また出会えたらその時は

華月

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記憶編

24.絡まれる俺

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 ごきげんよう。
 今日は、気になっていた庭園に朝から来ている。この城には、王族のみに許された庭園と一般にも解放されている庭園がある。今回は解放されている庭園にした。丁寧に管理されているのだろう、見事な生垣や花々たちが、まだ残る朝露にきらきらときらめいていた。朝と言ってももう9時半。ちらほらと散歩に来ている人も見かける。

 ここに来る少し前、レオから、俺宛てにたくさんの絵姿と釣書が来ていると聞いた。……今俺はレオと付き合ってるし、見合いは興味が無いけど捨てるのも申し訳なくて、預かってて貰うことにした。ていうかレオは、なんで俺が興味無いって知って嬉しそうにすんの……。付き合ってる人がいるのに、フラフラしないのにな、俺。信用ないのかな……。はぁ、お見合いかぁ……ああ、俺も貴族だなんだの渦中にズブズブと入って行ってる気がする……めんどくさそうだけれど、ここにいる以上仕方ないとして。それに負けない癒し空間を探さねば。

 あの大きな噴水の近くには、きっとマイナスイオンもびしばし出ているはず。
 こんな所で昼寝が出来たら最高だし、回るついでに人気が少ない昼寝スポット探してみようかな。
 順路はないそうで、自由に歩いて見て回る。そして、庭園の端の方に見つけてしまった……最高のお昼寝スポットを。そこは生垣の向こう側にあり、芝生と日陰になりそうな大きめの木が1本。まさにおあつらえ向きの場所。

(最っ高……明日昼寝しに来よ)

 にこにこ顔で来た道を戻っていくと、前から豪華なドレスを来た女性が、カツカツと踵を鳴らしながら歩いてきた。いや待てなんかおかしいぞ? 庭園を見る素振りもないし、歩くの早いし、なんかめちゃくちゃこっち睨んでないか? うわ、嫌な予感がする……。そっと進路を変えて逃げの姿勢を取った……が。
 まぁ大抵そういう予感は当たるもので。

「そこの貴方」

 はい俺、呼び止められるの巻ー!
 ぎしぎしと音がしそうなくらいぎこちなく振り向くと、見事な金髪に蒼い瞳の、ちょっと怒ったような顔の少女がこちらを見ている。

「なんでしょうか?」
「貴方ね? レオナルド殿下が連れ帰ったという異世界人とやらは。」

 ジュリオが俺を守るように前に出ようとするのを止めて、下がらせる。まだ何もされてはないしね。

「ええまぁ、それが何か?」
「わたくし、アルマ・ランディと申します。以後お見知り置きを。」
「黒瀬海斗です。海斗が名ですのでよろしくお願いいたします。それで? ご要件は?」

 アルマは綺麗なカーテシーで礼を取った。俺も腰を折り、礼をする。絡まれたとはいえ、丁寧にしてもらったなら丁寧を返したいもの。
 心を落ち着けて言葉を選ぶけど、少々冷たくなってしまうのはご愛嬌ということで……。

「今日は顔見せに参っただけですわ。貴方がどのような方か知りたかったのです。でも安心致しましたわ。やはり、レオナルド殿下の隣に立つのはこのわたくしだと確信が持てました。」
「はあ…。」
「なんですの? その腑抜けた返事は!」
「……いえなんでも。安心されたようで何よりです。他に用がないなら、私は失礼させて頂きますが宜しいですか?」
「え、ええ。時間を取らせてしまってごめんなさいね。」

 ああ~~~~~~~~~やっと終わったァァ……。付け焼き刃とはいえ、貴族様の真似事は疲れるな。で、きっとあれが、ずっとレオを追っかけてるって言うご令嬢だな。わかりやす。
 城の方へ歩き出すと、アルマは何も言っては来なかった。
 ……あの子、『』って言ったぞ……。ってことは来るってことだよな? めんどくさ!

