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7章
7-5
*
校舎から出た瞬間だった。
「ソフォラぁぁああ!!」
視界の端から何かが突っ込んできたかと思うと、次の瞬間――
ヘンリーの身体が腕一本で弾き飛ばされ、校庭の端まで吹き飛ぶ。
「えっ」
思考が追いつく前に、そのまま勢いよく抱きしめられた。
「おめでとうぅ!カッコよかったよぉ……!こんなに立派になって……お兄様は……っ、う、うぅ……うわあああああああん!!」
「お、お兄様……ぐるじい……!」
ぎゅうぎゅうと締め付けられる腕は、魔力だけでなく筋力までしっかり成長していて、本気で苦しい。
「やめなさいティペス。折れるだろう」
ベリッ、と強引に引き剥がされ、トネリコに救出される。
「大丈夫かソフォラ?……うぅ」
「お父様まで……」
安心したのも束の間、トネリコまで泣き出してしまう。
(外向きの顔、どこいったの……)
さっきまでの威厳ある姿はどこへやら。完全に崩れている。
――いや、ここまでよく耐えた方かもしれない。
「ソフォラ、大丈夫か?」
土埃を払いながら、ヘンリーが戻ってくる。
「大丈夫だよ。お父様、お兄様。入学式に来てくださってありがとうございました」
自然に微笑んで、二人を抱きしめる。
「これから学園で励んで参りますので、見守っていてください」
二人はさらに泣きながら抱きしめ返し――最終的にサンセベリアに引きずられて退場していった。
嵐みたいだった。
「……あの二人は相変わらずだな」
苦笑しながら、ヘンリーはまた当然のように腰を抱く。
(また……!)
「さぁ、寮へ案内する」
抵抗する隙もなく、そのまま歩き出す。
⸻
寮は校舎から少し離れた場所にあり、整えられた並木道が続いている。
左右に道が分かれ、右が女子寮、左が男子寮。
説明を聞きながら歩いていると――
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
レンガ造りの大きな建物は、どこか現代の東京駅を思わせる重厚さと美しさを兼ね備えている。
「綺麗だろ。結構気に入ってるんだ」
そう言って扉を開けられ、中に入る。
床も壁も整えられ、隅々まで手入れが行き届いている。
(すごい……)
感嘆が止まらない。
「五階建てで、階数と爵位や学年は関係ない。学園生活だから気負わなくていい」
そう言いながら、ヘンリーは当然のように頬を指でふに、とつまむ。
「緊張しなくていい。ソフォラより上なんて王族くらいだ。今年は俺とディスキディアくらいだし、タメ口でもいい」
にこっと笑う。
(無理だよ……)
「無理だよ」
思わずそのまま出る。
眉間に皺を寄せると――
「っ、ぶ……辺境伯様みたいだな……っははは!」
吹き出される。
(え、なんで笑われたの)
むっとしながらも、そのまま三階の部屋の前へ。
「ここがソフォラの部屋だ」
鍵を取り出し、迷いなく開ける。
(いや、なんでそんな慣れてるの)
その様子がおかしくて、つい笑いが漏れる。
「ヘンリー、ここ僕の部屋だよ。ふふ、後で鍵返してね」
そう言うと――
「何言ってるんだ?」
不思議そうな顔で返される。
「ここはソフォラと俺の部屋だぞ」
「……え?」
思考が止まる。
次の瞬間、ぐいっと引き寄せられ、そのまま部屋の中へ。
バタン、と扉が閉まる音。
カチャ、と鍵がかかる音。
背中に扉の感触。
逃げ場が、ない。
顔のすぐ横に手がつかれる。
もう片方の手は、腰を逃がさないように固定されている。
(え、え、え、なにこれ)
距離が、近い。
近すぎる。
「はは、可愛い」
至近距離で、覗き込まれる。
「驚くと、目もっと大きくなるよな。昔から変わらない」
指で前髪をすくわれ、そっと額に口づけられる。
「これからよろしくな、ソフォラ」
(むりむりむりむり)
頭が真っ白になる。
さっきからずっと我慢していた。
腰に回る腕も。
抱き上げられた時に触れた硬い胸も。
成長した体格も、全部。
(好きなの、バレる……)
顔に出さないようにしていたのに。
もう無理だった。
ぱしっ、とヘンリーの腕を払いのける。
そのまま両手で顔を覆う。
「な、なんで僕と同室なの……おかしいよ……!」
声が震える。
自分でも分かるくらい、顔が熱い。
でも。
(ちょっと嬉しいとか思ってるの何!?ダメでしょ!?)
内心ぐちゃぐちゃだった。
そんなソフォラを見て、ヘンリーは嬉しそうに笑う。
払い除けられたはずなのに、気にした様子もなく、再び抱き寄せる。
「掛け合ったんだ」
つむじに、軽くキスが落ちる。
「婚約者が取られそうで不安だからな。今年だけでも一緒にいられるようにって」
さらっと、とんでもないことを言う。
(いやいやいやいや)
小説では、一年は三年と同室。
そしてヘンリーの同室は――ドラセナのはずだった。
(なにこれ、全部違う)
思考が追いつかない。
(もうおかしくなっちゃうよお!!)
