22 / 45
22. 逃げる彼女 ※ 貴也視点
しおりを挟む「……ごめんなさい」
俯いたまま彼女が零す言葉に身体が強張った。
肩に触れた手はまだ離れたく無いらしく、彼女にしがみついたままだ。
「つまらない事に巻き込んで……」
「そんな事ないよ」
大事な事だ。
ちゃっかり彼女の隣に居座って来たけど、いい加減彼女の気持ちを聞きたくて、自制が辛くなっている。
問い詰めて追い詰めて、無理にでも好きだと言わせたい、けど……
三上さんの気持ちは少しずつこちらに向いて来ている、と思っている。だけどやっぱり日向の存在が気になって仕方がない。
あいつは彼女の中に、まだどれだけ残っているんだろう……もう好きじゃないって、彼女の口から聞いておきながら、未だそんな考えが頭を過ぎる。
そんな気持ちを残したまま無理を通せば、きっと彼女が困るだろうと。そう思って置いていた距離が、今はもどかしくて仕方がない。
ちゃんと付き合ってたら……
焦れる指先が彼女の肩で戦慄いて、慌てて力を抜けば、困ったように彼女は笑う。
「助かったよ、ありがとう」
(……さっきのあの女みたいに、弱さを見せて縋ってくれたらいいのに……)
自分が十代だったら、まだ三上さんと会っていなかったら、可愛いと浮かれていたかもしれない日向の女。
(見てくれは確かにそうなんだろう。けれど……)
面倒臭そうだな、と思った。
振り回されるのが好きな奴だったら楽しいのかもしれないけれど、ずっと一緒にいるのは疲れると思う。ころころと変わるあの表情に、自然と溢れる涙。意図してなのか違うのかはわからないが、相手を翻弄させるのに長けているように感じた。
それでも、さっきの女がどれ程泣こうと、笑おうと、三上さんがいる以上、何とも思えない。多分もう、誰でも、そうなのだ……
「送るよ……」
気を取り直して口にすれば、視線を逸らしたまま彼女は俺の手から擦り抜ける。
「……ごめん、今日はいい……まだ明るいし……ちょっと一人で考えたいんだ。ありがとね」
気丈に笑う姿に、ざわりと嫌な予感が走る。
「でもっ」
追い縋るように発した声に、けれど彼女は止まらずに、一歩二歩と俺から離れて。
「大丈夫よ」
そう言って笑って、走り去って行っていった。
4
あなたにおすすめの小説
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完結】2人の幼馴染が私を離しません
ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。
私に残されたのは幼馴染という立場だけ。
代わりにもう一人の幼馴染は
相変わらず私のことが大嫌いなくせに
付き纏う。
八つ当たりからの大人の関係に
困惑する令嬢の話。
* 作り話です
* 大人の表現は最小限
* 執筆中のため、文字数は定まらず
念のため長編設定にします
* 暇つぶしにどうぞ
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる