【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗

文字の大きさ
15 / 49

14. 意外な邂逅


「あ~ん、もう。この旅館古いし道は入り組んでるしー、ほんと嫌ぁーい」
 聞こえてきた、のほほんとした声に目を瞬かせる。
 こちらに近付くにつれ、はっきり目視できる人影は女性。歳の頃は史織と同じか少し下、だろうか。
 
 栗色に染めた緩く波打つ髪を一括りにして肩口から流している。白地に大振りの花がプリントされたワンピースが良く似合っていて、その格好から旅行客……というよりは外食に来たお客様、という感じがする。
 じっと見つめていると、垂れ目がちのその瞳と目が合った。
「あら~? だあれ?」

 首を傾げる女性に史織は思わず自分の仲居着を握りしめる。着替えておいて良かった……
 
「ここの従業員をしております、西野と言います」
 史織はぺこりと頭を下げ、挨拶をした。
 その様子を見て女性は、ふうんと唇に指を添えて首を傾げた。
「あたしぃ、ここの従業員は全員覚えているんだけど~、あなたの事は知らないわ~?」
「え……」

 思わず絶句してしまう。
 もしかしたらこの人はこの旅館の関係者……というより偉い人なのかもしれない。果たしてどう言った人物なのかと考えるよりも先に、史織の頭は勢いよく下がった。
「はい、今日から勤務しております。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません!」
「そうなんだ~。あ、あたしここの人じゃないから~、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ~?」
 そう言ってほわんと笑う女性に内心で首を傾げる。……ではこの人は誰なのだろう。

「ん~、ここに来たら会えると思ってたんだけどなあ~、ねえ他には誰もいないわよね~?」
「へっ? あの……はい。私も今来たばかりですが、誰にも会っておりません」
 女性は、そうなんだ~と口にして、史織をじっと見つめて来た。

(何だろう……)
 その視線を受け止めて身体を強張らせていると、女性はにこりと笑った。
「あたし~、乃々夏っていうんだ~。仲良くしてね、西野ちゃん」
「……は、い。よろしくお願いします」

 流されるように答えるも、もしかしたら彼女は常連のお客様なのかもしれない。という事は粗相があったら良くないだろう。多分。
 史織が逡巡していると、いつの間にか乃々夏がすうっと史織との距離を詰めた。
 その動作に驚いていると、顔のすぐ横で、乃々夏の唇が綺麗に弧を描くのが見えた。
「あたし~、あなたの事、知ってる~」

 こそりと耳の奥に忍び込むような囁きに、史織の肌がぞわっと泡立った。
「あ、これ~、あたしの連絡先~。何かあったらここに連絡入れて~?」
「へ? あの、……」
「困った時はお互い様だから~」
 戸惑いながらも、差し出された気付けばそれを受け取ってしまう。

 史織が動揺している間に再び距離を取った乃々夏は、ほわほわとした笑みを浮かべたまま、くるりと踵を返して行ってしまった。
 その後ろ姿が再び煙に隠され消えていく。

 そこでようやく史織は目を覚ますように声を張った。
「え、何今の?」
 狐狸に化かされたので無いのであれば……

 知っている? 史織を? 
 それに何故連絡先をくれたんだろう……?
 もしかしてどこかで会った事があるのだろうか?
(やばいっ)
 ここの関係者では無いと言っていたが、詳しそうだった。もし、史織の事を話されて、引いては千田に辿り着かれでもしたら大変な事になる!
 
 乃々夏、乃々夏……

 どこかで聞いた事があるような、無いような──
 混乱している今では、思い出せるものも思い出せる気がしない。
 母か麻弥子に相談するべきだろうか。
 史織もまた急いで部屋に戻ろうと、急いで踵を返したところ、どんっ! と固い何かにぶつかった。
 焦りすぎて竹にでも激突したのだろうか……
 痛む鼻を摩っていると、頭上から不機嫌そうな声が聞こえて来た。
感想 0

あなたにおすすめの小説

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

小さくなった夫が可愛すぎて困ります

piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。 部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。 いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。 契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。 「おい、撫でまわすな!」 「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」 これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。 そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語 ※本編完結済(全26話+後日談1話)、小話追加中 ※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。 ※他サイトにも投稿

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (完結済ー全8話)

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。