俺はお前の犬じゃねぇ!

槇村焔

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1話 藤野誠也には秘密がある

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 流星からクスリの話を聞いた数日後。
その日、誠也は一日フリーだった。
いつも些細なことで誠也をこき使う流星も、朝から1人で何処かへ出払っていた。

パチンコでも行くか…と誠也が町中をぶらぶらと散歩をしていると顔見知りとばったり遭遇した。
吉澤大毅よしざわだいき
流星の警察時代の同期で、今でも流星に捜査依頼を頼む現職の刑事である。

クマのように大柄でのっそりとした動きが特徴の吉澤は、警察時代は流星とは相棒《バディ》を組んでいた。
単純明快でお人よしの体育会系の吉澤と、屁理屈の塊の頭脳派の流星は、真逆の性格であったが息があい、お互いにお互いを認め合い、周りからも最高の相棒と称されていたらしい。
流星が警察を辞めて1番悲しんでいたのは、この相棒である吉澤だった。


「なに、大毅。兄貴に用か?」
「いや、お前に用だ」
「俺?珍しいな。金ならねぇよ」
「ちょっと聞きたいことがある…。」
「聞きたいこと…?」

なによ…?と視線を投げかければ、吉澤はきょろりと辺りを伺い
「ここじゃなんだ…。近くの喫茶店で話さないか?」と声を潜めていう。

「重要なこと…?」
「あんまり人に聞かれたくない」
「人に聞かれたくない話ね…」

どうやら、立ち話で終わる話ではないらしい。

(俺に話ねぇ…しかも聞かれたくない話、ってなんだ?兄貴関係の話じゃないのか…?)

誠也は大のプロレス好きで、吉澤も同じくプロレス好きだったので、二人の話題はプロレス鑑賞の誘いか誠也が金をせびる話が多く、かしこまって話すことなんて滅多になかった。


「んじゃ、千歳ちゃんの店、いく?」
「千歳…って、流星の恋人の店か。そこにしよう」

吉澤を伴い、千歳の店に行くと千歳の姿はなく、あのイケメンウエイターの姿もなかった。


「…誠也、最近、お前変なことに巻き込まれていないか?」
「は?」

席に座って開口一番に口にした吉澤の言葉に、誠也は間抜けな声を出す。

「変なこと?」
「いや、危ないこと、してないか…かもしれん」
「別になにもないけど…。なんだよ急に」
「警察の中に、お前を調べている…って男がいてな。」
「俺を…?」
「ああ。といっても、俺たち1課じゃなくて、組織犯罪対策部の5課のやつなんだけどな…ーーー」
「…組織犯罪?
兄貴も、5課がどうのって話してたな…なんだ、その5課って」
「主に〝組織的犯罪〟を摘発するところだな。
暴力団の麻薬だとか…そういったのを壊滅するために動いている部署らしい。俺も詳しくは知らない…。謎が多いんだ」
「麻薬…?なんだって、俺が…?」
「知らん。だから、聞いているんだ…」


 吉澤の話によると、最近、組織犯罪対策本部の人間が、誠也のことを事細かに調べているところをみたらしい。
何故誠也のことを調べているのか尋ねたのだが、捜査の一環だからと、何故調査したかまでは教えてくれなかったそうだ。

誠也が流星に頼まれ行った、張り込みや聞き込みなどの今まで関わってきた事件のファイルまでもが、ごっそりと資料室からなくなっていたらしい。


「お前に限って麻薬なんて、ありえねぇ…って思ったけどよ…。なんかモヤモヤしちまって…」
「それは…ありがとう。だけど、いいのかよ。
わざわざ俺に話しちゃって…。俺が本当に麻薬やってたら、そんな情報流しちゃダメだと思うんだけど」

もちろん俺はしてねぇけどよ…と呟けば

「お前はそんなことしないだろ…。
おまえは顔に似合わず真面目なやつだから」

吉澤は真剣な表情で、「俺はお前を信じている」という。
こういう熱血漢な台詞をさらりと言えるのが、この吉澤という男である。
吉澤の言葉は純粋な好意で、そこに恋愛感情はない。
誰にでもこんな風なのだ。

熱血漢で真っ直ぐな裏表のないお人好しな刑事らしい男。
それが、吉澤である。

 めんどくさがりやな誠也とは違い、時にうざいと感じるほどおせっかいな熱血漢なのだ。
誠也の好みは男らしい男で、吉澤はその条件に合致するのだが、あまりに良いやつ過ぎて流石の誠也も彼と寝る気は一切なかった。


「凄い信頼されてんだな…ーー」
「お前は、流星の弟だからな…」
「おいおい…、それって俺じゃなくて、兄貴を信頼してるってことか?
兄貴の弟じゃない俺は信じねぇって?」
「そんなことは言ってない。」
「言ってるって、さっきの言葉じゃ…」

