【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

文字の大きさ
35 / 51

34. 二人の幸せ

しおりを挟む

「お子様よねえ」

 苦笑しながら王妃が口を開いた。

「とても長く生きた魔族とは思えないでしょう?」

 そして、ふっと息を吐いた。

「それだけあなたを好きなのよ」

 困ったように笑う王妃は、ただのお節介な母親に見えた。
 シーラは視線を彷徨わせた後、おずおずと口を開いた。

「私も……ナタナエル殿下の事……好きです」

 その言葉に王妃は飲みかけのお茶を素早くソーサーに戻し、シーラの肩を掴んだ。

「それはっ、是非っとも、本人に伝えてあげて!」

 固まるシーラから手を離し、王妃はふうと息を吐いた。

「本当にうちの子達は皆一途で、一体誰に似たのやら……」

 お二人に似たのだと思います。シーラはこっそりと思う。
 すると王妃は思い出したように、どこか言いにくそうに口を開いた。

「その……あなたたちが、度々ナタナエルの寝所で長く過ごしていると言うのは本当かしら?」

「え?」

 シーラは目を見開いた。

「あなたがいつも出てくる時は疲れてきっている様子でと聞いていて……あとは、よく服を脱がせているようだとか……あの子はまだ15歳だからと、まだ子ども扱いしていたんだけど……」

 どうなのかしら? と、困ったように問う王妃にシーラは全力で否定した。
 王妃は、ほっと息を吐く。

「良かったわ。うちの人もね、婚前交渉なんてしたら、わたくしと結婚出来ないのよって、説得するのが大変だったのよ。バレないようにするとか言って……全く、あの年頃の男子は直ぐ暴走するから、今からしっかり手綱を握っておきなさいね」

 何故か止めを刺された気分になる。
 シーラは視線を逸らし、かろうじて、はいと返事をするのがやっとだった。


 ◇ ◇ ◇


 庭を散策しようと表に出れば、そこにパブロとエデリーの姿を見つけ、ナタナエルは足を止めた。
 人の気配に振り向いたエデリーと目が合い、ナタナエルは些か気まずい思いで口元を引き結ぶ。
 エデリーの視線を追い、パブロもまたナタナエルへと目を向ける。そしてその顔が憎悪に歪んだ。

「こんにちは、兄上、義姉上」

 臣下に降る事になったとは言え、パブロは国の王太子だった。毎日の公務は文官たちに簡単に投げられるものでもなく、新たにオフィールオが立太子するまで、彼は未だ公務についている。今はその多忙な業務の合間を縫った、ひと時の逢瀬なのだろう。
 そんなナタナエルの心情を知ってか知らずか、エデリーはふわりと笑った。

「ナタナエル殿下、ごきげんよう。また背が伸びました?」

 ナタナエルは一つ頷いて答えた。

「義姉上こそ益々美しさに磨きがかかりましたね。眩しさに目が眩んでしまいます。庭に出て真っ先に、どの花よりもあなたの美しさに目が留まりましたから」

「まあ、お上手になった事」

 口元を扇子で隠し、エデリーはくすくすと笑った。
 ねえ、とパブロに手を添え見上げるエデリーに倣い、パブロに視線を向ければ、ふいと顔を背けられてしまった。
 まあしょうがないかとナタナエルは思う。

 この兄に、「自分の防波堤となり、王族を色で支配しようとするクソ狸どもの餌となれ」と脅したのはナタナエルだ。
 シーラと出会ってから、他の女に触れたく無かったから。
 それにどの道ブリーレにパブロの子が宿る事は変えられない未来だった。

 共に過去に訪れた魔族に未来視をする者がいた。
 ブリーレはしたたかというか、執念深いというか、いくつかある未来の別れ道の、そのどれにでもパブロの子を手に入れる未来が表れていたらしい。

 そしてパブロはエデリーの愛を失うのだ。
 ナタナエルの未来にもまた、貴族の女に襲われる未来があった為、兄を利用させて貰う事にした。自分をダシにすればいいのだと。

 ほんの一欠片の油断で、この先の未来が確立されているのだ。ならば弟を守る為だと、女を受け入れればいい。そうすればきっとエデリーはあなたの話を聞き、受け入れてくれるでしょう、と。

 兄もまた、エデリー以外に触れたく無いのは分かっていた。けれど、

「たった一度の過ちで全てを失うのと、必要悪を受け入れた先に唯一を手にするのと……どちらを選びますか? 兄上」

 怪しく煌めくナタナエルの金色の瞳に、パブロは苦悶に顔を歪め、後者を選んだのだ。


 まあ恨んで当然だ。自分だって究極の選択だと思う。
 ただ、エデリーが応えてくれた事だけは、些か運任せなところはあったのだが。今となってはもう考える必要は無いだろう。

「これ以上お二人の逢瀬を邪魔しては、馬に蹴られてしまいますね。僕はこれで失礼します」

「あ、待って」

 立ち去ろうとするナタナエルにエデリーが声を掛ける。
 困ったように眉を下げ、パブロを見上げてから、再びナタナエルに目を合わせた。

「ナタナエル殿下。わたくし、あなたに感謝しておりますのよ」

 その言葉にナタナエルは息を飲む。

「わたくしが他国へ縁付いたという未来、教えて頂きましたの」

 エデリーはそう言って睫毛を伏せた。

 口の軽い。

 ナタナエルはパブロをジロリと見た。まあ、未来視の話など胡散臭いもの、信じる輩などそうそういないだろうが。よっぽどエデリーを手放したく無かったのだろう。
 何から何までエデリーエデリーで国王まで説得し、こんな話まで聞かせたのだから。

 ……どことなく覚えがあるのはきっと気のせいだと思う。
 そう言えば国王も王妃王妃とうるさいので、似た者親子なのだろう。違いないと得心していると、エデリーが話を続ける。

「それでわたくし、きっとそこで幸せでは無かったと思いましたの」

「……」

 ナタナエルは知らない。違う時間軸でエデリーが嫁いだという国にも訪れたとは思うが、彼女の事なんて会ったかどうかも覚えていない。

「だから今にとても満足していますの。だってわたくしも、ずっとパブロしか見えていなかったから」

 そう言って幸せそうにはにかむエデリーに、パブロは堪らないと言った風に口付けを落とした。

 そんなパブロの頬にエデリーはそっと手を添える。

「ね、だからナタナエル殿下を許してあげてね。それとも、わたくしがあなたを許すと言っているのに、あなたにはまだ許しが必要なの?」

 そう言われパブロは眉を下げた。

「私の唯一は君だけだよ」

「じゃあ兄弟喧嘩は程々にしてね」

 そう言ってエデリーから口付ければ、パブロは蕩けるように笑み崩れた。

「ああ、私の女神。勿論君の望むままに」

 目の前でいちゃこらしている兄たちに胸焼けを覚え、ナタナエルはさっさと踵を返した。

 シーラに会いたい。
 まだ母から解放されないのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...