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8. 祟り
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やがてレイはリザリアと結婚し、イオル伯爵となった。
セラは今までの知識を活かして人として生きた。
度々人族の男たちに襲われるようになったが、セラは彼らを遠慮なく殺し、魔力を手に入れていった。
セラはレイに背を向けて生きていた。
けれど、いつもその背にレイの気配を感じて生きていた。
忘れられなかった。
だから人の親切を感じた時は、返す努力をした。
不遇な者に出会ったら、少しだけ手を貸した。
全部レイに教えて貰った事。レイがきっかけで……
セラが生きて……自分を好きになれる時間。
セラは数年毎に居住を移し、同じように暮らしていた。
助け、助けられ、殺し、レイを想った。
セラは歳を重ねて行った。
魔族であるならば老化を表す必要は無い。年若い方が人に混じりやすく、また、取り入り易い。
けれど、セラはレイと同じ時を生きたかった。
そして同じように死にたかった。
だけどレイの寿命は分からない。
その気配はいつもセラの近くにあったけれど、最後にセラを冷たく見据えたあのレイは、今どうしているのか……。
年老いてからは人に襲われる事は無くなったので、セラは住み易い街を見つけ、長く一人で暮らしていた。
会いたい……
最後に一目でいいから。
セラは思い立ち、レイの元へと向かった。
その頃にはもうセラの魔力は、セラに不自由を与えない程に大きくなっていた。
◇
昔数ヶ月だけ暮らした街。
セラは宿屋に目を向けた。
レイが紹介してくれた場所。
厳しく面倒見の良かった女将さん。
人の寿命を考えると、彼らの命がまだあるかは分からなかった。
それはレイにも言える事だとは、ここに来る途中で気がついた。
「いらっしゃい! お客さん?」
明るい声に振り向けば、昔見た女将を若返らせたような若女将がこちらに笑顔を向けている。
「ああ……食事をね……やってるかい?」
若女将の笑顔に釣られ、つい答える。
若女将は満面の笑みで返事をし、セラは宿屋に入った。
勧められるまま席につき、店内を見回す。まるで時が巻き戻ったようなそこで、一息をつくように目を閉じた。
(懐かしい……)
約半世紀、色んな街を渡り歩いて来たけれど、ここはセラの故郷のようだ。育み、大事にされた場所。
「何にする? この辺のメニューが柔らかくて食べ易いよ」
若女将の親切に勧められるままそれを頼んだ。
魔族は食事を摂らないが、食べないと人に混じって生きるのは難しい。
歳を取り、街外れに住むようになると特に何とも思われなくなったが。
『あの婆さんは歳を取りすぎて仙人にでもなっちまったんだ。霞で腹が一杯になるのさ』
当たらずとも遠からず。
日持ちのする物を家に置き、食べる振りをして過ごしていた。
こうしてちゃんとした食事を摂るのは久しぶりだ。
一応美味しいと思う感覚はセラにもある。
ぎこちなく食事を始めるセラを、若女将は興味深そうに眺めていた。
「お客さんどこから来たの?」
「北から……昔の知り合いに会いに」
「へえ……いいね」
そう言って若女将は目を細めた。
その仕草にセラはふと食事を止める。
レイと似てる。
こうやって笑う人間は何人かいた。
その度にセラはレイを思い出した。
「あたし、この街から出た事が無いんだ。だから、いいなあ羨ましい。旅ってどうだい? 楽しいかい?」
セラは思い返した。
「……どこに行っても心は一つだったよ」
若女将は片眉を上げた。
「そうなんだ……それもまた、羨ましいね」
若女将はそれきり口を閉じた。
何かを察したのか、宿屋をやっていれば人のあしらいなんて日常茶飯事なのだろう。その瞳に賢明な瞬きを見て、セラは口を開いた。
「もし……知ってたら教えて欲しいんだけど……貴族街は、どっちだい?」
「……貴族……」
その言葉に若女将は眉を顰めた。
やはり関わり合いになりたくないのだろう。セラは苦笑した。
「いいんだ。すまないね。間違えたくなかったからさ、方向だけね、確認しておきたかっただけなんだ」
その言葉に若女将はホッと息を吐いた。
セラが貴族街に近づきたく無い故の質問と受け取ってくれたのだろう。大抵の平民は、貴族とは、お近づきにはなりたくとも、近づきたくは無いものだ。
「そうだね。あんまり大きな声じゃあ言えないけど、この国の貴族には近づかない方がいいよ。祟られてるって噂だから」
「祟り?」
