俺の部屋に入るときはノックしてくれよな。黙って入ってくるなよ。見えないんだから」
(わかってるよ。失礼な。そんな事はわきまえてるさ。それに、私は物はすり抜けられないみたいなんだ。生きてた時のようにするから大丈夫だよ)
「ならいいけど・・・・・・」
そう言うと、息子は麦茶を一気に飲み干した。
「あ~あ。本当に不思議な事ってあるんだな。こんな事ってあるんだな」
(私だって、こんな事になるとは思ってなかったよ)
そこまで書いた時に、紙がなくなりそうなのに気がついた。周りには、私が書いた紙が散らかっている。
「こりゃ。ノートに書いた方がいいようだね」
そう言うと、自分の部屋からノートを持ってきてそこに書き始めた。
(その内、成仏出来るんだろうからそれまでは、世話になるよ)
「まあそうなるよね。なるべく他の人に知られないように行動しろよ。気味が悪いって思われたらかなわないからな。ふわぁ~。ねむ。もう寝るよ」
今まで不思議で恐ろしかった事が一気に解決し気が緩んだのか、急に眠気が襲ってきた。
(風呂入らないのかい?沸かしてないからシャワーだけでも浴びたらいいのに)
「ああそうするよ」
そう言うと、息子は風呂場へ行った。私は、息子の食べ終わった食器を洗い場に持っていき水に浸した。
「さて、私も寝るとするかね」
息子と意思疎通ができた事で、気持ちが落ち着いたのか、帰ってきた時のどんよりとした思いはなくなっていた。
息子のシャワーを浴びる音を聞きながら、私は二階へ上がり自分の部屋へと入った。

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