苦笑していると、頼んでいた珈琲とホットサンドが運ばれた。
誠也は目の前に置かれたホットサンドをぱくつきながら、「それで…」と切り出す。


「俺を調べているのって誰なの?
その組織犯罪対策?の人間、全体で調べていたりすんの?」

「組織全体みたいだが…主に、高倉って男が指示を出しているらしい」
「高倉…?きかねぇな」
「うちでは相当な有名人だぞ。
流星と同じくらい女に人気なんだ。
警察にしておくには、もったいないくらい滅茶苦茶、美形な男だよ。

高倉も高倉で、相当頭が切れるエリートだからな。
執念深くて、囮捜査もするやつだし、ヤクザ相手の銃の撃ち合いにも、臆せず行くって野郎らしい。
人間普通は死を前に恐怖がありそうなもんだが…あいつにはそれがねぇ。
どんなに危険な任務でも笑って自分がいきます、って言っちまうらしい。怖いものなしな恐ろしい男だよ」

「はぁ…。どんな肝が座ったおっさんなんだ、それ」
「おっさんじゃねぇよ。年も俺と同じくらいだ。
ただ、何考えてんのかわかんねぇ。こういっちゃなんだか不気味なんだよな…。
表情を変えない血の通わないロボットみたいなやつなんだ。
笑った顔なんて見たことがない。

それに、目的の為なら手段を選ばない人間らしく、“仲間”を囮にして大怪我もさせたことがあるらしい。
まだ流星の方が、幾分人間味があると思うぞ。
昔の流星も、手段のためなら…ってところはあったけど…。
昔、俺と流星とバディを組まされた時は、ほんと嫌味な野郎だったがな」

(今はだいぶ…か。
そうだな…。
兄貴は千歳ちゃんのおかげで変わった…ーー
愛する人間の影響で、だ。)


 吉澤の切ない感情に気づいた誠也は、珈琲カップへ視線を落とす。
吉澤自身は自覚はなさそうだが、彼は流星が警察に勤めていたときから、流星に惚れていたようだった。
流星はきっと、彼に惚れられていることなどつゆとも知らないだろうが。



「俺の強面な顔が原因で、ヤクザと関わりがあると思われてんじゃねぇか?」
「そんな憶測で判断はしないはずなんだけどな…」

吉澤は、あたりを見回しながら
「ここだけの話、警察内で話題になっている薔薇の事件。
この事件のことを流星に相談しないか…って話が、5課の人間のお偉いさんの中で出たらしい」と小声で言う。


「…兄貴が?なんでまた…。
殺人ならまだしも。
その特殊捜査科の手伝いなんて…」


「流星の警察時代の検挙率は凄かったからな。
その頭脳の力を借りたかったんじゃないか。
だが、この話に高倉が怒ったみたいでな。
僕の邪魔はしないで頂きたいってかんかんで…。
なんでも、奴はこの事件に関して凄い入れ込みようらしいーーー」

「へぇ。
その高倉さんに調べられているのも、俺が兄貴の弟だから目をつけられたとかそういうオチなんじゃない?」

「そんなオチだったらいいんだけどな…。
それに…ーーって、ごめんな、呼び止めて。
今日はどっかいくつもりだったんだろ?
そんなラフな格好だし…」

本日の誠也の格好は、革ジャンに、ジーンズという非常にラフな格好である。
どうせパチンコにいくつもりだったから気にすんな…と誠也が言いかけたところで、

「…なんだ……」
吉澤の顔が、突然険しいものになる。
吉澤は警戒した様子で、キョロキョロあたりを見回していた。

「大毅…?」
「…視線が…」
「視線…?」

吉澤に言われて、誠也もあたりを警戒して見回す。
店内には女子高生2人組と、30代くらいの男が4人。
50代の女が2人。特にこれといって、おかしい様子はない。

「なに、ヤバイ系…?」
こっそりと聞けば、しばらく吉澤は静かに頷き、険しい顔をしたまま周囲を伺っていた。


「見られてるのか…?」
「…いや、すまない、気のせいだったようだ」
「そう…?ならいいけど…」
「すまない…。色々調べられてる…って俺のほうが視線に敏感になってるみたいだ…。不安にさせたか?」
「まさか…。俺を誰だと思ってるんだよ」

吉澤に誠也が笑いかければ、そうだったな…、と笑い返される。

(ほんと、いいやつなんだよな…大毅って…。
ま、ちょっとお人よしすぎて馬鹿だけどな…)

吉澤は珈琲を飲み終えると、まだ仕事があるから…と1000円札を机に置いていった。
吉澤が誠也の分まで払ってくれるのは、いつものことだ。

 去り際に吉澤は「捜査対策本部が何故お前のことを調べているかわかったら、また連絡する」といって、慌ただしく出ていった。


(ドラックか…。
世の中、物騒な時代になったもんだなぁ…)

「お客様…」
「う、うぉ…」

誠也がぼんやりとしていたところで、唐突に声をかけられた。
声の主は、誠也にセクハラを仕掛けたあのイケメンウエイターである。

(まだ辞めてなかったのか…。
それにしてもいつの間に?気配なかったぞ…?)


