21 / 110
第一章 予想外の婚約破棄
第21話 不安と疑問
しおりを挟むまたしても馬車に押し込められ、リヴィアはぽくぽくと目的地への道のりを揺られていた。
ただ今度は普段乗り慣れている魔術院用の馬車では無く、皇族専用のそれ……
エルトナ家の馬車は父が仕事で使う。予備もあるが、社交禁止のリヴィアには使えないので、普段通勤の際は魔術院から迎えに来て貰っている。
それでも先日のような社交の際には家のものを使うが……比較にならない。どこに触っていいのか分からない。そもそも座っていいのだろうかと訳の分からない不安に行き着く。エルトナ家の馬車が貧相なのだろうか。リヴィアは一瞬空を仰ぐ。
あちこち触れて傷でも付けたら怖いわ……
申し訳ない程度に腰を掛け、口元を引きつらせる。一目で高価と分かる装飾。天使を象った繊細なそれは思わずため息が漏れる程緻密、かつ、うっかりすると簡単に壊れてしまいそうに見える。窓枠ひとつとってもそんな作りで、更にはソファの生地の上等さに腰を浮かせそうになる。
それに────
駄目だ、降りたい。降りて走ってついて行きたい。
「なんだ怖気付いたのか?」
平然と肘を窓枠につくエリックに、強張る笑顔で何とか、いいえと答える。
馬車に気後れしているとは思われ無かったらしい。正直余裕の笑みを浮かべるエリックと話している方がまだ緊張しない。
そこまで思い首を捻る。逆だ。皇族より馬車に気を使ってどうする。
「ふふ、緊張しているんでしょう」
エリックと並んで座ったアーサーが首を傾けてリヴィアを見ていた。ぴくりと反応するも、何とか取り繕い笑顔で首肯した。
「……ええ。皇族の馬車なんて初めて乗りましたから、緊張しておりますわ」
そう言ってリヴィアは改めてエリックとアーサーを見比べた。それにしてもよく似た二人だ。顔立ちといい、雰囲気といい。歳の離れた兄弟のようだ。髪や目の色は違うが、血縁とはこう映るのかと改めて感心した。
馬車の中には三人だけだ。ウィリスは来てくれなかった。侍従たちは馬で左右を走っている。
自分も馬に乗る馬がいいと頼んだが、アーサーに荷物よろしく馬車の中に放り込まれた。皇族は皆こうして人を物扱いするのだろうか……
現実から意識を飛ばしていたら、しきりに窓の外を睨んでいるエリックが目に入った。
……それにしても、こうしてエリックを間近で見ると今更ながらに思うのだが……子どもだ。
六つも年下の子どもに少しムキになり過ぎただろうか。ウィリスや皇太子の依頼という圧はあったが、何だか申し訳無くなってきた。
「……殿下は何故、女性の家庭教師がお嫌なのです?」
先程は聞けなかった問いを口にする。
もしエリックの家庭教師を務めるのなら知っているべきだろう。エリックはチラリとこちらに視線を向けて、顔を顰めて固く目を閉じてしまった。
無神経だったろうか……
どうしたものかとアーサーを見てみると、海色の瞳はじっとリヴィアを見つめている。態度はなんとも対称的な二人である。
……自分は果たしてエリックの家庭教師を引き受ける事になるのだろうか。今日中には分かるだろう結末に、リヴィアは窓の外の景色を眺めて思いを馳せた。
33
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる