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2章
2-9
*
「教えてくれ。ソフォラは森から生きて帰ってきたじゃないか。もう危険はないのに、どうして『死にたくない』なんて言葉が出たんだ」
ヘンリーは真っ直ぐソフォラの瞳を見据え、逸らさない。
「どうしてそんなに知りたいんですか……だって、婚約破棄するのに……」
最後はかすれるような小さな声だった。だがヘンリーの耳にははっきり届いていた。眉間に皺を寄せ、苦しそうに言葉を吐き出す。
「俺が悪かった……ごめん。ソフォラ、俺はお前との婚約を破棄したいなんて、今は一ミリも思ってない。むしろ……続けていきたいと思ってる」
一度息を飲み、続ける。
「だから教えてほしいんだ。ソフォラが、何を怖がっているのか」
その言葉に、ぽろりと涙がこぼれた。
知りたいなんて、興味を向けられるなんて――初めてだ。
「っ……う、うぅ……」
肩が震え、涙が止まらない。嗚咽が漏れる。
「ソフォラ……」
ヘンリーはソフォラの前で片膝をつき、縋るように視線を合わせると、握っていた左手を離すまいと両手で包み込んだ。
「大丈夫だ。そばにいるから……絶対に離れない」
強い意志を宿した瞳が、まっすぐソフォラを射抜く。
(誰もそばにいてくれなかったのに……)
(嫌だって、婚約破棄するって、あんなに怒っていたのに……)
不安と期待が入り混じる。
小説のような結末にはならないかもしれない。
でも、期待させて裏切られて――また一人になるくらいなら、信じたくない。
(それでも……)
「……ぐすっ……ほんとうに? そばにいてくれるの?……いらないって……言わない? ……捨てない?」
「絶対に! 絶対に離れない! そんなこと言うわけないし、捨てるはずないだろ!!」
握られた左手が、ぎゅっと強く締められる。
もう離さないと伝えるように、ヘンリーは何度も力を込めた。
(信じてみよう、彼を…信じたいんだ)
「……ふふ……ぐすっ……よろしくお願いします、ヘンリー」
これまで一度も咲かなかった花が、朝露に濡れ、陽を浴びて花開くように――
ソフォラは、やわらかく微笑んだ。
「っ……!」
ヘンリーは息を呑む。
心から笑うその可憐な表情に見惚れ、顔から首まで一気に赤く染まった。
「ヘンリー?……もしかして、様付けや敬語をやめたのが……」
「ち、違う! そんなことない!……あー……その、これからもヘンリーって呼んでくれ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ソフォラ」
「教えてくれ。ソフォラは森から生きて帰ってきたじゃないか。もう危険はないのに、どうして『死にたくない』なんて言葉が出たんだ」
ヘンリーは真っ直ぐソフォラの瞳を見据え、逸らさない。
「どうしてそんなに知りたいんですか……だって、婚約破棄するのに……」
最後はかすれるような小さな声だった。だがヘンリーの耳にははっきり届いていた。眉間に皺を寄せ、苦しそうに言葉を吐き出す。
「俺が悪かった……ごめん。ソフォラ、俺はお前との婚約を破棄したいなんて、今は一ミリも思ってない。むしろ……続けていきたいと思ってる」
一度息を飲み、続ける。
「だから教えてほしいんだ。ソフォラが、何を怖がっているのか」
その言葉に、ぽろりと涙がこぼれた。
知りたいなんて、興味を向けられるなんて――初めてだ。
「っ……う、うぅ……」
肩が震え、涙が止まらない。嗚咽が漏れる。
「ソフォラ……」
ヘンリーはソフォラの前で片膝をつき、縋るように視線を合わせると、握っていた左手を離すまいと両手で包み込んだ。
「大丈夫だ。そばにいるから……絶対に離れない」
強い意志を宿した瞳が、まっすぐソフォラを射抜く。
(誰もそばにいてくれなかったのに……)
(嫌だって、婚約破棄するって、あんなに怒っていたのに……)
不安と期待が入り混じる。
小説のような結末にはならないかもしれない。
でも、期待させて裏切られて――また一人になるくらいなら、信じたくない。
(それでも……)
「……ぐすっ……ほんとうに? そばにいてくれるの?……いらないって……言わない? ……捨てない?」
「絶対に! 絶対に離れない! そんなこと言うわけないし、捨てるはずないだろ!!」
握られた左手が、ぎゅっと強く締められる。
もう離さないと伝えるように、ヘンリーは何度も力を込めた。
(信じてみよう、彼を…信じたいんだ)
「……ふふ……ぐすっ……よろしくお願いします、ヘンリー」
これまで一度も咲かなかった花が、朝露に濡れ、陽を浴びて花開くように――
ソフォラは、やわらかく微笑んだ。
「っ……!」
ヘンリーは息を呑む。
心から笑うその可憐な表情に見惚れ、顔から首まで一気に赤く染まった。
「ヘンリー?……もしかして、様付けや敬語をやめたのが……」
「ち、違う! そんなことない!……あー……その、これからもヘンリーって呼んでくれ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ソフォラ」
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