大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

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5章

サイドストーリー

使用人は見た!


「闇属性?そんなのよりもっと恐ろしいわ!」
「この邸でソフォラ様は女神だ」
「ソフォラ様がいないと、もう生きた心地がしない……」

ウァーマス辺境伯家の使用人たちに、ソフォラ付きの双子――スピノーサとアデニウムは聞き取りを行っていた。

ソフォラが来る前、この邸にも確かに闇属性への偏見はあった。
だからこそ、主が少しでも息をしやすいように――誰が何を思っているのか、確かめる必要があった。

「……本音で答えてください。ソフォラ様のことをどう思っていますか」
スピノーサは真っ直ぐに問いかける。

「え、ええ!? もちろん素敵な方よ!」

その返答に、スピノーサの眉がわずかに緩む。

アデニウムは一歩踏み込み、柔らかく笑った。
「取り繕わなくていいですよ。本音でどうぞ」

「むしろ取り繕う必要なんてないわよ!」
掃除をしていたメイドは、ぱっと顔を明るくする。

「ソフォラ様はね、とても明るく挨拶してくださるの。この邸で唯一の“光”よ」

「……光、ですか」
アデニウムが小さく呟く。

――その時。

廊下と繋がる庭の方から、土の匂いとともに声が飛んできた。

「おーい、その話なら俺も混ぜてくれ」

ひょい、と段差を越えて入ってきたのは庭師の男だった。
剪定ばさみを手に、屈託のない笑みを浮かべている。

「ソフォラ様が来てから、庭を整えるのが楽しくてな。前は誰も見向きもしなかったが……今は違う。ちゃんと見て、褒めてくださる」

さらに、廊下の奥から足音。

両腕いっぱいに手紙を抱えた使用人が、慎重に歩み寄り、会話に加わる。

「名前を覚えてくださってたんです。あの時は、本当に嬉しくて……」
腕の中の手紙を抱え直しながら、少し照れたように笑う。

「働いてきてよかったって、初めて思いました」

――どの言葉も、偽りはない。

その空気を、双子は確かに感じ取っていた。

スピノーサの胸の奥が、じわりと熱を帯びる。

(……良かった)

(あの方が、正しく見られている)

だが――

「闇属性より、旦那様とティペス様の方が恐ろしいわ」

その一言で、場の空気が一変する。

「廊下を歩いてるだけで怖かったのよ。機嫌が悪いと魔気でカーペットが焦げることもあったし……でも今は違うの。ソフォラ様が来てから、ご機嫌で……もうビクビクしなくていいの」

「庭も同じだ」
庭師が頷く。

「ソフォラ様が庭に出るようになってから、旦那様も歩いてくれるようになった。“見てもらえる”ようになったんだ」

「名前もです」
手紙を抱えた使用人が続ける。

「前は『おい』だけでした。でも今は、少しずつ覚えてもらえて……皆、喜んでいます」

――つまり。

ソフォラは、ただ受け入れられているだけではない。

邸そのものを、変えていた。

「……っ」

アデニウムが言葉を失う。

スピノーサも、静かに目を伏せた。

(……ここまで、影響を)

(あの方は、無意識にやっている)

そして同時に。

(だからこそ、守らなければならない)

(この評価も、この居場所も)

「……ということが分かったわね」
スピノーサが静かに言う。

「うん、予想以上だねー」
アデニウムがくすりと笑う。

次の瞬間――

ぱんっ、と軽やかな音。

二人の手が重なった。

「流石、ソフォラ様だわ」
「ほんと、最高だねー」

隠しきれない誇らしさ。

その様子を見て、サンセベリアは呆れたように息を吐く。

「……いや、見てれば分かるだろ」

(本当にこいつらに任せて大丈夫か……?)

そう思いながらも。

主の評価に一喜一憂し、心から安堵しているその姿に――

「……はぁ」

小さく息を吐き、苦笑した。

(まぁ……悪くねぇか)

笑顔を隠そうともしない双子を見ながら、

サンセベリアは静かにそう結論づけた。
感想 6

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