顔は真っ赤。
目は見開きっぱなし。
口はぱくぱく。
完全にキャパオーバーだった。
それでも――
逃げられない距離で、ヘンリーは満足そうに微笑んでいた。
校舎から出た瞬間だった。
「ソフォラぁぁああ!!」
視界の端から何かが突っ込んできたかと思うと、次の瞬間――
ヘンリーの身体が腕一本で弾き飛ばされ、校庭の端まで吹き飛ぶ。
「えっ」
思考が追いつく前に、そのまま勢いよく抱きしめられた。
「おめでとうぅ!カッコよかったよぉ……!こんなに立派になって……お兄様は……っ、う、うぅ……うわあああああああん!!」
「お、お兄様……ぐるじい……!」
ぎゅうぎゅうと締め付けられる腕は、魔力だけでなく筋力までしっかり成長していて、本気で苦しい。
「やめなさいティペス。折れるだろう」
ベリッ、と強引に引き剥がされ、トネリコに救出される。
「大丈夫かソフォラ?……うぅ」
「お父様まで……」
安心したのも束の間、トネリコまで泣き出してしまう。
(外向きの顔、どこいったの……)
さっきまでの威厳ある姿はどこへやら。完全に崩れている。
――いや、ここまでよく耐えた方かもしれない。
「ソフォラ、大丈夫か?」
土埃を払いながら、ヘンリーが戻ってくる。
「大丈夫だよ。お父様、お兄様。入学式に来てくださってありがとうございました」
自然に微笑んで、二人を抱きしめる。
「これから学園で励んで参りますので、見守っていてください」
二人はさらに泣きながら抱きしめ返し――最終的にサンセベリアに引きずられて退場していった。
嵐みたいだった。
「……あの二人は相変わらずだな」
苦笑しながら、ヘンリーはまた当然のように腰を抱く。
(また……!)
「さぁ、寮へ案内する」
抵抗する隙もなく、そのまま歩き出す。
⸻
寮は校舎から少し離れた場所にあり、整えられた並木道が続いている。
左右に道が分かれ、右が女子寮、左が男子寮。
説明を聞きながら歩いていると――
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
レンガ造りの大きな建物は、どこか現代の東京駅を思わせる重厚さと美しさを兼ね備えている。
「綺麗だろ。結構気に入ってるんだ」
そう言って扉を開けられ、中に入る。
床も壁も整えられ、隅々まで手入れが行き届いている。
(すごい……)
感嘆が止まらない。
「五階建てで、階数と爵位や学年は関係ない。学園生活だから気負わなくていい」
そう言いながら、ヘンリーは当然のように頬を指でふに、とつまむ。
「緊張しなくていい。ソフォラより上なんて王族くらいだ。今年は俺とディスキディアくらいだし、タメ口でもいい」
にこっと笑う。
(無理だよ……)
「無理だよ」
思わずそのまま出る。
眉間に皺を寄せると――
「っ、ぶ……辺境伯様みたいだな……っははは!」
吹き出される。
(え、なんで笑われたの)
むっとしながらも、そのまま三階の部屋の前へ。
「ここがソフォラの部屋だ」
鍵を取り出し、迷いなく開ける。
(いや、なんでそんな慣れてるの)
その様子がおかしくて、つい笑いが漏れる。
「ヘンリー、ここ僕の部屋だよ。ふふ、後で鍵返してね」
そう言うと――
「何言ってるんだ?」
不思議そうな顔で返される。
「ここはソフォラと俺の部屋だぞ」
「……え?」
思考が止まる。
次の瞬間、ぐいっと引き寄せられ、そのまま部屋の中へ。
バタン、と扉が閉まる音。
カチャ、と鍵がかかる音。
背中に扉の感触。
逃げ場が、ない。
顔のすぐ横に手がつかれる。
もう片方の手は、腰を逃がさないように固定されている。
(え、え、え、なにこれ)
距離が、近い。
近すぎる。
「はは、可愛い」
至近距離で、覗き込まれる。
「驚くと、目もっと大きくなるよな。昔から変わらない」
指で前髪をすくわれ、そっと額に口づけられる。
「これからよろしくな、ソフォラ」
(むりむりむりむり)
頭が真っ白になる。
さっきからずっと我慢していた。
腰に回る腕も。
抱き上げられた時に触れた硬い胸も。
成長した体格も、全部。
(好きなの、バレる……)
顔に出さないようにしていたのに。
もう無理だった。
ぱしっ、とヘンリーの腕を払いのける。
そのまま両手で顔を覆う。
「な、なんで僕と同室なの……おかしいよ……!」
声が震える。
自分でも分かるくらい、顔が熱い。
でも。
(ちょっと嬉しいとか思ってるの何!?ダメでしょ!?)
内心ぐちゃぐちゃだった。
そんなソフォラを見て、ヘンリーは嬉しそうに笑う。
払い除けられたはずなのに、気にした様子もなく、再び抱き寄せる。
「掛け合ったんだ」
つむじに、軽くキスが落ちる。
「婚約者が取られそうで不安だからな。今年だけでも一緒にいられるようにって」
さらっと、とんでもないことを言う。
(いやいやいやいや)
小説では、一年は三年と同室。
そしてヘンリーの同室は――ドラセナのはずだった。
(なにこれ、全部違う)
思考が追いつかない。
(もうおかしくなっちゃうよお!!)
顔は真っ赤。
目は見開きっぱなし。
口はぱくぱく。
完全にキャパオーバーだった。
それでも――
逃げられない距離で、ヘンリーは満足そうに微笑んでいた。
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