未練

玉城真紀

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輪廻転生

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・・・・・・あれから5年
俺は結婚した。
三歳と一歳の子供に恵まれ幸せに暮らしている。両方とも男の子でやんちゃ坊主たちだ。子供が出来たお陰か、家族を支えていくべく、今まで以上に仕事を頑張るようになった。
5年前のあの日、お袋がいなくなった日。
あの後、日引は俺にこれまでの事を詳しく説明してくれた。夢物語のような話だったが現に俺も不思議な体験していたので納得はした。日引が渡してくれたお守りは、お袋の強い力で俺が引っ張られるのを防ぐためだったらしい。
その後、真理と言う子の母親を訪ね、仏壇にお線香をあげさせてもらい話をしてきた。以外にもすんなりと話を信じてくれたのには驚いた。
健太の母親の方は時間がかかった。あの後、寺に行き健太の供養をしたそうだが、全て自分のせいでこうなってしまったのだと嘆く母親を、ゆっくりと時間をかけて話してきた。
あの女に健太が連れて行かれそうになった時、頭の中で見えたそうだ。必死になりながら自分を呼ぶ健太の事が。やはり、母親というのは男と違い、子供との繋がりが強いのかもしれない。今は、俺の嫁として日々頑張ってくれているが、ふと見せる悲しげな表情が、まだ罪の意識にさいなまれている証拠なのだろう。
あの内山さんは、いや。内山さんに体を乗っ取られていた夫婦は、あの廃墟の中で見つかった。身内から捜索願が出されていたらしい。廃人となり、病院に入ったと聞く。
家では、勝手にフライパンが動く事もなくなった。お袋の物はほとんど処分したが、ただ一つだけ残したものがある。
お袋と会話をするために使ったノート。
これだけは処分できない。何故なら、お袋と俺の今までの中で、一番多く会話した証拠だからだ。

天気のいい日曜の昼。
パラパラとそのノートをめくり読み返していた。丁寧に書かれた字や走り書きで書かれた字。あの時の事が蘇る。
「パパ~」
上の子が遊びから帰ってきたようだ。
「パパがいいって言ったらママもいいわよ」
嫁の声がする。どたどたと走ってくる音。俺がいる部屋の近くまで来たが中々顔を出さない。
「どうした?」
声をかけてみる。
引き戸のの向こうからひょこっと顔だけ出した息子は
「いいって言うよね!」
何のことなのか分からない。
「何が?言ってごらん」
俺は目をくりくりさせながらも、不安げな表情で言う息子を見て言った。
「これ!」
部屋に入ってきた息子が手にしていたもの。
・・・・・・猫だ。
真っ黒な子猫。息子は抱っこしているつもりらしいが、抱かれた猫は両脇を抱えられだらんとぶら下がっている状態になっている。猫は俺を見ると
「ふん」
と鼻息を飛ばした。

・・・決まりだ。
「飼いたいのか?いいよ」
「やった~‼」
息子は嬉しそうに猫を抱きしめる。抱きしめられた猫は、迷惑そうに暴れている。嫁の元に走って行った息子の声が聞こえる。
「パパがいいって言ったよ!」
「そう?じゃあちゃんと面倒見るのよ」
その会話を聞きながら、俺は笑いをこらえて続きを読み始めた。

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