やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜

藍生蕗

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22. 逃げる彼女 ※ 貴也視点

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「……ごめんなさい」

 俯いたまま彼女が零す言葉に身体が強張った。
 肩に触れた手はまだ離れたく無いらしく、彼女にしがみついたままだ。

「つまらない事に巻き込んで……」
「そんな事ないよ」
 大事な事だ。
 ちゃっかり彼女の隣に居座って来たけど、いい加減彼女の気持ちを聞きたくて、自制が辛くなっている。
 問い詰めて追い詰めて、無理にでも好きだと言わせたい、けど……

 三上さんの気持ちは少しずつこちらに向いて来ている、と思っている。だけどやっぱり日向の存在が気になって仕方がない。
 あいつは彼女の中に、まだどれだけ残っているんだろう……もう好きじゃないって、彼女の口から聞いておきながら、未だそんな考えが頭を過ぎる。

 そんな気持ちを残したまま無理を通せば、きっと彼女が困るだろうと。そう思って置いていた距離が、今はもどかしくて仕方がない。
 ちゃんと付き合ってたら……
 焦れる指先が彼女の肩で戦慄いて、慌てて力を抜けば、困ったように彼女は笑う。

「助かったよ、ありがとう」

(……さっきのあの女みたいに、弱さを見せて縋ってくれたらいいのに……)

 自分が十代だったら、まだ三上さんと会っていなかったら、可愛いと浮かれていたかもしれない日向の女。
(見てくれは確かにそうなんだろう。けれど……)

 面倒臭そうだな、と思った。
 振り回されるのが好きな奴だったら楽しいのかもしれないけれど、ずっと一緒にいるのは疲れると思う。ころころと変わるあの表情に、自然と溢れる涙。意図してなのか違うのかはわからないが、相手を翻弄させるのに長けているように感じた。

 それでも、さっきの女がどれ程泣こうと、笑おうと、三上さんがいる以上、何とも思えない。多分もう、誰でも、そうなのだ……

「送るよ……」
 気を取り直して口にすれば、視線を逸らしたまま彼女は俺の手から擦り抜ける。
「……ごめん、今日はいい……まだ明るいし……ちょっと一人で考えたいんだ。ありがとね」
 気丈に笑う姿に、ざわりと嫌な予感が走る。

「でもっ」
 追い縋るように発した声に、けれど彼女は止まらずに、一歩二歩と俺から離れて。
「大丈夫よ」

 そう言って笑って、走り去って行っていった。
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