 ついたため息は、空へと消えていった。





「やはりいらっしゃったのですね!」

 今日は午後から、王妃様とレオの妹2人にお茶会に誘われていた。
 目の前のテーブルには色とりどりのお菓子たちが優雅に並んでいる。甘党にはわくわくする景色でしかない。  
 王家専用の庭にてティーカップを傾けながら、ラヴィニア様が『彼女…流石の速さね。』とため息とともに零した。

「はい。『今日は顔見せに来ただけ』とおっしゃっていましたね。なのでまた来られると思いますが。」
「そうよね、ご挨拶だけで終わるはずがないもの。」

 ソニア様もため息をついている。うーん、アルマめちゃめちゃ嫌われてないか? まぁ自分の兄を追っかけ回してるんだからアレかぁ。でも礼儀正しかったし、俺は今んとこそんなに嫌いでもないけどな。めんどくさいけど。

「そうねぇ……あの子もずっとレオのことを想ってくれていて一途なのよ。レオが、これという人を公表したならまた変わると思うのだけれど。」

 そう言うと王妃様は俺にチラリと視線を向ける。そして優雅に笑うと、容赦なく質問をぶつけて来た。

「レオはあなたを伴侶に、と言っていたけれど、あなたはどう考えているの? カイトさん。あ、違うのよ! 純粋に気になっているだけなの。母として、ね。」

 初っ端から直球すぎて面食らいながらも、素直に自分の感情を吐露する。嘘をつく必要もないし、ついたとしても、貴族という世界で生きている彼女たちには通用しないだろうし。

「……自分でも、よく分からなくて。レオのことが大事だというのは何があっても変わらないんですけど、す、好きか、と言われると……。」

 うっ、赤くなるな! 顔! 耐えろ!

「そうですの……兄様から想いは告げられたのでしょう?」

 今度はソニア様がやや前のめりで聞いてきた。
こ、これは根掘り葉掘り聞く気だな……!

「ええまぁ………………はい。」
「まあまあ! それで、2人は今どのような関係なの?」

 もうそこに居る女性3人全員が前のめりである。
王族というのも相まって、圧がすごい。

「あの、友達からということで……お付き合いさせていただいてます。」
「あらあらまあまあ! で、では前向きに検討なさっているということね!?」
「はい、そういうこと……になりますね。」

 3人の顔が、パァァァァッと明るくなる。な、なんなんだ。息子が相手を連れてきたからわくわくしてんのかな? まぁそのうち知られることだし、それなら、早い方がいい。

「それが聞けて嬉しいわ。あなたたちがどんな状況なのかそわそわしていたの。レオをどうぞ宜しくね、カイトさん。」
「はい!」

 その後のお茶会は終始和やかに進んだ。俺がお菓子を堪能していると、そんなに嬉しそうに食べてくれるなら、と王妃様がお土産に持たせてくれた。う、嬉しい……! 収納魔法を使ってお菓子を収納する。

「カイト様は収納魔法も使えるんですのね……。」

 ラヴィニア様が大きな目をぱちくりしている。どうやらこの魔法は使える人があまり多くないらしく、珍しいんだって。

「はい、こちらに来る時に、神様に強請ってしまいました。」

 あはは、と笑ってみせる。3人は顔を見合わせていた。

「こんなに美しく愛らしいのですもの、神様もきっと満更でもないのでは? ねえお姉さま。」
「そうね、あんな所に紋を刻むあたり、神様もカイト様を気に入っているのよ。」
「そうねえ、そもそも気に入っていなければ愛し子の称号なんてくださらないでしょうし。」

 またも3人は前のめりに語り出した。俺が美しいとか愛らしいとか、この世界の顔面偏差値の基準はどうなっているんだろう。顔の作りはそんなにかけ離れているわけでもないのにな。美的感覚の違いってことかなぁ。
 少し明後日に意識を飛ばしていると、お茶会は終わった。また近いうちにお茶しましょう、と言われたけど、また根掘り葉掘りは勘弁だぞ……。でもみんな、俺を好意的に受け入れてくれて嬉しい限りだ。
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