「お前…」
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「見てわかんねぇか?もう頼み終わってる」
「おかわりは?」
「そんな金ねぇ。今からパチンコだ」
「パチンコ…ですか…。
充分お金あるじゃないですか…」
「軍資金だ、余分な金はない」
「余分な金ね…。…それより、さっきの人と知り合いですか?」
「さっきの人?」
「大柄の男の人ですよ」
「ああ、あいつは…」

吉澤のことを言っているのだろう。
素直に返事をしてやる義理はないと誠也は口を結び、そっぽを向く。


「実はあの人、僕の姉さんの恋人みたいなんですよね」
「ま、マジ…?大毅の…?あいつ、いつの間に」
「嘘ですよ」
「は?」
「だから、嘘です。
あなたが素直に言ってくれないので……」
「う、嘘…」
「はい、嘘です。
僕には姉もいませんし、ただあなたとお喋りがしたかっただけです」

綺麗な微笑みを浮かべる男には、微塵の悪びるようすもない。

「なんで嘘なんか…」
「素直に貴方が教えてくれないからですよ…。それに嘘は、僕の趣味なので…ーー」

人間、どうしても好きになれない人種がいるが、きっと目の前のイケメンはそのカテゴリに入るだろう…と誠也はニコニコと微笑んでいる目の前の男を睨みながら思った。


「お前なんで、まだここにいるんだ…」
「はて…?なんでとは?」
「俺の兄貴になにか言われなかったか?
この店の店長の…知り合いなんだが…」
「ああ、そういえば店長のお知り合いという方に呼び出されましたね。

会って、早々辞めろと言われましたよ。
ですが、こちらも急に辞めろと言われましてね…。
正当な理由がない限り、いきなり解雇はおかしいと思いませんか?

僕が店側に不利益をもたらしたのであれば、解雇も致し方ないかと思いますが。
僕は至極真っ当に働いていましたし、解雇できる正当な理由はないとお伝えしました」
「至極真っ当に働いていた…?」


人に痴漢まがいのことをしておいてか?
突っ込む誠也に対し、「貴方ぐらいにしかしてませんよ」と男は飄々と返す。


「あの方は貴方のお兄さんだったんですね。
似てませんね」
「よく言われるよ…」
「貴方の方が素直で単純で、僕は好きですよ」
「それはけなしてるのか?」
「褒めているんですよ…」
「貶しているようにしか聞こえねぇ」
「被害妄想が激しいのではないでしょうか?
僕は本心からお伝えしたのに。
おや、だんまりですか?」
「お前と喋っても時間の無駄だと気づいた…。
帰る」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ…。
そうだ、珈琲、奢りますから。
奢りならまだいてくださいますよね…」

まだいてくださいよと強請る男に、「しらねえやつに奢られる筋合いはねぇよ」と誠也は席を立ち上がったのだが、男に腕を取られ行く手を阻まれた。


「坂本ですが…」
「は?」
「だから、僕の名前です。坂本珠樹《さかもとたまき》と申します。これで、もう僕知らないやつじゃないですよね」
「いやいや、名前だけ教えられても…。」
「困った人ですね…。
他にナニが知りたいんですか?」
「なにもしりたくねぇし…。お前みたいな得体の知れねぇやつとは関わり合いになりたくねぇな…」
「残念です。僕は貴方のこと、とても知りたくてたまらないのに」

ドクリ、と、男の視線に胸が大きく跳ねる。
男が目を細めて笑った瞬間、誠也はこの間のキスを思い出し身震いした。


(なんだってんだ…、こんな…ーー)
胸の高鳴りが早くなっていく。
まるで、欲情する前のようだ。
体液を接種していないのに、どうしてーーー?
誠也は、逃げるように机の端に置いてたった勘定をとると、男の横を通り抜ける。


「そうそう、僕がここにいる理由なんですけどね、名探偵と取引をしたんです」

すれ違い様、男は誠也に聞こえるように呟く。

「取引…?兄貴か…?」

「…ずっと探していた人がいるので。
流石、名探偵ですよね…。
僕が求めていた人ときちんと出会えるように、セッティングしてくれたんです」
「兄貴が?」
「はい…。なので、ようやく僕も会うことができます。
僕が探し求めていた…ついの存在に」

自分の対になる存在など、一般的には“恋人”だろう。


「逃げ出した結婚の約束でもした運命の相手でも探していたのか…?
酔狂なやつだな…」
「…僕としても、最初は自力で見つけるつもりだったのですが…
ちょっとゆっくりもしていられなくなりまして…。
うるさい蠅も飛び回っているようですし。安心できないので、一刻も早くと思いまして」

(捕まえるって、虫かよ…。
こんなやつに、捕まるなんてお気の毒な人間もいるもんだ)
探されている人間に心の中で合掌し、誠也は男に背を向ける。

「せいぜい、その見つかった対を大切にしてろよ。
ああ、もう俺には話かけてくんなよ」

誠也は最後にそう捨て台詞を吐いて、店から出て行った。

なので、

「ええ…。せいぜい束の間の自由を満喫してください。
貴方は、もうけして、運命から逃げられないんですから…。」
そう、男が静かに呟いていたのをしらない。
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