大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

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3章

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「ここなんてどう?」
「いや、先程の部屋の方が良かった気がするが……うーん」

ソフォラを真ん中にして、二人が真剣に悩む。

「どこも素敵で……選べません」

「「うーーん……」」

さらに頭を抱える二人。

その様子を、家令のカプトが穏やかに見守りながら、くすりと笑った。

「ソフォラ様のおかげで、この邸にも春が訪れましたな」

柔らかな声音のまま、カプトはゆっくりと頭を下げた。
その動作は静かで、どこか年老いた体を労わるような慎重さがあった。

「ソフォラ様……」

一度言葉を切り、小さく息を吐く。

「私の目が、届いておりませんでした」

責めるでも、取り繕うでもない。
ただ事実を置くような声音だった。

「この邸を預かる者として、本来であれば――もっと早く、気づけたはずでございます」

握りしめられた手が、わずかに震える。

「ほんの少しでも、違和に目を向けておれば……ソフォラ様があのような思いをなさる前に、止められたやもしれません」

深く、さらに頭を下げる。

「老いを言い訳にするつもりはございません。ただ……気づけなかった己が、情けのうございます」

声は穏やかなままだが、その奥に沈む悔いは深い。

「謝罪で済むことではないと承知しております。ですが、それでも……お詫びを申し上げたく」

長年この邸を支えてきた男の謝罪は、ただの言葉ではなかった。

その背に積もる年月と責任の重さが、ソフォラにも伝わる。

「カプトは……僕がどんな扱いを受けていたか、知っていましたか?」

静かに問う。

カプトは頭を下げたまま、はっきりと答えた。

「……把握しておりませんでした。ゆえに、この失態は弁解の余地もございません」

「カプト……顔を上げてください」

ゆっくりと顔を上げるカプト。垂れた眉が、さらに深く落ちている。

「僕は、カプトに怒っていません。……僕のこと、嫌いですか?」

その問いに、カプトの表情がわずかに歪む。

「いいえ。ウンベラータ様を思わせるソフォラ様を、嫌うはずがございません」

目尻にうっすらと涙を溜めながら、続ける。

「本当は……もっと早く、お話ししたかったのです。幼い頃から存じ上げておりますゆえ……孫のように、愛おしく思っておりました」

ソフォラは一歩、カプトへ近づく。

それに応えるように、カプトは自然に両膝をついた。

「……お母様のことも、大切に思ってくださって、ありがとうございます」

おずおずと差し出した両手を、カプトが優しく包み込む。

「これから、お世話になります。仲良くしてください、爺や」

ふわりと笑うソフォラ。

その一言に、カプトの目が見開かれ――次の瞬間、深い皺を刻んで笑った。

「……ええ、ええ。もちろんでございますとも」

声は穏やかだが、その奥に滲む感情は深い。

「なんとお可愛らしい……。当主様やティペス様とは違い、ウンベラータ様によう似ておられる……」

今にも泣き出しそうなほどの喜びを滲ませるカプトに、ソフォラもつられて笑みをこぼす。

(嬉しいな……でも、やっぱり少しだけ、みんな変わってる)

「カプトがここまで甘くなるのは、母上とソフォラくらいだな」
「……“魔城の悪魔”と呼ばれるあのカプトをな」

少し離れた場所で、トネリコとティペスが小声で話す。

「ソフォラ様は猛獣使いですね」
「やめろ、あとで本気で怒られるぞ」

パキプスの呟きを、サンセベリアが慌てて制した。

「ソフォラ様。もしよろしければ、この爺やめに、お勧めしたいお部屋がございますが……いかがなさいますか?」

「本当? じゃあ、お願いしてもいい?」

「ええ、お任せくださいませ」

―――

案内された部屋は、トネリコやティペスの部屋とは反対側にあった。

「……カプト、なぜ俺たちから離す」
「ふぉふぉ……ティペス様。後ほど感謝なさることになります」

にやりと笑うカプト。

穏やかな笑みのはずなのに、なぜか逆らえない圧がある。

「私も遠いのは不満だが……」
「旦那様、少しは我慢なさいませ」

ぴしゃり、と柔らかく言い切る。

「……わかった。案内しろ」

(爺やって……すごい)

「こちらでございます、ソフォラ様」

扉が開く。

「わぁ……」

クリーム色とアップルグリーンを基調とした、温かみのある部屋。

家具も落ち着いた雰囲気で統一されている。

窓を開けると、庭が見え――その先に、先ほどの部屋も見えた。

「お父様とお兄様の部屋が見えます」

「この部屋は、かつて奥様がお泊まりになられていたお部屋でございます」

「お母様が……?」

「ええ。ご結婚前は同室を避けつつも、旦那様のお顔が見える場所をと望まれまして」

その話に、邸の印象が少し変わる。

冷たい城のような場所にも、確かに温もりがあったのだと。

だが同時に――

(その二人を、引き裂いたのは……)

ソフォラの視線が落ちる。

「……この部屋、僕には……」

「何を仰いますか」

静かだが、有無を言わせぬ声。

カプトは再び膝をつき、視線を合わせる。

「ソフォラ様は、愛されております。その証が――そこにございます」

指さされた先には、鏡。

そこに映るのは、黒髪に金の瞳の少年。

「子というものは、愛し合い想いを重ねた者たちに授けられるものでございます。ゆえに、その繋がりは……自然と姿にも現れるのでしょうな」

鏡越しに、トネリコの姿が見えた。

ソフォラは振り向き――そのまま駆け出す。

「お父様……!」

膝をついたトネリコが、しっかりと受け止める。

「妻も……私も、お前を愛している」
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