大好きな小説の悪役令息に転生したら、婚約破棄するはずの婚約者に執着されていました

エアコン

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9章

サイドストーリー

違和感 2


ソフォラと共に過ごすうちに、“ドラセナ”という仮面は少しずつ剥がれていった。

主人公でいなければならない——そう思うほどに、逆に素が滲む。

寿宮 遥と重なるソフォラに、もっと触れたい、もっと知りたい——
その衝動が、理性を押しのけていた。

そんな自分に、ソフォラは微笑んで「嬉しい」と言った。

その一言で、歪んでいたはずの感情が、形を変えていく。

これは憧れか、執着か、それとも——
分からないまま、ドラセナはそれを“恋”だと思い込んだ。



二年との合同演習。

映画やゲームと同じ展開。二年の生徒同士の衝突、飛んでくる攻撃。

そこで本来なら、一人の攻略対象と接点が生まれる。

痛いだろう。だが、死にはしない。

——遥さんが受けた痛みに比べれば、こんなもの。

そう思って、ドラセナは足を止めた。

けれど——

攻撃は、届かなかった。

展開された障壁に飲み込まれ、霧散する。

驚いて視線を向けた先には、右手を掲げ、息を荒げるソフォラの姿。

そのまま後ろへ傾く体を、加速魔法で現れたヘンリーが抱き留める。

気づけば、駆け出していた。

「ソフォラ!」

すぐにその手を掴む。

「バカ!俺のことなんかどうでもいいんだよ!魔力酔いしてない!?大丈夫!?」

どうでもいいはずの自分。

——遥さんを殺した、自分なんか。

それなのに。

ソフォラは、ほっとしたように微笑んでいた。

(……なんで、そんな顔ができるんだ)


困惑するヘンリーへ事情を説明すると、表情が変わった。

「……は?」

静かにソフォラを地面に下ろし、そのまま歩き出す。

「お前ら……よくもソフォラを巻き込んだな」

その怒気は、明らかだった。

だが——その感情は、ドラセナも同じだった。

胸の奥で、同じ熱が燃え上がる。

一歩、前へ出る。

「周り見えてなかったの?本気で?」

笑っているのに、目が笑っていない。

(俺の、大事なものを)

「す、すまない!」
「ごめんなさい……!」

謝罪が飛ぶ。

だが——

「遅ぇよ」

「反省だけで済むと思ってる?」

同時に魔法陣が展開される。

「トテーナ・フルミナ!!」
「アラーエ・ルーキス!」

雷が轟き、地が裂ける。

光の刃が、無数に降り注ぐ。

許せなかった。

ソフォラを傷つけるものすべてが。

——まるで世界そのものが、彼を殺そうとしているようで。

止まらない。

止めない。

殺す——

そう思った、その時。

「……それ以上したら」

「嫌いになるからね」

——ぴたりと、世界が止まる。

(嫌われる)

その一言だけで、すべてが凍りついた。

振り返る。

そこには、怒りを露わにしたソフォラが立っていた。

(嫌だ……)

(行かないで)

次の瞬間、二人は同時に駆け寄る。

「ごめんソフォラ嫌いにならないでくれ!」
「ごめんねソフォラ!嫌いにならないでぇ!!」

——もう、言い訳はできなかった。

重ねているだけじゃない。

代わりでもない。

それでも。

好きだった。

歪んでいても——これは“恋”だ。



ソフォラの婚約者であるヘンリーが、憎かった。

物語の中で、彼を捨てた男。

——目の前の彼とは違うと分かっていても、嫌悪は消えない。

だが、体育祭での言葉が、その認識を揺らした。

「……ソフォラは」

「未来に対して、怯えてる」

「その原因は……たぶん俺で、お前だ」

「だから——渡さない」

「誰にも」

「……お前も含めて、嫌いだ」

(……俺も、同じなのか)

守りたいと願いながら、

結果的に追い詰めている側なのではないかと——

初めて、足がすくんだ。



それでも。

離れることはできなかった。

近くにいないと、怖かった。

ヘンリーがいない時を見計らって、ソフォラのそばにいる。

だが同時に、思う。

このままでいいのか、と。

悩み続けた末に——

結論は、歪んだものだった。

ストーリー通りに戻さなければならない。

そうすれば、“正しい未来”に辿り着ける。

——ソフォラと共に。

そのために、嫌々ながらも集会に参加した。



次の日、ソフォラは体調を崩した。

原因は分からない。

そして、その翌日。

何事もなかったかのように登校してきた。

——だから、確かめたかった。

「お前は誰だ?」

冷たく、低い声。

逃がさない。

どんな答えでも——

(ソフォラじゃなくてもいい)

(それでも——お前が好きだ)

その想いだけは、もう揺るがなかった。
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