【完結】暴君王子は執愛魔王の転生者〜何故か魔族たちに勇者と呼ばれ、彼の機嫌を取る役割を期待されています〜

藍生蕗

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番外編 異類婚姻譚 ー魔族と人ー 9. あなたは

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 アンソレオ侯爵の根回しにより、セラは隣国への手土産となった。あの貴族はセラを見失った事を惜しんでいたから。
 セラは国境を勝手に抜けたとして、元いた国に戻されるよう手配された。

 下手に手を出せば国際問題になるだろう。
 レイが一人喚いたところで、どうにもならないように。けれど、先の貴族に粗末に扱わないように念を押して。レイが自棄を起こさない為に。

 魔性と言われていたが、果たして真実そうなのかと、セラの魔力が弱い為、誰も信じていなかった。

 食事を摂らなくとも生きていかれる。
 痛めつけられても、傷を負うが人のような痛みは無い。
 セラが認識していた魔族の力はその程度で、それは隠す事に大した努力は必要無かった。

 結果侯爵はセラを魔性とは信じなかったものの、甥の不始末を詫び、伯爵家と話し合い、両家はこの一件を収めた。

 ただリザリアはその話し合いに納得しなかった。
 魔性とは言え自分の婚約者を誑かした。そして少なからずレイはその誘いに乗り、自分を捨てようとした。

 だから護送にごろつきを雇い、あの娘を辱め殺してやろうとした。ごろつきはその後帰らなくて良いと金を握らせておいたから、誰にも気付かれずあの娘を葬る事が出来た。

 リザリアは嬉しかった。
 やっと彼が手に入ったと。
 ロイーズに似たレイを手に入れた事で、二人を自分のものに出来たような高揚感すらあった。
 レイもまた騎士として鍛えあげられた凛々しさが魅力的で、しかも現侯爵の持つ宝石のような瞳はロイーズには受け継がれていないのだ。リザリアの気持ちは益々高まった。




 レイは侯爵からこれが幸せなのだと聞かされた。
 誰よりも何よりも、自分が耐える事でセラは幸せになれるのだと。
 侯爵家も伯爵家も、お前たちを逃さないし、許さない。
 お前が我を通し、手放さなければ、どれ程の者が不幸になるのか良く考えろと言い聞かされた。




「セラを、幸せにしてくれるんですか?」

 懇々と聞かされる説教に、レイは思わず口にした。
 家族にも……責任を求められると言われてしまったから。

 自分が耐えれば、セラは幸せになれる。
 突き放すしか無かった。
 レイはリザリアとの婚姻に頷いた。




 けれど、リザリアは更に求めるようになった。
 婚約者である自分を見ろと。愛せよと。
 レイにとっては彼女との婚姻はセラを幸せにする為の条件でしか無かった。
 しかも肝心のセラは既に隣国。
 リザリアにこれ以上手出しが出来ないのは分かっていたから、レイはリザリアへの態度を取り繕う事もしなかった。




 リザリアが怒りを示したのは、婚姻の夜。
 レイの式の最中の態度と、披露宴を欠席した事だ。
 
「どうして誓わなかったのよ! レイ!」

「……沈黙で答えた」

 沈黙は肯定とされ、神父に承認された。
 レイにしてみたら同じ事だ。
 誓いの口付けをと言おうとする神父を睨みつけて黙らせ、式をさっさと終わらせた。

 出席していたリザリアの友人たちがクスクスと笑い声を立てていたが、レイには気にならなかった。
 その後披露宴を欠席した事で、リザリアがどれ程居た堪れずにそこに座していたのかも。

 こんな男が伯爵位を継ぐ事に、現伯爵はどうとも思わないのかと不思議に思ったが、仕事は出来るが娘には甘いだけの親バカで、こちらも話の通じない輩だった。

 レイは密かに頼んでいたのかもしれない。
 リザリアが自分に愛想を尽かす事を。
 親族の誰かが諌めてくれる事を。
 その期待は外れ、自分はまだ逃げられない。けれどその日はそう遠くないのでは無いかと考えていた。

 目の前で憤るリザリアを見て、レイは内心ほくそ笑んでいた。続く言葉を聞くまでは。

「まさかまだあの娘を恋しいと思っているんじゃあないでしょうね? 言っておくけどもう無理よ! あの娘はとっくに死んでいるんだから! あなたの気持ちなんて欠片も受け取れないんだから!」

「何を……」

 動揺を表すレイに、リザリアは口元を歪めて嘲った。

「護送にごろつきを雇ってやったのよ! 好きにしていいって言ってやったわ! その後崖から落として……」

 全て言い終わる前にレイはリザリアを黙らせた。
 貴族令嬢である彼女の身体は華奢で、それでも止められずレイはリザリアを打った。


 初夜とは言えあまりにも酷い物音と、夫人となった令嬢のけたたましい叫び声に、流石にと言った風に使用人が部屋の様子を伺いに来た。
 そして部屋と夫人の惨状に悲鳴を上げ、屋敷は騒然となった。


 新郎は斬首となった。


 イオル伯爵家にはそこから少しずつケチがつき、衰退の一途を辿り、今はもう没落寸前だと言う。

 アンソレオ侯爵家はそんな新郎の縁者として社交界で厭われ、伯爵家よりも早く没落してしまった。



 もうここに、レイはいなかった。

 

 レイはずっとにいた。

 セラは自分の背中を抱きしめたくて、両手を肩に当て、自らを抱きしめた。
 

「レイ……」


『一緒に来るか?』


「レイ……」


『一緒に逃げるか?』


「……っごめんなさい!」


 何度も一緒にと言ってくれたのに。
 側にいてくれたのに。
 見守っていてくれたのに。



 気づかなくてごめんなさい。


 
 顔を覆って嗚咽を零すセラを、若女将は戸惑いながらも背中をさすって宥めてくれた。
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