目を丸くするセラに若女将は重苦しく首肯した。
「うちのおばあちゃんが女将をしてた頃の話なんだけど……」
セラは今までの知識を活かして人として生きた。
度々人族の男たちに襲われるようになったが、セラは彼らを遠慮なく殺し、魔力を手に入れていった。
セラはレイに背を向けて生きていた。
けれど、いつもその背にレイの気配を感じて生きていた。
忘れられなかった。
だから人の親切を感じた時は、返す努力をした。
不遇な者に出会ったら、少しだけ手を貸した。
全部レイに教えて貰った事。レイがきっかけで……
セラが生きて……自分を好きになれる時間。
セラは数年毎に居住を移し、同じように暮らしていた。
助け、助けられ、殺し、レイを想った。
セラは歳を重ねて行った。
魔族であるならば老化を表す必要は無い。年若い方が人に混じりやすく、また、取り入り易い。
けれど、セラはレイと同じ時を生きたかった。
そして同じように死にたかった。
だけどレイの寿命は分からない。
その気配はいつもセラの近くにあったけれど、最後にセラを冷たく見据えたあのレイは、今どうしているのか……。
年老いてからは人に襲われる事は無くなったので、セラは住み易い街を見つけ、長く一人で暮らしていた。
会いたい……
最後に一目でいいから。
セラは思い立ち、レイの元へと向かった。
その頃にはもうセラの魔力は、セラに不自由を与えない程に大きくなっていた。
◇
昔数ヶ月だけ暮らした街。
セラは宿屋に目を向けた。
レイが紹介してくれた場所。
厳しく面倒見の良かった女将さん。
人の寿命を考えると、彼らの命がまだあるかは分からなかった。
それはレイにも言える事だとは、ここに来る途中で気がついた。
「いらっしゃい! お客さん?」
明るい声に振り向けば、昔見た女将を若返らせたような若女将がこちらに笑顔を向けている。
「ああ……食事をね……やってるかい?」
若女将の笑顔に釣られ、つい答える。
若女将は満面の笑みで返事をし、セラは宿屋に入った。
勧められるまま席につき、店内を見回す。まるで時が巻き戻ったようなそこで、一息をつくように目を閉じた。
(懐かしい……)
約半世紀、色んな街を渡り歩いて来たけれど、ここはセラの故郷のようだ。育み、大事にされた場所。
「何にする? この辺のメニューが柔らかくて食べ易いよ」
若女将の親切に勧められるままそれを頼んだ。
魔族は食事を摂らないが、食べないと人に混じって生きるのは難しい。
歳を取り、街外れに住むようになると特に何とも思われなくなったが。
『あの婆さんは歳を取りすぎて仙人にでもなっちまったんだ。霞で腹が一杯になるのさ』
当たらずとも遠からず。
日持ちのする物を家に置き、食べる振りをして過ごしていた。
こうしてちゃんとした食事を摂るのは久しぶりだ。
一応美味しいと思う感覚はセラにもある。
ぎこちなく食事を始めるセラを、若女将は興味深そうに眺めていた。
「お客さんどこから来たの?」
「北から……昔の知り合いに会いに」
「へえ……いいね」
そう言って若女将は目を細めた。
その仕草にセラはふと食事を止める。
レイと似てる。
こうやって笑う人間は何人かいた。
その度にセラはレイを思い出した。
「あたし、この街から出た事が無いんだ。だから、いいなあ羨ましい。旅ってどうだい? 楽しいかい?」
セラは思い返した。
「……どこに行っても心は一つだったよ」
若女将は片眉を上げた。
「そうなんだ……それもまた、羨ましいね」
若女将はそれきり口を閉じた。
何かを察したのか、宿屋をやっていれば人のあしらいなんて日常茶飯事なのだろう。その瞳に賢明な瞬きを見て、セラは口を開いた。
「もし……知ってたら教えて欲しいんだけど……貴族街は、どっちだい?」
「……貴族……」
その言葉に若女将は眉を顰めた。
やはり関わり合いになりたくないのだろう。セラは苦笑した。
「いいんだ。すまないね。間違えたくなかったからさ、方向だけね、確認しておきたかっただけなんだ」
その言葉に若女将はホッと息を吐いた。
セラが貴族街に近づきたく無い故の質問と受け取ってくれたのだろう。大抵の平民は、貴族とは、お近づきにはなりたくとも、近づきたくは無いものだ。
「そうだね。あんまり大きな声じゃあ言えないけど、この国の貴族には近づかない方がいいよ。祟られてるって噂だから」
「祟り?」
目を丸くするセラに若女将は重苦しく首肯した。
「うちのおばあちゃんが女将をしてた頃の話なんだけど……」
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