28 / 41
3章
3-9
*
部屋も決まり、離れで使っていた家具は持ち込まず、長年読み続けていた本や日記、そしてぬいぐるみだけを新しい部屋へ運び入れた。
「ソフォラ、専属の使用人を選んだのだが……今度にするか?」
「そうだよソフォラ。今日はこの子とゆっくりしてもいいんだよ?」
「キュウン?」
先程、部屋決めの際に大泣きしてしまったせいか、トネリコとティペスはまるで壊れ物に触れるように慎重に接してくる。
ティペスに両脇を抱えられているレイブンはまた首を傾げている。
「ふふ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
自然と笑みがこぼれる。
家族が気にかけてくれて、使用人たちも穏やかに見守ってくれる。
前世でも一人で生きてきた自分にとって――そして、小説の未来を知っていたからこそ――想像もできなかった光景だった。
(もう、この家は怖くない……見つけてくれてありがとう、ヘンリー)
そっと、婚約者へ感謝を向ける。
「……ソフォラ様もよろしいとのことです。入室させてもよろしいでしょうか、旦那様?」
カプトが念を押すように確認する。
「本当に大丈夫ですよ。お父様が選んでくださった方に、お会いしたいです」
「そうか……ならいい。カプト」
「はい」
カプトが廊下へ声をかけると、二人の男女が入室した。
一人は、茶色の髪をきっちりとまとめた女性。背筋が伸び、隙のない佇まい。
もう一人は、緩くウェーブのかかった桃色の髪の男性。どこか柔らかく、肩の力が抜けている。
「名前を」
短く促され、二人は順に名乗る。
「スピノーサと申します。誠心誠意、ソフォラ様にお仕えいたします」
やや力みのある、きっちりとした礼。
「アデニウムです。ソフォラ様が安らげる場所を作れるよう、ゆるっと頑張ります」
一歩遅れて、穏やかに頭を下げる。
対照的な二人だった。
「この二人は姉弟でございます。多少のことがあっても、阿吽の呼吸で補い合える関係です」
カプトが補足する。
(なるほど……正反対でも、だからこそバランスがいいのかも)
「良かったですね。……この二人、よく揉めておりますが、仕事自体は丁寧で早いので実用性は高いですよ」
パキプスが余計な情報を付け加えた。
「ちょ、ちょっとパキプス様!」
「まあまあ、だいたい僕が流してるので大丈夫です」
早速噛みつくスピノーサと、のんびり受け流すアデニウム。
その様子に、思わず空気が和らぐ。
「そして護衛騎士は――」
カプトの言葉に続き、サンセベリアが前に出て膝をついた。
「本日より、ソフォラ様の護衛騎士を務めさせていただきます。サンセベリアです。どうぞよろしくお願いいたします」
優しい笑みを向ける。
「何かあれば遠慮なく言いなさい。私でなくとも、ティペスやカプトでも構わない」
トネリコが静かに言う。
ソフォラは顔を上げ、しっかりと頷いた。
「ありがとうございます、お父様」
そして三人へと向き直る。
きりっとしたスピノーサ。
どこかふわりとしたアデニウム。
穏やかに微笑むサンセベリア。
「僕から、まだ名乗っていませんでしたね」
小さく息を整え――
「ソフォラです。これから、よろしくお願いします」
柔らかく笑いかけた。
部屋も決まり、離れで使っていた家具は持ち込まず、長年読み続けていた本や日記、そしてぬいぐるみだけを新しい部屋へ運び入れた。
「ソフォラ、専属の使用人を選んだのだが……今度にするか?」
「そうだよソフォラ。今日はこの子とゆっくりしてもいいんだよ?」
「キュウン?」
先程、部屋決めの際に大泣きしてしまったせいか、トネリコとティペスはまるで壊れ物に触れるように慎重に接してくる。
ティペスに両脇を抱えられているレイブンはまた首を傾げている。
「ふふ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
自然と笑みがこぼれる。
家族が気にかけてくれて、使用人たちも穏やかに見守ってくれる。
前世でも一人で生きてきた自分にとって――そして、小説の未来を知っていたからこそ――想像もできなかった光景だった。
(もう、この家は怖くない……見つけてくれてありがとう、ヘンリー)
そっと、婚約者へ感謝を向ける。
「……ソフォラ様もよろしいとのことです。入室させてもよろしいでしょうか、旦那様?」
カプトが念を押すように確認する。
「本当に大丈夫ですよ。お父様が選んでくださった方に、お会いしたいです」
「そうか……ならいい。カプト」
「はい」
カプトが廊下へ声をかけると、二人の男女が入室した。
一人は、茶色の髪をきっちりとまとめた女性。背筋が伸び、隙のない佇まい。
もう一人は、緩くウェーブのかかった桃色の髪の男性。どこか柔らかく、肩の力が抜けている。
「名前を」
短く促され、二人は順に名乗る。
「スピノーサと申します。誠心誠意、ソフォラ様にお仕えいたします」
やや力みのある、きっちりとした礼。
「アデニウムです。ソフォラ様が安らげる場所を作れるよう、ゆるっと頑張ります」
一歩遅れて、穏やかに頭を下げる。
対照的な二人だった。
「この二人は姉弟でございます。多少のことがあっても、阿吽の呼吸で補い合える関係です」
カプトが補足する。
(なるほど……正反対でも、だからこそバランスがいいのかも)
「良かったですね。……この二人、よく揉めておりますが、仕事自体は丁寧で早いので実用性は高いですよ」
パキプスが余計な情報を付け加えた。
「ちょ、ちょっとパキプス様!」
「まあまあ、だいたい僕が流してるので大丈夫です」
早速噛みつくスピノーサと、のんびり受け流すアデニウム。
その様子に、思わず空気が和らぐ。
「そして護衛騎士は――」
カプトの言葉に続き、サンセベリアが前に出て膝をついた。
「本日より、ソフォラ様の護衛騎士を務めさせていただきます。サンセベリアです。どうぞよろしくお願いいたします」
優しい笑みを向ける。
「何かあれば遠慮なく言いなさい。私でなくとも、ティペスやカプトでも構わない」
トネリコが静かに言う。
ソフォラは顔を上げ、しっかりと頷いた。
「ありがとうございます、お父様」
そして三人へと向き直る。
きりっとしたスピノーサ。
どこかふわりとしたアデニウム。
穏やかに微笑むサンセベリア。
「僕から、まだ名乗っていませんでしたね」
小さく息を整え――
「ソフォラです。これから、よろしくお願いします」
柔らかく笑いかけた。
あなたにおすすめの小説
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
悪役令嬢の中身は、定年退職した元教師でした 〜絶世の美女に転生したので、悪評を更生指導で一掃します〜
恋せよ恋
ファンタジー
「神様、このナイスバディをありがとう!」
六十二歳・独身女性・定年退職を迎えたばかりの教師。
異世界で手に入れたのは、十六歳の若さと絶世の美貌。
……でも、周囲の評判は「悪役令嬢」で絶望的!?
エスメラルダ公爵令嬢の悪評を更生させながら、
第二の人生、今度こそ謳歌させていただきます!
過疎配信の常連は、大手配信者でした
imaco
BL
☆タイトル・あらすじ通りの展開です。
なんとなく始めた配信「ひなたびより」を、今では趣味としてのんびり続けている陽向。
視聴者も少なく、同接は基本的に20人前後。誰かに見られている実感も薄いまま、それでも楽しく配信していた。
そんなある日、コメントとともに現れたのは「_a」と名乗る不思議なリスナー。
やけに丁寧で、なぜかよくスパチャをくれるその人は、いつしか“富豪”と呼ばれるようになって──。
自分を支えてくれるその存在が、まさか誰もが知る配信者だとは、陽向はまだ知らない。
戴冠の断頭台 無能王子と狂信の騎士
千葉琴音
BL
「無能」は、生き残るための盾だった。
「忠誠」は、世界を壊すための牙だった。
第四王子セシルは、血塗られた王宮を生き抜くため「愚鈍な王子」を演じ続けてきた。彼の正体を知るのは、幼少期から影のように寄り添う寡黙な従者、ジークだけ。
しかし、第一王子暗殺の濡れ衣を着せられたことで、セシルの計画は崩壊する。弁明も許されず、明日には首を刎ねられる絶望の夜。セシルはジークに「逃げて自由になれ」と最後の命令を下す。だが、返ってきたのは拒絶と、ジークの瞳に宿る昏い情熱だった。
忠誠を超えた狂信。愛を超えた独占欲。
血の海に沈む処刑場から、主従による美しくも凄惨な「逆転の戴冠式」が幕を開ける。
「許してやりなさい」と言われ続けた令嬢が、許した回数を数えていた——千二百回
歩人
ファンタジー
「許してやりなさい」
侯爵令嬢リーリエは、この言葉を千二百回聞いた。
婚約者が夜会で他の令嬢と踊ったとき。義母に「出来損ない」と言われたとき。父が「お前さえ我慢すれば丸く収まる」と目を逸らしたとき。
リーリエは毎晩、帳面に書いた。日付。許した内容。許した理由——その欄はいつも空白だった。
千二百回目の「許してやりなさい」を聞いた日、リーリエは帳面を閉じた。
「お父様。千二百回、許しました。千二百一回目は、ございません」
帳面が社交界に渡ったとき、「許してやりなさい」と言っていた全員の顔から血の気が引いた。我慢の記録は、どの告発よりも雄弁だった。
死ぬだけの悪役令息に転生したら、待っていたのは攻略対象達からの溺愛でした。
きうい
BL
病でで死んでしまった優は、気が付いたら読んでいた小説の悪役令息として転生していた。
それもどのルートでも十五歳という歳になると、死ぬ運命にある悪役———フィオレン・オーレリウス。
前世で家族に恵まれず、家族愛とは程遠い世界で生きてきた優は、愛されたいという願望を捨て、ひとりで生きることを決意する。
しかし、家族に対して表情と感情を隠し、言葉も発さず、一人で生きて行く術を身につけようと家族から距離をとるフィオレンとは裏腹に、家族や攻略対象達は異常なほどの愛を注ぐ。
フィオレンの知らない所で、小説のシナリオとは正反対の道を辿ることになるも、愛に無頓着で無自覚なフィオレンは溺愛されていき………?
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。