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01 聖女、柚子
しおりを挟む鋒が真っ直ぐにこちらを向く。
樹木に遮られた月明かりがそれを反射し、銀に煌めく白刃の形をはっきりと柚子に伝えた。
「これもお前の言う、『仕方のない事』──だ」
そうなのだろうか。
自分はただ居場所が欲しかっただけなのに。
どこからも拒絶され、世界から弾き出される。
今度はどこに行くのだろう。
それとも今度こそもう、おしまいだろうか……
振り下ろされる刃を最後まで見届ける事が出来ず、柚子はきつく目を瞑った。
◇
柚子が聖女として異世界から召喚され三年が過ぎた。
期待された「役目」は果たせないままに……
一年、二年と聖女の兆しを何も表さない柚子に、周囲は段々と苛立ち始めた。
聖女の兆し──その役目とは、聖樹の種を育て、国の根幹となる大樹とする事。
桃の種ほどのそれを受け取り、柚子は種を毎日抱えるようにして過ごしたが、発芽の表徴はついぞ見られなかった。
やがて最初は持て囃していた召喚者たちも、柚子を厄介者扱いするようになっていく。そんな中、神殿は王家の要請を受け、新たな聖女の召喚を試みたのだ。そうして今度こそ無事に役目を担う者が来た。
聖なる力を持った、美しい少女──セレナ。
いよいよ柚子は無用の長物と成り下がった。
異世界からの聖女は代々一人。
無理をして二人召喚した反動か、力を示せない柚子は相手の聖力に充てられ、一ヵ月寝込んだ。
けれどその頃にはもう誰も柚子を顧みず、傍についてくれる者など誰もなかった。
役立たずで不要となった柚子である。神官たちは柚子を帰すべきか悩んだ時期もあったのだが、それはつまり柚子に死ねと言う事となってしまうのだそうだ。
こちらの世界に召喚する命は、前の世界での命の際にある者と決められているらしい。
そして干渉できる時間は同じ。
事故死する直前に連れて来られてきた柚子は、その時間にしか戻せないそうなのだ。
流石にそれは、彼らの神の教えに反する行為。
『全く。扱いに困る聖女様を呼び込んだものだ』
ここに来て二年。
鬱陶しそうに告げる神官長のその言葉に、当時十七歳の柚子はショックを隠せなかった。けれどどうやら彼らには柚子を元の世界に返品する気は無いらしい。曲がりなりにも聖なる者を名乗っているのだから、そうかもしれないけれど……
逃げようか。
そう考えた事もある。
けれど、どこへ? そして例え上手く逃げる事が出来たとしても、その後どうするつもりなのか……この世界の事など何も分からない柚子には途方もない話だった。
「はあ、お腹が空いた……」
セレナが来てから三ヵ月。
今ではもう、食事を運んでくれるどころか、与えられる事もなくなっていた。空腹を訴えるだけで嫌な顔をされるけれど、それでもずっと飲まず食わずではいられない。
厨房へ行き何とか頼み込もう。
神殿内には柚子に同情的な人もいる。
運良くその人たちに会えればいいけれど……
与えられた部屋を出て、柚子はふらふらと厨房へ向かった。
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