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しおりを挟む「なんだい、無愛想な子だね」
幼い頃から父方の祖母や、母方の叔母によく言われてきた言葉だ。
フィリップは何の感情も表さないまま、大きな目を瞬かせた。
幼い頃に母を亡くし、父は自分を大切にしてきてくれたけれど、どうにも周囲に疎いところがある人で。自分の表情が乏しいせいもあり、息子の周りで起こっている事に気付いていないようだった。
この親戚二人は母を嫌っていたから、彼女によく似た自分はずっと嫌悪の対象だった。
そもそも母がいなくなって、どう笑ったらいいのか分からなくなったのに。楽しいも嬉しいも感じなくなって、子供らしい挙動のできない自分はさぞ不気味な存在だっただろう。
だから仕方がないと言えば仕方がない。
良い気分では無かったけれど、特段何も感じなかったから放っておいた。
すると大人の態度を見て子供も自分を遠巻きにする。次第に手を出すようになる。だから自分はいつも一人だったし、段々とそんな関わりしか持てない他人なんて、どうでも良くなっていった。
「お前、生意気なんだよ!」
ある日フィリップは同い年の子供に突き飛ばされて花壇に転がった。
確かダリルとか言っただろうか。
口をきいた覚えもないのに、何が気に入らないのだろう。
親戚の茶会に自分を預け、父はいつものように仕事に向かってしまった。
歳の近い子供のいる場の方がフィリップも退屈しないで済むと思っているらしい。
父は自分に目を掛けられないくらい忙しい人。だから余計な事で煩わせられなかった。
そんなフィリップの心を見透かしてか、彼らの手は止まるところを知らない。表情の乏しい自分なら大きな怪我でもさせない限り、見咎められる事は無いと高を括っている。
加えて身体が小さく顔立ちも女のような自分は、目をつけられやすかった。
「気持ち悪い奴!」
そう言われ、今日も殴られて突き飛ばされて。それでも顔に出さない自分へと、異端者に向ける眼差しが突き刺さる。こんな奴相手なら何をしてもいいと思うのだろう。……どう声を上げていいのか分からないだけなのに。
身体を起こそうと身を捩った瞬間、ゴンッと言う鈍い音が響いた。
一瞬また自分が叩かれたのかと瞬いたが違う。
目の前の子供たちは明らかに狼狽えていて、頭を押さえ蹲る子供を気にかけながらも、助けを求めるか逃げるかでお互いを探り合っているようだった。
……それはどうやら自分の前に立ちはだかる人物のせいらしい。
ひらひらと靡くスカートの裾を見て女性だと言う事は分かる。
「ダリル! 何をやってるのよ!」
凛と澄んだ声に、その人がまだ年若い令嬢だという事に気がついた。
「……お姉ちゃん」
ぐすっと涙声で女性を見上げるのは、自分を率先していじめていたダリルだ。
「まったく! 従弟がこんな事をしているなんて、恥ずかしいにも程があるわ!」
姉弟かと思ったが従姉弟らしい。
そんな事をぼんやりと考えながら、フィリップは無言で起き上がり、土を叩いた。
「従弟がごめんなさい! 大丈夫?」
振り向きざま直ぐに自分の身体を労るように看て、彼女は申し訳なさそうな顔をした。そうして手を握り、フィリップに手当に行こうと促す。
無言で頷く自分ににっこりと笑いかけ、彼女はフィリップと歩き出した。ダリルの悔しそうな顔が目に入る。
「本当にごめんなさいね、あの子にはよく言っておくから」
「……」
表情もなく無言で頷く自分にも、彼女は奇異の目を向けない。ただただ申し訳なさそうに微笑むだけだ。
柔らかくて華奢な手が温かくて、突然にダリルが羨ましいと思った。
今の今までどうでもいいと思っていた相手なのに、自分にも姉が欲しくなった。
初めて抱いたそんな願望に縋るように、フィリップは眩しい思いで彼女を見上げた。
それからフィリップは、ミランダと名乗った彼女をずっとずっと追いかけていた。
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