【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

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1. 憂鬱な朝

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「こらあ!シーラ、起きなさあい!」

「おおお起きてるわよ、アンティナ」

 そう言いながらシーラは慌ただしく身支度を始める。
 隣室の侍女、アンティナはお姉さん気質の友人だ。朝が弱いシーラを起こしせっせと世話を焼く。


 ここはルデル王国。
 小さいが土壌が豊かで作物が良く育ち、産業も盛んな王国だ。国民の気質も穏やかで優しく、毎日も概ね平和。

 アンティナはシーラの髪を梳かし始めた。

「シーラの髪って本当に綺麗ね。手触りがいいのに程よく癖があって、絡まりにくいなんて、羨ましいわ」

 そう言って毎朝シーラのベージュの髪をため息をついて褒めてくれる。初めは気恥ずかしかったが、おかげで今では凡庸な自分の一番のお気に入りになった。

「ありがとうアンティナ。でも、私はアンティナの落ち着いた髪の色も大好きよ」
 そう言うとアンティナは声を上げて笑った。

「目が覚めてきたみたいね。さ、カチューシャ付けて」

 (お世辞じゃないんだけどな……)

 アンティナに渡されたカチューシャを付け、鏡で自分の姿を確認する。
 ベージュの髪に栗色の目。凡庸な顔立ち。さあ褒めろと言われると、言葉に詰まるに違いない。
 アンティナは猫目の可愛らしい顔をしているが、落ち着いた焦茶の髪が全体のバランスをとり、よく馴染んでいる。青い目は空のように澄んでいて、微笑まれると同性でもどきりとしてしまう。

「今週は豊穣祭の期間だからね。お城の中も慌ただしいわよ。急ぎましょう」

「いいなあ、豊穣祭」

 思わずため息を溢す。
 豊穣祭は作物の豊穣を祈り、感謝するお祭りである。
 もっともシーラが実際に体感するのは「お祭り」の部分だけではあるが。沢山の路面店が並び、美味しい物を食べ歩く幸せ……
 今年も休みが一日豊穣祭と合うので、絶対に食べ歩きを楽しむのだ。

「あ、待って」

 ささやかな楽しみを胸に秘め、シーラはアンティナに声を掛ける。
 最後にお守りの首飾りを身につけ、シーラはアンティナの後を追って部屋を出た。

 ◇ ◇ ◇

 シーラは城で住み込みの侍女をしている。
 仕事はざっくり言うと雑用だ。何でもやる。
 城内にある、各省の雑事を侍女頭が振り分け担当する。

 主に事務仕事で、外注したいような、簡単だけど時間の掛かる仕事。とは言え全くの部外者にそれをやらせるのもどうかと言う意見から、城内で仕事が完結し、尚且つ身元のしっかりした侍女は適任だという話から始まった。

 この国は規模の小ささから、女性でも働き口が多くある。
 かといって力仕事は男性の方が効率が良いのは変わりない為、それ以外の仕事にはなるが。

 シーラはネデラウル子爵家の三女で五番目の子である。
 子どもの頃は可愛がって貰ったが、次女である姉が適齢期に近づいた頃、結婚相手を探すのが大変だと嘆き、持参金の心配をしている両親を見ていたから、十二歳から城勤めを始めた。

 一応試験もあるのだが、たまたま母方の叔父が文官になり一年程経っており、口利きしてもらう事が出来た。良いタイミングを得たものだ。あとは十二歳という年齢も良かったらしい。担当した試験管はちょっと同情していた。

 両親は良い結婚相手を期待して送り出したが、無茶言わないで欲しい。子どもの頃は可愛いで済んだものも、成長すればその言葉が日常的に出てくるのは親兄姉だけた。
 手が掛からない娘だとそれだけで満足して欲しいくらいだ。
 城勤めは女性にも寛容で安全だし、シーラは一生自分で自分を養っていけるのだから。
 だからシーラは貴族の適齢期と言える十七歳になっても特に結婚を意識していない。


 いき遅れてから寂しい思いをしたらどうするの、とアンティナにしょっちゅう心配という探りを入れられているが、誰でもいいから結婚するのなら、この充実した日々を享受した方が幸せな人生を過ごせるような気がするのだ。
 アンティナはそう言い募るシーラを見てはため息をつき、気が向いたら相談してねと話を打ち切るのだった。

 ◇ ◇ ◇

「シーラ、今日は建設省にいって頂戴」

 げ。

 内心引き攣った声が出るも、出来るだけ取り澄まし、かしこましました。とカーテシーをとった。

 侍女頭が目を細め満足そうに首肯する。
 子どもだったシーラを躾け、可愛がってくれた侍女頭はシーラに厳しく接するように振る舞う。多分他の侍女との区別し、不満が出ないようにする為だろう。
 侍女頭の良いところだとシーラは思う。

 好きな人にだけ甘くエコ贔屓する人間を、シーラは城内で何人も見てきた。その点侍女頭は好きも嫌いも無く躾は平等にする。男性だったら求婚したいくらい尊敬しているが、残念ながら性別の壁は厚い。

 それより目下の問題は今日の仕事先か。
 シーラはげんなりと肩を落とした。
 気の毒そうな顔をするアンティナに、微妙な笑みを返して取り繕っておいた。
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